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新撰組異聞 〜 染井吉野の贈り物 〜
〜 改訂版 〜
ここは、京の町。
染井吉野が咲き始めている姿が見られるようになった。
ここは、屯所。
庭。
沖田総司と原田左之助は、一緒に歩いている。
沖田総司は立ち止まると、辛そうに咳をした。
原田左之助は立ち止まると、沖田総司を心配そうに見た。
沖田総司は咳が止まると、原田左之助を苦笑しながら見た。
原田左之助は沖田総司を心配そうに見た。
沖田総司の視線の先に、数人の隊士が歩いている姿が見えた。
沖田総司は視線の先に見える数人の隊士に、微笑んで話し掛けようとした。
数人の隊士は沖田総司と視線が合った途端に慌てて居なくなった。
沖田総司は数人の隊士の去っていく姿を無表情で見た。
原田左之助は沖田総司を心配そうに見た。
沖田総司は原田左之助を見ると、微笑んで話し出す。
「頼まれた内容を伝えようとしたのですが、私に気が付かなかったのでしょうか?」
原田左之助は沖田総司に微笑んで話し出す。
「仕方が無い隊士達だな。俺が話してくるよ。」
沖田総司は原田左之助に微笑んで話し出す。
「お願いします。」
原田左之助は沖田総司に微笑んで頷いた。
沖田総司は原田左之助を微笑んで見た。
原田左之助は隊士達を追い掛けるために慌しく走り出した。
沖田総司は原田左之助の後姿に向かって、寂しそうな微笑みで軽く礼をした。
それから数日後の事。
ここは、京の町。
染井吉野が満開に近い様子で咲く姿を見られるようになった。
ここは、染井吉野が咲く場所。
人が少なく落ち着いた雰囲気となっている。
ここは、満開の染井吉野の木の下。
沖田総司は染井吉野の幹にもたれ掛かりながら、寂しそうに座っている。
風が優しく吹く度に、染井吉野の花びらが沖田総司の元に舞い落ちてくる。
沖田総司は寂しそうな表情で掌を上に向けた。
沖田総司の掌に染井吉野の花びらが次々に舞い落ちてきた。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらと染井吉野を見ながら、寂しそうに呟いた。
「私にも綺麗に咲く姿を見せてくれるんだね。私の元にも花びらが舞い落ちてきてくれるんだね。」
染井吉野の枝の間から、沖田総司の元に光が差してきた。
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せたまま、染井吉野を寂しそうに見た。
染井吉野の枝の間から青空が見える。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを寂しそうに見た。
沖田総司は人影に覆われた。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを舞い落としながら、驚いた表情で上を見た。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見ている。
沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司の横に普通に座った。
沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司。隙だらけだぞ。」
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「辺りには何人もの人が居て、しかも一人で居る時に隙を見せていたら、何が起こるか分かりません。斉藤さんの勘違いです。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺が言ったのは別の意味だ。今の総司は誰が見ても落ち込んでいると分かる。落ち込みたかったら、人目につかない場所で静かに落ち込め。」
沖田総司は斉藤一に不思議そうに話し出す。
「人目につかずに落ち込める場所があるのですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司には部屋が有る。真夜中なら緊急の時しか訪ねてこない。思い切り落ち込めるぞ。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「斉藤さん。普通はこのような時は励ますものではないですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「今の話しから判断すると、本当に落ち込んでないな。俺が落ち込んでいない総司を励ます必要はないよな。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「目の前に落ち込むか落ち込み掛けている友人が居たら、普通は励ますものですよね。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺は総司と違って、友人かどうかに関係なく、人を励ます性格ではない。期待に添えなくて悪かったな。」
沖田総司が斉藤一に困惑した様子で話し出す。
「そのようなつもりで言った訳ではありません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「原田さんが何人かの隊士に怒っていろいろとしている姿を見た。近くに居た隊士達も怖がっていた。原田さんは俺と違って明るく励ましてくれるぞ。原田さんに会って励ましてもらえ。総司の望みが叶うぞ。」
沖田総司は斉藤一を困惑した様子で見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「必要のない俺は帰るな。」
沖田総司は斉藤一を困惑した様子で見ている。
斉藤一は立ち上がると、普通に去って行った。
沖田総司は斉藤一の後姿を寂しそうに見た。
その翌日の事。
ここは、屯所。
庭。
沖田総司は普通に歩いている。
原田左之助が歩いている姿が見えた。
沖田総司は原田左之助の傍に普通に来た。
原田左之助は立ち止まると、沖田総司を不思議そうに見た。
沖田総司は原田左之助に微笑んで話し出す。
「隊士達に声を掛けようとしたのに気付いてもらえなかった時に、代わりに話しをしてくれてありがとうございました。」
原田左之助は沖田総司に思い出したように話し出す。
「俺は総司の代わりに話しただけだ。礼は要らないよ。」
沖田総司は原田左之助を微笑んで見た。
原田左之助は沖田総司に微笑んで話し出す。
「どのような状況でも、あの態度は良くないよな。俺からしっかりと注意もしておいた。」
沖田総司は原田左之助に不思議そうに話し出す。
「あの態度?」
原田左之助は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司が声を掛けようとしたのに、気付かずに居なくなっただろ。人の動きや様子に気付かないのは注意が足りない証拠だ。斬り合いの時なら大問題だろ。総司も同じように思うだろ。」
沖田総司は原田左之助を微笑んで見た。
原田左之助は沖田総司に微笑んで話し出す。
「あのような行動を何度もしていたら、自分も周りも楽しくないだろ。俺は何も言わずに許せないし許したいとも思わないから、あのような人物には気持ちを伝えるようにしているんだ。」
沖田総司は原田左之助を微笑んで見ている。
原田左之助は明るい表情で沖田総司を見て話し出す。
「俺も気付いたらみんなにしっかりと言うから、余り気にせずに楽しく過ごそう!」
沖田総司が原田左之助に不思議そうに話し出す。
「原田さんの他にも注意する人がいるのですか?」
原田左之助は沖田総司に微笑んで話し出す。
「はっきりと分からないが、俺の他にも似た行動をしている人がいるらしいぞ。」
沖田総司は原田左之助に微笑んで話し出す。
「原田さん以外にも気遣ってくれる人がいるのですね。嬉しいです。」
原田左之助は沖田総司の肩を軽く叩くと、微笑んで話し出す。
「いろいろあるけど、深く考えずに楽しく過ごそう。」
沖田総司は原田左之助を微笑んで見た。
原田左之助は微笑んで居なくなった。
沖田総司は原田左之助とは別な方向へと、微笑んで去って行った。
それから少し後の事。
ここは、昨日の沖田総司が居た染井吉野の咲く場所。
昨日の沖田総司が座っていた染井吉野の木の下。
染井吉野は満開になって咲いている。
沖田総司は染井吉野の幹にもたれ掛かりながら微笑んで座っている。
風が優しく吹く度に、染井吉野の花びらが沖田総司の元に舞い落ちてくる。
沖田総司は微笑んだ表情で掌を上に向けた。
沖田総司の掌に染井吉野の花びらが次々に舞い落ちてきた。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらと染井吉野を見ながら、微笑んで呟いた。
「私にも綺麗に咲く姿を見せてくれるんだね。私の元にも花びらが舞い落ちてきてくれるんだね。ありがとう。」
染井吉野の枝の間から、沖田総司の元に光が差してきた。
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せたまま、染井吉野を微笑んで見た。
染井吉野の枝の間から青空が見える。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを微笑んで見た。
斉藤一の普通の声が、沖田総司の後ろから聞こえてきた。
「風も総司の元に吹いているぞ。」
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを舞い落としながら、驚いた表情で後ろを見た。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見ている。
沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司の横に普通に座った。
沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「隙だらけだな。」
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「私はいつも楽しく生きています。周りも注意して見ています。隙はありません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺が言ったのは別な意味だ。」
沖田総司は斉藤一を不思議そうに見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司は、ぼ〜っとしているから直ぐに斬れそうだ。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「私はいつも周りを気にしています。ぼ〜っとしていません。斉藤さんは勘が鋭すぎなんです。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「原田さんと話しをするように勧めてくれてありがとうございました。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「原田さんに慰めてもらえて良かったな。」
沖田総司が斉藤一に微笑んで話し出す。
「原田さんは、明るいだけではなく、しっかりした人ですよね。尊敬できる人です。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「原田さんが、他にも隊士達にしっかりと注意している人がいるらしいと話していました。それは斉藤さんですよね。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺は他人に余計な注意や説教はしない。別な隊士ではないのか?」
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんしか考えられません。隊士を睨むか斬ろうとして相手を怖がらせて承諾させているように感じます。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「凄い言い方だな。」
沖田総司は斉藤一に困惑した様子で話し出す。
「変な言い方をしてすいません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「だったら、変な言い方ではなく、普通の言い方で頼む。」
沖田総司は斉藤一に困惑した様子で話し出す。
「あの〜 だから〜 え〜と〜」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一に心配そうに話し出す。
「斉藤さん? 怒りましたか? いつも迷惑を掛けてすいません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「怒っていないから安心しろ。俺の言動で一々動揺するな。」
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんは、私を心配して気遣ってくれる大切な友達です。私は斉藤さんに言い過ぎる時が多くて、たくさん迷惑を掛けています。私が話した内容で斉藤さんを怒らせてしまったら、謝らないといけません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「不思議だ。」
沖田総司は斉藤一を不思議そうに見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司の勘の良さが・・・」
沖田総司が斉藤一の話しを遮ると、嬉しそうに話し出す。
「斉藤さんに勘が良いと言われました〜! 嬉しいな〜!」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司の勘の良さがごく一部にしか働かないのが、物凄く不思議だ。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「ごく一部は酷すぎです。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司の望み通り、ごくごく一部に訂正する。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「ごくごく一部に訂正ですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「再び総司の望み通り、ごくごくごく一部に訂正する。」
沖田総司は斉藤一に苦笑しながら話し出す。
「ごくごくごく一部という言葉はあるのですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺が総司に頼まれて作った言葉だ。今は存在する言葉となった。」
沖田総司は斉藤一を苦笑しながら見た。
優しい風が沖田総司と斉藤一の元に吹いてきた。
優しい風に乗って、沖田総司と斉藤一の元に、染井吉野の花びらが落ちてきた。
沖田総司は染井吉野の花びらを掌で微笑んで受け止めた。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は掌の桜の花びらを斉藤一に見せながら、微笑んで話し出す。
「斉藤さん、見てください。桜の花びらがたくさん集まりました。」
斉藤一は沖田総司と染井吉野の花びらを普通の表情で見た。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを見せながら、微笑んで話し出す。
「斉藤さん。この桜の名前を知っていますか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「“染井吉野”という名前の桜だ。」
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを載せながら、染井吉野を見て、微笑んで呟いた。
「染井吉野。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司を見ながら、普通の表情で呟いた。
「辛い時に桜に八つ当たりをしなくなったんだな。強くなったな。」
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せながら、斉藤一を見ると、不思議そうに話し出す。
「斉藤さん。何か言いましたか?」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せながら、斉藤一を不思議そうに見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「分からないなら、気にするな。」
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せながら、斉藤一に不思議そうに話し出す。
「分かりました。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
染井吉野の花びらが、沖田総司と斉藤一の元に舞い落ちてきた。
斉藤一は染井吉野を普通の表情で見た。
染井吉野の枝の間から青空が見える。
沖田総司は掌に染井吉野の花びらを載せながら、斉藤一に微笑んで話し出す。
「綺麗な染井吉野に綺麗な青空ですよね。斉藤さんと一緒に見られて嬉しいです。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は掌の染井吉野の花びらを載せながら、斉藤一を微笑んで見た。
沖田総司と斉藤一の穏やかな時間と不思議な会話は、青空の下で咲く満開の染井吉野からの贈り物かも知れない。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語は既に掲載している物語の改訂版です。
改訂前の展開や雰囲気を出来るだけ残しながら改訂しました。
改訂前の物語を掲載するのは止めました。
以上の点、ご了承願います。
ここからは改訂前の後書きを加筆訂正しながら書いていきます。
沖田総司さんの病気は、一般的には「肺結核」として伝わっています。
いつ頃から病気になったのかについては、幾つかの説があり、はっきりとしていません。
新撰組の活動している時代には、この病気は空気感染する事など、ある程度は知られていたようです。
そのために、新撰組の隊士の中でも、心無い人や当時の病気の認識不足や病名などから、沖田総司さんを嫌がったり嫌ったりする人がいたそうです。
当然の話しではありますが、「嫌がる(いやがる)」も「嫌う(きらう)」も同じ字を書くと改めて確認したように感じます。
しかし、病気になった沖田総司さんを怖がる人を攻められないところがあります。
今ではしっかりとした治療をすれば治る病気ですが、当時の状況では、治り難いというより不治の病のようになっている病気です。
治療法の分からない病気の沖田総司さんを避けようとする気持ちを抱くのは、当時の状況では仕方がないのかも知れません。
沖田総司さんは、世間では「壬生狼」と恐れる人がいて、新撰組の中では「病気」で嫌がる人がいる。
それでも明るく笑顔で過ごす沖田総司さんは、本当の意味で強かったのかも知れません。
そんな沖田総司さんを「新撰組異聞」の中で理解できる人は誰かと考えました。
斉藤一さんは性格もあって、沖田総司さん本人にはっきりと言わなくても、沖田総司さんの事を考えて、さり気なく気を遣うように考えました。
斉藤一さんは沖田総司さんの性格を見抜いて適格な行動を取れる人だと考えました。
沖田総司さんが、「新撰組異聞 水面に映る枝垂れ桜」の中で、斉藤一さんの体調が悪くて酷い咳きの時に心配していた理由が、この物語で少しは理解して頂けるかと思います。
斉藤一さんの「辛い時に桜に八つ当たりをしなくなったんだな。強くなったな。」というセリフは、「新撰組異聞外伝 短編 記憶の中の最初の出逢い」の物語の中に登場する場面が基になっています。
原田左之助さんは、良い事やしてはいけない事をはっきりと言える人だと考えて、沖田総司さんに話しをする場面を作りました。
原田左之助さんは、気性は激しくても、明るくてはっきりとしている性格の人だと考えています。
今回の物語の設定は、沖田総司さんが病気だという事を知る隊士が何人いるかは不明ですが、「咳をしている姿を何度も見た。まさかあの病気では。」という内容で話す隊士はいるという状況にしました。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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