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新撰組異聞外伝 〜 桜の舞 記憶の中の最初の出逢い 〜
〜 改訂版 〜
ある春の日の事。
たくさんの満開の桜が咲いている。
ここは多摩に在る試衛館。
幼さの残る一人の男の子が、試衛館の道場から走って出てきた。
試衛館の道場から男性の声が聞こえてきた。
「惣次郎〜! どこに行くんだ〜!」
惣次郎と呼ばれた男の子は、男性の声に反応する事も無く走っている。
惣次郎と呼ばれた男の子の姿は、道場からは瞬く間に見えなくなった。
惣次郎は染井吉野の桜の下に来ると、悔しそうに手で幹を叩いた。
風が吹いた。
染井吉野の花びらが惣次郎の元に舞い落ちてきた。
惣次郎は桜の花びらを見る事も無く、染井吉野の幹を悔しそうに手で叩き続けた。
そんな出来事があった日から数日後の事。
桜の見頃はまだ続いている。
ここは多摩のとある場所。
辺りには満開の染井吉野が咲いている。
幼さの残る女の子と幼い二人の男の子の姉弟が、満開の染井吉野の咲く中を一緒に歩いている。
姉と二人の弟は、試衛館の前に来た。
姉は試衛館の前で立ち止まった。
二人の弟も姉と一緒に試衛館の前で立ち止まった。
姉は二人の弟に微笑んで話し出す。
「道場があるね。」
二人の弟は姉を見ながら、黙って頷いた。
姉は辺りを見回しながら呟いた。
「稽古を見ても良いのかな? 稽古を見てはいけない雰囲気は無いみたいね。」
二人の弟は姉を不思議そうに見ている。
姉は試衛館の敷地内を覗いたが、人が現れる様子は無い。
二人の弟は姉を不思議そうに見ている。
姉は二人の弟を見ると、微笑んで話し出す。
「中に入ってみようか。もし何か言われたら、直ぐに外に出ようね。」
上の弟は姉に微笑んで話し出す。
「はい。」
下の弟は姉を見ながら微笑んで頷いた。
姉と二人の弟は、試衛館の敷地内へと入っていった。
姉と二人の弟が試衛館の敷地内に入って直ぐの事。
下の弟は近くに人の気配を感じた。
姉と上の弟は気が付いていない様子。
下の弟は人の気配のする方向を、不思議そうに見た。
惣次郎が試衛館から走って出て行く姿が見えた。
下の弟は惣次郎の様子を不思議そうに黙って見ている。
惣次郎の姿は瞬く間に見えなくなった。
下の弟は姉と上の弟を見ると、普通に話し出す。
「稽古よりも見たいものが見つかりました。一人で見に行っても良いですか?」
姉は下の弟に確認するように話し出す。
「一人で見に行くの? 大丈夫?」
下の弟は姉を見ながら普通の表情で黙って頷いた。
姉は下の弟に微笑んで話し出す。
「気を付けてね。」
下の弟は姉を見ながら普通の表情で黙って頷いた。
姉は上の弟に微笑んで話し出す。
「廣明は私と一緒に稽古を見に行こうね。」
廣明と呼ばれた弟は、姉に微笑んで話し出す。
「はい。」
下の弟は試衛館の敷地の外へと出て行った。
惣次郎は満開に咲いている染井吉野の木の下に来た。
手には太い竹刀を握り締めている。
悔しそうな表情で竹刀を握り締めながら、染井吉野の幹を思い切り叩き始めた。
風が吹いた。
染井吉野の桜の花びらが、惣次郎の元に舞い落ちてきた。
惣次郎は舞い落ちる花びらを気にせずに、悔しそうな表情で染井吉野の幹を叩き続ける。
後ろから幼い男の子の声が聞こえてきた。
「桜の木が可哀想。」
惣次郎は染井吉野の幹を叩くのを止めると、怪訝そうに後ろを振り向いた。
惣次郎より幼い男の子が、惣次郎を普通の表情で見ながら立っている。
惣次郎は幼い男の子を怪訝そうに見た。
幼い男の子は、惣次郎に普通の表情だが厳しい調子で話し出す。
「桜の木が可哀想。」
惣次郎は幼い男の子を怪訝そうに見た。
幼い男の子は惣次郎を普通の表情で黙って見ている。
惣次郎は幼い男の子に少し強い調子で話し出す。
「なぜ桜の木に可哀想だと言うんだよ!」
幼い男の子は惣次郎に普通に話し出す。
「悔しいと言う理由だけで、太い木刀で思い切り叩いたら、桜の木が可哀想だよ。それって、八つ当たりだよね。関係のない桜の木が可哀想だよ。」
惣次郎は幼い男の子を睨んだ。
幼い男の子は惣次郎に普通に話し出す。
「もしかして、お兄さんは可哀想だと言って欲しいの? でも、桜の木に八つ当たりする人に、可哀想と言う人は誰もいないよ。それに、桜の木も自分をいじめる人の事を、可哀想だと思わないよ。」
惣次郎は幼い男の子に強い調子で話し出す。
「私は早く強くなりたいんだ! でも、早く強くなれないんだ! とても悔しいよ!」
幼い男の子は惣次郎に真剣な表情で話し出す。
「桜の木を怒りに任せて叩いても、絶対に強くならないよ。」
惣次郎は幼い男の子に先程より強い調子で話し出す。
「稽古の時には、桜の木を叩いた事があるよ!」
幼い男の子は惣次郎に真剣な表情で話し出す。
「強くなりたいから、桜の木を相手に稽古をしているんだよね。桜もお兄さんの気持ちがわかるから、我慢しているんだよ。」
惣次郎は幼い男の子を真剣な表情で見た。
幼い男の子は惣次郎を普通の表情で見た。
惣次郎と幼い男の子の元に、そよ風が吹いてきた。
そよ風に乗って、桜の花びらが舞い散り始めた。
惣次郎と幼い男の子は、桜の花びらの舞い散る様子を黙って見た。
惣次郎は桜の幹に手を置いた。
桜の花びらは惣次郎の元にゆっくりと舞い落ちてくる。
惣次郎は桜の幹に手を置いたまま、桜の木を見上げた。
惣次郎と幼い男の子の上には、桜の花がたくさん咲いている。
惣次郎は桜の幹に手を置きながら、桜の木に静かに話し出す。
「八つ当たりをしてごめんなさい。この様な事は二度としません。だから許してください。」
惣次郎と幼い男の子の元に、再びそよ風が吹いた。
桜の花びらが風に乗って舞い落ち始めた。
惣次郎は桜の幹から手を離すと、幼い男の子を見て笑顔で話し出す。
「桜の木が許してくれたみたいだよ!」
幼い男の子は惣次郎を普通の表情で黙って見た。
惣次郎は幼い男の子に笑顔で話し出す。
「この近くに住んでいるの?!」
幼い男の子は惣次郎に普通の表情で黙って首を振った。
惣次郎は幼い男の子に笑顔で話し出す。
「僕は、この近くに在る試衛館という道場に、住まわせてもらっているんだ!」
幼い男の子は惣次郎を普通の表情で黙って見ている。
惣次郎は幼い男の子に笑顔で話し出す。
「試衛館を知っている?!」
幼い男の子は惣次郎に普通の表情で黙って頷いた。
惣次郎は幼い男の子に真剣な表情で話し出す。
「僕は早く強くなる。今以上に稽古に励むよ。」
幼い男の子は惣次郎を普通の表情で黙って見た。
惣次郎は幼いは男の子に笑顔で話し出す。
「名前を名乗っていなかったね! 僕の名前は惣次郎と言います! 君の名前を教えてくれるかな?!」
幼い男の子は惣次郎に普通に話し出す。
「一。」
惣次郎は幼い男の子に笑顔で話し出す。
「はじめ君と言うんだね! 強くなったら、また会おうね! 次はどこで逢えるか楽しみだね!」
一と名乗った男の子は、惣次郎を見ながら、普通の表情で黙って頷いた。
惣次郎は一と名乗った男の子に笑顔で話し出す。
「僕は試衛館に戻って稽古を続けるね! はじめ君! またね!」
一と名乗った男の子は、惣次郎に普通の表情で黙って頷いた。
惣次郎は瞬く間にその場から居なくなった。
惣次郎は試衛館に戻ってきた。
急いで走ってきたが、息はほとんど乱れていない。
笑顔で道場に向かおうとした。
突然に何かを思い出したように呟いた。
「あっ・・・ はじめ君の住んでいる場所を聞いていなかった・・・」
言い終わると考え込み始めた。
そよ風が惣次郎の元に吹いてきた。
惣次郎は直ぐに元気良く声を出す。
「はじめ君には、私の住んでいる場所や道場の話をしたから、近くに来たら逢いに来てくれるよね! よし! 稽古に戻るぞ〜!」
言い終わると元気良く道場に向かおうとした。
惣次郎の後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「惣次郎〜! 今までどこに行っていたんだ〜?! 早く稽古に戻れよ〜!」
惣次郎は振り向くと、笑顔で話し出す。
「はい! 直ぐに戻ります!」
声を掛けた男性は、惣次郎の返事を確認すると、直ぐに姿が見えなくなった。
惣次郎は走って道場へと戻って行った。
一は一人で染井吉野の花を見ている。
少し離れた場所から、姉の声が聞こえてきた。
「一〜!」
一は姉の声をする方向を普通の表情で見た。
姉と兄の廣明が一の居る場所に向かって歩いてくる姿が見える。
一は姉と兄の廣明の姿を普通の表情で見た。
姉と廣明は、一の前に来た。
一は姉と廣明を普通の表情で見ている。
姉は一に微笑んで話し出す。
「ここに居たのね。一の見たいものは見られた?」
一は姉に微笑んで頷いた。
姉は一に微笑んで話し出す。
「良かったね。」
一は姉に微笑んで見た。
姉は一に微笑んで話し出す。
「帰る時間だよ。」
一は姉に微笑んで頷いた。
姉と弟の廣明と一は、染井吉野を背にしながら歩いて去っていった。
“惣次郎”と名乗った幼さの残る男の子は、後の“新撰組一番組組長 沖田総司”。
“一”と名乗った幼い男の子は、“山口一”、後の“新撰組三番組組長 斉藤一”。
惣次郎はこの時の出来事を、性格のためか忘れてしまいます。
一はこの時の出来事を、性格のためか忘れずに覚えています。
惣次郎と一が再び出逢うのは、もう少し先の事になります。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語は既に掲載している物語の改訂版です。
物語の展開や雰囲気を出来るだけ残しながら改訂しました。
改訂前の物語は、掲載するのを止めました。
以上の点、ご了承願いします。
ここからは改訂前の後書きを加筆訂正しながら書いていきます。
「新撰組異聞外伝 短編 忘れられた最初の出逢い 桜の下で」から後の物語となります。
沖田惣次郎さんが九歳の時に試衛館に内弟子としていった後の物語となります。
沖田総司さんですが元服をした年齢が二つの説があるようです。
どちらも京都に行く前のようです。
しかし、ここではその年齢より前の設定としました。
試衛館の内弟子に入ってから間もない頃と想像して読んでください。
沖田惣次郎さんは、この時の出来事を忘れてしまうという設定になっています。
山口一さんは、この時のことを覚えているという設定になっています。
沖田総司さんにとっての記憶の中の最初の出逢いは、「新撰組異聞外伝 短編 一瞬の出会い桜の舞うなか」となります。
山口勝さんと沖田惣次郎さんが今回の物語の中で会っていないのは、山口勝さんがしっかりしている雰囲気で物語を書いているため、以前の出来事を覚えているように考えました。
そこで、今回の物語では、会わないまま終わっています。
沖田総司さんと斉藤一さんの少年時代が書きたくて考えた物語です。
実は、改訂前では、「そうじ」としていました。
この物語では元服前と言う設定なので、本来だと「惣次郎(そうじろう)」になります。
この物語を書いた当初は、年齢が大きくなった事や、物語に影響の無い範囲で、「惣次郎」より「総司」で「新撰組異聞外伝」を書いていこうと考えていました。
でも、元服前という設定なので、「惣次郎」の方が良いかなと考えました。
そこで改訂版では、「惣次郎(そうじろう)」としました。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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