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神戸空港搭乗実績の「怪」




別稿 で神戸空港からのJAL撤退問題について書きましたが、その際に神戸線の搭乗率について言及しました。
実はいろいろと思惑があって神戸−羽田線の数字をウォッチしているのですが、今回の記事で引用した数字に関して、発表者によって齟齬があることに気がついたのです。


2009年10月1日 補筆


●神戸−羽田線の数字
同路線には現在JAL、ANA、SKYの3社が参入しています。

航空各社は路線別の搭乗者数、提供座席数と搭乗率を毎月発表しており、それによって知りたい路線の営業状況をうかがい知ることが出来るのです。
神戸−羽田線も3社からもちろん発表されており、その実績から景気低迷が原因なのか、新型インフルエンザの影響なのか、といった分析が可能になっています。

一方で神戸空港を管理する神戸市は、担当部署であるみなと総局のページにて神戸空港の利用者数、提供座席数、搭乗率を発表しています。
発表のメッシュは路線別、会社別となっており、神戸−羽田線の場合、路線別で3社合計の数字が分かり、会社別でSKYの数字が分かることから、この差がJALとANAの合計の数字になります。

これとJAL、ANA両社が発表するデータでJALとANAの数字に分ければ、神戸−羽田線の会社別利用実績が出てきます。

●合うはずの数字が合わない
ANAの発表によると、6月実績での搭乗率が5割を切るという驚愕の事実となったこともあり、これまで簡便的にみなと総局の資料でSKYと大手というメッシュで数字を追ってきたのを改め、JAL、ANA両社の数字を区分して見ることにしました。
まず簡便的にJALの数字をJALの発表分から採用し、みなと総局の資料から差し引きでANAの数字を求めるやり方です。

すると6月のANAの数字は搭乗率56%となり、5割を切るなんてことになっていません。
これはおかしく、改めてANA発表の数字とJAL発表の数字を足すと、みなと総局の数字と月当たり3000人前後の差異が出てくるのです。

羽田線の年間利用者の数字は110万人程度。年率に直すと誤差は実に3%を超えるのです。
SKY発表のSKYの数字も合わないのですが、月当たり300人台と大手の差異と桁違いであり、大手2社の数字が合わない主因と言えます。

みなと総局の数字を詳しく見ると、提供座席数は完全に一致するだけに、就航便数の把握などと言った基本的なデータの取り違えはなさそうであり、搭乗者数のカウント方法に問題は絞られます。

●みなと総局の数字が原因だが
路線別の数字はこの他、国土交通省航空局が毎四半期「航空輸送サービスに係る情報公開」を発表しています。

この数字を見ると、各社発表の合計に搭乗者数も提供座席数も完全に一致します。
ここからも、みなと総局が把握しているJAL、ANAの数字に何らかの問題があるという結論になります。

4〜6月の搭乗実績

会社発表の
搭乗者数
会社発表の
提供座席数
みなと総局
搭乗者数
みなと総局
提供座席数
搭乗者数の
差異
提供座席数
差異
239,319385,036248,915385,0369,5960

※会社発表の数字は国交省発表の数字と同じ。
※搭乗者数差異にはSKYの1,061を含む。


しかし、単純にみなと総局の数字がおかしい、と言っていいのか、と言う問題もあるのです。

神戸空港の搭乗者数が当初目標の年間318万人に3年連続で届かないと批判を浴びていますが、その「届かなかった」数字はみなと総局の数字なのです。
2007年度297万人、2008年度257万人と発表している全体の搭乗者数の数字はみなと総局発表の資料の数字そのものであり、神戸市による「公式」の数字としてあらゆる場面で引用されています。

ところがこの数字が「おかしい」となると、神戸空港の搭乗者数とされる数字自体が「おかしい」数字と言うことになります。
つまり、羽田線だけで年間4万人程度の「誤差」がある事が既に判明しているわけです。他の路線では差異が無いとしても、この時点で2008年度の搭乗者数は253万人となるわけで、たかが4万、1%台とはいえ、されど統計の数字として、さらには「目標未達」の数字において下方修正を要するかもしれない「差異」が発生していると言うことは、何らかの意図を持った数字と言う疑念を持たれかねない話です。

●それでも疑問は残る
月当たり3000人程度と言うと1日100人です。JAL、ANA両社で8便(4月までは10便)が就航しているので、1便あたり10人強の差異となります。

理由があっての差異と考えても、これだけの数字に合理的な意味を持たせることは難しいです。
例えば無賃の乳児にその理由を求めても、1便に毎日そんなに乳児が乗っている(年間のべ3万人!)事は考えづらく、かつ見たことがありません。

間際の伊丹、関空便との間での予約変更の反映かもしれませんが、航空会社側がそれを反映させない数字を統計資料として提出するとは思えませんし、常に神戸線に流入すると言うのも不自然です。
(予約変更が効く航空券を持った利用者の行動パターンとしては、最終便に予約を入れ、予定が早く切りあがって空席があれば早い便に変更する。この場合最終便は神戸線になる)

一方で航空会社の数字が正しいと仮定したとき、例えばANAの場合、早朝の神戸行きの搭乗率は2、3割と低位安定しており、その状態で例えば6月の46%と言う数字になるには、早朝便が2割として、残る3便の平均が55%程度に留まる必要があるのですが、特に神戸発の朝便、羽田発の夜便がそこまで落ちているようにも見えません。(神戸発の夜便に6月も何回か利用しましたが、少なくとも6割は乗っていた)

このあたりは主観的な部分でもあり、実際は航空会社側の数字になるのかもしれませんが、いずれにしても公表ベースの数字の齟齬だけは説明がほしいところです。


2009年10月1日 補筆


このほか考えられる事象として、予約後出発時刻までにキャンセルをしないで、予約流れになってしまったものの存在でしょうか。
航空はそれなりのフィーが必要になりますが、出発後のキャンセル(払い戻し)というものが可能です。
特にビジネス客向けの回数券などは、予約流れになっても、3ヶ月の有効期間内なら無手数料で再予約できるという話を聞いたことがありますから、予約をそのまま流す客も少なくないと見ます。
ただ逆にこのケースが1便10人程度となると実は少なく見えるわけで、しかも近時の出張抑制のトレンドの中でも数字があまり変わらないというのも逆に不自然です。

ところで本稿公開後、拙掲示板への書き込みで神戸市は「頭数」、航空会社は「有償旅客数」ではというご指摘がありました。

改めて各サイトを確認しますと、航空局、JAL、ANA、みなと総局とも数字の前提を定義していませんが、SKYは搭乗率の定義で「有償旅客数/提供座席数」としており、おそらくご指摘の通り航空会社は有償旅客数、神戸市は実際の搭乗者数ということだと思います。

SKYの場合は1便に1人いるかどうかですから、乳児など「膝の上」でしょう。
そして大手はコンスタントに1便に10人程度ですから、乳児+マイルの特典航空券と推測できます。
実は神戸時代の友人が何度か特典航空券での上京を試みていつも満席の壁に跳ね返されているのを聞いており、「なかなか取れない」という傍証と合わせると、1便当たり10人程度という数字は、設定と消化率(=搭乗者数)として説得力がある数字に見えます。

神戸空港で利用者数を独自調査しているようにも見えませんから、データの出どころは航空会社しかありえません。
同じ出どころの数字が異なるというのも変ですが、「搭乗者数」というときに有償搭乗者数に限定する理由もないわけで、必ずしも神戸市のやり方が間違っているということでもなさそうです。

逆に航空会社が無償乗客をカウントしないとして、搭乗率に概ね4%(ポイント)の差が、航空会社が低くなる方向につくということになりますが、搭乗率は空港や航路の評価によく使われるわけで、数字の定義をもっとしっかり書いてほしいです。





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