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新撰組異聞外伝 〜 桜始開 誠の心を繋ぐ物 〜


明治と呼ばれる時代になってから何年か経っている。


今は政府と呼ばれる組織が世の中を収めている。


藤田五郎は以前に新撰組で活動していた時期がある。

新撰組では三番組組長を何年か務めていた。

新撰組で活動していた時に幾つかの名前を名乗っていた。

幾つか名乗っていた名前の中の一つに、“斉藤一”がある。


藤田五郎は、“新撰組の三番組組長の斉藤一”として世間で知られていた時期がある。


藤田五郎は、明治と呼ばれる時代になってから、高木時尾と祝言を挙げた。


高木時尾は、幕府側の立場で新政府軍と戦うために会津の城に篭った人達の一人だった。

藤田五郎は、会津での戦いも含めて、たくさんの戦いを生き抜いた。


藤田五郎と時尾は、今は穏やかに過ごしている。


それから幾つもの日を重ねた。


藤田五郎と時尾が祝言を挙げてから、初めての年を越した。


今は春の季節を迎えている。


ここは、東京の町。


辺りには桜の花が咲いている。


ここは、藤田五郎と妻の時尾の住む家。


藤田五郎の部屋。


藤田五郎は一人で部屋の中に普通に居る。


時尾の穏やかな声が、部屋の外から聞こえてきた。

「五郎さん。お客様が見えられています。客間でお待ち頂いています。」


藤田五郎は普通の表情で障子を開けた。


高木時尾が縁に微笑んで立っていた。


藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。


時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お客様にはお茶を既に用意してあります。」


藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。


時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をすると、縁を微笑みながら歩いて去っていった。


それから僅かに後の事。


ここは、藤田五郎の部屋の前に在る縁。


藤田五郎は障子を閉めると、客間へと普通に歩き出した。


それから僅かに後の事。


ここは、客間の前に在る縁。


藤田五郎は部屋の中の雰囲気や気配を普通の表情で確認した。


怪しい気配は全く感じない。


藤田五郎は普通に障子を開けて、客間の中へと入っていった。


ここは、客間。


藤田五郎にとっては、見知らぬ若い男性が居た。

見知らぬ若い男性の傍には、細長い木箱が置いてある。


藤田五郎は若い男性と細長い木箱を普通の表情で見た。


若い男性は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。


藤田五郎は若い男性を見ながら、普通の表情で座った。


若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「私は沖田様が最期に療養していた家の者です。藤田様とはお会いするのは初めてだと思います。初めましてと、ご挨拶をさせて頂きます。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「沖田様から頼まれた用事を先に済まさせてから、話しをさせてください。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見ている。

若い男性は脇に置いてあった細長い木箱を重そうに持ちながらも、卓の上に丁寧に置いた。

藤田五郎は若い男性と細長い木箱を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「細長い木箱の中には、沖田様からお預かりした刀が入っています。確認をお願いします。」

藤田五郎は若い男性に普通の表情で頷いた。

若い男性は藤田五郎を普通の表情で見た。

藤田五郎は細長い木箱を普通の表情で丁寧に開けた。


細長い木箱の中には、沖田総司の刀が鞘に納まった状態で入っていた。


沖田総司の刀は、鞘に納まったままでも凛とした雰囲気に包まれている。


若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「沖田様が亡くなるまで、刀は沖田様の傍に有りました。沖田様が亡くなってからは、刀が見付かると困るので、分かり難くするために木箱を作って保管していました。」

藤田五郎は木箱から沖田総司の刀を普通の表情で取り出した。

若い男性は藤田五郎の前に小さな紙の包みを普通に置いた。

藤田五郎は沖田総司の刀を持ちながら、若い男性と小さい紙の包みを普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「沖田様からお預かりした、刀の手入れをする時のためのお金です。しかし、家の者の全てが刀に関して疎いために、手入れが出来ませんでした。沖田様にお金をお返し出来ないので、藤田様に受け取って頂きたいと思っています。」

藤田五郎は沖田総司の刀を静かに脇に置いた。

若い男性は藤田五郎を普通の表情で見た。

藤田五郎は小さい紙の包みを手に取ると、男性に普通の表情で軽く礼をした。

男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す

「沖田様は、刀を大切なご家族に預けたいと話していたそうです。沖田様からは、刀と共に藤田様に宛てた手紙も預かりました。手紙は刀と一緒に大切に仕舞いました。しかし、気が付いたら手紙が見当たらなくなっていました。」

藤田五郎は小さい紙の包みを脇に置くと、若い男性を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「大切に仕舞ったと言いながら、手紙の所在が分からなくなりました。申し訳ありません。」

藤田五郎は若い男性に普通に話し出す。

「手紙の内容と刀を渡したい家族の名前を知っていますか?」

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「家族の者は誰も聞いていないそうです。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「沖田様は幕府側の方です。我が家を沖田様の療養先にしたいと相談があった時は、面倒な出来事に巻き込まれる可能性があるので、返答に困りました。近藤先生と土方先生の頼みだったので、仕方なく沖田様のお世話を引き受けました。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「沖田様はご病気とお立場の関係から、話した時間は多くありませんでした。最初の頃は、武士のしきたりを知らないので、沖田様への接し方が分からず困っていました。沖田様は武士ではない私達に丁寧に接してくださいました。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見ている。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「沖田様は、刀と手紙に関して頼んでから間もない頃に亡くなりました。私達は刀を隠しました。手紙も刀と一緒に隠しました。気が付いたら手紙が見当たらなくなっていました。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見ている。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「せめて刀だけでも藤田様に早く預けようと考えました。しかし、戦が続いて藤田様の居場所などが分かりませんでした。幕府側の方はお名前を変えた方が多いので、確認にも時間が掛かりました。」

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見ている。

若い男性は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「本当に申し訳ありませんでした。」

藤田五郎は若い男性に普通に話し出す。

「あの頃の状況では仕方がありません。気にしないでください。」

若い男性は藤田五郎に僅かに安心した様子で見た。

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見た。

若い男性は藤田五郎に普通に話し出す。

「沖田様が残された手紙は探し続けます。藤田様の元には見付かり次第にお届けします。」

藤田五郎は若い男性に普通に話し出す。

「お願いします。」

若い男性は藤田五郎を安心した表情で見た。

藤田五郎は若い男性を普通の表情で見た。


それから少し後の事。


ここは、藤田五郎の家。


若い男性は既に帰っているため家に居ない。


藤田五郎と時尾の二人だけとなっている。


ここは、藤田五郎の部屋。


障子は半分ほど開いている。


障子の間からは、桜の咲く様子が見える。


藤田五郎は沖田総司の刀を普通の表情で抜いた。


沖田総司の刀は、手入れを怠っていたので輝きをかなり失っているが、凛とした雰囲気は変わらない。


藤田五郎は沖田総司の刀を持ちながら、手入れのための確認を普通の表情で始めた。


部屋の中が心地良い空気に包まれた。


藤田五郎は沖田総司の刀を持ちながら、手入れのための確認を止めると、庭を普通の表情で見た。


庭の桜は淡い光を放ちながら咲いている。


藤田五郎は沖田総司の刀を持ちながら、普通の表情で横を見た。


沖田総司が藤田五郎を微笑んで見ている。


藤田五郎は沖田総司の刀を普通の表情で鞘に戻した。


沖田総司は藤田五郎と刀を微笑んで見ている。


藤田五郎は沖田総司の刀を脇に置くと、沖田総司に普通に話し出す。

「総司の刀が届いた。」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「夢の中での出来事を覚えていたのですね。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司は普段も夢の中も常に騒がしい。印象に残るから覚える必要もない。」

沖田総司は藤田五郎を苦笑した表情で見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司が家族の名前について話さないのは、事情があると考えて良いのか?」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「当面は刀を渡したい相手の名前を詮索するのは止める。」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司の無言の微笑みを見ていると、直ぐに秘密を知りたくなった。」

沖田総司は藤田五郎を困惑した様子で見た。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎を困惑した様子で見ている。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。話は変わるが、俺が総司の刀の手入れするためのお金は、どのようにして手に入れたら良いんだ?」

沖田総司は藤田五郎を不思議そうに見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司が刀を渡したい相手に、まとめて請求すれば良いのか?」

沖田総司は藤田五郎に慌てた様子で話し出す。

「私は刀の手入れのためのお金を多めに用意しました! 斉藤さんが先程の若い男性から預かったお金は、当時と変わらない金額のはずです! 今のお金の価値とは違いますが、受け取ったお金で刀の手入れをお願い出来ませんか?!」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司の刀は、俺が相手に手渡す日までしっかりと預かる。お金に関しては気にするな。」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。


沖田総司は藤田五郎に軽く礼をすると、微笑みながら静かに居なくなった。


藤田五郎は庭を普通の表情で見た。


庭の桜は、淡い光を放たずに綺麗な姿で咲いている。


藤田五郎は脇に置いた沖田総司の刀を普通の表情で手に取った。


沖田総司の刀は、部屋の中を凛とした空気で包んだ。


藤田五郎は沖田総司の刀を持ちながら、普通の表情で手入れのための確認を始めた。


それから幾つかの季節が過ぎた。


一年の終わりが近くなった頃の出来事になるが、藤田五郎と時尾の間に、長男となる勉が生れた。


勉が生まれてから何日か後の出来事になるが、藤田五郎と時尾と勉は、初めて三人で年越しと新年を迎えた。


それから何日も経った後の事。


藤田五郎の元に、西南戦争と呼ばれている九州での戦いに、抜刀隊の一員として加わる話しがあった。


藤田五郎は、西南戦争で抜刀隊の一員として戦う話しを了承した。


戦いの地である九州に向かうのは、もう少しだけ先の出来事になった。


藤田五郎と時尾と勉は、普段通りに過ごしている。


そんなある日の事。


ここは、東京の町。


一重の桜の季節は、既に終わっている。

八重の桜の季節は、終わりに近くなっている。

遅めに咲いた八重桜が、辺りに僅かだが彩を添えている。


ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。


藤田五郎は仕事を終えて家に帰ってきている。


ここは、時尾と勉の部屋。


勉は床の中で気持ち良さそうに寝ている。


藤田五郎は勉の寝顔を普通の表情で見ている。

時尾は勉の寝顔を微笑んで見ている。


藤田五郎は時尾を見ると、小さい声で話し出す。

「話しがある。」

時尾は藤田五郎を見ると、微笑んで話し出す。

「縁に座りながら、話をしますか?」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎を微笑んで見た。


藤田五郎と時尾は、部屋から静かに出て行った。


それから少し後の事。


ここは、時尾と勉の部屋の前に在る縁。


藤田五郎と時尾は、座っている。


藤田五郎と時尾の上には、綺麗な月が浮かんでいる。


藤田五郎は時尾に二通の手紙を普通の表情で差し出した。

時尾は藤田五郎から二通の手紙を不思議そうに受け取った。


一通の手紙の宛名は時尾になっている。

別な一通の手紙には宛名は書かれていない。


藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「時尾には話していなかったが、昔の馴染みが大切にしていた物を、ある人物に渡す約束をした。昔の馴染みが俺を信頼して頼んだ、最期の約束だ。昔の馴染みの想いを叶えるために必ず渡したい。だが、渡す人物に関する内容が書かれた手紙の所在が分からなくなっている。俺は、渡す物は預かっているが、詳細については分からない状況になっている。」

時尾は二通の手紙を持ちながら、藤田五郎を不思議そうに見た。

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「俺が居ない間に、昔の馴染みが渡したい物を、相手が受け取りに来る可能性がある。その時は、時尾に対応を頼みたい。物を渡す本人か、本人にとても近い人かの判断をするための内容を、俺の分かる範囲で手紙に書いた。それらしい人物が現れたら、手紙を読んで対応してくれ。二通の手紙は必要な時まで読まないでくれ。」

時尾は二通の手紙を持ちながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「俺が居ない時に、物を渡す人物の詳細について書かれた手紙が見付かる可能性がある。その時も、時尾が対応してくれ。」

時尾は二通の手紙を持ちながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「これで話しは終わりだ。」

時尾は二通の手紙を持ちながら、藤田五郎を微笑んで見た。


藤田五郎は静かに立ち上がると、自分の部屋へと向かって縁を歩き出した。


時尾は静かに立ち上がると、自分と勉の部屋へと入っていった。


それから僅かに後の事。


ここは、藤田五郎の部屋の前に在る縁。


藤田五郎は普通に部屋に入ろうとした。


辺りが心地良い空気に包まれた。


藤田五郎は部屋に入るのを止めて、庭を普通の表情で見た。


庭の桜は満開になって咲いている。


藤田五郎は視線を戻すと、普通に部屋の中へと入っていった。


この時の藤田五郎は、沖田総司の妻については知っていたが、子供の存在は知らない。


藤田五郎と沖田総司の息子が出逢うのは、暫く先の出来事になる。

藤田五郎が沖田総司の息子に刀を渡すのは、更に先の出来事になる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「新撰組異聞」の物語の中で、沖田総司さんが自分の刀を藤田五郎さん[新撰組異聞では“斉藤一さん”]に預けて欲しいと頼む場面があります。

沖田総司さんが藤田五郎さん[新撰組異聞では“斉藤一さん”]に、夢の中ではありますが、自分の刀を預ける話しをします。

藤田五郎さん[新撰組異聞では“斉藤一さん”]は、渡したい相手の名前を知らないまま、申し出を受けます。

沖田総司さんが夢の中で詳細について話さなかったのには理由があります。

話さなかった理由については、今回の物語では書かない事にしました。

時間は掛かりましたが、藤田五郎さんの元に沖田総司さんの刀が届きました。

今回の物語の時間設定では、藤田五郎さんが沖田総司さんの刀を渡す相手を知るのは、もう少し後の事になります。

この経過が分かる物語は幾つかありますが、今回は題名を書かない事にしました。

藤田五郎さんが沖田総司さんの刀を預かる時期は、出来るだけ早い次期にしたいと考えました。

最初に考えた設定は、西南戦争より前で、更に藤田勉さんが生まれる前でした。

更に設定を考えて、藤田五郎さんが藤田時尾さんと結婚をした後で、藤田勉さんが生れる前の間にしました。

藤田五郎さんは、明治十年(1877年)五月に、西南戦争で抜刀隊の一員として政府側の立場で戦うために、九州に行っています。

明治十年の五月は、政府側が優勢となっています。

西南戦争には、たくさんの元会津藩士の人達が、抜刀隊として政府側で戦っています。

藤田五郎さんは、元会津藩士の一人として戦っています。

詳しい状況は書きませんが、抜刀隊は刀を携帯していますが、銃の所持は出来なかったそうです。

元会津藩士の人達は、功績をあげている事もあり、たくさんの犠牲者がでているそうです。

藤田五郎さんは戦いの中で怪我をしたそうですが、ご家族の元に戻られています。

後の状況から考えると、大きな怪我ではなかったようです。

「桜始開(さくらはじめてひらく)」は、「二十四節気の“春分”(しゅんぶん)[現在の暦で3月20日頃〜4月4日頃]の中の七十二項の次候の言葉」です。

「桜の花が咲き始める」という意味です。

今回の物語は、春から初夏に掛けての物語ですが、「新撰組異聞」や「新撰組異聞外伝」は、桜の花がたくさん登場します。

時期的にも良いので題名にしました。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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