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東京見聞録  
2005年2月9日(水) 八日目 
<きび刈り最終日、イノシシ狩り>


<きび刈り最終日 晴れ時々曇り

 この日も7時起床。

 昨日の夜、院試口述試験の日程が14日と判明したために、10日に帰らなければならなくなりました。ということは今日は実質的な最終日。午後からイノシシ狩りなので、滞在日程を延ばせたなら午前中は休みをもらおうと思っていたけれど、最終日になってしまったので、わがまま言って午前中だけ佐藤家の畑に出させてもらうことにしました。本当のきび刈りという意味では、図らずも昨日が最後になってしまった。。

 ただ、5日間連続で畑に出ていたので、体力的にはそろそろ限界が。昨日の夜から腕と手首が痛くなり、手もこぶしを握れない状態にまでなっていました。一目見ただけで右腕がぱんぱんに腫れているのがわかる。だからこの日は畑に出ると言ってはみたものの、ちょっと心配。

 今日の畑は豊原の請負畑。海が見えて気持ちいいけど・・・、倒しは案の定進まず。きびを一本倒すごとに手首に痛みが走るのです。昨日頑張りすぎた後遺症に違いない。途中からは一人スピードが遅れだす始末。あまりに痛いので、リストバンドをして軍手を二重にして倒しました。これで随分痛みは緩和したけど、それでもまだ痛む・・・。選手生命終わりかも。

 休憩後はかさぎだったけど、今度は肘が痛くなる始末。これはいかん。ともかく、最終日なのに後味の悪いきび刈りになってしまいました。これが3年間の総決算だと思うと情けない。昨日が総決算だったということにしておこう。ともあれ、12時で午前中のきび刈りは終了。午後はイノシシ狩りなので、今回の僕のきび刈りはこれで終了です。

 迎えにきたゆずるさんが一言。「明日すぱくりとすのが帰るでしょ?今日はそのお別れ会っていうことで、この前の浜(南風見田の浜)でバーベキューしよう。」と。有難いことです。


<最終日のきび畑>

<遠くに海が見える>

<イノシシ狩り

 みんなが午後の仕事に向かうのを見送った後、シシ狩りの準備。「シシ狩りは水も何もかも全て自分で用意していくもの」とリュウさんに言われていたので、1.5Lのペットボトルに水を詰めて準備。「山登りはきび刈りよりきつい」という言葉が頭の中でこだまして、緊張感一杯に。

 2時、リュウさんが迎えに来る。トラックの荷台に乗っていざ出発です。。リュウさんの山は豊原集落のさらに向こうにありました。普通は誰も足を踏み入れないようなところです。ここから山の頂上近くにあるイノシシの罠を目指します。リュウさんを先頭に、みなみちゃん、すぱくりと続き、しんがりはリュウさんところのバイトさん。

 いくつかある罠を確認しつつ山を登っていく。確かにかなりきつい。「今日は暑いから」ってことで普段よりもゆっくり進むことにはなってたんだけど、それでもきつい。確かにきび刈りとは別の意味できついかも。きびがりは主に上半身を使うけど、山登りは下半身を使います。違う筋肉を使うから辛い。。
 先頭を行くリュウさんはどんどんどんどん道なき道を進んでいきます。20年間通い続けている山とはいえ、よく迷わないものだと感心します。休憩中にそのことを聞いてみたら、「この山だったら何処に放り出されても、正しい道を見つけて下山することができるさ。俺の庭だもの」と。もし僕が一人この山に放り出されたら、間違いなく遭難するはず。
 ひたすら歩くこと30分。途中ものすごい坂道(というより崖?)を登って、山の頂上へ。そしてそこで一旦休憩。崖のぼりは本当にきつかった。汗だくだくです。持ってきた1.5Lの水があっという間になくなってしまいました。休憩後、まずはイノシシの巣や罠を見せてもらいました。


<イノシシ狩りの罠>
 
<イノシシの巣>

 さて、いよいよこの日の本命の罠へ。古臭い表現だけど、期待と不安で胸がどきどきです。イノシシが罠にかかっている確率は低いらしく、かかってればラッキーだ、と言っていましたが・・・


 いた!!!


 突如顔色が変わるリュウさん。

 「お前達、後ろに下がってろよ。万が一イノシシが逃げ出したら近くにある木に登れ」

 万が一・・・この言葉で緊張感が一気に高まります。そしてリュウさんの顔が勝負師の顔へと変わっていく。イノシシのサイズを確認すると、子供のイノシシで小さいらしい。この点では安心だけど、運の悪いことにイノシシの後ろ足に罠がかかっているらしいのです。これは非常に都合の悪いことです。なぜならイノシシ狩りの基本は、まずは後ろ足を取ることから始まるからなのです。95%は前足が罠にかかっているから後ろ足を捕まえやすいんだけど、今回は5%の方だったのです。これは嫌がおうにも緊張します。大丈夫だろうか・・・

 足首を掴もうとするリュウさん
 威嚇するイノシシ
 まさに一対一の攻防

 そういった攻防が3分ぐらい続いた後、一瞬の隙をついてリュウさんが足首を掴む。イノシシを罠から引きずり出して、すばやく口に針金を巻く。そしてすぐに足首を縛る・・・。まさに一瞬の出来事でした。足首を縛っているのが下の写真。イノシシも必死で、体をばたばたさせたり口を何とか開こうとしています。が、時既に遅し。こうやって捕まえたイノシシを背中にしょって、山を降ります。


<イノシシと格闘するリュウさん>

 30分かけてきた道を戻る。バイトさんがイノシシを担いで山を降りました。鞄を肩にかけるようにしてイノシシを持ちます。バイトさんに先に歩いてもらって、僕は最後を歩いていたけど、後ろにいるだけでイノシシの臭い、というか獣臭がぷんぷんしてきます。まだ生きているイノシシがこっちを睨んでいるようで恐かった。途中で口の針金が取れたらどうしよう、とか思ってしまいました。

 後から聞いた話では、今日の獲物はそれほど大きくなかったので格闘し甲斐がなかったらしいです。大きいものだと30〜40キロになるらしく、そういう獲物がかかっているときはリュウさんも今回の比ではないくらい興奮するらしい。イノシシ狩りに失敗して、イノシシに指を噛み千切られた人もいるくらいだから、そりゃ興奮しますよね。ただ肉が一番おいしいのは10〜20キロのイノシシらしいです。格闘の興奮を取るか、味を取るか。難しい選択ですね。

 そして30分後、無事に麓に到着。まだ生きているイノシシをトラックの荷台に乗せ、リュウさんの家まで戻ります。西表西部地区では捕らえた直後に殺すらしいですが、東部地区(つまり豊原〜古見にかけての地区)では生きたまま持って帰り、家で屠殺するそうです。山で殺して持って帰るのは確かに楽だけど、山を降りている間に寄生虫が発生したり、味が落ちたりしてしまうんだとか。生け捕りにして食べる直前に殺すのが衛生的かつおいしいのだ、ということも聞きました。


<オス推定4ヶ月、10kg前後>

 リュウさんの家に着き、早速イノシシの解体開始。とは言っても、まず最初に殺さなければいけません。どうやって殺すのかと思ったら・・・


 包丁で心臓を一刺し。


 今まで聞いたことのないような鳴き声をあげるイノシシ。まさに断末魔。
 痙攣するイノシシ。
 心臓から、まるでアニメの戦闘シーンのように噴出す血飛沫。
 返り血を浴び、渋い顔をしてイノシシを見ながら、タバコで一服するリュウさん。

 「屠殺」というものを初めて生で見ましたが、こういうものだったとは・・・。思わず真剣に見入ってしまいました。さっきまで生きていた命が、30秒後にはその活動を停止している。声が出ませんでした。隣で見ていたみなみちゃんは、思わず涙ぐんでいる。人間はこうやって命をもらうんですね。ありがとうイノシシ。感謝の気持ちを込めて、合掌。

 イノシシが完全に生命活動をやめたのを確認して、解体作業に移ります。そこに通りかかったスタイン。彼もきび刈りの古いバイトさんです。通りがかったために今日の解体を手伝うことに。

 まずはバーナーでイノシシの毛を焼いていきます。焼いて縮れた毛を、専用の鎌でじょりじょりと剃っていく。全ての毛をそり落としたら、次にイノシシの皮膚が黒く焦げるまでまたもやバーナーで焼いていきます。全体的に黒くなったら、しばらく体全体を水に漬ける。5分から10分水に漬けた後で水から取り出し、さっきの鎌でまた皮膚をじょりじょり。するとあら不思議、焦げが取れてイノシシの体が白くなりました。イノシシを水に漬けてる間、リュウさんからビールをもらって乾杯。

白くなったところで、いよいよ解体。首に包丁を入れて、頭部と胴体に分ける。頭部はリュウさんが、胴体はスタインが解体していきます。

 二人とも素早く解体していきます。スタインも慣れたもので、あっという間に内臓と肉の部分を分けてしまった。こうなるともう元がイノシシだったとはわかりません。


<毛をはいで白くなったイノシシ>
 
<イノシシ解体中>

 イノシシはほぼ全ての部位を食べることができます。さすがに目や脳は捨てるみたいだけど、小腸、大腸なんかはきれいに洗浄して塩もみをした後、保存します。小腸の洗浄をやらせてもらったけど、管に水を入れすぎて破裂→中身がTシャツにべっとり・・・。やってしまった。小腸だったからよかったものの、大腸だったら大変なことになっていましたよ。

 そんなこともありながら、全ての解体が終了。全ての部位に的確に分けられたイノシシは、今日食べる分以外は冷凍されます。今日食べる部分は表面をバーナーで焼き、中はレアの状態で刺身に。リュウさん家の庭に移動して、いよいよ取れたてのイノシシを食します。


<イノシシの刺身3種 ヒレ・タン・三枚肉>

 まずタレ作り。にんにくをすり潰し、醤油と酢をお好みで入れます。そのタレにイノシシをつけて食べるんですが・・・これがおいしい!取れたて新鮮なイノシシは肉も柔らかくておいしいです。ちょっとしたイノシシ臭さがいい。特にヒレはとろけます。苦労して山に登った甲斐があったよ・・・。

 みんなが「おいしいですね」と言うとリュウさんが一言。「おいしいと言ったことで、このイノシシは成仏した」と。なるほど。そうなのかもしれません。イノシシ狩りに行くことで、肉を食べるということがどんなことなのか、どういう意味を持っているのかを改めて思い知らされました。

 この日はイノシシの刺身以外にも料理が。朝リュウさんが取ってきた魚(鰯の子供だったかな?名前を忘れてしまった・・・)の刺身。こっちもおいしかった。東京にはないものが西表にはある。こういうことなんですね。

 イノシシの刺身を全部食べ終わったところで、佐藤家のバーベキューに合流。が、既に終わっている模様。みんなが暗闇の中で談笑していました。リュウさんにお願いして、もうちょっと早く参加すればよかったかな・・・。この日はよく晴れていたので、空の星の数が尋常ではありませんでした。夜空に無数の星。浜に寄せる波の音。夜になると本当の暗闇になるので、西表は星を見るのにはぴったりです。今まで見た中で本当に凄かったのが、3年前に見た夜空。星が降ってくるかと思うくらい、無数の星が瞬いていました。そして人工衛星が動いているのが見える。あれは凄かった。

 バーベキューは程なくして終了し、みんなで宿へ。宿に戻るとシュウさんが必死になってラジオを合わせ始める。そう、この日はサッカー日本代表の北朝鮮戦だったのです。西表にはテレビ朝日系列の放送局がないので、テレビで見ることはできません。ラジオも電波が悪い状態。それでも必死になって合わせていました。途中経過を聞くと1対1らしい。そして突然歓声が。後半ロスタイム、大黒の勝ち越し弾。ラジオなのでいまいち迫力に欠けますね。ともかく、その後の10時のNHKニュースでじっくりと画像を見ました。(さすがにNHKは映ります)

 この日は僕とすのにとって最後の西表の夜。寝るのが惜しかったので、ぎりぎりまでみんなと話をしたかったんだけど、みんなは明日も作業があるために、そう長く引き止めておくことができません。そんな中、シバさんが夜遅くまで話に付き合ってくれました。これからの人生、これからの農業、みんな色々考えて生きているんだな・・・。

 ちょっと名残惜しいけど、シバさんにも迷惑をかけるわけにいかないので12時過ぎにお開き。明日はついに東京に帰ります。


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