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神戸空港、JAL撤退の衝撃


この姿も見納めなのか




●「完全撤退」の驚き
苦しい経営が続くJAL、日本航空は、デルタ航空などからの資本参加を含めた抜本的な経営刷新による復活を目指して大きく舵を切ろうとしています。

この数日間のJALを巡る話題の中で2009年9月16日の各紙に出たのが国際線、国内線路線の抜本的見直しです。

前日15日にJALは同社の経営再建を議論する国土交通省の有識者会議に対し、9月末をメドにまとめる経営改善計画の素案を提示しましたが、そこに示されたのが2011年度までの3年間で国内29路線、国際21路線の廃止と、早期退職制度などを活用したグループ社員の約15%にあたる6800人の削減でした。

国内線では路線廃止に伴い、7空港からはカウンター業務も含めた完全撤退となり、広島西、松本、粟国、奥尻、丘珠と、6月に開港、就航したばかりの静岡、さらに神戸の7空港がその対象となっています。

2006年に開港した神戸空港は、地方路線を中心にした整理はあったものの、幹線は堅調であるというイメージでした。ところが今回、羽田、札幌、沖縄という幹線系統しかない神戸からの撤退が、不採算を理由に行われようとすることは驚きです。

なお、JAL便とされる中には石垣線と沖縄線にJTA運行の便がありますが、今回同じく撤退、廃止対象となっている丘珠発着の便は既に系列のHAC便であり、JALはHAC株の一部を北海道に譲渡して連結対象から外すことで、運航は継続するものの、運航主体はJALではなくなることで「撤退」としている事からも分かる通り、子会社も含めての話であり、JTAやJEXといった子会社移管による存続ということは無いようです。

確かに足下の搭乗率を見ますと景気低迷や新型インフルエンザの影響もあり厳しいことは確かであり、特に羽田線が景気低迷の直撃を受けた格好ということもあり、余裕が相当ないことが伺えます。
しかし、運休や減便ではなく、拠点として見ても完全撤退というのはあまり例が無い話であり、それがなぜ神戸なのか、という疑念すら出てきます。

●なぜ神戸か
しかし、JALの事情を考えると、神戸に白羽の矢が立つのも無理からぬ面があります。

つまり、JALというとフラッグキャリアとしての伝統と大きさに目が行きがちですが、2002年の経営統合を経て2004年に路線も統合された旧JASの路線網の存在と意義を考えたとき、単純な不採算理由での廃止、撤退は、その地域からの航空路線の消滅となり、利便性はもちろん、空港を所有経営する地元自治体へのダメージも深刻なものになる懸念があります。

そこから来る反発を押さえて地方路線の廃止、撤退を推進するよりも、幹線中心で、しかも伊丹、関空で補完が効く神戸は利用者、事業者共にダメージを極小化できて「やりやすい」ということでしょう。

既に撤退をシミュレーションしていたのか、今年に入ってからは羽田線の機材を一時期小型化したり、さらに羽田線の時間帯をビジネスに不向きな時間に変更した挙句に再びの小型化など、利用の減少を云々する以前に、「後ろ向き」の改訂が客離れにつながったのでは、と指摘したくもなります。

●苦しい神戸空港
反発や利便性低下を極小化できるといっても、神戸空港の経営主体である神戸市や、神戸市を中心とした利用者にとっては、そのダメージを伊丹や関空で代替できるものではありません。

おそらく今後激しい反発が予想されますが、世界的な航空再編の流れとはいえ、メガキャリアはあってもフラッグキャリアは無いとされる米国はともかく、フラッグキャリアが外資の資本参加を受け、事実上の傘下入りとなるのは異例のことであり、そこまで追い込まれるほどJAL、そして航空行政が切羽詰っている状況に鑑みれば、神戸空港が詰め腹を切らされたと言えるでしょう。

JALだけでなくANAの状況も厳しく、特に今年度に入ってからは羽田線の減少が際立っており、6月の搭乗率は会社発表の数字で5割を切る惨状となっています。このため11月から機材を小型化するなどこちらも「後ろ向き」の状況であり、特に羽田線の状況が厳しいことから、こちらも厳しい選択を迫られる可能性が出てきました。
ただANAの羽田線に関しては、今年度に入り、ただでさえ時間帯がよくないところに早朝の羽田発の時刻をさらに5分繰り上げたり、7月からはJALともども神戸発の朝便の特割を一気に2000円値上げするなど、利用を抑制したいのかとしか言いようがない施策が重なっていることもあり、撤退への形作りの疑いすら出てきています。

唯一の救いというか頼みの綱はSKYで、昨年機長不足という不祥事で大幅な運休に追い込まれて信頼を大きく損なって利用を大きく落としていましたが、ここに来て客足を戻し、羽田線の増便(最盛期の便数にはまだ足りないが)、沖縄、札幌線の新設など拡大基調にあることで、神戸空港の利用を下支えしています。
特に羽田線は8月の月間搭乗率が94.2%とほぼ連日全便満席状態といってよい状況ですし、4月から復活した午前の神戸発のBC104便は、数週間先まで予約が取れなかった昔のようにとまではいかないものの、なかなか予約が取りづらい状況であり、孤軍奮闘という感じです。

●正念場というか剣が峰
かつて関空救済と陰口をたたかれている30便規制により神戸の便設定に足かせがはめられているという批判がありましたが、足元の状況は30便規制の撤廃どころか30便を埋めることすら覚束ない状況になってしまった感があります。

以前の 記事 で、伊丹は航空会社が、関空は国が守ると書きましたが、まさにそのような状況になりつつあります。
関西の拠点として伊丹は不可欠であり、関空を袖にすることは政府が許さない。その狭間で神戸が泣きを見るという構図はまさに今回のJALの減便、撤退計画の中に浮き彫りになっていると言えます。

その記事では「せめてSKYに1年前の信頼があれば、客は神戸を守ろうとする、と言えたのです。」と結んだのですが、何とかSKYが失った信頼を取り戻しつつあるようなのは不幸中の幸いと言えます。

とはいえビジネス客からの信頼は未だしであり、かつ法人営業が弱く、法人利用における利便性が大手に比べると決定的に劣るSKYしか残らなくなった神戸空港が、屋台骨ともいえる羽田線で主力のビジネス客を獲得できるのか、現状では甚だ疑問です。
こう書くと大手はマイレージがあるから、と言われそうですが、法人が大手は使ってSKYは使わないというのは、信頼性も大きな理由ですが、マイレージの有無は理由にならないとだけ申し上げておきましょう。

神戸空港は神戸市内や東播地区の利用では、対東京では新幹線よりも1時間程度早いというメリットがあり、特にANA便の存在のおかげで早朝深夜の時間帯にそのメリットを最大限享受でき、かつ伊丹便では代替できないだけに、なんとかここで劣勢を食い止めてもらいたいというのが正直なところです。

とはいえ足元の状況ではSKYの拠点空港として、価格に敏感な利用者に特化した空港として歩む道を選択する公算が高いのも事実です。
そうなった場合、これまで日本では事実上なかった、大都市圏に拠点を持つLCCによる路線展開という航空におけるパラダイム転換が起こることになるわけで、それはそれで今後の業界の試金石となる出来事として歓迎したほうがいいのかもしれません。


この提示の翌日に成立した鳩山内閣の国土交通大臣に就任した前原氏は、有識者会議の白紙化を表明しました。JALが提出した経営改善計画については破棄するつもりはないとして尊重する構えを見せてはいますが、資金繰りに窮している現状、時間との戦いを強いられているJALにとっては、政治による空白は最も避けたいはずですが、先行きが不透明になっています。

いずれにしても正念場どころか剣が峰の状況に立たされたことは確かであり、ここしばらくの情勢は目が離せません。



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