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かつて、人々は広い宇宙の中で、地球が宇宙の中心にあり、地球の周りを太陽や星が回っていると考えていた。これを天動説という。天動説に対して、コペルニクスは地動説を唱え、自分たちの地球が広い宇宙の中を動いていると主張した。この二つの考え方は、実は、天文学だけでなく、世の中や人生を考える時にも、やはり、ついてまわるのである。
子供の時は、どんな人でも、天動説のような考え方をしている。それは子供の知識を観察すればすぐにわかる。電車通りは、うちの門から左へ行ったところ、ポストは右の方へ行ったところにあって、八百屋さんは、その角を左へ曲がったところにある。静子さんのうちは、うちの向かいで、三ちゃんはとなりだ。子供はこのように自分のうちを中心にして、いろいろなものがあるような考え方をしている。
人を知っていくのも同じように、あの人はお父さんの銀行の人、この人はお母さんの親類の人というように、やはり自分が中心になって考える。
ところが、大人になると、程度の違いはあるが、地動説のような考え方になってくる。広い世間というものを先に考えて、それから、いろいろなものごとや人を理解していく。何々県何何市と言えば、自分のうちから考えなくてもわかるし、何々銀行の頭取だとか、何々中学校の校長先生だとか言えば、それでわかるようになってくるのである。
参考図書:吉野源三郎(1982)「君たちはどう生きるか」岩波文庫, 岩波書店, pp.25-26
このTEXTは上記原著者及び出版社より掲載許可を得て掲載しています。無断の転載を禁じます。(2003年10月26日 にほんごのひろば主人)
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