このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

東京見聞録  
2007年8月9日(木) 三日目   <色川村散策(鶏をしめる、仙人滝)>


鶏をしめる>

 山に囲まれた色川の夜は寒い。昨日は窓を開けて寝ましたが、夜中に身震いを感じるほど冷え込みました。標高は決して高くはないですが(確か300m前後)、周りが緑に囲まれている分涼しいのでしょう。暑がりな僕にとってはクーラーがなくても快適なこの環境はうれしいですが、調子に乗りすぎると喉を痛めたりもします。


<朝5時半 色川の夜明け>

 今日の目覚めは朝5時。今日は麓に下りず、色川をぶらぶらと見させてもらうつもりです。しかしなぜこんなに早く起きたのかというと、すのさんの知り合いの方が6時から鶏を絞めるので来ないかとお誘いを受けているからなのです。百姓(農家じゃなくて敢えてこう書きます)の朝は早い。ちなみに今日8月9日はすのさんの25回目の誕生日。だから色川に来たってのもあるけども。四半世紀おめでとー。

 約束の時間は6時なので、5時半にHさん宅を出発し、まずはすのさんが育てている田んぼの状況確認。堰き止めていた水を流し、稲に水をやります。すくすく育ってほしいものです。そして田んぼの隣には牛の親子が。この牛の親子、すのさんをはじめとする色川百姓塾のみなさんが、今後交代で世話をすることになるらしいです。


<たんぼ>

<牛の親子>

 田んぼを見てからは坂道を下ったり上ったりして、Sさんのお宅へ。Sさんは俳優の榎木孝明に似ていて、なかなか格好いい紳士です。Sさんは都会育ちだったけれど、百姓をやるためにこの色川に移り住んできたそうで、その行動力には頭が下がります。

 さて、早速Sさん家の鶏小屋で、鶏を絞める作業。今日はすのさんが鶏の絞め方を学習するのが大きな目的なので、僕は手を出さず後ろに下がって見物ですが、屠殺現場はなかなか見ることができないので興味があります。西表島でイノシシの屠殺を見てから2年半。イノシシと鶏では違うのかと。

 まずは鶏の選別。捌く鶏は「廃鶏」と呼ばれる卵が産めなくなった年寄りの鶏で、年齢にして約3歳ぐらいの鶏だそうです。廃鶏は若い鶏に比べると身も固くなっているそうですが、それはそれで廃鶏の有効活用ということでしょうか。Sさんが鶏小屋に入り、廃鶏っぽいのを3匹選んで逆さにして宙吊りに。鶏たちも自分の運命が分かっているのか羽をジタバタさせています。

 そしていよいよ屠殺。鶏の頚動脈に外側から刃を入れるか、鶏の口に刃物を突っ込んで内部から頚動脈を切るかという違いはありますが、頚動脈を切られた鶏は思ったよりも静かに息絶えます。多少羽根をバタバタさせて暴れるのもいますが、心臓を一突きされたイノシシが大きな絶鳴をあげたのとは対照的です。そして鶏の口元からポタポタと垂れてくる赤い血。鶏さん、ごめんなさいそしてありがとう。

 完全に血が出切って息絶えたところで、一旦鶏を熱湯に浸して羽が取れやすいようにし、それから羽と毛をジョリジョリとむしっていきます。毛が全部むしり終えたところでいよいよ解体作業。内臓を取り出したり、食べられないところを破棄したり。これにもいろいろと手順があるようで、すのさんに捌き方を教えるSさんの言葉に僕も耳を傾けていました。なかなか奥が深い。

 捌いていると、一匹の鶏から卵が出てきました。まだ生んでなかった卵。なんとこの鶏はまだ卵を産める能力を持っていた、つまり廃鶏ではなかったようです。この卵をSさんからいただきました。生む前の卵を手にするのは初めてのこと。ついさっきまで生きていたのがわかるくらい、暖かい。まるでマドンナBの気分。(ていうかみなさんマドンナBって知ってますか?1993年前後に中学1年で光村書店の国語の教科書を使っていた人ならわかると思うけど・・・)


<運命を知らない鶏達>

<運命を知ってしまった鶏達>

<毛をそぎ落とす>

<鶏のおなかの中にあった卵>

<砂肝(胃)の中身>

<無事、解体終わりました>

 こうして鶏の解体は無事に終了。しかしせっかくなのでSさんの家のテラスにお邪魔し、朝食をご一緒させてもらうことにしました。鶏を捌くだけ捌いて、一羽分もらってはいさよならじゃあまりに感じが悪いし。幸い朝食用に昨日買っておいたコッペのパンを持っていたので、僕らはこれを提供しようかと。

 Sさんの家の番犬がこれまたかわいかった。ものすごく人懐っこくて、ヨソモノである僕が近付いても身動きもしません。それどころか僕の足に顔を乗せてくる始末。こんなにかわいい犬に出会ったことはないよ。ということで可愛いお犬さんの写真を2枚ほど。


<見つめてくる>

<膝に顔を乗せてきた>

 やがてSさんの奥さん、Sさんの家で農業研修をしている研修生の方も集まって皆で朝食となりました。今日の朝食は野菜炒めとスクランブルエッグ、そしてコッペのパン。早起きしたときの朝食はおいしいなぁ。特に昨日買ったタマネギパンがめちゃくちゃおいしかった。あまりにおいしかったので何枚も食べてしまいました。食後にコーヒーもいただいて、朝から満足。朝食の間はSさんや奥さんの話を聞かせてもらい、飄々としていながらも何か内に秘めている感じのするSさんの芯の強さというものを垣間見ることができたような気がします。


<本日の朝食>

 さて、山の天気は変わりやすいとはよく言ったもので、食事中も天気はがらっと変わっていきました。左下の写真が食事前、右下の写真が食事後です。最初は雨がぽつぽつと降っていたのに、食事が終わる頃には太陽が覗くいい天気に。色川は昨日も雨が降っていたみたいなので、山の天気は予想がつきません。


<雨模様の朝食前>

<すっかり晴れた朝食後>

<色川を見物する>

 Sさんの家のテラスでゆっくりさせてもらっていると、時間は既に9時前になっていました。長居したお礼を言って、ここからは色川の中心集落である大野地区を散歩することに。大野地区は小学校や中学校、役場出張所や郵便局、農協があるといった色川の中心地です。

 まずはすのさんたち百姓塾のみなさんが管理している畑を見物。ゴマにキュウリ、カボチャにインゲンなどなど、いろんな種類の野菜が植えられています。そんな中で食べごろのキュウリをもぎ取ってその場で一口。いやー、とれたてはうまい!僕は野菜の中でも1,2を争うほどキュウリが好きですが、新鮮なキュウリのみずみずしさといったらありません。その他にも食べごろにインゲンなんかを取り、これは今日の昼食の材料に。


<アマランサスの花>

<取れたてきゅうり>

<畑の手入れをする>

<大野地区にある寺>

 畑の観察と手入れが一通り終わったところで、畑から見えていた高いところにある寺が気になりました。聞けばあの寺からの眺めはかなりいいらしい。ということで、次はあの寺まで行ってみることになりました。写真はズームで撮っていますが、畑から見ると結構遠くて高い位置にあります。なかなか体力を使いそうですが、頑張って上ってきました。

 寺からの眺めは気持ちいいものです。眼下に広がる大野地区。赤い屋根をした建物が公共施設であることも教えてもらいました。まさに山の中の村という感じです。ちなみにこのお寺、今では住職が住んでないらしく、何か用事があるときだけ麓から住職が来るらしい。なので本殿は固く扉が閉ざされていますが、一箇所小さな穴が開いていて、中を覗けるようになっていました。せっかく来たのだからご本尊を見ようと覗いてみると、そこには黒い眼鏡をかけた男の目が!ひー!と一瞬驚いたものの、よくみてみればそれは自分自身でした。なんとこの覗き穴の奥は鏡になっていたのです。あー、びっくりした。


<寺から大野地区を望む>

 景色を堪能して再び麓に下り、大野地区で去年食事をご馳走になった方に挨拶をしたり、小学校を見てみたりと、ぶらぶらしながら口色川地区にあるHさんの家へと戻りました。大野と口色川は隣同士の集落ですが、距離にすると2キロ位離れています(多分)。おまけにアップダウンも結構ある。これを毎日自転車で行き来しているというのだから、すのさんはすごい。

 Hさんの家に11時に帰り着き、さすがに色川といえども日中は暑いのでしばし休憩を。僕がお土産に買ってきた赤福を食べることになり、僕も一ついただきました。いやー、歩き疲れたあとに食べる赤福は最高ですね。もしかしたら一昨日本店で食べた赤福よりもおいしかったかもしれん。

 休憩後は二日間の洗濯物をさせてもらうことに。洗濯とは言っても洗濯機を使うのではなく、洗濯板を使った手洗いです。しかも洗剤はなし。洗濯板初心者の僕が洗剤なしでやって、果たして汚れと臭いは落ちるのだろうかと心配になりましたが、意外や意外、洗剤を使わないでも結構綺麗に仕上がりました。ただ洗濯板で洗濯すると体力を使います。ずっと同じ姿勢だから腰も痛くなる。昔の人は大変だっただろうなぁ。洗濯機の存在に感謝。

 そうこうしているうちに昼になったので、Hさん家族のみなさんと共に昼食。今日の昼食はHさんのおかあさんが作った野菜の冷製スパゲティと、朝絞めた鶏の砂肝、昨日買ってきたさんま寿司などなど。もちろんパスタの野菜は全て自家製(さっきとってきたインゲンも入れて)。それもさることながら、このパスタがめちゃくちゃおいしくてびっくりしました。どうやったらこんなおいしいパスタを作ることができるんでしょうか。


<野菜パスタ>

<鶏の砂肝とさんま寿し>

<仙人の滝>

 午後はしばし休憩をして、2時ごろからちょっとしたハイキングに出かけました。口色川地区の家庭が水を引っ張ってきている水源と、さらにその奥にある「仙人の滝」を見に行こうかと。水源と滝を見に行くことをHさんのおかあさんに伝えると、マムシが出るかもしれないから長ズボンを履いて木の杖を持って行けと。マムシ出るのか。。

 マムシ遭遇説に若干ビクビクしながらも、水源と仙人の滝へ。水源は口色川地区のみなさんが使っているのだからして、口色川地区の標高が高いところにあります。最初は草も刈られ整えられた道ですが、上流に行くにつれて草も伸び放題生え放題な感じになってきました。確かにこれではマムシがいてもおかしくありません。マムシに細心の注意を払いながら進んでいくと、途中にあるタンクを発見しました。ここのタンクでは水をろ過しているらしいです。

 さらに進んで、途中大幅に道を間違えたりもしながらも何とか水源に到着。僕はもう少し大げさな装置か何かを想像していたのですが、水源の仕組みは至ってシンプルで、溜まった水をパイプに流し込むだけでした。言い換えればそれほどこの水はきれいなのだと。途中で簡単なろ過をするとはいえ、自分の身近に何の消毒もなしに飲める水が存在しているのは羨ましいことです。ただそこから水を引くという手間はかなりのものだとは思いますが。


<途中のタンク>

<水源>

 水源からさらに上流に進み、道が険しくなってきた先にあるのが仙人の滝。落差60m、3段の巨大な滝です。こんなところにこんな凄い滝があるなんて、本当に驚きました。もちろんガイドブックに載っているはずもなく、目印も少ないので分かりにくいものがあります。だいたい口色川に来るまでが大変で、そこからさらにハイキングしなければいけません。そんなこともあってか、仙人の滝は人目にも知れずひっそりとしていました。僕の写真では迫力がいまいち伝わりませんが、一応載せておきます。

 本当は滝壺で泳ごうかと考えていたのですが、滝周辺は驚くほど涼しく、滝壺に足をつけただけでひんやりとします。これは泳ぐのは無理です。第一泳がなくても涼しいし、滝の音を聞いているだけでも涼しい。

 さて、今日はすのさんの誕生日ということで、昨日スーパーで買っておいたケーキをワインをここまで持ってきていました。そんなわけで滝を見ながらワインで乾杯・・・したかったところですが、滝までの道のりが相当険しかったので酒を飲んだら危ないんじゃないかとの判断のもと、本当に一口だけ。その代わりケーキを食べて疲れを癒しました。運動したあとの甘いものは最高だね。


<仙人の滝>

<もう少し遠くから>

<滝つぼ>

<ケーキを食べる>

 ともかく、こんなところにこんな素晴らしい隠れた名所があるとは思いもしませんでした。滅多に人が来ないからこそ、ここまで自然のままで残っているのだとは思います。できれば今後も手付かずのままでいてほしいものです。

<おまぜおにぎり>

 水源と滝から帰ってきたら5時になっていました。もっと短いような気がしたんだけど、3時間もハイキングをしていたのかとちょっとびっくり。これからは晩御飯の仕度ですが、今日はすのさんが今度の夏祭りで売る予定のおまぜおにぎりの試作をするということで、釜でご飯を炊くことになりました。飯盒炊飯の経験はあるけど、こういう大きな釜でご飯を炊くのは初めて見ます。

 最初僕は木材を割って火をくべる係りに任命されましたが、どうもすのさんのご希望に副えなかったらしく、途中で任務を解雇されてしまいました。僕って火のくべ方も分かってないのね。。それでも何とかご飯は一応の炊き上がり。ちょっと水が多かったのか、お年寄りが好みそうなご飯の固さで、釜炊きの楽しみであるおこげがなかったのは残念ですが、まあ初めて釜で炊いたのなら上出来だと思います。


<ご飯を炊く>

<炊き上がり>

 このご飯を冷めないうちに寿司桶に移しかえ、寿司酢をまぶして具材を入れてよく混ぜます。具材はにんじんやインゲンや、今日の朝絞めた鶏の肉などなど。今日鶏を絞めたのはこのためだったのですね。そしてシソの葉やゴマの葉で包んでおにぎりに。最初は柔らかいかと思っていたご飯も、おにぎりにしてみるとちょうどよい固さになりました。


<具を入れて混ぜる>

<おにぎり完成>

 今日の晩御飯をこのおにぎりを中心として何品か。正直なところ、最初はこのおにぎりはどうだろうかと疑いの眼差しを向けてましたが、実際食べてみるとかなりおいしく出来上がっていました。おいしすぎる。お陰で何個も食べて腹一杯になってしまった。ご馳走様。

 食後さらにおにぎりを作り続けるすのさん。どうやら試作品をお世話になっている地区の人に配るそうで、100個以上の大量のおにぎりが作られていきました。僕は何もしないのも申し訳ないので、食器洗い。さっき見てきたように、ここの水は川から引いてきているので、水は流しっぱなしでも問題ありません。でも都会に住んでいる人間としては流しっぱなしは勿体無い感じもしてしまうのも事実。ここにいると、何が勿体無くて何が勿体無くないかが分からなくなってきます。都会とは考え方がまるで逆になることは間違いない。

 その後ネットで明後日の大阪の宿を検索。しかし大阪の安宿はどこも既に満員。お盆前の土曜日だから仕方がないか。さて、土曜はどうしようか・・・。

 この後風呂に入ったり身支度を整えていたりしたら、あっという間に時間は11時。今日も朝早く起きて、しかも歩き続けてよく体を動かしたので、眠いことこの上なしです。布団を敷いたとたん、すぐに寝てしまいました。


←二日目へ   四日目へ→

旅行記トップにモドル

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください