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バスという交通モードの高度化を考える〜その1
神戸淡路鳴門道沿線のバスターミナルを見る(前編)


大鳴門橋


バスと言うと軌道系交通と比べて一段低く見られることが多いのが現実です。
軌道系交通をバスに置き換えると言うような話が出てくると、必ず挙げられるのがバス関係の設備の貧相さであり、そういう事象を理由に、バス輸送は利用者に受け入れられないと言う主張がなされることが多いです。
このコーナーでは、そういう批判、懸念に対して、実際にバスを高度に使いこなしているケースをご紹介することで、バスと言う交通モードの可能性を考えて行きたいと思います。


第1回目は、明石海峡大橋、大鳴門橋で本州と四国を結ぶ神戸淡路鳴門道の沿線です。
1997年の明石海峡大橋開通により、京阪神圏からバス系統が多数設定されましたが、過剰にも見えたそれらの系統はごく一部を除いて増殖を続けました。いまや道路交通における四国の玄関口はこのルートとなり、バス路線も京阪神の各地から淡路島、四国各地へと数え切れないほどの系統が設定されています。

これを後押ししているのが沿線に多数ある「バスターミナル」です。
ターミナルとは行かなくても、本線のバスストップを含めてよく利用されており、パーク&バスライドの見本のような地域となっています。
この形態が定着したのは、皮肉な話ではありますが本四道路の料金の高さであり、自家用車で渡るのと比べて格安であるバス利用の利便性を高めることで、バスターミナルにおける乗り換えと言うパーク&バスライドが発展したのです。

※写真は2006年1月撮影


●日本一の本線バスストップ?・高速舞子

まず手始めは明石海峡大橋の本州側の起点である舞子に行って見ましょう。
JR神戸線舞子駅、山陽電鉄舞子公園駅を覆うようにそびえる明石海峡大橋。この本線上にあるのが高速舞子バスストップです。平面的には同位置ですが、高低差がある両者をつなぐのはエスカレーターとエレベーター。乗り場の一階層下のフロアにトイレがあるほかは売店もなく、きっぷ売り場もないなど粗が目立つことは確かですが、増便に次ぐ増便で利用を伸ばしてきた現実に対応が追いつかないのも確かですし、橋脚に寄生したように鉄骨を組んで出来た施設にあまり多くの付帯設備を付けるわけにもいかないのでしょう。

高速舞子発のバス時刻表エスカレーターなどの施設

垂水JCTから3kmあまりの舞子トンネルを出てすぐに位置する高速舞子は、上下とも2番線までとなっていますが、3台程度が一度に停車できそうなホームと、トンネル側に1台程度が待機できそうなスペースと、本線バスストップとしてはほかに例がない規模になっています。発車側にはトンネル寄り端部に待合室があります。
ちょうどやって来た洲本行きは定期便の5分前に臨時便が付いており、定期便とあわせると確実に1台では乗れない乗客が土曜の早朝からいると言うのは驚きです。

淡路島からの便が到着2番線に洲本行きが到着

これを橋梁上に最初から用意していた先見性には驚かされますが、構造が構造だけに拡大はほぼ不可能と言うのも事実で、舞子の需要が高いことは火を見るより明らかにもかかわらず、高松線が長らく全便通過だったり(現在は神戸−高松線が停車)、三宮−福良線の一部が通過しているのも、舞子の容量の関係があるやに聞いています。もっとも、ここまでブレイクするとは誰も読めなかったわけで、頭の痛いところです。

舞子のポジションが高い証左として、バスの行先表示に「舞子」の文字が入ったり、わざわざ「舞子通過」と書くくらいですし、神戸−阿波池田線が舞子停車になった時に、でかでかと「高速舞子停車」と書いたポスターを作成していたことも挙げられます。

「舞子・三ノ宮」表示「三ノ宮(舞子通過)」表示

高速舞子の特徴として、本線バスストップながらここを起終点とする系統が多数あることです。ICでないし、折り返し場も無いのですが、実はトンネルの先、垂水JCTには明石海峡大橋方面からのみ利用できる出入口があり、ここで折り返しています。山陽バスの洲本線と徳島線にある神戸市営地下鉄の学園都市駅系統も、西神NT方面の需要もさることながら、舞子に対応した後の折り返し場所と言う側面が強そうです。

今回はとりあえず岩屋行きの海峡シャトルでスタートです。JR及び本四海峡バスのJR系と、淡路交通や神姫バスがキーになる民間系に分かれている各路線ですが、このシャトルに関してはJR系の本四海峡バスも参加しており、JR系の時刻表にも出てきます。
やって来た車両は高速バスタイプ、なんだけど中扉がある淡路交通オリジナルの珍車。海峡シャトルや、島内乗降自由の国道津名線や舞子福良線に充当されており、かなりの台数があるようです。

海峡シャトルの珍車


●かつての拠点・岩屋ポート

発車するとすぐ明石海峡大橋にかかります。天気が冴えないのは残念ですが、それでもいい眺め。淡路島に入って最初の淡路ICで下りて、岩屋ポートに向かいます。ここはかつての淡路島の玄関口。明石からの航路を受けて島内各地へのバス路線が出ていました。
現在もR28を行く縦貫線、西海岸を行く西浦線の名前は残りますが、毎時1本程度と縮小均衡。それでも道路では非常に大回りになる明石市へは航路が一番便利ですし、観光では気分を変えての利用も重要な要素になるため、航路利用もそれなりにいます。
余談ですが、縦貫線が「Eastcoast」、西浦線が「Westcoast」というのはお洒落過ぎますね。
ただ、当時は現在の岩屋ポートと少し離れたところから出て、航送専用だったフェリーが客扱いのみもするようになり、汽船が廃止され高速艇だけになったことから、現在の岩屋ポートの拠点性が薄れています。それでも港の駐車場を使ったパーク&ライドは、航路だけでなく海峡シャトルでも見られるわけで、いにしえの拠点は淡路市の交通拠点として新しい形態にも対応しています。

岩屋港全景内部。「汽船」の表記が郷愁を誘う

岩屋からは縦貫線洲本行きで南下します。中型のワンステ、LED表示とグレードが高い若い車両が多いのも淡路交通の特徴です。高速バスの好調がローカル輸送にも恩恵を与えている好例でしょう。
乗り場に向かうとかつてのメインルートだった名残で、急行便と普通便に分かれた時刻表が出ていますが、南端の福良まで通す急行便はいまや早朝の1本だけ(岩屋行きは平日2本、土休日1本)となってしまい、空欄が寒々しいです。往時は急行のほか、特急がありましたが、特急は淡路最大の都市洲本の中心街に寄らずに、R28を福良からの四国連絡のために急ぐという信じられない形態でした。


●淡路最大のパーク&バスライド拠点・東浦ターミナル

淡路夢舞台、大磯を経て東浦に向かいますが車内はガラガラ。夢舞台からは東浦を経由して東浦ICから舞子、三ノ宮に向かうJR系の路線がありますし、舞子を起点にして淡路ICを使い、岩屋のすぐ南、鵜崎からR28を津名港へ行く淡路交通の国道津名線も加わります。
これらの高速バスの北の拠点となっているのが東浦バスターミナル。R28に面しており、道の駅を併設していますが、これが「東浦ターミナルパーク」と、バスターミナルとしての存在感があまりにも大きくなっています。

ターミナル正面。三ノ宮、舞子行き乗り場ターミナル背面。縦貫線など一般便乗り場

乗り場は表側が高速バス、裏手が縦貫線(国道津名線下り便含む)などの一般便とタクシー乗り場になっており、駐車場がその背後に広がっています。駐車場はそれでも満車になることが多く(駐車料金は無料)、隣接の諸施設の駐車場を臨時駐車場として案内しています。

駐車場を見る。駐車場は左手奥へ続くターミナル内部の出札カウンター

内部は待合室と出札カウンターというシンプルな構成。カウンターは一部座席指定制を採用しているJR系のもので、みどりの窓口の表示も見えます。

ここがパーク&バスライドとして名を馳せるようになった最大の原因は、駐車場のキャパシティが大きく、かつ無料であることと、バスの便数が確保されており、6時発から24時4分着までと運行時間帯も長く、行けるところまでクルマで行ってバスに乗るという最も効率的な利用が可能なことが挙げられます。

ただ、人気が集中する反面、バスは神戸淡路鳴門道を経由することから座席定員制を厳守するため、積み残しの問題が多発しており、特に三ノ宮直通や東浦IC経由と言うことで人気が集中するJR系は増発便を出しますが、それでも1本待つというようなことはよくあるようです。(すぐ北の大磯に待機場があり、調整している)
この日も舞子経由三ノ宮・新神戸行きが到着した時点での行列は実に50人ほど。ターミナルの女性職員が出て座席指定券を持つ乗客の優先と人数の調整をしていましたが、結局数人が積み残されており、11分後の国道津名線か、30分後のJR系の舞子行きに並びなおしていました。

新神戸行きに乗ろうとする長い行列


もう少し見ていたかった気もしますが、多くの場所を見るという目的もあるので、やって来た下りの国道津名線に乗車して津名港に向かいます。車内は既に降車した人も多く閑散としてますが、R28沿い、またR28のバイパス化から取り残された集落を通過するうちに降りる人もおり、パーク&バスライドで集約するのも良いが、こうした細かい需要を拾うことの意味もまた考えさせられます。


●淡路中部の交通拠点・津名港ターミナル

かつては志筑といった淡路中部の有力な交通拠点が津名港です。岩屋まで行かずにここで西宮方面のフェリーや大阪への高速艇に乗り換えることで、淡路島経由の速達ルートを形成しており、大鳴門橋開通後二設定された徳島からの直通バスも津名港を起終点としていましたし、明石海峡大橋経由の路線もここを起終点にしたり、洲本系統もここに立ち寄るように、外せない街です。

その後大阪への高速艇に加え、関空への高速艇も就航するなど拠点性を保っていましたが、2002年暮れに突然大阪航路の事業者が撤退し、関空航路も2003年に洲本のみの運行になるなど、海陸結節としてのターミナルは崩壊しています。現在津名港からは泉佐野へのフェリーが出ていますが、港はターミナルからバスで数分と離れており、ターミナルはバス専用となっており、向かって左側の高速艇用のスペースが痛々しいです。

便がなくなって久しい高速艇側の様子バス側の様子(JR系カウンター)

この後洲本でも目にするのですが、バス側の窓口がJR系と淡路交通系の2つになっています。表側の5番線まである乗り場は会社別ではなく、大阪、三ノ宮、舞子、縦貫線、西浦線と路線別になっており、出札だけ意地を張り合っている格好です。まあ淡路交通は券売機の高速バス用のボタンに、「次はJRバス」と書いたカバーを掛けて誤購入を防止している(JR系と民間系は共通乗車できない)のは親切と言えば親切ですが、そもそも共通化すべき話です。

淡路交通のカウンター津名港ターミナル全景

駐車場はゲートがある有料。ざっと見でかなり埋まっていますし、高速バスの発車間際にクルマで送られてきてそのままバスに乗り込むという姿もよく目にしており、ここもパーク&バスライド拠点になっています。高速バスの降車ブースは正面から少し距離がありますが、向かいがタクシー乗り場で隣が駐車場と言う構造は動線を考えると便利です。

ここからは縦貫線で洲本に向かいましたが、東浦まで乗った便とはうってかわっての盛況。時間帯のせいもありますが、東浦から津名、洲本と言う東海岸の拠点相互間、また街をベースにした流動がそれなりにあることがうかがえます。こうした島の一部で完結する流動はなかなか想像しづらく、交通網をつい舞子など「外部」との連絡オンリーで考えてしまいがちですが、忘れてはならない部分でもあります。


●淡路最大の都市・洲本高速バスターミナル

淡路最大の都市で、「平成の大合併」の前から洲本は「離島」にありながら市制を敷く数少ない都市でした。
淡路交通もその昔は洲本から福良まで鉄道を営業していたなど、淡路島の規模を感じるエピソードですが、その洲本駅の名残を残すターミナルも今は車庫機能だけになり、海側に隣接した土地に新たに洲本高速バスターミナルを設けて、ここが洲本の交通拠点になっています。

洲本高速バスターミナルかつての淡路交通洲本バスターミナル

R28を岩屋方面から来ると臨港道路を通りダイレクトに入ってきますが、縦貫線は市内を迂回します。そうして見るとジャスコのある新市街、旧市街からともに微妙な距離を残した立地であることは否めませんが、徒歩で充分な距離でもあります。ターミナルの隣には有料駐車場、建物内部には上記の通りJR系と淡路交通系に別れたカウンター。あとは洲本市の観光案内所と売店が並び、中堅どころの鉄道駅並みの設備です。

バスターミナル内部

バスターミナルは内側から自家用車、バス・タクシーに分かれたロータリーが2重半の円を描いた構造。ターミナル前に並んだ高速バス乗り場はいいんですが、縦貫線など一般便乗り場や高速バスの降り場からはロータリーを取り巻くように歩くのがやや不便。とはいえ上屋が完備しているのは立派です。

バスターミナル入口高速バス乗り場が並ぶ正面

周囲には古いカネボウの工場や「御食国(みけつくに)」という物産館、レストランなどレンガ造りの建物も並び、淡路交通車庫の周りは昔の駅前商店街の趣きと、意外な発見がある街でした。

洲本からは徳島行きの急行バス。神戸淡路鳴門道経由ながら中型ワンステの一般車。海峡シャトルなどにも入るため、シートベルトが付いてますが、これで高速に入ると違和感がありまくりです。ましてやETCが付いているのですから。
洲本の街を流れる洲本川は激甚災害復旧工事の真っ最中。台風の高潮や水害被害のニュースを見たことがあり、その対策でしょう。

洲本ICから高速に入りますが、洲本では3人だった乗客が洲本ICで2人、西淡志知で3人、淡路島南ICで2人と増えたのは意外でした。もっとも5人が徳島県側に入って小鳴門橋で降りており、その風体からどうも小鳴門橋最寄の鳴門競艇目当ての利用だったようです。

干潮で見頃のはずの渦潮はあまり見えないまま大鳴門橋を渡って徳島県入り。下りだけの鳴門公園口では市街地との離れすぎていることを注意する放送が入りました。小鳴門橋を渡ると鳴門市街地で、R28を離れて県道を経て、片側3車線のR11バイパスを進み、次の目的地の松茂に至ったのです。

松茂に着いた急行徳島行き


後編に続く



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