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トラムやぶにらみ〜その4−2
福井鉄道のシャトル列車を見る


福井駅前を出たシャトル列車

※写真は2008年4月撮影


第4回目 にご紹介したのは福井の福井鉄道。地方鉄道でありながら軌道用車両での運行に「ダウンサイジング」した様子を論じました。

福井市内での軌道区間での利便性を優先させた対応には賛否あるようですが、同じ福井県内の地方鉄道であるえちぜん鉄道との直通もにらんで軌道区間をてこ入れしています。

そのてこ入れの様子などを見てきましたので、前回の記事に補足する形で、「トラムやぶにらみ4−2」としてご紹介します。

●福井鉄道の「茨の道」
福井鉄道は2007年8月には沿線自治体に鉄道事業の継続が難しいとして県や沿線3市に支援を要請しました。その後親会社の名鉄が増資までを行なったうえで経営から手を引き、地元主導で経営していくことになるという話になってしまいました。

そもそも福井鉄道の「ダウンサイジング」は親会社の名鉄で廃止になった岐阜エリアの600V各線の車両を譲受する形で実行された経緯があるだけに、ここで投げ出されては用途廃止になった車両の下取り先として使われただけでは、という話にもなりかねません。

結局、沿線自治体が施設を買い取り、「上下分離」方式で存続を図ることになったようですが、名鉄による最後の「増資」の扱いや自治体間の出資比率などを巡ってなおも合意に至っていない部分もあるため、最終的な結論に至っていない模様です。

●聞こえてくる積極策
こうなると先に京福が撤退し県主導の第三セクターとして発足したえちぜん鉄道と似たような鉄道がもう1社できるわけです。
この両社(両線)は福井駅こそ駅前電停の福鉄と、将来的には高架化されるであろう、えちぜん鉄道に分かれていますが、もう一箇所、田原町で連絡しており、こちらはレールをつなげばすぐにでも直通が出来そうな状況です。

このため、三国芦原線を田原町から福鉄の市内軌道区間に直通させると言うプランが出ており、高架化後の福井駅前再開発に伴う福鉄の市内軌道区間のリニューアルと合わせて実施されそうな勢いです。

●乗り入れをにらんだダイヤ改正
市内足羽川に架かる幸橋の架け替えが完了したことを受けた2007年12月のダイヤ改正で、日中のダイヤに変化が生じました。

架け替え後の幸橋

これまで武生新−市役所前−福井駅前−市役所前−田原町というヒゲ線往復運行を行なっていたものを改め、武生新系統は総て福井駅前止めとし、田原町へはシャトル列車を出すことになりましたが、注目はそのシャトル列車。輸送力や居住性の問題があった単行の800形を使うのは想定されますが、市役所前からの運行ではなく、福井駅前まで入るというのです。

シャトル化により20分ヘッドが20-40分ヘッドと、田原町では「ダウンサイジング」以前のダイヤに戻った感があります。
もともと30分ヘッドとのえちぜん鉄道との相性が悪かったので、1本間引いても大丈夫と思いきや、田原町に50分に入る電車は三国方面の接続がなく、次のシャトルでも同じ電車とあっては使えません。

それでもこのシャトル化、系統分割は将来の乗り入れをにらんだものという見方が強く、えちぜん鉄道との乗り継ぎなどが気になります。

●ダイヤの不安
市役所前−福井駅前はシャトル便が加わったとはいえ毎時1往復減少した勘定ですが、武生系統の電車とシャトルの運行が非常に複雑になりました。

これまでは武生新発の電車が市役所前に来ると、ちょうど福井駅前を出た武生新行きの電車と交換して福井駅前まで往復し、市役所前に来ると、田原町を出た武生新行きと交換、というパターンでした。

今回の改正では、この運用の福井駅前−田原町間を省略して福井駅前で折り返しの長時間停車をする格好になったのですが、武生系統が福井駅前を出て、次の武生系統が市役所を出て福井駅前に向かうまでの間にシャトルが福井駅前まで往復すると言う、非常にタイトな運用になったのです。

武生新行き連絡をうたうシャトル列車の車内


●シャトルの運用を見る
4月のある日曜日、その運用を見てみました。

福井駅前には発車を待つ武生新行きがいます。どこで運用を見ようかと思いましたが、結局市役所前の交差点の手前で各方向の動きを見ることにして、電車通りを交差点まで歩きました。

駅前商店街はそれなりに人出はあります。ヒゲ線を活性化して、という発想もあるはずで、事実2001年に行なわれた社会実験ではここをトランジットモール化したのですが、トランジットモール実験の際にはオープンカフェも見られた西武の脇の通りも、石畳がわびしく感じる人気のなさで、タクシーの客待ちスペースになっています。

実は商店街の基本スタンスはヒゲ線自体を廃止し、歩行者天国にすると言うものであるところに意識のズレがあります。
このスタンスの延長線上で、えちぜん鉄道からの直通にも反対論が根強く、LRTをつくれば街が活性化して、というありがちな議論になっていません。

交差点に陣取ってしばらくすると駅前の電車が動き出しました。幸橋方向からは武生新始発の電車が来ており、さらには800形単行のシャトルもいます。
驚いたことに市役所前を要とする3方向から同時に電車が集まったわけです。

ヒゲ線内での列車交換

シャトルは信号が変わるとヒゲ線のほうに入ってきました。
ヒゲ線はわずかながら複線化されており、なんとも中途半端と思ったんですが、なるほど、こうやって駅前からの電車とここで交換することで折り返し時間を最大限確保するのでしょうか。
シャトルと交換した武生新行きは市役所前に入りましたが、先に入ってきた武生新発ともども転線となるので、武生新行きホームの向かいにあるスペースでかなり待たされています。

遠くに見えるのが武生新発福井駅前行き
左は福井駅前発武生新行き
撮影はシャトル福井駅前行きの車内から

一方のシャトルは福井駅前での折り返しに意外と時間を食っているようです。
所定の折り返しはわずか2分。ようやく動き出したころにはすでに武生新からの電車がヒゲ線の複線区間で待っています。
シャトルはそのまま信号とともに市役所前に入りましたが、市役所前での田原町接続と考えると、かなり冗漫です。

この1本後の運用に乗ってみましたが、今度はシャトルが遅れていたようで、市役所前で電車3本が鉢合わせして大変です。駅前行きのシャトルが来た時には、武生新からの駅前行きを先に転線できないため、いきおい駅前からの武生新行きは転線待ちとなり、2本目に転線してようやく武生新に向かいます。

実は電車通りの軌道敷設区間には信号がなく、複線になる箇所までは信号待ちによる所要時間のぶれがないこともこうしたタイトなスケジュールを可能にしているんでしょうが、現実は福井駅前での各種作業を見ても、2分折り返しは無理があります。
また信号がないことから、買い物客らが思い思いに道路を横断するわけで、電車の前を横切る光景はさすがにどうでしょうか。かといって信号や柵で横断を禁止、制御すると商店へのアクセスが悪くなると言うことも商店街がヒゲ線に冷たい理由なのでしょう。

ヒゲ線内で福井駅前行きと交換


●現状は無理がありすぎる
上記の通り、3本の電車が鉢合わせすることも多い市役所前です。
配線上、武生新発、武生新行きともに同じルートで転線するため、転線に使われる渡り線の使用頻度が高く、そこがボトルネックであることは容易に分かります。

2008年4月19日にはこの渡り線で武生新発の電車が脱線しました。何らかの原因でポイントの転轍が前後の台車の通過する間に発生し、前後の台車がそれぞれ違う線路に向かってしまったというものですが、2つしかない線に3本の電車が集中するような「過密」ダイヤをこのポイントが支えていると考えると、過度の負荷はリスクが高すぎます。
※福鉄では4月21日から30日までこの渡り線を使用せず、日中は武生新−田原町、福井駅前−田原町の系統を30分ヘッドで運転し、その他の時間も福井駅前行きは田原町行きとし、田原町発は福井駅前に入らない運行形態に変更すると 発表 した。

「問題」のポイントを渡る福井駅前行き

また、遅延を織り込んで駅前発から市役所前発まで4分の所要になっているにも関わらず遅延がちで、特にシャトルは田原町からタイトな2往復をするうちに遅れが取り戻せず、結局田原町でのえちぜん鉄道への接続もタイトになると言う悪循環になっています。

●将来はどうなる
現状のヒゲ線で三国芦原線を乗り入れるというのは線路容量からして相当厳しいでしょう。
かといって福井駅前に入れずに福井新方面に流すと言うのも、高架化で拠点性が高まっているJR福井駅近辺の需要に背を向けるわけで、通勤通学需要の一部時間帯を除けば乗り入れる意義は薄いです。
今回乗り歩いた際も、シャトルに少なからず乗っている、と見たら、一日乗車券を持った散策だったり、誰もいなかったりと、正味の需要に対する懸念は尽きません。

福井駅西口広場への乗り入れについても、電車通りを通すか、中央大通りを通すか、はたまた単線ループで県庁や市役所のほうまで回すかなど百花繚乱であり、しかも商店街は電車通りからの撤退を求めるなど、一筋縄ではいきません。

三国芦原線の乗り入れについても、軌道区間があるとJR福井駅までの速達性が確実に低下すること。また、福井口での勝山線との乗り換えが少なからず存在することなどを考えると、全面的な転換も難しいわけです。

福鉄の存続問題もあり、ことは急ぐのですが、ある程度の骨子を固めないと公金を投入して救済するための説明責任も果たせません。
そうした難しい状況の中、どういう結論を出すのかが注目です。

福井口停車中のえちぜん鉄道


●終わりに・鉄道車両の急行に乗って
福井からの帰り道、武生新行きの急行に乗って見ました。
駅前の電停が見えてくると、そこには土休日には運用が無いといわれた在来車が大きな車体を誇らしげに停車していました。

福井駅前で発車を待つ急行

かすかな期待はしていましたが、いざ出会うと嬉しいものです。
発車まで時間があまりありませんでしたが、「路面の鉄道車両」を四周から眺め、貴重な連接台車の様子などを写真に撮りました。

しかし、5年前に驚き呆れたのと変わらず、ステップでよじ登るのは骨です。開いたドアから「ホーム」を見るとその高さに怯みますし。

やがて発車して、市役所前で転線して市内線を行きます。小ぶりなボックスシートに座って折から満開の桜がきれいな足羽川を眺めると、「鉄道車両」の視点ゆえか気のせいか違って見える気もします。

急行は市役所前以外の市内区間には停車しません。そう考えると、市役所前と福井駅前を何とか改造して、鉄道車両の直通を生かせなかったのか。
車内はボックスにまばらに座る程度ですが、名鉄からの車両なら立客が出てもおかしくない数であり、鉄道車両の「ゆとり」というものを感じます。
直通計画があるえちぜん鉄道は単行ながら鉄道車両を使用してますが、こちらも名鉄からの車両だと相当厳しいことになるはずです。

ただ鉄道車両の本領ともいえる「急行運転」が必要かというとかなり疑問です。
実際、SC最寄りのベル前では、福井方面行きであろうとはいえホームに大勢の乗客を見ており、所詮はJRの普通列車に及ばない水準の急行よりも、普通を確実に運行することで沿線需要を確実に取り込むべきでしょう。

これも沿線需要になりえる満開の桜と花見客の渋滞を横目に西山公園を通過し、西鯖江であらたかの乗客を下ろすと乗客は片手で数えられる規模です。
そして古色蒼然とした西武生の構内を過ぎると、身をよじるようにカーブを切って武生新に至り、タイムスリップしたような小旅行は終わりました。

ステップで乗り込む鉄道車両


夕方前の淡い光線に照らされた構内に「鉄道車両」が並んでいましたが、LRTにその任を引き継ぐことが出来るのか。軌道化によるてこ入れを前にした会社存続の危機。それを乗り越えられるかどうかの瀬戸際にいます。









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