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兵は拙速を尊ぶ〜鳥取砂丘P&R問題続編
実績を否定して得られるものは何か


砂丘を登るトテ馬車
問題解決への道はこのように険しいのか




2006年のゴールデンウィークに奇しくもその場に居合わせた、鳥取砂丘で起きたパークアンドライドを巡る「事件」については、別稿の 「ラクダも呆れるパークアンドライド」 で論じました。

これについて地元日本海新聞が、2006年5月19日付の紙面で 「話題を追う 鳥取砂丘シャトルバス不祥事」 として解説記事を出しています。
そもそも「不祥事」としているというところにバイアスがかかっていると言えますが、事実関係にも疑義があるわけで、舞台となったオアシス駐車場の能力不足に原因があるようにしているのはいただけません。

当日の様子を改めてご紹介すると、私が東側から砂丘道路をオアシス駐車場に着いたのは5月4日の11時前。この時点で前方の砂丘道路はまだ余裕があり、誘導員に導かれたオアシス駐車場も余裕がありました。
その後バスを1台見送り、2台目のバスで砂丘に向かうと、うって変わって砂丘道路がオアシス駐車場を出て間もなく渋滞になっていたのです。
砂丘で遊んだ後、シャトルバスでオアシス駐車場に戻った時もオアシス駐車場はかなり埋まっていましたが満車ということはなく、砂丘道路の渋滞はひとえに砂丘会館前の駐車場に「直付け」しようとするクルマによるものでした。

ですから日本海新聞が言うような「オアシス広場の収容能力はわずか八百台弱と、砂丘周辺の駐車場の収容能力(約千二百台)に遠く及ばない。結局、オアシス広場での駐車をあきらめた車が、砂丘道路(通称)を県営駐車場などに向かったため渋滞が起こり、焦った市職員がシャトルバスの運転手に、対向車線の走行を指示する結果を招いた。」(記事本文)という因果関係ではありません。オアシス駐車場への駐車は可能だったのですから。

逆に記事にあるように、「問題の運転が行われた四日には約二千七百人がシャトルバスを利用し、ピーク時の渋滞も前年と比べて約一キロ短い約三キロとなるなど、数字上は一定の効果が認められた。」(記事本文)と、ピーク時で25%削減と言う実績を出しているのであり、記事が指摘する「事前の準備不足」での策としては立派な結果を残したといえます。
実際には鳥取市のコンベンション推進課が課長以下現地に出ており、駐車場や砂丘周辺のみならず、渋滞が伸びていた国道9号線にまで要員を出すなど、決して対応が疎かであったわけではなかったようです。

では、他地域であれば当たり前に取り入れられている施策で結果を出した対策を「否定」するということは、鳥取砂丘周辺の渋滞対策に関して無為無策を関係者は貫く気に取られても仕方がありませんが、さすがにそこまでひどくは無いようで、検討はいろいろされているようです。
しかし、上記の記事では、これまでも渋滞緩和策として、シャトルバス運行や砂丘道路の混雑期の一方通行、砂丘付近の全無料駐車場を行楽シーズンに有料にして公共交通機関に誘導する案などが検討されたようです。しかし、各案とも住民や企業の活動が制限されることがネックとなり実現には至らなかったとあるように、公共駐車場が有料になっていても、土産物屋の駐車場が客引きをかねて無料にしていることとの調整がつかなかったようで、今回初めて目に見える対策に取り組んだのです。

また、将来の高速道路(姫路鳥取線)開通を見据えて、観光シーズンのパークアンドライドの検討は鳥取県鳥取砂丘室など関係者の間で続けられているとのことですが、今回の主体が鳥取市であるように、県と市の連携が取れていません。
また、県警が本件を「事件」にしたように、警察との連携も取れていませんでしたし、当時のコメントを見ると道路行政を司る国土交通省との連携も取れていなかったようです。

これについては、市の準備不足と同時に調整不足を指摘する声も根強いのですが、少なくとも鳥取市が声を上げて手を動かした時点で、まずは小異を捨てて大同につくという姿勢がなかったのであり、結果よりもメンツを優先したと言う批判は免れません。上記のように県による検討もされているとありますが、うがった見方をすれば対策の主導権を巡る鞘当てのエアポケットに陥ったのかもしれません。

しかしながら砂丘周辺の渋滞が問題視されて久しく、市が観光客の「砂丘離れ」を危惧しても、これまでの「検討」が「小田原評定」に終わっていただけに、準備不足であろうとまずやってみることに千金の価値があるのです。
特に警察は、この計画が道路交通の円滑化に資するという一点を持ってしても協力すべきであるところ、渋滞するに任せて道路を埋めて交通をマヒ状態にさせた駐車場待ちのクルマになんら手を出さないまま、シャトルバスの「逆走」を咎めたのですから本末転倒です。

さて、記事には鳥取県鳥取砂丘室などによる検討が挙げられており、パークアンドライド駐車場の候補地として、千代川八千代橋周辺(R9バイパスから少し南に入った辺り)や、鳥取港周辺を挙げているようです。
しかし、これらの箇所は鳥取砂丘からの距離が6〜8km程度あり、今回の1.6kmと比べると離れている印象です。今回の運行はバス2台で行われましたが、ピーク時には駐車場への入場がバスの輸送力を上回り、積み残しを出していました。それを考えると、距離が離れると用意すべきバスの台数も飛躍的に増えます。また、フリークェンシーも10分間隔以内程度に収めないと、バス待ち(これは往復で必要になる)に時間を取られることによる行動の束縛感が強まりますから、用意すべきバスの台数はさらに増えます。

実は鳥取砂丘には、その鳥取港などの市内の名所を巡回して鳥取駅とを結ぶバス「ループ麒麟獅子」がすでにあります。両方向とも100分ヘッドで、1周84分。料金は1乗車300円で1日フリーが600円と料金的にはお値打ちですが、フリークェンシーや所要時間的には使い勝手は必ずしもよくありません。
実際、「ループ麒麟獅子」などバスが魅力的ならば、鉄道や高速バス対応のパークアンドライド駐車場が多いであろう鳥取駅周辺などに停めてバスでアクセスと言う流れがあってもよさそうですが、そうならずに毎度の激しい渋滞を甘受するのを選んでいます。

上記の検討も、距離が長いことや、フリークェンシーの確保の問題から、使い勝手と言う意味では期待は必ずしも出来ません。
さらに問題視したいのは、駐車場の場所選定において、利用者の利便性や交通流動を第一に考えたものではないことが挙げられます。
姫路鳥取線対策であれば、市の南部からの流動がメインになります。候補に上がっている2箇所は、千代川周辺が中心街のやや北、鳥取港が北側周縁部になります。
中心街をとりまく鳥取西バイパス経由になる鳥取港は、R9からの足場もよく、その点では合格ですが、砂丘からの距離があります。また千代川周辺は一部のアプローチがシャトルバスの経路と重なる懸念があります。(R9から千代川右岸道路への直接流入を基本的にさせない構造のようです)

もちろん、砂丘道路の規制を強化したり、「直付け」出来る駐車場の廃止といった対応が取れればそれでも効果的になりますが、これまでの経緯からすると期待薄です。それどころか、記事にあるように、鳥取港案に対して、海産物販売店が軒を連ねることから地元経済への波及効果が高いとして関係者から熱い視線が注がれている、とのことで、本末転倒な計画になる懸念すらあります。

そう考えると、今回のパークアンドライドは、準備不足ながら一定の結果を出した実績からして、シンプルイズベストといえるわけで、果たしてそれ以上の効果、特に費用対効果を挙げ得るのか。
孫子曰く、「兵は拙速を聞くも、いまだ功久しきをみず」、検討を重ねている間に泥縄のように実施した対策が成果を挙げたのです。成果を挙げるためにどういう条件が必要なのか、そしてどう課題を解決していけばよりよくなるのか。材料が揃った今、進路が問われます。

鳥取砂丘







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