このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

新撰組異聞外伝 ~ 弥生 鼓草 風に乗り ~


沖田総司には、とても大切に想う二人の家族がいた。

沖田総司がとても大切に想う二人の家族は、息子の敬一と妻の美鈴になる。

沖田総司は、明治と呼ぶ時代を迎える前に病で亡くなった。


沖田総司は、敬一に一度も逢えずに亡くなった。

沖田総司、敬一、美鈴は、三人で一度も同じ時間を過ごしていない。


幾日もの日々が過ぎた。


明治と呼ぶ時代となっている。


武士の時代は終わりを告げ、新しい政府の時代に成っている。


今は春の終わり。


ここは、京。


過ごしやすい日が続いている。


敬一と美鈴は、幕府側の関係者の家族だと分からないように、静かに過ごしている。


ここは、幼い敬一と美鈴の住む家。


縁の傍。


美鈴は微笑んで縫い物をしている。

敬一は美鈴と縫い物を笑顔で見ている。


美鈴は縫い物を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「てつだう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一は男の子だから、縫い物のお手伝いはしなくて良いのよ。」

敬一は美鈴に寂しく話し出す。

「てつだう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一が大きくなったら、縫い物以外のたくさんお手伝いを頼むわ。敬一に頼みたいお手伝いが見付かったら、直ぐに頼むわね。」

敬一は美鈴に寂しく話し出す。

「てつだう。まつ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お母さん。敬一と一緒に花を見に行きたくなったわ。敬一も一緒に来て欲しいの。家に帰るまでに食べられる植物を見付けた時は、食べられる植物を採って、家に帰りたいと思っているの。敬一と一緒に食べられる植物を採りたいの。敬一に二つ内容の手伝いを頼みたいの。良いかしら?」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「でかける。ふたつ。てつだう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。ありがとう。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。縫い物と片付けも終わったら直ぐに行くわね。少し待っていてね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「まつ。」

美鈴は微笑んで縫い物を始めた。

敬一は美鈴を笑顔で見た。


暫く後の事。


ここは、京。


蒲公英の花のたくさん咲く場所。


蒲公英は、黄色の花の数より、白色の綿帽子の数が多くなっている。


美鈴は微笑んで座っている。

敬一は笑顔で座っている。


美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「綿帽子の数が多くなっているわね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ふわふわ。わたぼし。たくさん。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ふわふわ。わたぼし。おとうさん。みる。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。たんぽぽの綿帽子は種なの。種が無いと、たんぽぽが育たないの。たんぽぽは綿帽子まで無事に育ったの。お父さんに綿帽子を見てもらうのは止めましょう。新しいたんぽぽの花が来年の春に咲くわ。お父さんに綺麗なたんぽぽの花を見てもらいましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。


辺りに優しい風が吹いた。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子が、ゆっくりと揺れ始めた。


幾つかの季節が過ぎた。


美鈴と敬一は、東京の町に住いを替えて暮らし始めた。


春になった。


ここは、東京。


染井吉野の花の咲く頃。


藤田五郎と敬一は、染井吉野の花の咲く中で出逢った。


幾つかの季節が過ぎた。


藤田五郎と敬一が逢ってから二度目の春を迎えている。


ここは、東京。


敬一と美鈴の住む家の近く。


敬一は元気良く歩いている。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子が見えた。


敬一は笑顔で止まった。


敬一は蒲公英の花と蒲公英の綿帽子を笑顔で見た。


蒲公英は、黄色の花と白色の綿帽子で、辺りを綺麗に彩っている。


敬一は数本の蒲公英の花を摘むと、笑顔で大事に持った。


辺りに心地良い風が吹いた。


敬一は数本の蒲公英の花を持ち、元気良く歩き出した。


少し後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


玄関。


敬一は数本の蒲公英の花を持ち、元気良く帰ってきた。


美鈴は微笑んで来た。


敬一は数本の蒲公英の花を持ち、美鈴に微笑んで話し出す。

「お父さんに見て欲しくて蒲公英を摘んだんだ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「直ぐに花瓶を用意するわね。」

敬一は美鈴に数本の蒲公英の花を微笑んで渡した。

美鈴は敬一から数本の蒲公英の花を微笑んで受け取った。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。今から斉藤さんの家に行くんだ。お母さんとお父さんで、蒲公英を見ながら話してね。」

美鈴は数本の蒲公英の花を持ち、敬一に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さんに逢う約束をしているの?」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は数本の蒲公英の花を持ち、敬一に微笑んで話し出す。

「分かったわ。お父さんにはお母さんから伝えるわ。敬一。手が汚れていると斉藤さんやご家族の方に失礼になるわ。手を洗ってから行きなさい。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は数本の蒲公英の花を持ち、敬一を微笑んで見た。


暫く後の事。


ここは、東京。


藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。


玄関。


敬一が元気良く訪れた。


時尾は微笑んで来た。

勉は笑顔で来た。


敬一は時尾と勉に微笑んで話し出す。

「こんにちは。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「こんにちは。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「こんにちは。」

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんは部屋に居るわ。お茶は五郎さんの部屋に持っていくわ。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「いっしょ。あそぶ。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「敬一君はお父さんに用事があるの。別な日に遊んでもらいましょう。」

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。用事が早く終わったら、一緒に遊ぼう。用事が終わるまでに時間が掛かった時は、別な日に一緒に遊ぼう。」

勉は時尾と敬一に笑顔で頷いた。

敬一は敬一を微笑んで見た。


勉は家の中に笑顔で入って行った。

敬一は家の中に微笑んで入って行った。

時尾も家の中に微笑んで入って行った。


少し後の事。


ここは、藤田五郎、時尾、勉の住む家。


藤田五郎の部屋。


机の上に、蒲公英の花が小さい花瓶に挿して飾ってある。


藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。


藤田五郎の前には、お茶が置いてある。

敬一の前には、お茶とお菓子が置いてある。


敬一はお茶を飲みながら、蒲公英の花を微笑んで見た。

藤田五郎はお茶を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一はお茶を飲むのを止めると、藤田五郎を見て、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「外出中に蒲公英の花を見ました。お父さんに蒲公英の花を見て欲しいと思いました。蒲公英の花を摘みました。僕は斉藤さんに逢う約束があります。お母さんに蒲公英の花を預けました。」

藤田五郎はお茶を飲むのを止めると、敬一に普通に話し出す。

「敬一は総司に話さなくて良いのか?」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お父さんとお母さんに蒲公英の花を見ながら話してもらうために、蒲公英の花を摘みました。僕はお父さんと話さなくて大丈夫です。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの部屋に蒲公英の花が飾ってありますね。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「勉が蒲公英を家に飾りたいと話したそうだ。時尾と勉で、蒲公英の花を摘んだそうだ。」

敬一は蒲公英の花を僅かに寂しく見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を見ると、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「すいません。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「何故、俺に謝る。遠慮せずに理由を話せ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「京都に住んでいた頃に、お母さんと一緒に蒲公英を幾度も見ました。お父さんに蒲公英を見てもらうために、蒲公英の花を幾度も摘みました。蒲公英は、時期が来ると、綿帽子になります。僕は、お母さんに、お父さんに蒲公英の綿帽子を見てもらいたいと話しました。お母さんが、蒲公英の綿帽子は種だから、花が咲くために大切だと話しました。お母さんが、お父さんに来年も綺麗な蒲公英の花を見てもらいたいと話して、蒲公英の綿帽子を摘みませんでした。僕は、お母さんの想いが分かったので、蒲公英の綿帽子を摘みませんでした。僕とお母さんは、京都から東京に住まいを替えました。勉君が斉藤さんのために摘んだ蒲公英の花を見ていたら、京都で最後に見た蒲公英の綿帽子の後の姿を知りたいと思いました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「東京に住んだ以降も蒲公英を摘んでいるのに、突然に思い出しました。不思議ですね。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「不思議ではない。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「勉は幼い。時尾と勉は、敬一と美鈴さんと同じ行動をした。総司は亡くなったが、俺は生きている。状況は、似ているようで似ていない。敬一が寂しい感情を抱くのは当然だ。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見ている。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一の想いも美鈴さんの想いも、総司に伝わっている。美鈴さんと敬一が、総司のために残した蒲公英だ。総司は必ず見る時を作る。寂しい気持ちになるな。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。ありがとうございます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。


暫く後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


食卓の在る部屋。


敬一は笑顔で美味しく食事をしている。

美鈴は微笑んで食事をしている。


食卓には、豪華ではないが、丁寧に作られた食事が載っている。


敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「京都に住んでいた頃に、蒲公英の綿帽子を摘まずに見るだけで帰ったよね。斉藤さんに当時の出来事を話したんだ。斉藤さんが、お父さんは、僕とお母さんが残した綿帽子の種から育った蒲公英を、必ず見ると話したんだ。斉藤さんの話を聞く間に、とても嬉しい気持ちになったんだ。」

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。とても優しいね。」

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで頷いた。

敬一は食事をしながら、美鈴を微笑んで見た。


暫く後の事。


夜になっている。


ここは、京都。


夜空には、月と星が綺麗に浮かんでいる。


ここは、蒲公英の花の咲く場所。


蒲公英の花の数より、蒲公英の綿帽子の数が多くなっている。


蒲公英の花は、夜になったためにしぼんでいる。


辺りが淡い光に包まれた。


桜の花が満開になって咲き始めた。


蒲公英の花が淡い光を受けてゆっくりと咲き始めた。


沖田総司が微笑んで、静かに現れた。


沖田総司は蒲公英の花と蒲公英の綿帽子を見ながら、微笑んで呟いた。

「敬一。鈴。何時も気遣ってくれる。ありがとう。蒲公英の花は、綺麗に咲いているよ。蒲公英の綿帽子も綺麗だよ。来年は、斉藤さんが蒲公英の花のたくさん咲く頃に呼んでくれると話していたよ。」


辺りに心地良い風が吹いた。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子が、静かに揺れ始めた。


沖田総司は蒲公英の花と蒲公英の綿帽子を微笑んで見た。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子が、静かに揺れている。


沖田総司は蒲公英の花と蒲公英の綿帽子を見ながら、微笑んで呟いた。

「斉藤さん。敬一。鈴。何時もありがとう。」


辺りに心地良い風が吹いた。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子が、静かに揺れている。


沖田総司は微笑んで、静かに居なくなった。


辺りの淡い光が静かに消えていった。


桜の花は元の姿に戻った。


蒲公英の花と蒲公英の綿帽子は、静かに動きを止めた。


蒲公英の花は静かにしぼんだ。


しぼんだ蒲公英の花と蒲公英の綿帽子は、月と星の光を受けながら、静かに休み始めた。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「鼓草(つづみぐさ)」についてです。

「蒲公英(たんぽぽ)」の別名です。

題名は「鼓草」にしましたが、物語では「蒲公英」と「たんぽぽ」にしました。

「蒲公英」は、薬用などに使われていたそうです。

「蒲公英」は、古くから咲く花です。

「西洋蒲公英」は、明治時代になってから日本に渡来したようです。

「日本蒲公英」が、いつから見られるのか詳細は分かりませんでした。

最近の良く見られる「蒲公英」は、「日本蒲公英」より「西洋の蒲公英」が多いようです。

「日本蒲公英」を見る機会は少ないかも知れませんが、咲いている場所が在ります。

関東で咲いているのが「関東蒲公英(かんとうたんぽぽ)」、関西で咲いているのが「関西蒲公英(かんさいたんぽぽ)」、と呼ばれています。

「関東蒲公英」の開花時期は、3月下旬から5月中旬頃で、見頃は4月頃になるそうです。

「日本の蒲公英」は、雨の日や夜は閉じるそうです。

この物語では、藤田五郎さんが帰宅したのは、ある程度の時間になっているので、閉じ掛けている蒲公英を見ています。

白詰草で冠を作る事が多いですが、蒲公英でも冠を作る事はあります。

私は残念ながら蒲公英で冠を作った事はありません。

蒲公英で冠を作った人の話を書くと、手がべとべとになり作り難いとの事でした。

「弥生」についてです。

「やよい」読むと、「陰暦三月の異称」になります。

「いやよい」と読むと、「陰暦三月に異称。草木がますます生い茂ること。」になります。

この物語では「やよい」と読んでいます。

楽しんで頂けると嬉しいです。





←前            目次            次→


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください