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新撰組異聞外伝 〜 酔芙蓉の描いた絵 〜


時は明治。



今は政府の治世。

政府の治世の前は、幕府の治世だった。

幕府と政府の間で戦いがあった。

幕府は戦に負けて、政府の治世になった。


政府も世間も幕府に最期まで味方した者や家族への対応は冷たい。

幕府に最期まで味方した者や家族の中には、目立たないように過ごす者や過去を隠して過ごす者がいる。


沖田総司は新撰組一番組組長を務めていたので、幕府側の立場の者になる。

沖田総司は、病のために戦いにほとんど加わらず、戦いの結末を知らずに病で亡くなったが、政府も世間も幕府側の立場の者として考えている。

沖田総司には、妻の美鈴と生まれて間もない息子の敬一の大切な家族が居た。

沖田総司は戦いによる混乱のために、生まれて間もない息子の敬一に一度も逢えずに亡くなった。


幾つかの季節が過ぎた。


今は秋。


ここは、京都。


日中は暑さを感じるが、陽が落ちると暑さが和らぐようになった。


美鈴と敬一は、沖田総司を慕い尊敬しながらも、沖田総司の家族と分からないように過ごしている。

美鈴は、敬一を守り育てながら笑顔で過ごしている。

敬一は、美鈴を慕いながら笑顔で過ごしている。


ここは、幼い敬一と美鈴の住む家。


敬一と美鈴の部屋。


美鈴は微笑んで縫い物をしている。

敬一は美鈴を笑顔で見ている。


美鈴は縫い物を止めると、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。縫い物をする姿を見るのは楽しい?」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「たのしい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一に見せたい物があるの。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。


美鈴は箪笥から一枚の大きめの紙を丁寧に取り出した。


美鈴は敬一に紙を微笑んで見せた。

敬一は紙を笑顔で見た。


紙には、若い男性が描かれている。


美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一とお母さんにとって大切な人よ。」

敬一は美鈴を見ると、笑顔で話し出す。

「ぼく。たいせつ。おかあさん。たいせつ。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「え。えがお。おかあさん。えがお。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「え。だれ?」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「大切な人の名前は、今は秘密なの。敬一にも秘密なの。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ひみつ。はやく。しる。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一が大人になった頃には教えられると思うの。暫く我慢してね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「がまんする。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「大切な人は、絵を描いた人を酔芙蓉に喩えたの。酔芙蓉は、朝は白色の花が咲いて、午後には桃色の花になって、夕方には濃い桃色の花になって、最後はしぼむの。一日の間に、花の色が変わって、しぼむの。酔芙蓉は不思議な花ね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「すいふよう。みたい。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一には、白色の酔芙蓉の花、桃色の酔芙蓉の花、濃い桃色の酔芙蓉の花、しぼんだ酔芙蓉の花を、見て欲しいの。別な日に出掛けましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一が大人になったら、絵を譲るわ。大切にしてね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ありがと。たいせつする。」

美鈴は敬一に紙を見せながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「たいせつ。ひみつ。え。しまう。」

美鈴は紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「大切な絵で、秘密の絵で、将来は敬一の絵だから、大切に仕舞うわね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ありがと。」

美鈴は紙を持ちながら、敬一を微笑んで見た。


美鈴は紙を箪笥に丁寧に仕舞った。


敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。麦茶を飲みましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。


美鈴は部屋を微笑んで出て行った。

敬一は部屋を笑顔で出て行った。


幾つかの季節が過ぎた。


敬一と美鈴は、京都から東京に住まいを替えた。


今は秋。


ここは、東京。


日中は暑さを感じるが、陽が落ちると暑さが和らぐようになった。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


美鈴の部屋。


美鈴は一枚の大きめの紙を微笑んで見ている。


敬一は部屋の中に笑顔で入ってきた。


美鈴は紙を持ちながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は紙を笑顔で見た。


紙には、若い男性が描かれている。


美鈴は箪笥に紙を丁寧に仕舞った。

敬一は美鈴を不機嫌に見た。

美鈴は敬一を心配な様子で見た。

敬一は美鈴に不機嫌に話し出す。

「斉藤さんの家に行く!」

美鈴は敬一に心配な様子で話し出そうとした。


敬一は部屋を不機嫌に出て行った。


暫く後の事。


ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。


藤田五郎は仕事に出掛けているので居ない。

時尾と勉は、居る。


ここは、玄関。


敬一が勢い良く訪れた。


時尾は微笑んで来た。

勉は笑顔で来た。


敬一は時尾と勉に笑顔で話し出す。

「こんにちは!」

勉は敬一を不思議そうに見た。

時尾は勉と敬一を微笑んで見た。

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。えがお。」

敬一は勉を笑顔で見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「外は暑いわよね。麦茶を用意するわ。」

敬一は時尾に笑顔で話し出す。

「はい!」

時尾は敬一を微笑んで見た。


勉は家の中へ笑顔で入って行った。

敬一も家の中へ笑顔で入って行った。

時尾の家の中へ微笑んで入って行った。


少し後の事。


ここは、藤田五郎の家。


食卓の有る部屋。


時尾、勉、敬一は、食卓を囲んで座っている。

勉と敬一の前には、麦茶が置いてある。


敬一は時尾に笑顔で話し出す。

「いただきます!」

勉は時尾に笑顔で話し出す。

「いただきます。」

時尾は勉と敬一に微笑んで頷いた。

敬一は麦茶を飲むと、時尾に笑顔で話し出す。

「美味しいです!」

勉は麦茶を飲むと、時尾に笑顔で話し出す。

「おいしい。」

時尾は勉と敬一に微笑んで頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、時尾と勉を笑顔で見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。無理して笑顔を作っている様子に感じるわ。」

敬一は麦茶を飲むのを止めると、時尾を不思議そうに見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「私も勉と同じく、敬一君の本当の笑顔が見たいわ。」

敬一は時尾を困惑して見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。五郎さんが仕事で家に居なくてごめんね。」

敬一は時尾に慌てて話し出す。

「斉藤さんが仕事に出掛けて家に居ないのは当然です! 謝らないでください!」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「私は、敬一君のご家族を詳しく知らないし、五郎さんのように頼りにならないけれど、私に話せる内容の時は、遠慮せずに話してね。」

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾も敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。仮の話です。斉藤さんが早くに亡くなって、時尾さんと勉君の二人で過ごしています。時尾さんが若い男性の絵を笑顔で見る時の気持ちなどを、差し支えなければ教えてください。」

時尾は微笑んで考え込んだ。

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「私が敬一君の話す状況で絵に描かれた人物を想像したのは、五郎さん、高木の家族、好きな役者さん、になるわ。私が本当の笑顔で絵を見るのは、五郎さん、になるわ。」

敬一は時尾を不思議そうに見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「勉が傍に居るから、五郎さんが描かれた絵を見る機会は少ないわ。五郎さんの姿を見ながら話したい時に、五郎さんが描かれた絵を見るわ。」

敬一は時尾に不思議そうに話し出す。

「時尾さんは勉君が幼い間に、斉藤さんが描かれた絵を見せますか?」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「勉が立派に成長したら、五郎さんが描かれた絵を譲るわ。勉が幼い間は、五郎さんが描かれた絵を見せて不足の事態が起きると困るから、勉が成長してから見せるわ。」

敬一は不思議そうに考え込んだ。

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。ありがとうございました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「私の話が敬一君に参考になって嬉しいわ。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。えがお。」

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。ありがとう。」

勉は敬一を笑顔で見た。

敬一は麦茶を美味しく飲んだ。

勉も麦茶を美味しく飲んだ。

時尾は勉と敬一を微笑んで見た。


暫く後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


玄関。


敬一は元気良く帰ってきた。


美鈴は微笑んで来た。


敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「お母さん! ただいま!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お帰りなさい。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。


敬一は家の中へ元気良く入って行った。

美鈴は家の中へ微笑んで入って行った。


少し後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


敬一の部屋。


敬一は机に微笑んで向かっている。


美鈴が部屋の中に微笑んで入ってきた。


敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一が出掛ける前の出来事だけど・・・」

敬一は美鈴の話しを遮ると、恥ずかしく話し出す。

「お母さん。気を遣ってくれてありがとう。出掛ける前の出来事は忘れてくれるかな?」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今回は敬一が出掛ける前の出来事は忘れるわね。話したい内容があったけれど、別な機会に話すわね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「楽しみに待っているよ。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一も美鈴を微笑んで見た。


美鈴は部屋から微笑んで出て行った。


敬一は机に微笑んで向かった。


翌日の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


食卓の有る部屋。


美鈴は微笑んで夕飯の支度をしている。


敬一は美鈴の傍に微笑んで来た。


敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。手伝うよ。」

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一は男の子だから、力仕事の時に手伝って。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さんはお父さんの代わりもしているよ。僕は男だけど、出来る範囲で手伝うよ。」

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「今日の夕飯の支度は、一人で出来るわ。困った時は手伝いを頼むわ。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一を微笑んで見た。


玄関から、人が訪ねてきた音が聞こえた。


敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「僕が行くね。」

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一に微笑んで頷いた。


敬一は微笑んで居なくなった。


僅かに後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


玄関。


敬一は微笑んで来た。


藤田五郎の普通の声が、玄関の外から聞こえた。

「こんばんは。藤田です。」


敬一は玄関の戸を不思議そうに開けた。


藤田五郎は玄関に普通に来た。


敬一は玄関の戸を普通に閉めると、藤田五郎を不思議そうに見た。


美鈴は微笑んで来た。


藤田五郎は美鈴と敬一に普通に話し出す。

「夕飯の支度中に訪ねて申し訳ない。」

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに逢えて嬉しいです。斉藤さんは仕事をしています。訪ねる時間は気にしないでください。」

藤田五郎は美鈴を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「家に上がって休んでください。」

藤田五郎は美鈴に普通に話し出す。

「敬一と話したい。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

美鈴は藤田五郎と敬一を微笑んで見た。


美鈴は家の中へ微笑んで入って行った。

藤田五郎は家の中へ普通に入って行った。

敬一は家の中へ不思議そうに入って行った。


少し後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


縁。


藤田五郎は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

藤田五郎の傍には、お酒と肴が置いてある。

敬一は麦茶を不思議そうに飲んでいる。


藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「話が有ると思って訪ねたが、話は無くなったらしい。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎を不思議そうに見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「時尾さんと勉君が、僕について何か話したのですか?」

藤田五郎は杯の酒飲みながら、敬一に普通の表情で首を横に振った。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。迷惑でなければ、質問して良いですか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんが若い男性の描かれた絵を笑顔で見ていました。斉藤さんは絵に描かれた人物を知っていますか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に苦笑して話し出す。

「僕の話だけでは分からないですよね。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんの見た絵に描かれた若い男性は、総司の可能性がある。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎を不思議そうに見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「総司と美鈴さんが一緒に過ごす前、総司の上役が総司と親しい子供達に頼まれて、総司の絵を描いたそうだ。総司の上役が描いた絵は、子供達に評判だったそうだ。総司の上役は気分を良くして、美鈴さんに絵を渡したそうだ。俺の知る状況までは、美鈴さんは総司の絵が描かれた絵を大事にしていた。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「お父さんは上役の方が描いた絵を見たのですか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「俺は、美鈴さんから絵を見せてもらって状況を聞いて、総司と親しい子供達から状況を聞いただけだ。総司が絵を見ているかは分からない。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。お父さんの絵を描いた上役の方は、どのような方だったのですか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「総司の絵を描いた上役は、総司が美鈴さんと一緒に過ごす前に亡くなった。総司は、総司の絵を描いた上役を酔芙蓉に喩えたそうだ。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「酔芙蓉に喩えられる方なのですか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、不思議そうに考え込んだ。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「悩むな。」

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんは、僕に絵を見せていないし絵の説明もしていません。お母さんは、今の僕が絵を見るのも事情を知るのも早いと考えていると思います。僕はお母さんから絵を見せてもらい絵の説明を聞く日を楽しみに待ちます。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今は酔芙蓉が咲いています。お母さんと酔芙蓉を見たいと思います。酔芙蓉は一日の間に色が変わる花です。お母さんと酔芙蓉の花の色が変わる様子を見たいので、僕は手伝いをしてお母さんの楽しむ時間を増やします。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一と美鈴さんの夕飯の迷惑になるから、少し経ったら帰る。」

敬一は麦茶を飲むのを止めると、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「いつも気を遣ってくださってありがとうございます。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は麦茶を飲むと、藤田五郎を微笑んで見た。


酔芙蓉の花は、一日の間に白色から濃い桃色へと変わり凋む。


沖田総司が酔芙蓉に喩えた上役が、沖田総司の絵を描いている。


敬一は美鈴の見た絵の人物が分からない。

時尾も美鈴の見た絵の人物が分からない。

藤田五郎も美鈴の見た絵の人物が分からない。


今の時点で、敬一が絵を見る日と絵について知る日を分かるのは、美鈴と酔芙蓉の花だけかも知れない。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「酔芙蓉(すいふよう)」についてです。

アオイ科です。

「芙蓉(ふよう)」の八重咲きの園芸品種です。

8月〜10月に掛けて咲きます。

朝方は白色の花を咲かせますが、午前中から午後の間にピンク色の花に変化していき、夕方頃になると濃いピンク色の花に変化している事が多いです。

一日だけ咲いた後は、しぼみます。

花の色が変わる様子から「酔っぱらった」の「酔」が名前に付いたそうです。

「酔芙蓉」の花が白色の時には「芙蓉」と見た目が似ているので、一瞬だけ見た場合は区別が付き難いと思います。

同じ場所で、朝に見た白い芙蓉の花が夕方に濃いピンク色に変わっている、夕方に見た濃いピンク色の芙蓉の花と同じ場所で朝に白色の花が咲いていたら、「酔芙蓉」の可能性があります。

芙蓉は平安時代の頃に渡来してそうです。

新撰組の人達の時代には見られた花です。

酔芙蓉が新撰組の人達の時代にあるかについての確認は取れませんでした。

沖田総司さんと美鈴さんが酔芙蓉を一緒に見た出来事が登場する物語は、「新撰組異聞 中編 酔芙蓉」です。

沖田総司さんの似顔絵が登場する物語は、「新撰組異聞 短編 花菖蒲の咲く頃に」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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