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トラムやぶにらみ〜その7−2
堺市LRT計画、基本計画骨子を見る

阪堺線大小路。ここで交差する(2007年11月撮影)

※特記なき写真は2008年4月撮影


第7回目 にご紹介した堺市は当初の堺東〜堺に加え、堺〜堺浜を合わせて一体整備する東西鉄軌道計画の実現を急いでいます。これに関しましては先に「堺市LRT計画、臨海部延伸計画を見る」としてルート擬定地を見てきましたが、このほど堺市が基本計画骨子を発表し、ルートなどの仔細が相当部分明らかになりました。

それに従い前回の記事では今ひとつピンボケだった部分の修正も兼ねて、改めて基本計画の問題点を探ることとし、前回の記事と合わせる形で、「トラムやぶにらみ7−2」としてご紹介します。


●基本計画骨子の発表
堺市によると、「堺駅〜堺東駅間に加え、堺浜では、シャープ(株)及び関連企業が進出するほか、商業アミューズメント施設をはじめ、今後、サッカーナショナルトレーニングセンターなどの整備によって、従業員の通勤や市内外からの多数の来訪者の増加が見込まれることから、堺駅〜堺東駅区間と堺浜〜堺駅区間の整備を一体的に進めることが本市のまちづくりにとって大変重要であると考え、今般、東西鉄軌道(堺浜〜堺東駅間)の基本計画骨子(案)をまとめました。」とあります。

確かにシャープなどの企業進出が本格化した現状では堺浜の交通の確保は焦眉の急とも言える状態であり、今回の基本計画でその懸念を払拭できるものでしょうか。

●整備区間概要
堺東駅〜堺駅間が1.7km、10分。堺駅〜堺浜が5.2km、20分という計画です。
堺駅以西は評定速度が15.6kmですが、堺東〜堺間は10.2kmというのはやや遅い印象を受けますが、バスと比較してもとりわけ遅いと言うわけではなく、かえって速いかも知れず、このあたりは道路上交通の限界でしょう。

堺東から大小路を西進してきた線路は堺駅東口に至りますが、堺浜への路線は西口から出ることになっています。このロータリー入口から西口までの区間が「検討区間」となっており、具体的なルートを示せていません。

西口を出るとR26戎島町交差点をどう処理するかが問題でしたが、なんと高架で交わすそうです。
そのまま北公園前交差点も合わせて交わしてから新なにわ筋に入り、昭和電工工場の先、浅香山通交差点で新日鉄正門に向かい、阪神高速湾岸線の高架下を松屋大和川通に出て、堺浜への道路上を進み、シーサイドステージ北側に出来るサッカーのナショナルトレセンに寄り、シーサイドステージ西側を通り、シャープ工場手前までのルートです。

●大小路の問題点
シンボルロード(大小路)への建設は動きませんが、複線軌道をサイドリザベーションで敷設し、阪神高速から西側はクルマは中央に西行き1車線のみとなります。
これは大胆な話で、クルマの利用を抑制さえすればいいと考える向きからは早くも拍手喝采のようですが、現実の運用を考えるとこれは今回の計画の中でも一番の問題かもしれません。

広めの路側帯(二輪通行帯)を持つ片側1車線という中途半端な幅員が災いして、複線軌道を確保すると車線が取れないようです。
しかし、現在往復通行である大小路を一方通行にすると言うことは、通れなくなる東行きの流動を受け持つ通りが必要になります。
北の堺大和高田線か、南のフェニックス通りがその候補ですが、現在の通行量に上乗せする余裕があるのか。また、LRTで代替されるシャトル以外のバス路線をどうするのでしょうか。

フェニックス通り堺大和高田線

さらにサイドリザベーションですが、いわば歩道と車道の間を電車が通ることになります。
市の計画図を見ると路面は緑色になっており、まさか「カラー舗装」ではないでしょうから、芝生軌道をイメージして、軌道敷内は電車以外の通行が出来ないということでしょうか。

沿道を見ますと、商店や官公署、ガソリンスタンドや駐車場とあるわけで、そことの出入りが軌道敷を横断します。また、荷物の積み下ろし、タクシーなどの人の乗降もありますが、軌道敷の存在は、降車時に後方から電車が来る軌道を横断しないといけないというわけで、そうした利用に対する大きな障害になります。よしんば軌道敷も舗装道路で進入できたとしても、基本計画にあるピーク時5分ヘッドの電車の運行を考えると、常識的、合法的範囲での停車でも電車を支障しかねません。

大小路

また、二輪車の走行環境が全く考慮されていないわけで、二輪車の通行帯と軌道敷を共用したら軌道敷自体がスリップなどの事故原因となりやすいわけで、軌道敷内進入禁止としたら、電車とクルマに挟まれたスペースを通らされると言うこれも危険な話になります。

●堺東、阪堺線との問題
堺東では現在バスターミナル、タクシープールになっているスペースに乗り場を置くことになっているようです。

しかしそのスペースは、前方が高島屋、右手は平面の堺東駅に囲まれたいわば袋小路であり、阪和線堺市駅やその先の金岡などへの延伸はスイッチバックなどをしない限り事実上不可能です。
堺市の東西交通軸というものは堺東駅以西だけ、というのであればそれでもいいのでしょうが、阪和線やその東側、御堂筋線沿線も堺市域であり、本来東西交通軸を整備すると言うのは、シャトルバスもないこうしたエリアの話でしょう。

堺東駅ターミナル。正面が高島屋、右手は駅

阪堺線との乗り入れは東西線計画と十文字に交差する大小路電停で実施します。
気になるのはその分岐が全方向ではなく、阪堺線からは片側になっていること。市のイメージ図では地図との関係から堺駅方向のみの分岐のように見えてしまうことから、市役所のある堺東に行かないのか、と思われそうですが、いちおう計画には浜寺駅前・我孫子道から堺東とあるので、堺東方面のみの分岐のようですが、どうも分かりづらいですし、なぜ全方向分岐にしないのでしょうか。

●堺駅での問題
大小路を真っ直ぐ行けば堺駅東口に入りますが、そこから北側に回りこむのではなく、いったん西口に入るようです。
ターミナルビルには東西を貫くことが出来るそれらしい空間もありますが、駅前広場の死角から電車が飛び出すのはなんとも危なっかしく、駅南側、川のほとりの道路を使って回すのが無難ですが、こうなるとリーガロイヤルホテルへのペデストリアンデッキを改築しないといけません。

堺駅南側の道路

今回の計画骨子、この部分の処理がまとまっていないことが露呈したわけですが、ここがつながらない限り堺−堺浜の区間は独自の車庫や検修施設を持つ必要があるわけで、そのままというわけにはいきません。

●戎島町から浅香山通の問題
駐車場や南海系の工場用地を使い西口から北上し、高架軌道になってR26などを交わすのは、コストが嵩みますが問題はないでしょう。
しかし、北公園前交差点から先の新なにわ筋は問題山積です。

戎島町交差点。ここを高架で越える

北公園前交差点の先、300mもない段階で、大阪臨海線の高架道路が合流し、そのまま新なにわ筋の真ん中往復4車線となります。
新なにわ筋は2車線ずつ側道のようなイメージで合流しますが、合流ポイントでは道路の幅はほとんど変わりませんが、最終的に1車線に絞られています。

すぐに大阪臨海線が迫る側道として合流

戎島町からの高架軌道の着地先をどうするか。サイドリザベーションにすると沿道との出入りや二輪車の問題は大小路の比ではないでしょう。真ん中にしても、大阪臨海線をさらに乗り越す高高架でない限り、合流地点では「新なにわ筋」「軌道」「大阪臨海線」「大阪臨海線」という非常に中途半端なものになるわけで、車線変更が頻発するところに軌道という非常に危険な状態が発生します。

ここを信号で管理となると、ただでさえ戎島町、北公園前と難所が連なっているところにさらに1箇所では、道路交通への影響が大きすぎます。新なにわ筋は堺浜への道路交通のメインでもあるからです。

北公園前。R26南行きは戎島町先頭の渋滞


●新日鉄正門から松屋大和川通の問題
浅香山通から新日鉄正門までは片側3車線ということもあり問題はありません。
ただし問題は新日鉄構内に出入りする車両のルートでもあることや、沿道の事業所に出入りするトラック、トレーラーの右左折にあたり、軌道にそれら車両が大きくはみ出してくる可能性があり、電車運行への支障となる危険性があります。

正門前から浅香山通方向

正門前からは阪高湾岸線の高架下になりますが、既存道路に沿った敷設となると、正門を曲がってすぐの三宝入口の先までは、道路が片側1車線で、三宝入口のオンランプが壁になるため、実は軌道敷のスペースがありません。

三宝ランプ入口。北行きのスペースが苦しい

このあたりは新日鉄構内を少し譲り受けて専用軌道で確保するほうがいいかもしれません。

●松屋大和川通から堺浜の問題
松屋大和川通の交差点からは4車線道路が堺浜に伸びるだけ、と言いたいところですが、その最終コースにも問題が発生しています。

堺浜からの帰りクルマでこの交差点が渋滞するのです。
堺浜からの片側2車線がここから先は1車線。残りは新日鉄正門方面への右折レーンになることもあり、500m以上の渋滞が発生するようです。

松屋大和川通先頭の渋滞

さらに沿道には最奥の新日鉄の西門をはじめとする関連会社やスチールセンターなどの事業所もあるため、大型車の流動も発生します。当然今後開業するシャープ工場や中小企業クラスターへの業務用車も多くなります。

松屋大和川通の先は1車線

実際、堺浜シーサイドステージのところでさらに分岐する海とのふれあい公園方面からの道路側にも渋滞が見られる状況では、いかにLRTが出来ても増えることはあっても減ることはないわけで、こうした状態で往復4車線を単純に半減させて軌道敷を確保するだけでいいのか。抜本的な見直しも必要とも思えますが、用地の利用もほぼ決まった現状では、さらなる道路の拡幅や専用軌道化なども難しいでしょう。


以上、堺市の基本計画骨子に対する検証を行ないましたが、具体化されたがゆえの具体的な問題点も見えてきたわけで、今後こうした問題をいかに解決してゆくかが問われます。







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