このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

俳 書

『熱田皺筥物語』(東藤編)


扇川堂東藤編。

元禄8年(1695年)8月、九衢斎梅人跋。元禄9年(1696年)、刊。

   桑名に遊びてあつたにいたる

あそび来ぬ鰒釣かねて七里迄
   芭蕉

旅亭桐葉の主、心ざしあさからざりければ、しばらくとゞまらせむとせしほどに

此海に草鞋(わらんぢ)すてん笠しぐれ
   芭蕉翁

 むくも侘しき波のから蠣
   桐葉

凩に冬瓜(とうぐわ)ふらりとふらつきて
   東藤

三吟一巻満しぬ。次の日、

馬をさへ詠むる雪の朝かな
   翁

 木の葉に炭を吹おこす鉢
   閑水

はたはたと機織音の名乗きて
   東藤

是も同じ。又 神前 の茶店にて、

しのぶさへ枯て餅買ふ舎かな
   翁

 しわびふしたる根深大根
   桐葉

尾張の国あつたにまかりける比、人々師走の海みんとて船さしけるに

海くれて鴨の声ほのかに白し
   翁

 串に鯨をあぶる盃
   桐葉



おなじく二年の春、又わらんぢをときて、景清が屋敷をとぶらひ、 頼朝 誕生の旧跡見んとのたまひければ、人々それに応ず。道のほとりにて、

つくづくと榎の花の袖にちる
   桐葉

 ひとり茶を摘む藪の一つ屋
   翁

 翁これより木曽に趣(赴)、深川にかへり給ふとて、

思ひ出す木曽や四月の桜狩

 京の杖つく岨(そば)の青麦
   東藤



おなじく四年の冬来り給ふとて、

寐覚は松風の里、呼続は夜明てから、笠寺は雪の降る日

星崎の闇を見よとや鳴千鳥
   翁

此句、輩(ともがら)の土産に見せたまひ、まづ御終(修)覆ありし (う)でたまひて、

(とぎ)直す鏡も清し雪の花

 石しく庭の寒(さゆ)るあかつき
   桐葉



程なく幻住庵を見捨、武陵に趣たまふ折、支考・桃林(隣)の二法師をともなひて梅人子が許へおはして、

水仙やしろき障子のとも移り
   翁

 炭の火ばかり冬の饗応(もてなし)
   梅人



 又、貞徳・宗鑑・守武の画像に東藤子讃を乞けるに、「何を季に、なにを題に、むつかしの讃や」とゑみたまひ、やがて書てたびけり。その句、其こと葉書、

三翁は風雅の天工を受け得て、心匠を万歳に伝ふ。この影に遊ばんもの、誰か俳言を仰がざらんや

月華の是やまことのあるじ達
   芭蕉翁

   白鳥山

何とはなしになにやら床し菫草
   翁

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