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動物もモラルのようなものを持っている。
例えば、こういうことである。戦いに負けたオオカミが自分の首をたれて、その急所である首筋を、勝ったオオカミの牙の前に差し出すと、勝ったオオカミはもはやそれ以上の攻撃ができなくなってしまう。勝ったオオカミは相手の首筋にかみつきたいのだが、それができないのである。勝ったオオカミはかわいそうだとか、助けてやろうというような気持ちなのではない。それは遺伝的にもっている、純粋に心理的な抑制である。
このような抑制は、オオカミやイヌをはじめとして、牙などの強力な武器を持つ動物に多く見られる。彼らが無益な殺し合いをしないのは、この心理的抑制、つまりモラルがあるからだと言えるだろう。
この心理的抑制は、叱られた子供や女の子が、まったく無防備にさめざめと泣き出すと、叱った方は怒りの感情が消えてはいないのに、もうそれ以上叱れないのと共通した現象だと考えることができる。
参考図書:日高敏隆(1979)「動物にとって社会とはなにか」
講談社学術文庫, 講談社, pp.107
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