このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





バスという交通モードの高度化を考える〜その6
意欲的な名古屋のバスシステム
(その1・ハード面で特徴あるシステム)


手離し運転?いえいえ、ガイドウェイ走行中はこれです


※写真は2001年4月、2003年7月および2007年5月撮影
※このテーマに関しては「【検証】近未来交通地図」でも論じています

その2・ソフト面で特徴あるシステムに続く


第6回目はいよいよ「真打ち登場」、中京圏のバスです。

世界のトヨタのお膝元、自家用車の利用が多いとされる中京圏ですが、鉄道ではJR東海と名鉄が覇を競い、バスもまた名鉄バスと名古屋市営バスを軸に発展しており、公共交通の充実もまた都市の規模にふさわしく、いや、首都圏、関西圏に引けを取らないレベルのものがあります。

そうした中でもひときわ目を引くのが意欲的なバスシステムの導入による多彩なサービスの提供。
大阪では市バスが乗り継ぎ制度や路線の設定といったソフト面での充実が目立つのに対し、中京圏ではまずハードに特徴のあるバスが目立ちます。もちろん路線設定においてユニークさが光る路線も多く、そういう意味でもバスという交通モードの可能性やメニューを考えるうえで、中京圏のバスを抜きにしては語れません。

今回はハード面で特徴ある基幹バスとガイドウェイバス。そしてソフト面で特徴ある近郊高速バスとコミュニティバスについてご紹介しましょう。

●あたかも軌道の基幹バス
まずは基幹バスです。
名古屋における基幹バスは1982年に栄と笠寺、星崎方面との間に開業した基幹1号系統がその起こりですが、こちらは上を走る名古屋高速大高線との関係もあり、バスレーンは通常と同じく道路の端にあります。
一方、「基幹バス」の名を全国、いや、世界に知らしめた基幹2号系統(新出来町線)の登場は1985年。既に20年以上の実績を持ちます。

引山。バスレーンはここから始まる

基幹2号系統最大の特徴は、バスレーンが道路の中央にあること。つまり、路面電車のように独立した走路を確保しているのです。さらにレーンは上下でエンジと黄土色に塗り分けられ、期間バスレーンであることを強烈に主張しています。
停留所も「電停」のように道路の真ん中に設けられ、横断歩道で歩道とアクセスするスタイルです。
ただしカラー舗装された走路は平日土曜の朝夕の一部区間のみ専用レーンとなり、他は優先レーンなので、一般車両がレーンを走ることも多々ありますが、交差点近辺に多い停留所付近で走路が停留所のアイランドにより独立したり、その分偏倚した走路を戻すために交差点内でS字型に走らされることもあり、レーンを走る一般車両は日中については少数派のようです。

レーン内を一般車が走る

2号系統では道路の最も内側を直進する基幹バスが走ることから、主要交差点は右折レーンが基幹バスレーンの左側に置かれるため、交錯を避けるべく信号は矢印制御になっており、直進左折と右折が完全に分離されています。
なおそれほどでもない交差点では右折レーンは通常通り最も右側に位置するため、右折レーン開始地点で右折車は基幹バスレーンを横断することになります。

主要交差点では右折レーンがバスレーンの左にそうでない交差点は右折レーンはバスレーンの右に

レーンが確保されているのは栄行きと名古屋駅行きが分かれる中心街の桜通大津から名東区の引山バスターミナルまで。
朝夕に専用扱いになるのは茶屋ヶ坂までで、そこからは優先扱い。専用レーンでは警察官が誘導していることもあります。
当初は市営バスが引山までで、名鉄バスがその先尾張旭や長久手方面まで伸びていましたが、近年市営バスも四軒家まで一部便が延伸されています。

引山バスターミナル

引山を経て三軒家までは市内均一の200円とあって地下鉄よりもリーズナブルで、本数も日中市営毎時6本(茶屋ヶ坂までは毎時9本)、名鉄毎時7本という高密度運転です。
(名鉄は名鉄バスセンター行き。市営は茶屋ヶ坂から猪高車庫に入る毎時3本が名古屋駅に入るほかは栄行き)

市内輸送のほか、上記の通り名鉄便は尾張旭や長久手からの近郊輸送としても重要な役割を担っており、立客がでることも多いです。
車両も比較的長めの利用に配慮して、市営、名鉄ともに2人掛けのハイバックシートが並び座席数を確保しています。

1号系統ともども、軌道系に準じる存在として停留所間隔は通常の系統に比べて長く、専用走路の確保もあって平均速度は高く、定時性もまずまず確保されています。
交差点内など道路構造が厳しい箇所ではレーンを大きく湾曲させ、場所によっては同時進入が出来ないあたかも単線区間のような使用法など、走路に自由が利くバスならではの対応と、路駐や乗降などに邪魔されない中央走行レーンの確保という軌道系に近い対応は、まさしくバスと軌道系の長所を併せ持ちます。

交差点内で大きくカーブを描くバスレーン

また、基幹バス区間を外れた末端では行先がばらけており、柔軟な系統設定が出来るのも魅力ですが、一方で基幹バスは基幹バスレーンを原則として走行するため、先行車に追いついて、かつ先行車が客扱いなどで停車時間を多く取っていても追い越しません。
そのため車椅子などの利用において、乗務員がサポートしてたりすると、日中でも毎時16本運行ですからたちまちバスの渋滞になります。
(基幹2号系統はレーン構造などからノンステップバスの導入が出来ない模様で、ワンステップにスロープ板設置で対応している)
たまたま試乗した時に車椅子の利用がありましたが、後続との兼ね合いで、停留所の「ホーム」の長さが長く、もし追いつかれても後続も同時に停車出来る停留所での利用を推奨しているようで、後続がバス停手前で長時間停車を強いられる「ホーム」の短い停留所では後続が当面来ないことを確認して車椅子の乗降を扱っていました。(事業者側の依願か、利用者側の配慮かは不明)

バス停付近

現時点では非常に完成度の高いシステムですが、ある程度の幅員がないと導入できないとか(停留所は横断歩道が必要なので交差点近辺になる。右折レーンに停留所構造物を設置できる幅員が必要)、完全な専用レーンになっていないとか、バリアフリー対応に適したレーン設計が必要といった課題を残しています。

とはいえ少なくともこれらの諸問題をクリアできれば軌道敷内進入禁止の併用軌道との間に有意な差はないわけで、軌道が多車体編成による輸送力確保を同時に実施していない限り(これとて連接バスで対応できる)、基幹バスが優位といえます。
ただ、基幹2号系統の本数を見る限りにおいて、大阪市の大正通のように一般レーンを使った追い越しなどの対応が取れない(取りづらい)専用レーン利用の基幹バスシステムは、ある程度の輸送量になると能力が飽和状態になるため、導入できるケースには「上限」があると見ます。

●実は軌道のガイドウェイバス
基幹バスがあたかも軌道なら、こちらは免許上は軌道であるガイドウェイバスです。

2001年に日本で初めての導入となった「ゆとりーとライン」。
名古屋市でも公共交通になかなか恵まれなかった守山区志段味地区の足として、大曽根駅−木幡緑地の間に新交通システムと見まごうような高架の専用線を建設し、その先は一般道を走るという、基幹バスのさらに高度化したようなシステムです。

矢田川を渡るガイドウェイ区間

「ガイドウェイバス」の名の通り、高架専用線区間ではバス車体に取り付けられた案内輪が専用線に敷設されたガイドウェイに導かれるため、ハンドル操作が不要です。そのため運転手はアクセルワークのみを行うことになり、バスというよりも無軌条電車のカテゴリーになるトロリーバスよりも軌道に近いということで、この区間は軌道法による軌道区間の扱いです。

遮断機が上がりガイドウェイ区間へ

このため高架部には幅員に余裕を取る必要が無いことから施設を簡素化できるメリットがある反面、一般車の誤進入を防ぐためのモードインターなる施設の設置や、鉄道のような運行管理システムの導入、さらには本来簡素でいいはずの停留所施設が「駅」のように立派になり、停留所によってはコンコース階を設ける、特に大曽根駅にいたっては改札口まであるなど重厚な施設になっています。

大曽根では平日朝は改札口で集札

このあたりは「軌道」のカテゴリーになったこともあるでしょうし、道路財源を原資とする補助を受ける手前、「軌道」らしいものにせざるを得なかったのかもしれません。
本来の必要設備であるガイドウェイ自体はH型鋼などの安価な形鋼で構成され、停留所では停留所の縁石で代用しているなど非常に安上がりな設備だけに、その他の設備、特に停留所周りを再考すれば当初の目論見通り安価なシステムとして評価されたでしょう。

モードインターに進入するガイドウェイバス

ただいらぬ規制と言うか区分けの問題には、一般道区間での案内輪の収納を求められたこともあるわけで、バスの機構面が複雑化してコストアップしたとともに、収納機構を床下に確保するため、ノンステップ車の導入が出来なくなり、リフト付き車両で対応するなど、バリアフリー面での問題も出ており、重厚な「駅施設」とあわせ、バリアフリー、ユニバーサルデザインと言う面でのアピールを欠く結果を招いたことは問題です。

案内輪を出した状態(ホーム部は縁石で誘導)

ここの系統は日中毎時6本、高蔵寺行きが毎時1本、2時間に1本が瀬戸みずの坂に行くほかは中志段味までです。開業当時は毎時7本、高蔵寺まで行く数も多かったのですが、削減されました。
とはいえ開業前に比べると毎時6本の確保は破格であり、交通システムの整備が需要を確保した好例といえます。

大曽根駅

ただ、沿線開発を見込んでの開業だっただけに、利用実績はまずまずながらも需要予測を割り込んでいることは事実で、それなりの実績を挙げながらも経営的には厳しいという現実があります。
この実績は大きいですが、これはガイドウェイ区間での優れた定時性のほか、一般道区間でも専用レーンを確保(特に吉根地区からモードインターまでは名古屋方面3車線、反対方面2車線の変則5車線にして、1車線を専用レーンに充てた)、PTPSの導入など、革命的ともいえる改良を行ったことが総合的に効いているといえます。

モードインター手前では専用レーン

ここのガイドウェイバスの最大の問題は起点が大曽根ということ。名古屋市が副都心に育てようという意思があるようですが、現実は市役所や県庁、栄や名古屋駅にももう一回乗り継ぎが必要という「途中」がターミナルではせっかくの連続性が大きく減殺されています。
大曽根にもモードインターを設け、栄や名古屋駅まで走らせることを考えなかった不明は指弾されるべきですし、さらに言えばJR中央線沿いに南下すれば(掘割の底を走るJRに蓋をして専用道を造る)、基幹2号系統の走る新出来町通に程なく至る訳で、ガイドウェイバスと基幹バスのコラボレーションというある意味最高の取り合わせが目の前にありながら、長蛇を逸しています。

大曽根の終端は地上とアクセスがない操車場

守山区方面の交通革命の立役者として成果は挙げていますが、ガイドウェイバスとしての実力を遺憾なく発揮しているかというとやや疑問が残ります。
ボトルネック区間を専用線を使いパスして、前後の区間ではそれぞれの行先をフォローするという、多数の系統が重複する区間を効率的に捌く形態ではじめてその能力を発揮するわけです。
そして設備ももっと簡素化させることで建設コストを下げることが可能であり、そうなればもっと評価が変わってくるでしょう。

市街地を専用線で抜ける...

ただ、基幹バスの項でも指摘しましたが、ガイドウェイにしばられることから、追い越しが不可能であり、導入を目論める輸送量には同様に上限があるでしょう。





その2・ソフト面で特徴あるシステムに続く






交通論の部屋に戻る


Straphangers' Eyeに戻る


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください