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新撰組異聞外伝 〜 風の幻 朝顔の慕情 〜
時は明治。
治世が幕府から政府に移ってから何年か経っている。
幕府側で最後まで政府に抵抗した本人や身内への扱いは冷たい。
本人も身内も静かに暮らしている者が多い。
沖田総司は新撰組の一番組組長を務めていた。
新撰組の隊士の中では名前を知られている一人になる。
沖田総司は途中で病になり、幕府と政府の戦いにほとんど加われなかった。
幕府と政府の戦いの結末を知らずに、療養先で亡くなった。
新撰組隊士として亡くなったため、戦いにほとんど加わっていなくても、世間では幕府側の人物と考えられている。
沖田総司の幼い息子の敬一と母親の美鈴は、沖田総司の身内と気付かれないように暮らしている。
敬一と美鈴は、制限のある暮らしではあるが、穏やかに暮らしている。
そのような状況の続く、ある暑い日の事。
ここは、京都。
残暑より酷暑という言葉が合う日が続いている。
今は早朝。
空が薄っすらと明るくなり始めた。
早朝のため、日中と比べると僅かに涼しさを感じる。
ここは、敬一と美鈴の住む家。
敬一と美鈴が寝ている部屋。
敬一と美鈴は、蚊帳の中で寝ている。
美鈴は床の上に静かに体を起こすと、敬一を微笑んで見た。
敬一は床の中で気持ち良さそうに寝ている。
美鈴は微笑みながら、床から静かに起きた。
敬一は床の中で気持ち良さそうに寝ている。
美鈴は静かに身支度を整えると、台所へと居なくなった。
それから少し後の事。
ここは、敬一が寝ている部屋。
敬一は蚊帳の中で静かに寝ている。
敬一は勢い良く体を起こすと、部屋の中を不安そうに見回した。
部屋の中は敬一が一人だけとなっている。
部屋の中には、蝉の鳴き声が聞こえてくる。
敬一は床の上で体を起こしたまま、不安そうな表情で大きな声を出した。
「おかあさん〜!」
美鈴は敬一の傍に心配そうに現れた。
敬一は床から起きると、美鈴に不安そうに抱き付いた。
美鈴は敬一を優しく抱くと、心配そうに話し出す。
「敬一。何か遭ったの?」
敬一は美鈴に抱き付きながら、不安そうに話し出す。
「おかあさん。いっしょ。」
美鈴は敬一を抱きながら、心配そうに話し出す。
「敬一の傍に居るから安心しなさい。」
敬一は美鈴に抱き付きながら、不安そうに話し出す。
「おかあさん。ずっと。いっしょ。」
美鈴は敬一を抱きながら、微笑んで話し出す。
「敬一。怖い夢でも見たの?」
敬一は美鈴に抱き付きながら、不安そうに頷いた。
美鈴は敬一を抱きながら、微笑んで話し出す。
「敬一。今日は早く起きたから、近くを散歩しましょうか?」
敬一は美鈴に抱き付きながら、不安そうに話し出す。
「おかあさん。ぼく。さんぽ。いっしょ。いく。」
美鈴は敬一を抱きながら、微笑んで話し出す。
「敬一。着替えてから散歩をしましょう。」
敬一は美鈴に抱き付きながら、不安そうに話し出す。
「きがえする。」
美鈴は敬一を微笑みながらゆっくりと放した。
敬一は不安そうな表情のまま、美鈴からゆっくりと放れた。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一。辛いのなら散歩するのを止める?」
敬一は美鈴に不安そうに話し出す。
「さんぽする。きがえする。」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
それから少し後の事。
ここは、京都。
敬一と美鈴の住む家の近く。
早い時間のため静かな雰囲気に包まれている。
蝉の鳴き声が響いている。
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、不安そうにゆっくりと歩いている。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、敬一に気を配って、微笑んで歩いている。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで話し出す。
「敬一。元気な蝉の鳴き声が聞こえるわね。」
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、不安そうに頷いた。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで立ち止まった。
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、不安そうに立ち止まった。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで話し出す。
「敬一。朝顔が綺麗に咲いているわね。」
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、辺りを不安そうに見た。
敬一と美鈴の傍に、朝顔が綺麗に咲いている。
朝顔は朝日を受けながら綺麗に咲いている。
風が吹いた。
朝顔の傍に吊るしてある風鈴が、涼しげな音を鳴らした。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで話し出す。
「敬一。暦は秋だけれど、風鈴の音が心地良いわね。」
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、微笑んで頷いた。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで話し出す。
「今日は、敬一と散歩が出来て、綺麗に咲く朝顔も見られたわ。お母さんは嬉しいな。」
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、美鈴を笑顔で見た。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、敬一を微笑んで見た。
風が吹いた。
朝顔の近く吊るしてある風鈴が、涼しげな音を鳴らした。
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、笑顔で話し出す。
「かえる。ごはん。いっしょ。」
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んで頷いた。
美鈴は敬一と手を繋ぎながら、微笑んだ表情でゆっくりと歩き出した。
敬一は美鈴と手を繋ぎながら、笑顔で歩き出した。
それから暫く後の事。
ここは、京都。
青空が広がり、暑さを感じる日差しになっている。
蝉の声が元気に響いている。
ここは、敬一と美鈴の住む家。
沖田総司の位牌の前。
敬一は笑顔で座っている。
美鈴は微笑んで座っている。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「お母さんは洗濯をしようと思っているの。敬一は縁の傍で待っている?」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「おとうさん。いっしょ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「何か遭ったら、直ぐに呼んでね。」
敬一は美鈴に笑顔で頷いた。
美鈴は敬一の傍から微笑みながら去って行った。
それから少し後の事。
ここは、庭。
美鈴は洗濯物を微笑みながら干している。
ここは、沖田総司の位牌の前。
敬一は笑顔で座っている。
敬一は沖田総司の位牌に笑顔で話し出す。
「おとうさん。いっしょ。」
外で風が吹いた。
がらすの風鈴が涼しげな音を鳴らした。
敬一は沖田総司の位牌に笑顔で話し出す。
「おとうさん。おかあさん。ぼく。ずっといっしょ。」
外で風が吹いた。
がらすの風鈴が涼しげな音を鳴らした。
敬一はがらすの風鈴を笑顔で見た。
がらすの風鈴は、涼しげな音を鳴らしながら、ゆっくりと揺れている。
敬一は沖田総司の位牌を笑顔で見た。
それから少し後の事。
ここは、沖田総司の位牌の前。
美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んだ表情で静かに来た。
敬一は畳の上で横になって寝ている。
美鈴は敬一を心配そうに見た。
敬一は畳の上で気持ち良さそうに横になって寝ている。
美鈴は敬一を安心した表情で見た。
敬一は畳の上で気持ち良さそうに横になって寝ている。
美鈴は敬一の傍から微笑んだ表情で静かに居なくなった。
それから僅かに後の事。
ここは、沖田総司の位牌の前。
美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んだ表情で静かに来た。
敬一は畳の上で気持ち良さそうに横になって寝ている。
美鈴は敬一を微笑みながら優しく抱いた。
敬一は気持ち良さそうに寝ている。
美鈴は敬一を抱きながら、沖田総司の位牌の前から微笑んだ表情で居なくなった。
それから僅かに後の事。
ここは、沖田総司の位牌の前。
美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んで来た。
美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「総司さん。敬一が怖い夢を見たらしく、不安になりました。敬一と散歩に行きました。敬一は笑顔になりました。敬一は、朝早く起きたり、散歩に行ったり、総司さんと一緒に居て安心したり、たくさんの出来事が重なって寝てしまいました。今日は敬一の傍に出来るだけ居ますが、家事も行なわないといけません。敬一が起きた時に、一人だと不安になるかも知れません。総司さん。敬一の傍に居てもらっても良いですか?」
外で風が吹いた。
がらすの風鈴が涼しげな音を鳴らした。
美鈴は沖田総司の位牌を丁寧に手に持つと、微笑みながら居なくなった。
それから僅かに後の事。
ここは、敬一の寝ている部屋。
敬一は蚊帳の中で気持ち良さそうに寝ている。
美鈴は沖田総司の位牌を持ちながら、蚊帳の中に微笑んだ表情で静かに入った。
敬一は気持ち良さそうに横になって寝ている。
美鈴は敬一の傍に沖田総司の位牌を微笑んだ表情で静かに置いた。
敬一は気持ち良さそうに横になって寝ている。
美鈴は蚊帳の外へと微笑んだ表情で静かに居なくなった。
それから幾つかの季節が過ぎた。
敬一と美鈴は、京都から東京に住む場所を替えた。
そんなある夏の日の事。
ここは、東京。
蝉の鳴き声が響いている。
空の色が橙色へと僅かに変わり始めた。
ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。
藤田五郎は仕事に出掛けているため家に居ない。
時尾と勉だけとなっている。
勉は時尾に寂しそうに話し出す。
「おにいちゃん。あそぶ。」
時尾は勉に残念そうに話し出す。
「勉は敬一君と遊んでいる最中に寝てしまったわよね。敬一君は勉が起きるまで待つと言ってくれたの。敬一君の帰りが遅くなると、敬一君のお母さんが心配するから帰るように言ったの。敬一君は勉と別な日にも遊ぶと話していたわよね。勉。元気を出しなさい。」
勉は時尾に拗ねた様子で話し出す。
「おにいちゃん。あそぶ。」
時尾は勉を困惑した様子で見た。
勉は時尾を拗ねた様子で見た。
玄関から藤田五郎が帰ってきた音が聞こえた。
時尾は勉に微笑んで話し出す。
「お父さんが帰ってきたわよ。一緒にお帰りなさいを言いましょう。」
勉は時尾に拗ねた様子で話し出す。
「おにいちゃん。あそぶ。」
時尾は勉を困惑した様子で見た。
時尾と勉の傍から、藤田五郎の普段と同じ気配を感じた。
時尾は藤田五郎を申し訳なさそうに見た。
勉は藤田五郎を寂しそうに見た。
藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見ている。
時尾は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。
「お迎えが出来なくて申し訳ありません。」
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「気にするな。」
勉は藤田五郎に寂しそうに話し出す。
「おにいちゃん。あそぶ。」
藤田五郎は勉を普通の表情で見た。
時尾は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。
「今日は敬一君が来ていました。勉が遊んでいる最中に寝てしまったので、敬一君と遊ぶ時間がほとんどありませんでした。勉がずっと残念がっているのですが、何と言って良いのか困っていました。」
藤田五郎は勉を見ると、普通に話し出す。
「敬一は明日も来ると言っていた。」
時尾は藤田五郎に不思議そうに話し出す。
「敬一君に会われたのですか?」
藤田五郎は時尾を見ると、普通の表情で頷いた。
時尾は勉を見ると、微笑んで話し出す。
「勉。敬一君が明日も遊びにきてくれるそうよ。短い時間になったとしても、笑顔で遊びましょうね。」
勉は時尾に笑顔で頷いた。
時尾は勉を微笑んで見た。
藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。
時尾は藤田五郎を見ると、不思議そうに話し出す。
「今日は普段より早いお帰りですね。何か遭ったのですか?」
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「変化咲き朝顔を分けてもらえる話しがあった。明治の時代になってからは、変化咲き朝顔を見掛ける機会が少なくなった。せっかくの機会だから、分けてもらった。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「変化咲き朝顔が見られるのですね。楽しみです。」
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「玄関に来てくれ。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「勉も玄関に行って良いですか?」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
藤田五郎は玄関へ普通に歩き出した。
勉は藤田五郎の後を笑顔で歩き始めた。
時尾は勉を見ながら、微笑んで歩き出した。
それから僅かに後の事。
ここは、玄関。
撫子采咲と呼ばれる出物の変化咲き朝顔の鉢植えが置いてあった。
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「白色の撫子のような花が咲く朝顔ですね。」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は勉に微笑んで話し出す。
「朝顔の花が咲く日が楽しみね。」
勉は時尾に笑顔で頷いた。
時尾は勉を微笑んで見た。
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「二鉢の撫子采咲の朝顔を分けてもらった。一鉢は敬一の家に持って行った。」
時尾は藤田五郎を見ると、微笑んで話し出す。
「敬一君と美鈴さんは喜んでいましたか?」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は藤田五郎を微笑んで見た。
ちょうど同じ頃。
ここは、敬一と美鈴の住む家。
庭。
変化咲き朝顔の撫子采咲の鉢植えが日陰の場所に置いてある。
美鈴は変化咲き朝顔を微笑んで見ている。
敬一は変化咲き朝顔を微笑んで見ている。
美鈴は敬一を見ると、微笑んで話し出す。
「白色の撫子のような花が咲く朝顔なの。」
敬一は美鈴を見ると、微笑んで話し出す。
「お母さんのような朝顔の花が咲くんだね。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「褒めてくれてありがとう。」
敬一は美鈴を微笑んで見た。
美鈴も敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「僕も変化咲き朝顔を一緒に育てるよ。」
美鈴は敬一に微笑んで頷いた。
敬一は美鈴を微笑んで見た。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「直ぐに咲きそうな朝顔があるわね。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「早起きして一緒に見ようね。」
美鈴は敬一に微笑んで頷いた。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「今日は早めに寝るね。」
美鈴は敬一に微笑んで頷いた。
優しい風が吹いた。
がらすの風鈴が涼しげな音を鳴らした。
敬一はがらすの風鈴を微笑んで見た。
美鈴もがらすの風鈴を微笑んで見た。
がらすの風鈴は、涼しげな音を鳴らしながら、ゆっくりと揺れている。
敬一は美鈴を微笑んで見た。
美鈴も敬一を微笑んで見た。
敬一は微笑みながら、家の中へと入って行った。
美鈴も微笑みながら、家の中へと入って行った。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
今回の物語は、前半部分は旧暦で、後半は新暦です。
旧暦の明治五年(1872年)十二月三日に、新暦の明治六年一月一日となり、旧暦と新暦が入れ替わります。
「朝顔(あさがお)」についてです。
ヒルガオ科です。
中国原産です。
奈良時代から平安時代の間に、薬草として渡来したそうです。
平安時代からは、観賞用として普及していったそうです。
秋の季語です。
今回の物語に登場する「采咲(さいざき)」などの変わった花の形や葉の形をした朝顔を「変化咲き朝顔」と呼びます。
「采咲」は、「出物系統(でものけいとう)」です。
別な系統には「正木系統(まさきけいとう)」があります。
「采咲」は、細い花びらで、細めの葉です。
雄しべはありません。
「采咲」は、良く見掛ける朝顔の姿とかなり違います。
今回の物語は、花びら端に切れ込みが入っている「撫子采咲(なでしこさいざき)」という「変化咲き朝顔」が登場しています。
「撫子采咲(なでしこさいざき)」は、見た目は朝顔より「撫子(なでしこ)」に近いです。
「出物系統」の「変化咲き朝顔」は、種が出来ないか、種が出来難いため、変化咲きの遺伝子を持つ同じ系統の朝顔の種を撒いて「変化咲き朝顔」が現れるのを待つそうです。
「正木系統」は種が出来やすいので、「出物系統」と比べると、育てやすいそうです。
「変化咲き朝顔」は、江戸時代の文化・文政期(1804〜1830年)、嘉永・安政期(1848〜1860年)、この二回の頃に大流行をしたそうです。
明治維新以降は流行が下火になったそうです。
愛好家・研究所・大学などで、種子の保存や収集などが行なわれているそうです。
「慕情(ぼじょう)」は、「慕わしく思う気持ち。特に、異性を恋い慕う気持ち。」を言います。
今回の物語では、「慕わしく思う気持ち」の意味を含めて付けました。
「幻(まぼろし)」は、幾つかの意味がありますが、今回の物語では「実際にはないように、あるように見えるもの。間もなく消えるはかないもののたとえ。幻影。」という意味を含めて使用しました。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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