このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

石田波郷


『江東歳時記』を歩く

江戸川3丁目八雲神社で

笹団子梅雨の弱日のさしにけり

江戸川区江戸川3丁目の篠崎街道沿いに八雲神社がある。


八雲神社


八雲神社

 祭神は素盞鳴尊(すさのおのみこと)で、旧今井村では香取神社と並んで、人々から尊崇された鎮守である。創建年月は不詳だが、昔は特に水路の神として信仰され、舟人たちが江戸川を航行し神社の前を通る際は、帆を下げて船路の安全を祈ったといわれている。

 通例7月の満月の晩に大祭が行われいて、参詣者には「笹団子」という、小笹に団子をつけた神符が授けられるが、笹団子を煎じて飲むと万病に効くといわれ、この行事は今でも珍しい風習として残っている。

  昭和53年7月

江戸川区教育委員会

 素盞鳴尊(すさのおのみこと)の「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を」という和歌は日本で最初に詠まれたもの。松江市の 八重垣神社 に歌碑がある。

 石田波郷が八雲神社を訪れたのは、昭和32年7月12日。江戸川区教育委員会の案内の20年以上前のこと。

 お盆がくるのにまだ梅雨があがらない。何というばか陽気だろう毎年旧暦の6月15日は江戸川べり今井の八雲神社の大祭で、宵宮の月の出と共に、笹団子の護符をうけにくる氏子でにぎわう。今年は7月11日の夜が宵宮だったがやはり雨だ。月影などここしばらく見ない。私もがっかりして出かける気にならなかった。

 翌朝は薄日がさしたので早速かけつけてみた。今井から小岩行きのバスで八雲神社前がそうである。昼間は気のぬけたようなさびしい祭だ。社前の道路から2、3の民家の屋根ごしに青葭腹と江戸川の水面が見える。その上に、目をつぶってまんまるい月の出を想像してみた。昔は銚子、野田、関宿などから利根川(今の江戸川)に出た。運送船は八雲神社にさしかかると帆を下して敬意を表したとという。向う岸は行徳の宿場で深川高橋から長渡船できた成田詣(まいり)の客は 行徳 に上ってから陸路を行ったものだ。そういう殷賑(いんしん)を目前にして今井の住民も宵越しの銭をもたぬ派手好きで、八雲様の祭はずいぶんにぎわった。祭をだしに行徳の白首の所へ通う若者も多かったことだろう。

『江東歳時記』 (江戸川3丁目八雲神社で)

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