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理念なき「無料化社会実験」の継続
財源も哲学もないバラマキ政策の行方


お支払いは0円です
(東水戸道路・水戸大洗IC)

2010年6月28日に始まった高速道路無料化。2011年3月末までの期間限定での社会実験だったのですが、結局延長、追加ということが決まりました。
民主党政権のマニフェストの柱ともいえる政策ですが、実施前、そして実施後の影響を見ての批判は各方面にあふれている感じです。
この無料化実験について論じてみます。


※特記なき写真は2010年11月撮影


●高速無料化のスタート
この無料化が本当に実施されるとアナウンスされたとき、どうやって実験するのか、という思いがまず先にたったわけで、その当時の疑問は当時発表した 記事 にも書きました。

無料化というからには料金所を撤廃(ゲートをスルー)し、まさに出入り自由とするイメージがあったがゆえの疑問だったのですが、実際の方法には驚きました。
要は形式は従前と全く変わらず、ただ通行料金が「0円」ということで「無料化」とは、恥ずかしながら想像していませんでした。

一般車は通行券をお取り下さい
(東水戸道路・水戸大洗IC)

これなら料金所などのハードには全く触る必要がないわけですが、よく考えると無料化による効果や影響を見るという「社会実験」であれば交通量の把握という名目が必要であり、ゆえに料金所での通行券交付などを伴うということにも意味が出てきます。

通行券がない均一制の料金所でも料金所でいったん停止すると言うのはご愛嬌ですが、バーを上げ下げすることで交通量把握という建前でしょうか。ともかく対象区間にかかる料金だけが0円という整理がこれで簡単に可能になったのです。

無料実験中を謳う
(東水戸道路・水戸大洗IC)


●まだら模様の影響
無料化社会実験の効果については道路局の サイト にありますが、ざっくり実験開始前の2倍の交通量を集めてはいますが、もともと交通量が少なく余裕がある路線で3倍程度の集中があっても余裕ですし、山梨、神奈川県下や八王子バイパスなどのようにもともと交通量が多かった区間だと1.6倍程度と移行は少なめであり、致命的な渋滞にはなっていないようです。
強いて言えば1.8倍を超えると渋滞リストの上位に入るようでもあり、逆に言えば交通量がもともと多かった路線でも計画容量の7掛け程度に留まっていたとも言えます。

このようにもともと交通量が少ない地方の高速道路の末端部とか、押し並べて赤字に苦しんでいて損切りのように無料化する一般有料道路が対象となっていることから、利用者からは見掛け倒しの声が上がりましたが、それは裏返せば恩恵に与れる人の少なさを示しており、ゆえに影響も少ないということになります。

また無料になるのはあくまで当該区間のみということで、全行程に影響する「1000円高速」と違い、一部区間が無料になったからといって当該区間以外の流動が増えることはありません。
ゆえに広域流動を惹起して上信越道の長野新潟県境や磐越道の福島新潟県境で渋滞が発生したような「1000円高速」のような効果は元々望めないものでした。

一方で一般有料道路は原則として東京、大阪、仙台都市圏の路線を除き無料化対象となったため、大都市圏の一般有料道路でも無料化の対象となったケースが相次ぎました。さらに対象を高速道路のように末端とはせずに一律としたため、大都市圏に属する区間(いわゆる起点側)でも無料化になったケースも出ました。
そのため無料化前でも渋滞がそれなりに発生していた京都縦貫道や広島呉道路のように、渋滞発生が増大したケースも出てきています。

渋滞が出た道路の例
(広島呉道路・天応本線TB・2010年8月撮影)

もちろん高速道路での影響が皆無だったかというともちろんそうではなく、後述するように平日の利便性が大きく下がる影響が出た沖縄道や、大都市圏に近く、かつ対象区間も長かった舞鶴若狭道のような渋滞の影響が大きかった例外的な存在もありました。
(道路局の発表では舞若道のデータを末端の大飯高浜−小浜西で取ってますが、これは実験の分析としては問題でしょう。やるなら三田西−丹南篠山口で、並行国道はR176で見るべきです)

このように効果はまだら模様だったのも特徴です。

●無料化の現場はどんな感じか
関心の高い社会実験であり、更新が比較的容易なネットの地図では早速地図上の色を変えて「無料実験中」としていましたし、高速道路で配布されるNEXCO各社の地図も無料化実験区間の色を変えてアピールしていました。

一方で「無料」の言葉から受ける印象が、無料開放となって料金所を撤去というようなイメージを与えるのでしょうか、NEXCO各社では、通行方法は従前と変わらないことを必死になって周知していました。

そして無料になるのはあくまで無料区間のみの走行という誤解も多く、「通勤割引」などの100km縛りのある割引で100kmを超えたら全区間無割引になるため、100kmギリギリの料金所でいったん流出して入り直す行動が社会現象化したように、無料区間となる境界のICで入り直すクルマもあったようで、連続走行でも当該区間は無料になるという広報活動も見られました。

ユニークなのがETCで、通行当初は通行料0円で前払割引やマイレージの走行明細に出てくるのですが、それが確定すると当該区間の走行自体がなかったことになり、明細から消えます。
料金とマイレージの明細であり、走行の記録ではないので正当な取り扱いですが、走った記録自体が消えるのは何か変です。

確定前は東水戸道路の明細が出てくる確定後は東水戸道路の明細は消去

あおりを食ったのは地方道路公社管理の有料道路。今回はNEXCO3社の道路が対象だったため、それに接続する地方公社管理の有料道路は対象外ですが、無料区間の先に現れる有料道路と言うのも想定外というか印象が悪いわけで、社会実験の対象外であることを従来以上にアピールしています。

地方公社区間は有料です
(東水戸道路・ひたちなか本線TB/IC)


●高まる非難
「1000円高速」のように渋滞発生のデメリットを補うメリットを遍く実感できる社会実験と違い、地域に偏りが大きく、かつ大都市圏での恩恵が少なかったこともあり、無料化実験に対する批判は一方的な傾向がありました。

同時に高速道路、一般有料道路へのシフトが発生したことで必然的に発生する影響が判明すると、元々批判的なベースだったこともあり、無料化実験による被害者発生とばかりに大きく取り上げられるようになりました。

私自身は無料化に反対の立場を取りますが、これらの批判についてはいかに無料化反対のスタンスであっても俄かに首肯できるものではなく、的外れな批判も多々あるように見受けられます。

さらに言えば、こうした批判はどういう立ち位置なのか見えない批判のための批判といったきらいがあるわけで、ユーザーのメリットや道路の維持管理、また税金による支出といった納得できる理由による批判もある反面、料金徴収を維持する目的があさっての方向を向いている批判もあります。

●一般道沿道からの批判
そうした批判の中でもまず第一に挙げたいのが、一般道沿道の商業施設からの批判です。
無料化で高速道路に流動がシフトしてしまい、商売上がったりという声が必ずメディアに登場しますが、その批判に応えると言うことは、そうした商売を保護するために高速道路の流動を抑えるべきといっているに等しいのです。

これまで高速道路やバイパス道路が整備されたことで、旧道と化した道路の沿道では数多の「商売替え」が発生しています。例えば高崎と長野、上越を結ぶR18の碓氷峠区間を見ると、1993年の上信越道藤岡−佐久間開通以降、それまで殷賑を極め、シーズンには激しい渋滞に見舞われた国道もいまや閑散としています。

廃墟も多い碓氷バイパス区間(2010年10月撮影)

有名な横川の釜飯屋も横川だけでは商売にならないので、佐久ICや遠く諏訪IC出口にドライブインを営業したり、横川SAに出店するなどして交通事情の変化に対応していますが、こうした老舗の周辺にありがちな「類似品」のドライブインなどが廃墟を晒しているのがR18碓氷バイパスで散見されます。

釜飯屋も横川本店だけでは商売にならない
(2010年10月撮影)
横川駅時代を偲びつつ横川SAで盛業中
(2010年10月撮影)

ついでに言えば、碓氷バイパスが開通する前のR18旧道にも、バイパス開通前には賑やかだったろうな、という遺構があるわけですし、旧道に入ってすぐの坂本宿なんかは中山道時代の宿場町であり、鉄道開通で衰退し、道路交通もR18旧道こそ通りますが、碓氷バイパス以降の新道は通りません。

R18旧道にも往時の廃墟が(2010年10月撮影)

個別の不平不満はあったでしょうが、こうした商売を保護するために道路の整備をしないという選択肢はなかったはずです。そして今回の実験も、本来ならシフトして然るべきの高速道路の利用が伸び悩んでいることへの対応という側面もあるわけで、通過流動が高速道路にシフトするという「本来あるべき姿」になることでの影響をネガティブに捉えすぎていないか。そこまで言うのなら、現道を商売の糧にしている地元商工業を守るために、高速道路やバイパスの整備は行いません、ということになるのですが。

ちなみに高速道路などは償還が済んだら無料化するという建前であり、沿道の商工業は必ずその日を見据えた経営をしなければなりません。
もちろん無料化をする気もないのに中途半端な社会実験だけ行い、実験期間中の疲弊は知らん振りというのも問題ですから、こうした実験は実質的に恒久化を前提とするか、実験期間中のプラスマイナスの経済効果を平準化する仕掛けが必要です。(無料化で儲かっている商工業もある)

●フェリー業界からの批判
もう一つ根強い批判はフェリー業界からのものです。

「1000円高速」、高速無料化でフェリーが壊滅すると移動手段がなくなる、というものですが、確かに離島航路への影響も出ているだけにもっともな主張に見えます。

しかし一方で道路と競合するということは、陸路で行き来できるということです。
そして架橋もしくはトンネルの建設費の回収前提となる通行量がフェリーの存在で少なくなり、償還が遠のいたばかりか、本四公団の処理において1兆4000億円という巨額の税金を投入せざるを得なくなった歴史はどう評価すべきでしょうか。

橋もフェリーも、というのがベストでしょうが、そういう余裕はありません。架橋を望むのならフェリーは諦めるべきであり、そこの交通整理が出来ていなかったことが、巨額の税金支出につながったのです。そしてその赤字見合いの額の一部は、収益としてフェリー会社が享受してきたこともまた事実ですし、架橋で利用者が減ることに対する転廃業支援を前提とした補助金も受領したはずです。

消えたたこフェリー(明石港・2008年4月撮影)

また、明石海峡を原付が渡れないという批判に応えて作業用通路に原付・自転車・歩行者用通路を整備する話が出ていますが、大鳴門橋は航路もなければ橋も自動車専用です。大鳴門橋への批判が根強いことも承知していますが、どこかで割り切ることも必要です。そもそも大鳴門橋の現状が何かクリティカルな影響を与えていないことも事実だからです。

今の批判は、フェリー業者を保護するために本四架橋などの通行料金を高止まりさせよ、という主張に等しいのですが、それが正しいのか。無くなって本当に困る離島航路の保護はありえても、並行区間の保護はありえません。

そして本当に選択すべきなのはフェリーなのか橋なのか。言うまでも無く橋でしょう。
指呼の間であってもフェリーしかなければ移動に大きな制約がかかります。アクアラインも館山道も無い時代、東京湾フェリーは殷賑を極めていましたが、その陰で金谷港で数時間待ちという不便があったのですが、その時代に戻るべきなのでしょうか。
淡路島北部はそれこそ加古川や姫路よりも神戸や大阪に近いのですが、橋がなければ嵐や霧の際には交通が途絶えるのですが、それでいいのでしょうか。

フェリーのバックアップ効果は否定しませんが、橋の有効活用を阻害してまで並存する意味は無いのです。

●実験の意味はあったのか
そして第2幕を迎える社会実験ですが、選挙対策にも見える八方美人的な対応です。本来は第1陣とは違う箇所で実験すべきですが、反発を恐れてか継続した上で追加したのです。

沖縄道だけは平日の適用を中止しましたが、本来は各地でこのような検証、検討をしたうえで、継続の是非を決めるべきでした。

また「実験」なら逆にもう少し通行量の多い区間を指定して、渋滞の発生頻度を見るといった対応もありますが、そうした思想が見て取れない今回の追加です。
新味と言えるのは夜間の大型車の無料化で、これは一般国道の「無法走行」追放に寄与するので歓迎ですが、時間帯別割引の適用区間で見られる「適用待ち」の隊列が比較にならない規模で発生しそうです。

ただ実験の効果として唯一言えるのは、それなりの区間では容量がパンクするということがなかったということでしょう。
これはある意味予想外で、もっと深刻な結果が出ると思っていたのですが、トップシーズンこそ各地で渋滞したものの、総じて平穏だったわけです。

そういう意味では景気対策と言う側面もまた期待できる部分ですが、「1000円高速」の議論でも指摘しましたが、あくまで時限的措置として対応しないと、税金による補填が前提の料金が恒常化することは不健全ですし、実施するのであれば財源を確立しての話と言えます。

しかし現実はなし崩し的に「1000円高速」を継続し、「2000円高速」を導入し、さらに無料化の拡充と、財源の裏付けも無いままに支出だけ増やすと言う最悪の結果になっています。
そもそも2010年12月に発表された基本理念からは「景気対策」の文字が消えており、一方で激変緩和などの文字が見えることは、ただ安ければ良いという安易な思想が見て取れますし、統一地方選を控えた政権による選挙対策の面が色濃く出ています。

その程度の理念で、財源は後から考えるという無責任な対応は、まさに将来に禍根を残すのみと言えます。






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