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交通においてタクシーをどう考えるか
公共交通と私的交通の狭間
公共交通を語る際にどうしても忘れがちになるのがタクシーの存在です。
駅やバスターミナルからの二次交通機関としては実はもっとも使われる存在なのですが、交通機関というよりも自家用車の変形のように見られがちです。
クルマを使わない移動においてタクシーがなくてはならないケースもあることも事実ですが、一方でタクシーの利用には様々な抵抗があることも事実です。
※写真は2006年2月、2010年12月、2011年9月、11月撮影
●タクシーを使う時
鉄道やバスが発達した都市部に住んでいる環境下でタクシーに乗るというと、何か贅沢なことをしている、楽をしているという印象を持ちます。
もしくは最終に乗り遅れて止む無く利用というシーンもあるわけですが、それも時間を忘れるほど飲んだ愚か者、と言う印象をもたれるわけで、酔ってタクシーでご帰還、となると家庭内に波風が立つのが通例です。
ところが一歩街中を離れると事情は大きく変わってきます。
鉄道やバスといった乗り合い型の公共交通が十分でなく、駅やバスターミナルなどからの移動手段が無いケースが当たり前にあるのです。
そこで使われるのがタクシーであり、タクシーが無いと出発地からクルマを運転するか、レンタカーを借りないと移動できないのです。
都市部においては必ずしも必要ではない「贅沢品」の印象すら受ける「交通機関」ですが、地方部においては必要不可欠の「必需品」といえます。
高速バス停の後方に並ぶタクシー(滝野社IC) |
●タクシー利用の障壁
地方部においては必需品ですから、都市部においても必需品とまではいかずとも、贅沢品として色眼鏡で見られなくてもいいはずです。
しかしどうしてそういうことになるのかというと、やはりその料金の高さが大きく影響しています。
基本的に1人のお客のオーダーメードの需要に応じるので、車両の使用料(減価償却費に燃料費)に運転手の人件費をその利用ごとに負担することになります。
ですからターミナルチャージとしての「初乗り」のあとは時間距離併用で比例して金額が増えていくため、まず初乗りの影響で近場でも高く感じる上に、乗れば乗るほど高くなるというわけで、鉄道やバスと比べると相当な高額になります。
ですから都市部で日中使えるのは鉄道やバスの何倍もの料金を負担できる層だという印象がありますし、乗り合い型の公共交通がなくなる深夜においては、人件費の深夜割増もあって3割増となることもあり、都内から25km程度の近郊都市までで1万円から1万5千円といった料金はやはり「特殊な交通機関」という印象を強くします。
都市部では贅沢品の印象も(津田沼) |
●タクシー利用が当たり前の世界
しかし地方部を中心にタクシー利用が当たり前の世界もあるのです。
都市部のように「流し」もなく、電話で呼んではじめてやってくるオンデマンド型の交通機関となっていますが、料金は都市部とそう変わらないわけで、買い物に行くのに片道1000円、病院に行くのに片道2000円といった負担をしているのです。
一方で地方部においてタクシーという業界を維持するには少ないお客で収入を確保せざるを得ないわけで、都市部から見たら法外とも言える状況も仕方が無い面がありますが、やはり乗り合い型の公共交通で安価に移動できることに越したことはないのです。
このあたりのせめぎ合いは生活がかかっているだけにシビアで、自治体がコミバスの類を運行しようとするとタクシー業者が反対するというケースもあるわけで、前に
神戸市北区淡河(おうご)地区のコミュニティ交通を巡る問題
を書きましたが、タクシー業者が「タクシーでいけるじゃないか」と主張して反対したのはそうした一例でしょう。
ただ、タクシー業者もその料金が障壁になっているのは自覚しているわけで、一部には自治体の補助もあるようですが、初乗りを1kmにする代わりに半額にするといった対応や、高齢者を割り引くといった対応を取ることで、利用機会を増やす動きもあります。
●ぬるま湯と荒波
上記の神戸の例もそうでしたが、タクシーを使わざるを得ない環境に慣れていると、バスなどの参入はまさに黒船になるわけで、バスの参入に反対というどう見ても利用者に背を向けた行動を取ってしまいます。
バブルの頃の都市部では客を選んでの高飛車な営業も茶飯事だった時代もありましたが、いまや所得の階層分化が深度化して、タクシーを利用することを当たり前に避けるケースも増えているだけに、独占に胡坐をかくような営業もどうかと思う時もあります。
もちろん前述のようにタクシーも商売ですから、営業を維持できない収入しか確保できないのであれば廃業するしかなく、それは運転手の雇用に直結するだけに悩ましい話です。
しかしだからといってタクシーを使い続けることを是とするかといえば、せめて日中や朝夕はバスなどの乗り合い型の交通機関があってほしいものでしょう。
こうした流れで最近目立つのが、企業の利用の動向です。
内陸部、臨海部を問わず、工場などの事業所の立地は、製品や原材料の輸送がまずあるため、必ずしも公共交通の利便性を考慮していません。そのため通勤はクルマがメインで、出張や商談での利用はタクシーがメインというケースがほとんどです。
もちろんバスが細々と走っているケースも少なくないのですが、時間が限定されることや、交通費を負担する企業がクルマやタクシー利用を容認しているので、わざわざ不便な公共交通を選択することはありません。ましてや事業所へ公共交通で乗り付けることを前提にしているところは極めて例外的ですが、中には新日鉄君津製鉄所のように手狭になった正門前の交通拠点を東門に移転し、高速バス、一般路線バス、タクシーと構内バスの一大拠点にしたケースもあります。
新日鉄君津のバスターミナル |
このように自分の懐が痛まないから、同じような距離で電車に300円、タクシーに2000円払うような移動を当たり前のようにしていましたが、昨今の環境意識の高まりを受けて、「エコ通勤」を旗印に掲げるケースが出てきており、最寄り駅や寮・社宅と事業所の間に専用バスを走らせる企業が増えています。
特に大都市近郊の臨海工業地帯においては鉄道駅まで行けば電車が頻繁に走っているというケースも多いわけで、バスさえあればストレスなく通勤できるケースも多いのです。
このバスを出張者なども利用するように誘導するケースも増えており、勢いタクシー業者にとっては降って湧いたような災難ですが、企業にとっても送迎バスは貸切ですからコストは定額なので、タクシー代の分だけ丸々コスト削減になるだけに、歓迎する事態とあっては、まさに荒波に襲われています。
余談ですが、こうした流れを受けてバス事業者も路線バスの拡充をまずは社会実験の形で試行するケースが目立ってきましたが、既に企業が専用バスを走らせているケースも多いので、敢えて路線バスに乗り換える人はそう多くなく、公共交通同士の食い合いに終わっている感もあります。
エコ通勤運動の例 |
●無ければ無いで困るのだが
しかしタクシーが商売上がったりで無くなってしまえば困るわけです。
急病や急用で深夜などに移動の必要が発生しても「交通弱者」は移動できませんし、酒でも飲んでたらクルマがあっても無理です。
しかしこんな「保険」として残せというのも酷ですから、なんとか折り合いをつけたいものです。
そう考えた時、タクシーとしてのサービスとデマンド型の公共交通としてのサービスを融合できないか。場合によっては路線バスとの融合もありえるでしょう。
上記のような企業需要の多い地域であれば、通勤時間帯は送迎バスの活用が本線ですが、日中の出張需要をカバーする際に、乗り合いで定期運行する「バス」としてタクシーを使えないか。
時間が合わない人はタクシーとして使い、それなりの料金を支払うが、乗り合いならバス並みの料金とするのです。
内陸部の工業団地への送迎バス(宇都宮) |
企業によっては五月雨式にタクシーを使われるとコストが馬鹿にならない(新幹線駅や空港から5000円超というような立地も多い)だけに、日中でも出張者、訪問者用の送迎バスを走らせるケースがありますが、こうしたケースでタクシーを活用することで、タクシー会社は収入を確保し、企業は効率の悪い時間帯の送迎バスの確保が不要になります。
一歩進めて、一定の路線運行をベースに、経路外に寄る場合は距離に応じて100円ないし200円程度の追加料金を取る、といった形態にして、面的なカバーをする公共交通として再編成するという手も考えられます。
もともと利用パターンが限定され、電話で呼んではじめてやって来るような時間的制約も存在するような地方部や事業所需要においては、タクシーとバスを融合させていくことで、お互いが食い合うとかいがみ合うという事態をなくし、公共交通を充実させ、ひいては公共交通シフトを自然に実現させていくことを目論めます。
高い料金を払って楽をする、というようなイメージに合うタクシーは、それこそ「流し」が成立する都市部でのサービスに限定されていく時期に来ているのかもしれません。
個人的には深夜帯の高いタクシーも何とかしてほしいものですが、そこはタクシーの金城湯池として残るのでしょうが...
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