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新撰組異聞外伝 ~ 夏の約束 夢幻 七色の泡 ~


時は明治。


治世が幕府から政府に移って数年が経った。


幕府側で最後まで政府に抵抗した本人や身内への扱いは冷たい。

本人も身内も、静かに暮らす者が多い。


沖田総司は、新撰組の一番組組長を務めていた。

新撰組の隊士の中では名前が知られる一人になる。


沖田総司は、途中で病になり、幕府と政府の戦いにほとんど加われなかった。

幕府と政府の戦いの結末を知らずに療養先で亡くなった。

新撰組隊士として亡くなったため、戦いにほとんど加わっていなくても、世間では幕府側の人物と考えられている。


沖田総司の幼い息子の敬一と母親の美鈴は、沖田総司の身内と知られないように暮らしている。


敬一と美鈴は、制限のある暮らしではあるが、穏やかに暮らしている。


今は夏。


ここは、京都。


ここは、幼い敬一と美鈴が住む家。


一室。


縁の傍。


縁の側に硝子の風鈴が飾ってある。


美鈴は微笑んで縫い物をしている。

敬一は美鈴を笑顔で見ている。


美鈴は縫い物を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。ぬいもの。きれい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。褒めてくれてありがとう。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は硝子の風鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一と硝子の風鈴を微笑んで見た。


硝子の風鈴は光を受けて輝いている。


敬一は硝子の風鈴を見ながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「ふうりん。きれい。」

美鈴は敬一と硝子の風鈴を見ながら、敬一に微笑んで話し出す。

「硝子の風鈴。綺麗ね。」

敬一は庭を笑顔で見た。

美鈴は敬一と庭を微笑んで見た。


しゃぼん玉がゆっくりと飛んでいる。


しゃぼん玉は光を受けて七色に輝いている。


敬一はしゃぼん玉を見ながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「きれい。」

美鈴は敬一としゃぼん玉を見ると、敬一に微笑んで話し出す。

「しゃぼん玉も綺麗ね。」

敬一はしゃぼん玉を笑顔で見た。

美鈴は敬一としゃぼん玉を微笑んで見た。


しゃぼん玉は地面に当たると同時に消えた。


美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「しゃぼん玉。地面に当たって消えたわね。」

敬一は美鈴を見ると、美鈴に笑顔で話し出す。

「しゃぼんだま。みたい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「しゃぼん玉は偶然に庭に飛んできたみたいなの。次もしゃぼん玉が庭に飛んでくるか分からないわ。しゃぼん玉の用意はしていなの。しゃぼん玉を直ぐに見るのは難しいと思うわ。」

敬一は庭を寂しく見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。明日か明後日に、しゃぼん玉の用意をするわ。待てるかしら?」

敬一は美鈴を見ると、美鈴に笑顔で話し出す。

「しゃぼんだま。ようい。たいへん?」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。心配しなくて大丈夫よ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「しゃぼんだま。みない。ようい。しない。」

美鈴は敬一を心配して見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。えがお。しゃぼんだま。おなじ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。ありがとう。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。


幾つかの季節が過ぎた。


敬一と美鈴は、京都から東京に住まいを替えた。


今は夏。


ここは、東京。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


食卓の有る部屋。


敬一は笑顔で美味しく食事をしている。

美鈴は微笑んで食事をしている。

食卓には、丁寧に作られた美味しい食事が載っている。


敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さんの食事は何時も美味しいよ。」

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「贅沢な食事を用意できないのに、いつも褒めてくれてありがとう。」

敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「僕は、贅沢でも美味しくない食事より、質素でも美味しい食事が良いよ。」

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は食事を止めると、美鈴に慌てて話し出す。

「今の僕の話は、お母さんが質素な食事を用意している意味ではないよ!」

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一の話の意味は分かるわ。安心しなさい。」

敬一は美鈴を安心して見た。

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「今日、外に居る時に、しゃぼん玉を見たんだ。しゃぼん玉が光を受けて輝いていたんだ。しゃぼん玉が輝く様子を見ていたら、お母さんの笑顔を思い出したんだ。」

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。食事が止まっているわよ。」

敬一は食事を笑顔で美味しく食べた。

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。


数日後の事。


ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。


藤田五郎は、仕事のために居ない。

時尾と勉は、居る。

敬一が、訪ねている。


食卓の有る部屋。


時尾は麦茶を微笑んで飲んでいる。

勉は麦茶を笑顔で美味しく飲んでいる。

敬一は麦茶を微笑んで美味しく飲んでいる。


勉は麦茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「しゃぼんだま。たくさん。みた。」

敬一は麦茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「しゃぼん玉がたくさん飛ぶ様子。綺麗だよね。」

勉は麦茶を飲みながら、敬一に笑顔で頷いた。

敬一は麦茶を飲みながら、勉を微笑んで見た。

勉は麦茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「しゃぼんだま。たくさん。みる。」

敬一は麦茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「勉君。しゃぼん玉を見る予定があるの?」

勉は麦茶を飲みながら、敬一に笑顔で頷いた。

時尾は麦茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「近い内に、しゃぼん玉で遊ぶ予定なの。」

敬一は麦茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「斉藤さんか時尾さんが、しゃぼん玉を吹くのですか?」

時尾は麦茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「私がしゃぼん玉を吹く予定よ。」

敬一は麦茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「日程が合えば、僕も参加して良いですか?」

勉は麦茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「さんか。たのしみ。」

時尾は麦茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君が参加をしたら、更に楽しくなるわ。」

敬一は麦茶を飲みながら、時尾と勉を微笑んで見た。

時尾は麦茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。都合の悪い時や体調の悪い時は、私達に遠慮して無理しないでね。」

敬一は麦茶を飲みながら、時尾を微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は麦茶を飲みながら、敬一を微笑んで見た。

勉は麦茶を飲みながら、時尾と敬一を笑顔で見た。


数日後の事。


ここは、東京。


空の色が僅かに橙色に染まり始めている。


藤田五郎は普通に歩いている。

敬一は微笑んで歩いている。


藤田五郎と敬一の近くに、川が静かに流れている。


藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一が時尾の代わりにしゃぼん玉を吹いた。時尾は敬一に感謝していた。勉は敬一と遊べて喜んでいた。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「時尾さんは忙しいです。時尾さんの手伝いが出来ました。時尾さんにも、勉君にも、喜んでもらえて嬉しいです。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。突然だが、しゃぼん玉に関連する内容を話す。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「しゃぼん玉は、或る状況の喩えに用いる。知っているか?」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「しゃぼん玉は、“現れては直ぐ消える、儚いものの喩えに用いる”。」

敬一は藤田五郎を考えながら見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「“夢幻”は、“儚いものを喩える”言葉だ。“しゃぼん玉”と“夢幻”は、同じものを喩えている。」

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「斉藤さん。数日前に、お母さんに、しゃぼん玉が光を受けて輝く様子を、お母さんの笑顔のようだと話しました。お母さんは僕を笑顔で見ていました。お母さんは落ち込んでいるのでしょうか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「今までの美鈴さんの状況から想像すると、落ち込んでいないと思う。」

敬一は藤田五郎を安心して見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。お母さんは、笑顔も存在も、儚くないです。僕は、お母さんをしゃぼん玉に喩えるのを止めます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「僕は儚くない生き方をします。僕はお母さんも儚くない生き方になるようにします。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司が敬一の今の話を聞いたら喜ぶ。」

敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。

「お父さんとお母さんには、恥ずかしくて話し難い内容です。お父さんとお母さんに、知られたら照れます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺には話しても恥ずかしくない内容なのか? 俺には話しても照れない内容なのか?」

敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。

「斉藤さんにも話すのは恥ずかしい内容です。斉藤さんは僕の話の内容を忘れない人物です。僕が今の話の内容から外れる生活を始めたら、お父さんに対して、お母さんに対して、斉藤さんに対して、とても恥ずかしいです。僕にとって大切な目標だから、斉藤さんに話しました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を恥ずかしく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺は、敬一を助けられる時間は限られているが、敬一の目標は忘れない。世間の人達が、敬一や美鈴さんを、しゃぼん玉に喩えたとしても、敬一がしっかりと生きている自信を持てるように、美鈴さんがしっかりと生きている自信を持てるように、過ごせ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんとお父さんに、僕もお母さんも、しゃぼん玉とは違う人生だったと、自信を持って話せるように生きます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に苦笑して話し出す。

「人生は永いのに、先走った内容を話してしまいました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「人生は永いが、命は永遠ではない。過去の生き方の積み重ねが、未来への生き方に繋がる。冷静に考えて人生の決意を決めたのならば、早過ぎる状況に該当しない。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。凄いです。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「当然の内容の話だ。凄くない。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。俺は、敬一の人生の目標を、年月日、時間、景色を含めて、しっかりと覚える。敬一が人生の目標を変える時は、俺に必ず話せ。」

敬一は藤田五郎を複雑な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。複雑な表情になっている。軽く考えた目標ならば、直ぐに訂正しろ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「軽く考えた目標ではありません。訂正しません。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。


しゃぼん玉が幾つも飛ぶ姿が見えた。


敬一は微笑んで止まった。

藤田五郎は普通に止まった。


敬一はしゃぼん玉を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一としゃぼん玉を普通の表情で見た。


しゃぼん玉が川面に付いた。


川面に付くと同時に消えるしゃぼん玉。

川面を跳ねて岩に当たると同時に消えるしゃぼん玉。

川面を跳ねて川辺に当たって消えるしゃぼん玉。


しゃぼん玉は様々な姿を見せながら、見えなくなった。


敬一は藤田五郎を見ると、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「しゃぼん玉は、意外に強いですね。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「僕の人生の目標を話した景色の中に、しゃぼん玉が幾つも飛ぶ姿、しゃぼん玉が川面を跳ねても直ぐに消えない姿、加えてください。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。


敬一は藤田五郎を見ながら、微笑んで歩き出した。

藤田五郎は敬一を見ながら、普通に歩き出した。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「シャボン玉(しゃぼんだま)」についてです。

「石鹸水をストローなどの管の先につけ、他の端から軽く吹くとできる気泡。気泡は空中を漂う事が多い。日光に当たると美しい色彩を見せる。」です。

「現れては直ぐ消える、儚いものの喩えにも用いる。」です。

春の季語です。

「シャボン」の語源はポルトガル語の「sabao(シャボー、サボン)」だそうです。

石鹸が日本に初めて渡来したのは、天文十一年(1542年)~天文十二年(1543年)といわれています。

石鹸が日本に初めて渡来した当時~江戸時代中期頃の石鹸は、貴重品だったために、裕福な人でも、香りを楽しむ、皮膚病などの薬、として用いていたそうです。

その頃の庶民は、「無患子(むくろじ)の実」・「橡の木(とちのき)の実」などでシャボン玉を作っていたそうです。

江戸時代中期の寛文十二年(1672年)頃に、長崎商人がオランダから石鹸を輸入した事で、石鹸でシャボン玉が手軽に作れるようになったそうです。

延宝五年(1677年)頃から、江戸で「玉屋」というシャボン玉屋の行商が生まれたそうです。

藁の芯をストロー代わりにして、日本初のシャボン玉遊びブームを生みだしたそうです。

シャボン玉の、作り方、遊び方、歴史、などについて、詳細に知りたい方は、各自でご確認ください。

「夢幻(むげん)」についてです。

「夢と幻。儚いものの喩え。」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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