このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

新撰組異聞外伝 ~ 親子月 弟月 ~


時は明治。


治世が幕府から政府に移って幾年か経った。


幕府側で政府に最後まで抵抗した本人や身内への扱いは冷たい。

本人も身内も静かに暮らす者が多い。


沖田総司は新撰組の一番組組長を務めていた。

新撰組の隊士の中では名前が知られる一人になる。


沖田総司は幕府の治世の途中で病になり、幕府と政府の戦いにほとんど加われなかった。

幕府と政府の戦いの結末を知らずに療養先で亡くなった。

新撰組隊士として亡くなったため、戦いにほとんど加わっていなくても、世間では幕府側の人物と考えられている。


沖田総司の幼い息子の敬一と母親の美鈴は、沖田総司の身内と気付かれないように暮らしている。


敬一と美鈴は、制限のある暮らしではあるが、穏やかに暮らしている。


今は冬。


一年の終わりの月。


ここは、京都。


一日を通して寒さを感じる日が続いている。


今は夜。


月が綺麗に輝いている。


ここは、幼い敬一と美鈴の住む家。


食卓の有る部屋。


敬一は笑顔で居る。

美鈴は微笑んで居る。


美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。寝る時間よ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ねむくない。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「床の中で横になって話しましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「よこ。なる。はなす。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。


少し後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


敬一と美鈴の部屋。


敬一は床の中に笑顔で居る。

美鈴は床の中に微笑んで居る。


敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「いっしょ。ねる。はなす。たのしい。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「床に横になって話す時間は楽しいわね。」

敬一は床の中で、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「一年の月の名前には別名がたくさんあるの。一年の終わりの月の十二月にも、別名がたくさんあるの。」

敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「おしえて。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「師走。」

敬一は床の中で、美鈴に微笑んで話し出す。

「しわす。しる。おかあさん。はなす。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お母さんの会話を覚えていたのね。凄いわ。」

敬一は床の中で、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「親子月。」

敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「おやこづき。はじめて。」

美鈴は床の中で、敬一を微笑んで見た。

敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「おやこ。おかあさん。ぼく。じゅうにがつ。おなじ。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一とお母さんは、親子。十二月が、同じになるわね。」

敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「おなじ。うれしい。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「お母さんも嬉しいわ。」

敬一は床の中で、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。床に横になって話す時間は楽しいけれど、長く話すと朝になるわ。寝ましょう。」

敬一は床の中で、美鈴に笑顔で話し出す。

「ねる。おやすみ。」

美鈴は床の中で、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。おやすみなさい。」

敬一は床の中で、笑顔でゆっくりと目を閉じた。

美鈴は床の中で、敬一を微笑んで見た。


幾つもの季節が過ぎた。


敬一と美鈴は、京都から東京に住まいを替えて過ごしている。


今は一年の終わりの月。


ここは、東京。


一日を通して寒さを感じる日が続いている。


ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。


藤田五郎は仕事で居ない。

時尾と勉は、普段どおりに居る。


敬一は笑顔で訪ねている。


食卓の有る部屋。


時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。

時尾の傍には、焙じ茶が置いてある。

勉の傍には、温い焙じ茶とお菓子が置いてある。

敬一の傍には、焙じ茶とお菓子が置いてある。


敬一は焙じ茶を飲んで、時尾に微笑んで話し出す。

「お母さんから、十二月の別名に、師走、親子月、弟月、があると教えてもらいました。」

時尾は焙じ茶を飲んで、敬一に微笑んで話し出す。

「美鈴さんは敬一君にたくさんの物事を教えているのね。私も美鈴さんを見習って、勉にたくさんの物事を教えたいわ。」

敬一は焙じ茶を飲んで、時尾に微笑んで話し出す。

「お母さんを褒めてくれてありがとうございます。お母さんに伝えます。お母さんは喜びます。」

時尾は焙じ茶を飲んで、敬一を微笑んで見た。

勉は焙じ茶を飲んで、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「おとうとづき。おやこづき。しわす。」

時尾は焙じ茶を飲んで、勉を見ると、勉に微笑んで話し出す。

「弟月は、弟、月、と書くの。親子月は、親、子、月、と書くの。師走は、師、走、と書くの。」

勉は焙じ茶を飲んで、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「おやこ。おかあさん。おとうさん。ぼく。おなじ。」

時尾は焙じ茶を飲んで、勉に微笑んで話し出す。

「お父さんとお母さんと勉は、親子。勉の話すとおり同じね。」

敬一は焙じ茶を飲んで、時尾と勉を微笑んで見た。

勉は焙じ茶を飲んで、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「おとうと。ぼく。おなじ。」

時尾は焙じ茶を飲んで、勉に微笑んで話し出す。

「敬一君はお兄さん。勉は弟。同じね。」

敬一は焙じ茶を飲んで、勉に微笑んで話し出す。

「僕には兄弟がいないけれど、勉君は弟のように思っているよ。勉君が僕を兄のように思ってくれて嬉しいよ。」

勉は焙じ茶を飲んで、敬一に笑顔で話し出す。

「おなじ。うれしい。」

敬一は焙じ茶を飲んで、勉に微笑んで話し出す。

「同じだね。嬉しいね。」

時尾は焙じ茶を飲んで、勉を微笑んで見た。


暫く後の事。


ここは、東京。


寒さを感じる。


ここは、町中。


藤田五郎は普通に歩いている。

敬一は微笑んで歩いている。


敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは仕事で忙しいですよね。斉藤さんと話す時間は楽しいので、調子に乗ってたくさん話す時があると思います。僕のために無理をしないでください。無理な時は教えてください。」

藤田五郎に敬一に普通に話し出す。

「敬一と話したいから、家まで送っている。敬一は調子に乗っていない。無理はしていない。安心しろ。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「時尾さんと勉君と、十二月の別名の親子月と弟月について話しました。勉君が、弟月の別名を聞いて、勉君を弟に置き換えて、僕を兄に置き換えて、弟月は勉君と同じだと話しました。嬉しかったです。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「勉君が、親子月の別名を聞いて、斉藤さんと時尾さんと勉君は親子なので同じだと話しました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に話し出す。

「僕とお母さんとお父さんも親子です。同じです。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。

「当然の内容を話してしまいました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「当然の内容でも嬉しく感じる時がある。恥ずかしく思うな。俺に遠慮せずに話せ。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「十二月は、お母さんとお父さんと僕を合わせた月です。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「十二月も、敬一にとって良い月に当てはまるな。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。


暫く後の事。


ここは、敬一と美鈴の住む家。


食卓の有る部屋。


食卓には、豪華ではないが丁寧に作られた食事が載っている。


敬一は美味しく食事をしている。

美鈴は微笑んで食事をしている。


敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。僕を家に送り届けたら、少しだけ家に上がって休んで、直ぐに帰ったね。」

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「今は冬だから、陽の沈む時間が早いわ。斉藤さんは敬一に長く話したいと思う時は、斉藤さんの家で長く話すより、敬一を家まで送りながら話す方法が、長く話せると考えていると思うの。時尾さんが食事を作って待っているわ。長居は難しいと思うわ。」

敬一は食事をしながら、美鈴を微笑んで見た。

美鈴も食事をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「時尾さんと勉君と一緒に、十二月の別名について話したんだ。斉藤さんと一緒に、十二月の別名について話したんだ。十二月の別名に、親子月と弟月があるよね。勉君が、弟月の別名を聞いて、勉君を弟に置き換えて、僕を兄に置き換えて、弟月は勉君と同じだと話したんだ。僕は嬉しいと話したんだ。」

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見ている。

敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに、十二月は、お母さんとお父さんと僕を合わせた月だと話したんだ。斉藤さんは、十二月も、敬一にとって良い月に当てはまると話したんだ。斉藤さんの話しを聞いて嬉しい気持ちになったんだ。」

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと一緒に楽しく話しが出来たのね。」

敬一は食事をしながら、美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。

「嬉しい気持ちが強過ぎて、斉藤さんに迷惑を掛けないようにね。斉藤さんを気遣い過ぎて、斉藤さんに心配を掛けないようにね。」

敬一は食事をしながら、美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。


一年の月には、別名が幾つもある。

十二月にも別名が幾つもある。


親子月、弟月、などがある。


十二月は一年の終わりの月になる。

十二月になってから慌しい時間が増えている。

藤田五郎、時尾、勉、敬一、美鈴は、慌しい時を感じるが、穏やかな時間も感じる。


一年の終わりの月が、ゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「師走」についてです。

「しわす」、「しはす」、と読みます。

「陰暦十二月の異称。太陽暦の十二月でも呼ぶ。」です。

冬の季語です。

「弟月」についてです。

「おとづき」、「おとうづき」、「おととづき」、と読みます。

「陰暦十二月の異称」です。

「親子月(おやこづき)」についてです。

「陰暦十二月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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