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神戸ちょいのりバスの誤算

せっかくの優れた素材を活かせなかった社会実験



エル・アルコン  2007年11月21日



トランジットモール実験区間(トアロード中央)



前に神戸港が広がり、後ろに六甲山がそびえる神戸の街。東西方向に長細く広がる街ですが、南北方向も勾配があり意外と移動しにくいものです。
とはいえ距離自体はたいしたことがないこともあって、中心街を南北に走る交通機関に乏しかった神戸の街にこの秋、山手と浜手を結ぶ「ちょいのりバス」が期間限定でお目見えしました。

ありそうでなかった区間を結ぶこのちょいのりバス、気軽に使ってもらうべくさまざまな工夫がなされていましたが、結果はというとあまり芳しくないものでした。
私も地元ゆえ何度か利用して見ましたが、問題の所在は明白であり、せっかくのチャンスを活かせなかった運用面の問題と言えます。


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。

※写真は2007年10月撮影


●KOBEST2007とちょいのりバス
この秋、「都市エコを楽しもう」のキャッチフレーズで交通社会実験「KOBEST2007」が神戸市内で展開されています。
これは、神戸市が都心・ウォーターフロント地域を対象に、環境に優しく魅力的な都心を実現するため、2005年度より「神戸市EST推進協議会」を設置し、ESTの確立に向けた検討を行った一環です。
※EST:「Environmentally Sustainable Transport 環境的に持続可能な交通体系」の略。

「都市エコを楽しもう!」

そのメインともいえる取り組みが、山手と浜手を結ぶ「神戸ちょいのりバス」の社会実験です。
10月18日から11月4日までの18日間、午前10時頃から19時頃まで10分間隔(金・土曜はその後21時頃まで20分間隔)での運行。料金は1乗車100円(指定駐車場利用の場合は50円。エコファミリー制度適用で大人1人に対し小学生2人まで無料)、1日乗車券200円、Pitapaカードもしくは市バス1日券、シティループ1日券呈示は無料となっています。

前に 神戸市中心部でのLRT計画を検証した際 に、流動的にはここがメインになるがLRT敷設は厳しいとした鯉川筋(北行き一通)、トアロード(南行き一通)の往復で、北野工房の街と旧居留地を結ぶルートで、旧居留地に入ると京町筋を南下し、R2の1本北を通り、南京町の前を上がって元町駅に向かう浜側のルートもまずまずです。

●乗車して見て
このちょいのりバス、企画自体もなかなか面白そうですし、地元ということもあって見逃せません。運行開始後発の週末となる10月20日と、後述の通りトアロードで追加の社会実験が行われる10月28日に利用して見ました。

さて10月20日ですが、このちょいのりバスにどこから乗ろうかと考えた時、既存の交通機関、特に軌道系交通との結節が今ひとつで、駅前と名乗るのは元町駅前だけです。
電車を降りて、普段市バス7系統が発着する乗り場に向かうと、最近増えてきた広告一体型の覆いがついたバス停にかわいらしいポールが立っています。見ると「KOBEST2007 ちょいのりバス」とあり、ここが乗り場と分かります。ちょうどバスが到着してましたが、取り敢えずバス停周りを見たいこともあり、どうせ10分間隔なので見送りました。

元町駅前にて

バス停には結構人がおり、警備員まで配されていましたが、乗ったのは1人だけ。皆7系統を待っているようですが、この7系統は市バスでも指折りの利用を数えており、何時見ても賑わっています。
改めてバス停を見ますが、市バスの機能的なバス停に埋もれた感じ。ポールもかわいらしく、かつ綺麗にデザインされていますが、細身のポールのみとあって側面に書かれた文字が見にくいです。形状からはバス停なのかも定かでなく、停留所名も曲面ゆえ見づらいのです。
このあと程なくしてポールの頭に「ちょいのりバス停」というカードが追加されてバス停であることを主張していましたが、まず乗ってもらうと言うところでのこれは大減点です。

改良前(元町駅前)改良後(トアロード中央)

10分間隔ですが道中が混んでいるのかそれ以上待つうちに、満員の7系統が2台発車していきました。この頻度でこの乗車は脅威ですが、三宮(市民福祉交流センター前)と神戸駅の間をいわゆる「山麓線」を経由して結ぶこの路線は、異人館の並びの山手から平野、夢野と山手の標高のあるエリアを縫って走っており、標高差の関係から自転車などが使いづらいこともあり、利用が集中しています。
ようやくやってきたバスに乗りますが、市の三セク、神戸交通振興の3扉車。後部のタイヤハウスの部分がボックスシートになっており、バスで後ろ向きというのは気分が進みませんが、かつては都バスでもあったスタイルです。

乗車券を発売する係員

乗車すると女性係員から乗車券を購入します。というか、中扉の入口に陣取っています。1日券を購入すると、今回の企画に協賛したお店で使える割引券と、KOBEST2007のパンフレットが配られました。
乗客はどうでしょう、5人いるかどうかです。よく見ると2人は関係者らしく、土曜日の午後、時間帯は悪くないのに厳しい感じです。
7系統を追う様に鯉川筋から中山手三丁目を経てトアロードを登って北野工房のまちへ。ここで折り返し、と思ったら、ここで運用はいったん切れるようで、その先へは乗り換えになりました。

北野工房のまち

ここではバスが少なくとも必ず1台待っているので、遅れても定時発車が可能になっており、10分ヘッドなのにバスが来ない、ということを最小限に抑えています。乗り換えたバスは普通のノンステ。乗客は3人程度。トアロードを下り、JRのガードをくぐるとセンター街などと交差して三宮神社のところで左折して三宮中央通りに入ります。
ここの幅の広い歩道はこの企画にあわせて「オープンカフェ」として、ウッディなテーブルと椅子が置いてあります。普段とは趣が違う様子に驚きましたが、この施設はそこそこ使われているようです。

オープンカフェ実施中

京町筋に入り、旧居留地を南下します。商店や美術館、博物館が軒を連ねる中を通り、浜手のR2の一本北(市立博物館の南側)を西に向かうと旧居留地15番館前。とりあえずここで降りてみました。
総てのバス停には警備員がおり、パンフを配ったり案内にこれつとめていますが、老齢とはいえ制服の警備員というのは威圧感を感じます。

さてこの通りは大丸の駐車場へのアプローチとなっており、一方通行の右車線を入庫待ちの車が占領しており、博物館側では左車線を今度は契約駐車場へのクルマが並ぶと言う塩梅で、最終的に京町筋からR2に渋滞が延びて(R2の神戸方面から回るように誘導)R2もここを先頭に混むという状況が土日の午後は恒常化しており、こうしたバスがうまく利用されればいいんですが。

大丸駐車場待ちの車列とともに

一本後のバスに乗り、南京町を経て元町駅前に至ると一周です。そのまま次の鯉川筋まで乗り、生田新道を歩いて隣のトアロードに移り、トアロードを下ってくるバスを観察。10月24日と28日にはトアロードの一部区間で左側車線をバス専用とするトランジットモール実験が行われるそうです。
トアロード南からまさに「ちょいのり」で三宮神社北へ出て、オープンカフェを見て、帰宅しました。

●1週間後の再訪
トランジットモール実験となる28日に再訪して見ました。今度は三宮から歩いてトアロードへ。ちょいのりバスのルートは正直言って歩いてもたいしたことがない距離であり、なければ歩いてしまうと言うレベルです。
トアロードの社会実験はカラーコーンで車道を区切り、市バス7系統とちょいのりバスだけが通れるようにしたもの。トアロードに入る山手幹線、生田新道との交差点には警備員が立ち、専用レーンに入らないように誘導しています。

普段着のトアロード社会実験中のトアロード

バス停に上記のとおりカードが追加されていましたが、さらに係員が1人ないし2人立っています。バスに乗ると前回同様係員から乗車券を買いますが、この際に流動チェックのカードも配布され、降車時に渡すそうです。
取り敢えず前回同様旧居留地15番館前で降りる時に渡し、バスの写真を撮り終わったのを待ちかねたように、停留所側の係員が歩み寄ってきました。アンケートのお願いとのことで、応じると、立ち話で対応するとは思えないような本格的なアンケートです。
何とか答え終わると「KOBEST2007」のロゴ入りボールペンをもらいましたが、ある程度慣れている?私でもヘビーに感じたアンケート、一般の人はどう感じるでしょうか。

旧居留地をゆく

次のバスで北野工房のまちに行き、今度はトアロードを歩いて見ます。北野工房の街は観光バス駐車場、シティループ乗り場をかねており、人が結構いますが、シティループに並ぶ人に比べてちょいのりバスに乗る人は極めて少ないです。
入口のところには利用促進なのか、ちょいのりバスの宣伝として市内各所への所要時間を書いていますが、徒歩も含めてで三宮駅までなどと案内しているのはどうなんでしょうね。

トアロードと山手幹線の角、NHK神戸放送局のはす向かい、JTの営業所にはバイオガスで動く車両を使った無料タクシーがおり、ビーナスブリッジ方面に行ってくれるのですが、利用する人もいないのか暇をもてあましている雰囲気です。
一方であいも変わらず満員の7系統に、これも立ち客をいっぱい乗せたシティループが走っているのを見ると、ちょいのりバスをはじめとするKOBEST2007の企画って一体なんなんだろう、と思わざるを得ません。
この日は時間の関係もあり家に戻る時間になったのですが、結局ここまで来ると三宮駅方面はいかにちょいのりでも利用しづらく、真っ直ぐ生田新道を三宮駅に向かいました。

●惨憺たる結果
11月9日の神戸新聞に、今回の社会実験の結果が出ました。
平休日通しで5.2人/便、平日は3.4人/便、休日でも8.8人/便でした。

単位となる「1便」はおそらく北野工房の街から居留地を周回して戻るまででしょうから、山手−浜手の連絡バスという性格で考えると、実際には1便が1往復(2便)に相当しますから、実質的な平均はその半分と見做すべきです。
そう考えると、山手−浜手といった本来的な利用者は平日だと片道1.7人、10分ヘッドですから時間当たり10人しか使っていないことになります。休日でも片道4.4人、時間当たりで26人程度。シティループや7系統の混雑ぶりと比較すると絶望的な数字です。

期間中の運行はざっくり1200便。私だけで延べ6便/2日乗ってますから、計算すると全期間で0.005人/便に相当します。私のような趣味系が延べ200人土日2日間乗り歩いただけで全期間で1人/便になるわけです。
実際、私が乗った2日間も数は少ないですが乗ってる人は趣味系の試乗者が目だったわけで、正味の数字はさらに厳しいものとみられます。

どこをどうやったらこういう結果になるのか。
ルートにしても運賃にしても悪くはありません。それなのに、ここまで結果が伴わないというのはある意味異常です。
一体何が原因なのか、そしてどうすべきなのか。厳しく検証して見ましょう。

経路表示はこんな感じ


●原因の所在はどこか
一にも二にも、いやいや、ほとんど総てが広報不足、これに尽きます。
私自身これを知ったのはほんの偶然。その時点では神戸市や交通局のサイトを見てもすぐ分かる範囲にはなく、KOBEST2007のサイトに、チラシのPDFの形で情報があるだけでした。これでは偶然の僥倖で情報に接した人ですら確認することが困難と言う、話にならない状態でした。

神戸市中心街にアクセスする交通機関の中吊りや駅広告にも情報はなく、多くの人が街中を走るバスを見かけて「なんだあれ?」と思ったことでしょう。
市の広報紙ですら、さすがに10月初めまでに配布された10月号に掲載はされていましたが、市広報の最終面になる13面の1/8程度。詳しくはKOBESTのサイトを、とネット環境にない市民は知らんと言う姿勢です。ちなみに神戸市の広報紙は、市全体の情報と各区の情報がいわゆる「ダブル1面」となっており、それぞれが中面に進んでいく構成のため、市広報の最終ページ、区広報の最終ページが中ほどやや後ろよりに位置しており、そこに掲載されたのです。
ちなみに、11月から西宮、芦屋両市の美術館や酒蔵を巡る「もだんるーぷバス」が運行を開始していますが、こちらは企画こそ兵庫県ですが、運行が阪急阪神グループということもあり、駅での広報や、一般紙への話題提供、掲載などそつがなく、好対照です。

さらに、ようやく情報を仕入れ、さて乗ろうとした人が停留所に行くと、各停留所に配置された「案内員」ではなく「警備員」が印象を悪くしています。
別に「警備員」が悪いと言うわけではないですが、バス停に張り付くように制服の警備員が立っていたら、やはり身構えます。
冷静に考えたら、停留所そのものに悪さをされることでもない限りバス停に警備員を置く必要性はないわけです。市バス7系統などが同じ停留所を使うケースもあるわけで、歩道がある道路でバスに乗降するのにそこまでして安全を確保する必要もないでしょう。

必要なのはちょいのりバスを案内する案内人のはずですが、それはいません。次の週のときにいたのはアンケート要員です。結局警備員がパンフレットを配布しているのですから何か間違ってますし、制服の警備員がパンフ配布という任務があるから歩み寄ってくるわけで、これもどうでしょうか。

警備員にアンケート要員だけで3人も

とどめを刺したのがアンケート。
ボリュームある内容のアンケートを立ち話で済まそうとするのもいい度胸をしてますが、結果から分かるとおり乗客は非常に少ないわけです。そこに降りるや否や「アンケートをお願いします」と係員が歩み寄るのですから、利用者の心象はどうでしょうか。便利なバスがあった、という感想よりも、パンフレットを配る警備員と降りたらすり寄って来たアンケートの印象が総てになってしまわないのか。

ちょうど珍しくもこのバスの存在を知らず、京町ミュージアム前でメリケンパークに行くバスはないか、と尋ねてきた乗客を、南京町まで乗れば良いと案内し、100円の運賃を意外がっていたまで良かったのですが、降車時にアンケート要員がすぐさま接近してた時にははっきり身体が引いてました。

●さらに改善をしないと厳しい
そもそもこのちょいのりバスはどういう利用層を想定していたのか。
市外各地からの観光客なのか、市内在住者を中心とした街歩きなのか。

鉄道との結節がほとんどないことや、駐車場利用での割引はクルマからのシフトを狙ってますし、Pitapa利用で無料というのは結節していない鉄道での来訪を前提にしています。
シティループ1日券での利用可は観光客対応ですし、あれもこれも追ってる割に、それらの層の直前のトリップとの関係が見えません。

ただ、実はそれも正解と言えるわけで、各種交通機関から降りて歩いている中で、ちょいのりバスを動く歩道など歩行補助器具のように使うという前提であれば、歩き回るルートをフォローしただけのルートでもいいのです。
ただ、そうなると停留所数をもっと増やすべきで、交差点ごとにあってもいいのです。逆に交差点から離れると、そこの角で曲がりたいのにバスに乗ると遠回り、となってしまいます。

センター街との交点は素通り

また、JRのガードの南側、センター街との交差付近に停留所がなく、神戸市内で確立された回遊コースと交差しながら接点がないというまずい結果になっているなど、使い勝手が今一歩の面も目立ちました。

あとは駐車場との連携を謳うのであれば、メリケンパークに延長して駐車場との結節を図るべきです。ただこれは北野工房の街以上に大回りになるので、旧居留地からそのまま元町などへ行きたい人にとってはありがた迷惑になるので、意見が分かれるところです。

今回このルートでのバス運行が乗客数はともかくとして成立したことを踏まえると、土日の観光、お出かけ対策としての運行は今回のルートで行い、平日は業務ルートとして運行するように改めることで、実は業務集積がありながら「交通不便地域」だった旧居留地付近での業務活動へのサポートが可能になります。
こうすることで今まで交通機関がないからクルマだった外回りなども取り込める可能性が出てくるのです。

今回のルート、北側は北野工房の街に行かずに、県庁で折り返し、旧居留地に入ると市役所の法に回りこむルートが取れれば(トアロード→仲町通→東遊園地西側→市役所南西角→京町筋)、県庁、市役所をカバーし、さらに合同庁舎も、となります。駅に入らないのがネックですが、入らないことで駅周辺の渋滞を回避できます。外回りの合間に利用する、という感覚でいいでしょう。
実際、丸の内シャトルはそういう利用をされていますし、大回り気味でいまいち使い勝手が悪いのですが、それなりに使われ、知名度もあります。
丸の内シャトルのように無料とは行かないでしょうが、1日200円ないし300円程度なら駐車料金を考えたら利用は付きそうです。

市内各地への足として宣伝したが(北野)


●失敗で終わらせないために
この結果では次回につながるかどうかも怪しいです。
とはいえ知っていれば便利な、素材としては決して悪くないこのちょいのりバス、1回で終わらすには惜しいですが、現状のままでは関係者の自己満足で終わってしまいます。
実際、連動した企画を見ても、環境問題、エコロジー系のイベントが目立ち、まちづくりという視点は少数派のようで、そうした利用者目線の不足もこの結果につながった原因でしょう。

トアロードの専用レーン実験も、一部で進行しているLRT導入の動きを踏まえたものでしょう。イベントには路面電車系のものもあり、LRT導入のさきがけになることを期待していたのかもしれませんが、坂が多いエリアの商業地で、荷捌きの問題を無視して車線を規制しただけでは前に進みませんし、こんな感じでは導入へのハードルは無数にあります。

次をどうするか。上では酷評したアンケートですが、あの内容には今回の失敗を予言していたかのようなものもあるわけで、きちんとアンケートを分析し、改善点を見出すことが、次につなげるステップでしょう。







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