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芥川龍之介 (あくたがわ・りゅうのすけ) 1892〜1927。




忠義  (青空文庫)
短編。板倉家七千石の当主・板倉修理(しゅり)の乱心(神経衰弱)を憂慮した家老・前島林右衛門。主人である修理よりも板倉家への忠義の方が大事であると考える林右衛門は、修理を隠居させようとするが失敗に終わる。林右衛門に代わって家老になった田中宇左衛門は、「家」よりも「主」への忠義が大事だと考え、修理の登城を許してしまうが…。「修理は一門衆はもとより、家来にも見離された乱心者じゃ」──。「家」への忠義か? それとも「主」への忠義か? 二人の家老の忠義のあり方を描いて興味ぶかいものがある。

偸盗  (青空文庫)
中編。多情な性格で魔性の女である偸盗(ちゅうとう)の頭目・沙金(しゃきん)の誘惑に溺れ、盗人の仲間入りをした兄弟・太郎と次郎だが、沙金を巡って不仲になってしまう。
「おれは、悪事をつむに従って、ますます沙金に愛着(あいじゃく)を感じて来た。人を殺すのも、盗みをするのも、みんなあの女ゆえである。何に換えても、あの女を失いたくない」。
沙金が仕組んだ罠(わな)とも知らず、藤判官(とうほうがん)の屋敷を襲撃する太郎だが…。
「兄きを殺す!」、「殺しちゃ悪い?」、「悪いよりも——兄きを罠にかけて——」、「じゃあなた殺せて?」。
死臭さえ漂う荒廃した京の町を舞台に、兄弟の葛藤(かっとう)と人間の再生を劇的に描いた好編。侍や狂犬の群れに包囲され襲われる修羅場の臨場感がハンパない!

杜子春  (青空文庫)
短編。大金持ちになればお世辞を言い、貧乏人になれば口も利かない世間の人たち。人間に愛想が尽きた若者・杜子春(とししゅん)は、仙術の修行をするため、仙人・鉄冠子(てっかんし)に弟子入りする。「たといどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではないぞ。もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ」。閻魔(えんま)大王に容赦なく鞭で打たれる父母の姿を見た杜子春は…。人間らしく正直に生きていくことを決意する若者の姿を描いた感動童話。数年ごとに読み返したい作品だ。

トロッコ  (青空文庫)
掌編。「おじさん。押してやろうか?」。軽便鉄道の工事現場を見物しに行った少年・良平は、好奇心でトロッコの運搬を手伝う。「何時(いつ)までも押していて好い?」、「好いとも」。しかし、トロッコはどこまで行っても引き返す気配はなく、遂に日も暮れかけてしまう…。「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」。ア然、呆然、そんな殺生な…。少年時代の淡い感傷と郷愁を描いた名編。

南京の基督  (青空文庫)
短編。気立ての優しい十五歳の娼婦・金花(きんか)。貧しい家計を助けるため、夜な夜な客を迎える彼女だが、不幸にも悪性の梅毒にかかってしまう。客に移せば治ると朋輩から教えられるが、敬虔な基督(キリスト)教徒である彼女は、二度と客をとらないと決心する。そんなある日、基督そっくりの男が現れて…。「ではあの人が基督様だったのだ」。奇跡を信じる少女のその後を思うと胸が痛む…。

(ねぎ)』  (青空文庫)
短編。カフェで働く美少女のお君さんは、世知辛い東京の実生活の迫害から逃れるため、「不如帰」を読んだり、造花の百合を眺めたりしながら、芸術的感激に耽り、恋愛に酔っていた。無名の芸術家・田中君と初デートに出掛けた彼女は、幸福な気分の中、たまたま八百屋の前を通り掛かり…。壮大な恋愛の歓喜VS一束四銭の葱という名の実生活! 軽快で楽しいユーモア小説。田中君…(悲)。

鼠小僧次郎吉  (青空文庫)
短編。三年ぶりに江戸へ帰って来た、色の浅黒い、小肥りに肥った男が語る「鼠小僧」にまつわるエピソード──。八王子の旅籠屋「山甚」でスリを働いた意気地なしの若い男・越後屋重吉。「如何にも江戸で噂の高え、鼠小僧とはおれの事だ」。重吉のことを本物の鼠小僧だと思い込み、ちやほやする宿の番頭たちだが…。「あんな間抜けな野郎でも、鼠小僧と名乗ったばかりに、大きな面が出来たことを思や、鼠小僧もさぞ本望だろう」──。オチも効果的で面白い。 →国枝史郎「善悪両面鼠小僧」 →吉川英治「治郎吉格子」

 (青空文庫)
短編。細長い腸詰めのように、あごの下まで垂れ下がった自分の鼻にコンプレックスを抱いている僧侶・内供(ないぐ)。ある日、内供の弟子が医者から長い鼻を短くする方法を教わってきた。その方法というのは、湯で鼻を茹(ゆ)でて、その鼻を人に踏ませるという極めて簡単なものであった…。「痛とうはござらぬかな。医師は責めて踏めと申したで。じゃが、痛とうはござらぬかな」、「痛うはないて」──。個性は大事という警句!? 昨今の整形ブームに警鐘!? 自尊心のあやふやさと傍観者の利己主義をユーモラスに描いた名作。

 (青空文庫)
短編。病気で幼い子供を亡くした敏子は、同じ上海の旅館に滞在している女(自分と同名)の赤児の泣き声に苦痛を感じる…。「なくなったのが嬉しいんです。御気の毒だとは思うんですけれども、それでも私は嬉しいんです。嬉しくっては悪いんでしょうか? 悪いんでしょうか? あなた」。敏子に湧き上がった感情は、酷薄なものに違いないが、人間が生きていく上での力でもあることも否定できない…。

 (青空文庫)
短編。妹・辰子の恋愛問題を解決するため、結婚後二年ぶりに上京した姉・広子。辰子の相手・大村篤介は、同じ絵画研究所に通う生徒で、広子も顔馴染みの青年だった。篤介を嫌っていた辰子が、なぜ彼を好きになったのか? 二人の関係はどこまで進んでいるのか? 辰子に頼まれ、篤介に会う広子だが…。「いやよ。何をするの?」、「だってほんとうに嬉しいんですもの」。残念ながら未完…。
→芥川龍之介「秋」

(ひな)』  (青空文庫)
短編。明治の世になって没落した商家。横浜のアメリカ人に売り渡すことになった雛人形を、見納めにもう一度飾ってよく見ておきたいと思う十五のお鶴だが、厳格な父・伊兵衛に反対され、「開化人」の兄・英吉は「雛祭などは旧弊だ」とけなし、「旧弊人」の母と衝突する始末…。「お父さんが見ちゃあいけないと云うのは手付けをとったばかりじゃあないぞ。見りゃあみんなに未練が出る、——其処も考えているんだぞ。好いか? わかったか?」。開化の象徴としてランプが効果的に描かれていて印象に残る。現代にも通ずる家族小説。

二人小町  (青空文庫)
掌編。小野の小町の前に現れた黄泉(よみ)の使(つかい)。妊娠していると嘘をついて、死を逃れた小野の小町は、玉造(たまつくり)の小町を身代わりにしようとする。一方、色仕掛けで黄泉の使を翻弄し、死を逃れた玉造の小町は、小野の小町を身代わりにしようとするが…。「女の世の中は今の男の世の中ほど、女に甘いはずはありませんから」。運命に逆らうべからず、男を騙(だま)すべからず。

文章  (青空文庫)
掌編。本多少佐の葬式で、校長の佐佐木中将が読む弔辞(ちょうじ)の代筆を頼まれた海軍学校の英語教師・堀川保吉。「名文」によって、まんまと遺族を泣かせたことに、満足を感じるも、しかしそれよりも遥かに大きい謝るにも謝れない気の毒さを感じる。片手間で書いた弔辞が感銘を与え、推敲(すいこう)を重ねて書いた小説がまったく評価されないという皮肉(喜劇)…。楽しい「保吉もの」の一編。
→芥川龍之介「あばばばば」 →芥川龍之介「十円札」

報恩記  (青空文庫)
短編。商人・北条屋弥三右衛門(やそうえもん)の屋敷に、たまたま盗みに入った名代の盗人・阿媽港(あまかわ)甚内だが、奇遇にも、弥三右衛門は、二十年前に命を助けてもらった恩人であった。北条屋が経営難に陥っていると知った甚内は、恩返しのため、大金を調達し、北条屋の危急を救ってやるのだが…。「どうかわたしを使って下さい」、「黙れ。甚内は貴様なぞの恩は受けぬ」──。甚内が召捕られ、晒し首となった事件の意外な真相を、甚内、弥三右衛門、弥三郎(北条屋の息子)の三人の告白を通して描いた時代小説。
→菊池寛「恩を返す話」

魔術  (青空文庫)
掌編。「ただ、欲のある人間には使えません。ハッサン・カンの魔術を習おうと思ったら、まず欲を捨てることです。あなたにはそれが出来ますか」、「出来るつもりです」。インド人のミスラ君から魔術を教わった私は、早速、友人たちの前で、石炭を金貨に変える魔術を披露する。その金貨を元手に、友人たちと骨牌(かるた)をやる羽目になった私だが…。“欲心”を題材にした楽しいショートショート。

蜜柑(みかん)』  (青空文庫)
掌編。横須賀発上り二等客車に乗車した私は、如何(いか)にも田舎者らしい十三四の少女と同乗になる。退屈な人生に、云いようのない疲労と倦怠(けんたい)を感じている私は、「三等」の切符で二等車に乗車してきた少女の愚鈍さに腹を立てるが…。機関車が吐く煤煙(ばいえん)に構わず、窓を開ける少女の目的は?──主人公の私と同様、憂鬱(ゆううつ)さを忘れ、朗らかな気持ちになれる。

桃太郎  (青空文庫)
掌編。お爺さんやお婆さんのように仕事に出るのが嫌いな桃太郎は、犬、猿、雉を連れて鬼が島へ征伐に行く。平和を愛する罪のない鬼たちを虐殺・凌辱するなど、悪の限りを尽くす桃太郎たちだが…。「進め! 進め! 鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ!」。平和を乱し、殺伐とした社会にした元凶は何と桃太郎だった! パロディー・ユーモア風刺小説。→芥川龍之介「猿蟹合戦」

藪の中  (青空文庫)
短編。侍の武弘と真砂(まさご)の夫婦を藪の中に誘い込んだ盗人・多襄丸(たじょうまる)は、真砂を手込めにした後、武弘を殺害したと白状する。一方、真砂は、多襄丸に手込めにされた無念さから、武弘を殺して自分も死のうとしたが、死に切れなかったと証言する。さらに、巫女(みこ)の口を借りて、死んだ武弘が証言するが…。殺人事件の真相は? 「あの人を殺して下さい。わたしはあの人が生きていては、あなたと一しょにはいられません」──。人間の証言というもののあやふやさを描いて面白い。黒澤映画「羅生門」の原作。

 (青空文庫)
掌編。すっかり憂鬱に陥っている画家のわたし。胸の立派なモデルを雇って、一向に捗らない絵の制作を続けるが、無表情な彼女の姿に妙な圧迫を感じ出し、夢の中で彼女を絞殺してしまう。以来、姿を見せなくなった彼女の安否を尋ね歩くわたしだが、それ自体、既に夢の中で見たことのある光景だった…。「この絨氈の裏は何色だったかしら?」。夢と現実の交錯を描き、著者の晩年の苦悩が表出。

百合  (青空文庫)
掌編。「良ちゃん。今ね、二本芽の百合を見つけて来たぜ」。今年七歳の良平は、隣の金三に誘われて、一つの根から芽が二本出た珍しい百合を見に行くが、些細なことから取っ組み合いの喧嘩になってしまう…。「莫迦! 白い着物を着るのは土用だい」、「嘘だい。うちのお母さんに訊いて見ろ。白い着物を着るのは夏だい!」。未完の小説だが、完成していれば「郷愁もの」の名作になっていたかも。

妖婆  (青空文庫)
短編。行方不明になっていた恋人のお敏が、神降ろしのお島婆さんの家に軟禁されていると知った新蔵。お敏の体に神を呼び降ろし、加持祈祷をしている婆さんは、お敏を相場師の男の妾(めかけ)にして、大金を得ようと企んでいた。新蔵の友人・泰(たい)さんは、怪しい呪力を使う婆さんの手からお敏を救い出すため、“ある計画”を実行するのだが…。「僕はお敏さんが失敗したんじゃないかと思うんだが」、「失敗したんじゃないかって? 君は一体お敏に何をやらせようとしたんだ」──。“予想外”の結末が楽しめる娯楽妖異小説。
→芥川龍之介「アグニの神」

世之助の話  (青空文庫)
掌編。井原西鶴の浮世草子「好色一代男」の主人公・世之助が、六十歳の今日まで戯れた女の数は何と三千七百四十二人! 「いくら何だって君、三千七百四十二人は多すぎるよ」、「唯、私の算盤(そろばん)が、君のと少しちがっているだけなんだ」。艶かしい町家の女房と、同じ船に乗り合わせた世之助は、むっちりした、弾力のある女の体を…。これであなたも世之助ばりの好色男になれる!?

羅生門  (青空文庫)
掌編。荒廃した京都。死体が横たわる羅生門で雨宿りする下人は、「餓死するか、盗人になるか」の瀬戸際にある。死体の髪の毛を抜く老婆を目撃した下人は、憎悪を催すが…。「わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死(うえじに)をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ」。極限状態における人間の心理を描いた名作。

 (青空文庫)
短編。「三月三日この池より竜昇らんずるなり」。ちょっとした悪戯で、こんな立て札を立てた奈良の恵印(えいん)法師だが、町中で大評判になってしまう。そして遂に三月三日の当日、猿沢の池のまわりには、竜の昇天を見に来た見物人たちで一杯になり…。「いやはや飛んでもない人出でござるな」──。悪戯の張本人であるはずの恵印の心境が面白い。ラストの一文が読者の心を擽(くすぐ)るね。
→芥川龍之介「鼻」

六の宮の姫君  (青空文庫)
掌編。父母(ちちはは)を相次いで亡くし、暮らし向きが苦しくなった六の宮の姫君。乳母のすすめで丹波の前司(ぜんじ)なにがしの殿の妻(妾)となった姫君だが、男は姫君を残して京を去ってしまう。九年ぶりに京へ帰ってきた男だが…。「何も、——何も見えませぬ。暗い中に風ばかり、——冷たい風ばかり吹いて参りまする」。世間知らずの箱入娘である女の悲しみも喜びも知らない生涯を描く。
→菊池寛「六宮姫君」

路上  (青空文庫)
中編。古ぼけた教室の玄関で雨宿りしていた女性(辰子)に、一目惚れした大学生・安田俊介。一人の女(初子)に天国を見ている野村と、多くの女に地獄を見ている大井──二人の友人との交流を通して恋愛について考える青春小説の秀作。「女が嫌になりたいために女に惚れる。より退屈になりたいために退屈な事をする。その癖僕は心の底で、ちっとも女が嫌になりたくはないんだ。ちっとも退屈でいたくはないんだ。だから君、悲惨じゃないか。悲惨だろう」。屈折した恋愛しかできない大井篤夫の「倦怠」という題の告白が出色だ。
→夏目漱石「三四郎」 →森鴎外「青年」



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