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新撰組異聞外伝 〜 清明 染井吉野が舞い散る中で 〜
〜 改訂版 〜
今は春。
東京の町には、染井吉野の花が咲く姿を見掛るようになった。
早く咲き始めた染井吉野は、既に見頃を迎えている。
そんなある春の日の事。
ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉が住んでいる家。
時尾と勉は、一緒に出掛けているため家に居ない。
藤田五郎が家の中に一人だけとなっている。
玄関から聞き慣れない少女の声が聞こえてきた。
「すいません。誰かいらっしゃいますか?」
藤田五郎は、普通の表情ではあるが、僅かに警戒しながら、玄関へと向かった。
ここは藤田五郎の家の玄関。
藤田五郎は普通の表情で、僅かに警戒しながら、玄関の外に居る人物の気配を確認した。
藤田五郎の記憶では、少女の声も影も覚えがないが、怪しい気配は感じない。
藤田五郎は普通の表情で、僅かに警戒しながら、戸を開けた。
少女は藤田五郎を見ると、微笑んで話し出す。
「初めまして。こんにちは。」
藤田五郎は普通の表情で、僅かに警戒しながら少女を見た。
少女は藤田五郎に微笑んで軽く礼をすると、玄関の中と入ってきた。
藤田五郎は普通の表情で、少女を僅かに警戒しながら戸を閉めた。
ここは藤田五郎の家の客間。
藤田五郎と少女は、向き合って座っている。
少女は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「斉藤一様とお呼びするより、藤田五郎様とお呼びした方が良いですよね。」
藤田五郎は普通の表情で、少女を僅かに警戒しながら見た。
少女は藤田五郎に手紙を差し出すと、微笑んで話し出す。
「松平容保様から手紙を預かってきました。」
藤田五郎は普通の表情で、少女から手紙を僅かに警戒しながら受け取った。
少女は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は普通の表情で、少女を僅かに警戒しながら手紙を読み始めた。
手紙の筆跡は、松平容保のもので間違いない。
藤田五郎に宛てた手紙ではあるが、少女については何も書かれていない。
不思議な手紙となっている。
藤田五郎は手紙を読み終わると、少女を普通の表情で見た。
少女は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「外に出てお話しがしたいのですが、お時間など大丈夫でしょうか?」
藤田五郎は少女に普通の表情で頷いた。
藤田五郎と少女は、家の外へと出掛けて行った。
ここは藤田五郎の家から少し離れている場所。
染井吉野の並木が続いている。
少女は立ち止まると、藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は立ち止まると、少女を普通の表情で見た。
少女は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「実は、藤田様にぜひ逢いたいという方が、こちらに来ています。」
藤田五郎は少女を普通の表情で見た。
少女は染井吉野の並木を微笑んで指した。
藤田五郎は少女の指した染井吉野の並木を普通の表情で見た。
染井吉野の並木の中の一本から、一人の少年が笑顔で姿を現した。
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年からは危険な気配は感じない。
藤田五郎の記憶では、少年の姿に覚えがない。
少年に関する記憶はないが、見慣れた人物に似た雰囲気がある。
懐かしい雰囲気を持つ不思議な少年だった。
少年は藤田五郎と少女の前に笑顔で立った。
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に笑顔で礼をした。
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少女は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「突然の話しで驚かれると思いますが、彼は沖田総司様の息子です。」
藤田五郎は少年を普通の表情で見ている。
少女は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「私はこれで失礼します。後は、お二人でゆっくりとお話しください。」
少年は少女を微笑んで見た。
藤田五郎は少女を普通の表情で見た。
少女は藤田五郎と少年に微笑んで軽く礼をすると、染井吉野の花の咲く中を、歩きながら去っていった。
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「総司から子供がいるという話は聞いた事がない。」
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「私が母のお腹の中に居ると分かった時は、父は病の悪化や政務の関係で、京都から東京に向かう頃と重なっていたそうです。慌しい時期だった事ために、母は私の事を父に伝える事が出来なかったそうです。藤田様もあの時は父や仕事仲間と共に行動していたと思います。藤田様が私の事を知らないのも当然だと思います。」
藤田五郎は普通の表情で、少年に僅かに怪訝そうに話し出す。
「君の話だけで総司の子供だと信じる訳にはいかない。証拠を見せてくれ。」
風が吹いた。
藤田五郎と少年の元に、染井吉野の花びらがたくさん舞い落ちてきた。
少年はしゃがみ込むと、舞い落ちた染井吉野の花びらを、微笑みながら一枚だけ手に取った。
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は染井吉野の花びらを軽く握ると、微笑んで立ち上がった。
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は、掌の上の染井吉野の花びらを藤田五郎に見せながら、微笑んで話し出す。
「父が藤田様から寒桜をもらった事があると聞きました。お礼として、染井吉野を贈りたいと思います。」
藤田五郎は少年の掌の上の染井吉野の花びらを、普通の表情で手に取った。
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「母が藤田様に何度も助けてもらったと、私に話してくれました。母は藤田様と初めて話をした、思いのままの木の下での出来事を、笑顔で話してくれました。私がいるのは藤田様のおかげだと、母は何度も話していました。」
藤田五郎は掌に載っている染井吉野の花びらを、普通の表情で見た。
少年は藤田五郎を微笑んで見た。
風が吹いた。
染井吉野の花びらが、藤田五郎と少年を覆うようにして舞い始めた。
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「父と藤田様の間に起こった出来事は、母からたくさん教えてもらいました。父が書いた手紙にも、藤田様の事が書いてありました。一度で良いから、藤田様に逢って話をしたいと思うようになりました。」
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に手紙を差し出すと、微笑んで話し出す。
「父から藤田様と逢う時に渡すようにと説明のあった手紙です。ぜひ読んでください。」
藤田五郎は少年から普通の表情で手紙を受け取った。
藤田五郎が少年から受け取った手紙は、ある程度の期間が経過している古い手紙だった。
手紙の外側に書いてある筆跡を見ると、沖田総司のものだと直ぐに分かった。
手紙を開封した跡は見当たらない。
中身の手紙も沖田総司が書いたものだと推測が出来る。
藤田五郎は手紙を持ちながら、少年に僅かに怪訝そうに話し出す。
「この手紙はいつ預かった?」
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「父の亡くなる少しだけ前に、父と母は数回ほど手紙での連絡を取ったそうです。母や私に宛てて、父から手紙が届いたそうです。母や私が藤田様に逢う時のために、父が藤田様に宛てた手紙も届いたそうです。母も私も自分達宛ての手紙しか読んでいないので、藤田様に宛てた手紙の内容は分かりません。」
藤田五郎は普通の表情で手紙を読み始めた。
藤田五郎の想像通り、手紙は沖田総司の筆跡だった。
開封した跡がないので、手紙の入れ替えをしていない事が分かる。
沖田総司が藤田五郎に宛てて書いた手紙には、妻子の名前が書いていない。
妻子が、藤田五郎以外の人物に誤って手紙を渡した時の事を考えて、名前を伏せたのかも知れない。
他の目的も兼ねている可能性があるが、妻子の後々の事を考えると、身の安全を考えて手紙に名前を書くのを止めのかも知れない。
沖田総司は藤田五郎なら判断が出来ると考えて、妻子の名前を書かない手紙を残したのかも知れない。
手紙を持ってきた少年を、沖田総司の息子として信じるかどうかは、藤田五郎が判断するしかない状況となっている。
藤田五郎は手紙を読み終わると、少年に普通に話し出す。
「大体の事は分かった。」
少年は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「総司は手紙に君の名前を書いていない。悪いが、君の名前を教えてくれ。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「それは秘密です!」
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「でも名前を言わないと、藤田様も困りますよね!」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「今この場で名前を言いたくないのなら、都合の良い時に教えてくれ。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「はい!」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「いつか男同士で一緒に酒を飲もう。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「はい!」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「念のために話しをしておくが、酒を一緒に飲むのは、君がもっと大きくなってからだ。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「はい! 藤田様と一緒に早くお酒が飲めるようになりたいです!」
藤田五郎は少年に普通の表情で頷いた。
藤田五郎と少年は、染井吉野の並木の中を一緒に歩きだした。
染井吉野の並木は、藤田五郎と少年を覆うように続いている。
少年は染井吉野の花を見ながら笑顔で歩いている。
藤田五郎は少年と染井吉野の花を普通の表情で見ながら歩いている。
少年は立ち止まると、藤田五郎を笑顔で見た。
藤田五郎は立ち止まると、少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「そろそろ帰ります。」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「次はいつ来るんだ?」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「明日でも良いですか?!」
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「な〜んてね!」
藤田五郎は少年を見ながら、普通の表情で呟いた。
「やっぱり変な奴。」
風が吹いた。
藤田五郎と少年の元に、染井吉野の花びらがたくさん舞い落ちてきた。
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「次に会った時に、君の名前を教えてくれ。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「“はい”と返事をしたいのですが、どうしようかと考え中です! 謎の少年というのも良いかな、と考えるようになりました! 藤田様もそう思いませんか?!」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「思わない。」
少年は藤田五郎を笑顔で見た。
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「君と話しをしていると、総司と話しをしているように感じる時がある。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「本当ですか?!」
藤田五郎は少年に普通に話し出す。
「顔は総司に似ていないのに、雰囲気などが総司に似ている。」
少年は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「本当ですか?! 藤田様に父と似ていると言われると、とても嬉しいです!」
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「では、本当にそろそろ失礼したいと思います。今日は藤田様と逢って話をする事が出来て、とても嬉しかったです。」
藤田五郎は少年を普通の表情で見た。
少年は藤田五郎に笑顔で礼をした。
藤田五郎は少年に普通の表情で頷いた。
少年は染井吉野の並木の中を、元気良く走って去っていった。
藤田五郎は少年の去っていく姿を、普通の表情で見た。
少年の姿は見えなくなった。
藤田五郎は少年の去って行った方向を普通の表情で見続けた。
風が吹いた。
染井吉野の花びらが、風に載って舞い始めた。
藤田五郎は染井吉野の並木の中を、少年の去った反対の方向に歩き出した。
藤田五郎は染井吉野の並木の中を普通の表情で歩いている。
視線の先に、時尾と勉が藤田五郎に向かって歩いてくる姿が見えた。
時尾は藤田五郎に向かって微笑んで歩いてくる。
勉は藤田五郎に向かって笑顔で歩いてくる。
藤田五郎は時尾と勉に向かって、普通の表情で歩いていく。
時尾は藤田五郎の前に来ると、微笑んで話し出す。
「家に戻ったら五郎さんが居なかったので、染井吉野の並木を見に出掛けているのかと思って、勉と二人で来ました。五郎さんと会えて良かったです。」
藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。
勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見ている。
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「何か良い事でもありましたか?」
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「友達の子供が訪ねてきた。染井吉野を一緒に見た。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「友達のお子さんは楽しまれたのでしょうか?」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「良かったですね。」
藤田五郎は時尾と勉に普通に話し出す。
「家に帰ろう。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「はい。」
勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見ている。
藤田五郎、時尾、勉は、染井吉野の並木の中を、自分達の家へと向かって歩き出した。
染井吉野の舞い散る中で、藤田五郎にとって懐かしい想いが甦った。
これから楽しい事がたくさん起こりそうな予感がする。
藤田五郎は勘がとても鋭いので、予感というより、事実になるという言葉の方が合っているかもしれない。
* * * * * *
ここからは、後書きになります。
この物語は既に掲載している物語の改訂版です。
改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残しながら改訂しました。
改訂前の物語を掲載するのは止めました。
改訂に伴い、物語の題名を「新撰組異聞外伝 染井吉野が舞い散るなかで」から「新撰組異聞外伝 染井吉野が舞い散る中で」に改訂しました。
以上の点、ご了承願います。
ここからは改訂前の後書きを加筆訂正しながら書いていきます。
斉藤一さんが藤田五郎と名乗っている頃の物語です。
この物語を読んで、沖田総司さんに子供がいたのかと驚く方がいるかと思います。
沖田総司さんは、町医者の娘の方との間に、子供(一般的な説は、女の子)がいたという説があります。
その説によると、周りの人達の考えから、町医者の娘の方と子供とは別れさせられたそうです。
沖田総司さんには他にも恋愛の話しがありますが、自分から別れたり周りの考えから別れさせたり、最終的には別れるという形で終わっているそうです。
この物語の中の少年が話している内容は、モデルになった方はいますが、基本的には、私が考えた創作です。
沖田総司さんが付き合っている女性がいた場合、どういう状況なら周りの人達から何も言われる事もなく付き合えるかと考えました。
沖田総司さんと女性が付き合っていた時期によっては、沖田総司さんが子供と会う事が出来なくても不思議ではないと思いました。
斉藤一さん(後の藤田五郎さん)も、場合によっては知らなくても当然という時期の可能性もあると考えました。
そういう事もあり、沖田総司さんの子供と藤田五郎さんが出会う物語を書いてみたいと思いました。
改訂前の物語を掲載する前の事になりますが、この物語は少女の設定で書いていました。
物語を書いている途中で、「新撰組異聞外伝」を書く場合、少女より少年の方が良いと考えるようになりました。
そこで、少年にして物語を書き換えました。
今回の物語を書上げる時に、少年以外にもう一人登場人物が必要になりました。
そこで、謎の少女として登場する事になりました。
この謎の少女は一体誰? という疑問が出てきますが、今回はそのままにしておいてください。
今回限りの登場で、次回以降に登場しないかもしれません。
少年が藤田五郎さんに染井吉野の花びらを渡す場面は、「新撰組異聞 短編 六花舞い散り桜の花へ」の中で、斉藤一さんが沖田総司さんに寒桜の花を手渡す場面と重ね合わせています。
「な〜んてね!」は、「新撰組異聞 短編 桜の下で」の中で、沖田総司さんが話しています。
今回の物語では、少年の名前は登場していません。
実は改訂前の物語を書いた当初は、少年の名前をはっきりと決めていませんでした。
後々の物語で少年の名前は登場します。
藤田五郎さんが少年の名前を知るのは、今回の物語より後の出来事となります。
その関係もあり、今回の物語は少年として書いています。
この物語の設定ですが、西南戦争で新政府側として戦っていた藤田五郎さんが、東京に戻ってきてから迎える初めての桜の季節となります。
少年の年齢についてですが、「新撰組異聞」の幾つかの物語を読むと、いつごろ生まれたのか分かるようになっています。
少年の年齢について簡単に説明すると、藤田五郎さんの家に来られる年齢、斉藤一さんが藤田五郎さんと名乗っている、長男の勉さんが生まれている、このような出来事の後の事となります。
藤田五郎さんと少年が出会う時期を、桜の咲く季節にしたかったので、このような物語となりました。
「清明(せいめい)」は、「二十四節気の一つ」です。
春分後の十五日目の事を言います。
「四月四日〜五日頃」、または、「この日から穀雨(こくう)まで」の期間になります。
桜などの草木の花が咲き始め、万物に晴朗の気が溢れてくる頃の事を言うそうです。
「清明」という言葉の意味だけだと、「清くあきらかなこと」を言うそうです。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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