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ファイルナンバー010:迷走国道399号〜長泥の九十九折〜
(福島県相馬郡飯舘村長泥)
平成21年4月19日。ここは福島県相馬郡飯舘村飯樋(いいたてむら いいとい)。
標高500m前後の阿武隈山地に属する飯舘村は、桜の開花が麓より一週間ほど遅れている。
麓の桜は散ってしまったが、ここ飯舘村では暫く楽しめそうだ。
2車線+の充分な道幅を誇るこの道路。
これは「飯舘村道 草野飯樋線」である。
県道12号線原町川俣線より分岐して、草野〜役場前〜飯樋をつなぐ村の主要道路である。
飯樋地区中心部に掲げられる青看板。
左折すれば399号を経由して、双葉郡浪江町、更にはいわき市に行けるようだ。
…国道は何処であろうか?
直進するのは村道で間違いないだろう。
肝心の国道は…もしかして左のショボい道か?
とりあえず左折してみる。
…どうやらこのショボい道が国道399号の様だ。
先程の立派な村道に比べて、この国道の有様はどうだろうか。
この様な道のまま、浪江やいわきに行く事を考えると気が重くなる。
引き返して宜しいだろうか…
国道とは名ばかりの貧相な道が目の前に見える。浪江に辿り着けるのかどうかすら疑わしい。
左の画像とほぼ同じものが、イカロス出版社刊「酷道をゆく 2」に掲載されている。
画像に付けられた煽り文句は「農道と言われても仕方がない?」である。
このような有様であるから、対向車とのすれ違いのタイミングには非常に気を使う。
国道は飯樋地区から長泥(ながどろ)地区に進む。
国道は険しさを増し、山間をさまよう。
道幅は狭いが、舗装は至ってスムーズ。
国道だと思って運転していると腹立たしくなって来る。「酷道」と揶揄される所以だろう。
突然前方の景色が開け、爽やかな空気に包まれた。どうやら峠のピークに着いたようだ。
路側には数台の乗用車が停車している。
「展望広場」と記されたスペースには数人程がいるようだ。
私も車を降り、展望広場に行く。
展望広場からの眺めは不思議なものだった。
遠くなだらかな山地の向こうに見えるのは、浪江町か、はたまた葛尾村か。
手前に見えるものは究極に折り畳まれたヘアピンカーブと、桜の花。
「今年の桜は駄目だぁ」…展望広場に来ていた老紳士が言う。老紳士は地元長泥地区の人であると言う。
今年の飯舘村は例年に無い程の暖冬であった。「冬の冷え込みこそ命」の桜にとって、締まりの無い今年の冬の気候は開花に重要な影響を与えた。
飯舘村でも特に高地に位置する長泥の桜にとってこれは致命的なことであった。画像の木のように、全体の2割ほどしか開花しなかった物もあるほどだ。花が咲いていない所には、いきなり葉が生えていた。
老紳士は多少落ち込んだ表情をしながらも、「来年の冬に期待だな」と話して下さった。
国道は2車線の幅を保ったまま、これ以上無い程のヘアピンカーブでもって急激に下っていく。
へピンカーブの内側の僅かなスペースには桜の木が植え込まれ、一瞬の春を演出する。
僅か2個のヘアピンカーブで、これだけ高度が下がる。
先程まで私がいた展望広場があんなに小さく見える。
ヘアピンカーブにはご覧のようにタイヤが付けたブラックマークが残されている。
これだけのカーブであるから、どんな車でもタイヤに負担が掛かるのはやむを得ないことであろう。
2〜3本ほどブラックマークがコースアウトしているが、ドリフトでも失敗したのだろうか。
丁度一台の車がタイヤ音を響かせながら上ってきた。
今現在の車ならこの程度の坂でもどうと言う事もないのだろうが、昔の非力な車ならどうだっただろうか。
恐らくかなりの難所だったに違いない。
九十九折の中段には「ようこそ 花の里長泥へ」と記された記念碑が建っていた。
飯舘村は特にこれといった観光地は無い。
交通の難所である九十九折を桜の木で彩り、花の里として親しんでもらうという着想は素晴らしいと思う。
記念碑の後ろはこのような光景になっている。
斜面と桜とガードレールの見事なコラボレーションだ。
停車している私の軽自動車の角度にも注目してもらいたい。
先週(12日)では咲いていなかっただろうし、来週(26日)では散ってしまっていただろう。
満開の日を狙って訪れて正解だった。
ヘアピンカーブを8個ほどクリアした所で、僅かな平坦区間がある。
程無くして画像のような風景が見えた。
「凍結注意」「屈曲あり」「10%下り勾配」の三連標識だ。
10%勾配と言うのは国道としてはかなりの急勾配だが、この399号はいわき市内に「17%」と言う更に厳しい勾配があるのだ。
展望広場から何m下ってきただろうか。
こちらのヘアピンカーブの桜の方が勢い良く咲いているような気がする。
ここが最後のヘアピンカーブだ。
桜の木と私の車を絡めて記念撮影と洒落こむ。
最後のヘアピンカーブの下に、もう一段のヘアピンカーブが見えた。
非常に良い按配のダートのヘアピンカーブだ。
傍らの木が何とも言えない風情だ。
ダート道は国道によって切断されている。
一見意味不明の道だが、傍らに残された物がこの道の由来を語っていた。
「88」と記された距離標がダート道の傍らに取り残されていた。
88と言うのは恐らく国道399号の起点(いわき市平十五丁交差点:国道6号線)からの距離であると思われる。
このダート道は今現在の399号の旧線と考えて差し支えないだろう。
しかし、先程の展望広場までの高度差を砂利道で登っていた…と考えると、一昔前の399号はかなりハードな酷道であったことが予想される。
長泥の九十九折を抜けると、国道は元の道幅を取り戻し、離合が困難な1車線道路に戻ってしまう。
国道399号線は長泥の地内で県道62号線原町二本松線と交差する。
どのような場所だろうか。
…うーん。この光景を何と表現するべきか。
仮にも国道と県道の交差点だと言うのに信号機の1つも設置されていない。
この写真を撮った直後、偶然にも知人とお会いして世間話をしたのだが、知人は交差点のど真ん中に停止したままであった。その間に交差点を通過する車両は無かった。
その程度の交通量である。
県道62号線は福島県内でも屈指の難易度を誇る超A級の「険道」(凄い県道の意味)である。
この交差点から数キロほど進むと県道はダートと化し、超絶阿鼻叫喚の峠越え道路が始まる。
首尾よく通りぬけられれば原町区大木戸へ行けるのだが、余程の事がない限り県道の通行はお勧めしない。浪江町に迂回する方が懸命だ。
もし通行する際は「いのちだいじに」をキーワードに、くれぐれも慎重に運転して頂きたい。
一瞬の油断が命の危険に直結する。そんな県道だ。
反対側に進むと多少時間は掛かるものの、伊達郡川俣町山木屋に着く事ができる。
こちらの道は道幅こそ細いものの、いたって呑気な里山の道なので空気を味わいながら進むと良いだろう。
直進する道は国道399号。道幅に閉口する。
この道幅のまま山中を迷走し、浪江町津島で国道114号線と交差する。
津島まで酷道区間はしばらく続く。辛抱あるのみだ。
国道399号は「比曽川」(ひそがわ)を渡る。
「長泥橋」(ながどろばし)の袂に立ち、比曽川の築堤を見つめる。
一見すると何の事も無い築堤であるが、実はこの築堤の付近には「原町森林鉄道」(明治41年〜昭和34年)が敷かれていたのだ。
ファイルナンバー004で紹介した「バッカメキ事業所」
から森林鉄道は西進して山を越え、遂にはここ長泥の地に辿り着いたのだ。
上の画像の場所から振り返ると「長泥の大石」が見える。
…比曽川の築堤にインパクト抜群の巨石が鎮座している。
一体いつの昔から巨石はここにあるのだろうか。
巨石の対岸で森林鉄道は終点を迎えていたらしい。
現在、水田となっている場所に木材の集積場のようなものがあったのだろうか。
今現在では鉄道の痕跡は残されていないようだ。
この項終わり
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