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坂口安吾 (さかぐち・あんご) 1906〜1955。




雨宮紅庵  (青空文庫)
短編。「君、あの女の生活を暫く保証してやってくれないか?」、「つまりあの人を二号にしろと言うわけか?」。友人・雨宮紅庵に頼まれて、若い女・蕗子の面倒を見ることになった妻子持ちの伊東伴作。蕗子に対する紅庵の行動を怪しみながらも、蕗子に妄執していく伴作だが…。自分の恋を自分では完成し得ない変態な男と、性的無能者を夫に持った美貌の女…。奇妙な三角関係を描いて面白い。

アンゴウ  (青空文庫)
短編。戦死した旧友・神尾の蔵本を古本屋で見つけた矢島。「いつもの処にいます七月五日午後三時」。本に挟んであった用箋に書かれた数字の暗号を解読した矢島は、妻・タカ子と神尾が不倫関係にあったと確信する。戦禍で失明したタカ子に、当時のことを聞く矢島だが…。「ねえ、私はどうして、何も見ていなかったのよ」。戦争で二人の子供を亡くした主人公にもたらされた奇蹟を描いた感動作。

お奈良さま  (青空文庫)
掌編。生まれつきオナラが多い体質の寺の住職。付いたあだ名はお奈良さま。お経だけでなくオナラもあげてしまう彼は、檀家の妻とその娘から、祖母の葬儀を汚したと怒られてしまう…。「あなたのオナラは軽犯罪法の解釈いかんによっては当然処罰されるべきことで、すくなくとも文化人の立場からでは犯罪者たるをまぬかれません」。夫婦の愛情とオナラとの密接な繋がりを描いて面白素晴らしい。

女剣士  (青空文庫)
短編。刑務所から出所した中年のコソ泥・石毛存八は、山奥に住む剣術家・小山内朝之助の下僕になるが、毎日、朝之助や朝之助の美貌の娘・歌子に容赦なく打擲される。歌子と結婚するという希望を見出した存八は、飛躍的に剣術の腕を上げていくが…。父でありながら歌子への愛欲を断ち切れない朝之助の苦悩…。修行のみに生きる父と娘の異常を超越した結びつきを描いてぶっ飛びすぎ!!

外套と青空  (青空文庫)
短編。機械ブローカーの生方庄吉と知り合いになった三文文士の落合太平。風変わりな男たちが集まる庄吉の家に招かれた太平は、芸者あがりの庄吉の妻・キミ子と出会うが…。愛人なしでいられないキミ子の性情と、そんな女を妻に持った庄吉の悲痛、肉欲の妄執に憑かれた太平の苦悶…。あの外套とあの青空がなければ——。肉体と情慾の象徴である“外套と青空”が印象に残る情痴小説。

桂馬の幻想  (青空文庫)
短編。将棋の対局中、散歩に出た若手棋士の木戸は、運命的に茶店の女と出会う。女の顔に四五桂(父殺しの疑惑)を見た彼は、棋士を辞めて、世間から姿を消してしまう。観戦記者の野村は、「四五桂の謎」を解くため、茶店を訪れるが…。「お前の性根はくさっているぞ。お前の魂はまだ将棋指しの泥沼からぬけていないよ」。意外な展開が面白い。私は都会の虫ケラとして生きていきます(笑)。

現代忍術伝  (青空文庫)
長編。
戦後派らしくヌケメのないチンピラ大学生(社長・天草次郎や重役・白河半平たち)が経営するヤミ屋の「天草商事」を相手に、ウソの阿片(アヘン)取引を仕掛ける土建屋「石川組」の渉外部長・サルトル・サスケ。天草商事のスパイだった(はずの)美女・近藤ツル子と組んで、悪漢たちを痛快にとッちめていく…。

「悪漢はとッちめてやる必要があるのよ。つけ上らせちゃいけないわ。名案、考えてちょうだい。あなたには、あの悪者たちをこらしめる力が具ってるのよ」
「そうですかな。お金をまきあげちゃアいけないルールですな」
「そうよ。腕力も、いけなくってよ」
「新ルールは、むつかしい。エエと。御期待に添わずんば、あるべからず」

天草商事に入社したばっかりに、箱根のマニ教神殿に監禁されてしまった戦前派の五十男・正宗菊松の“テンマツ”もハチャメチャで面白い。──敵味方入り乱れて繰り広げられる計略ビジネス合戦!!

桜の森の満開の下  (青空文庫)
短編。女の亭主を殺害し、女を八人目の女房にした鈴鹿峠の山賊。「お前は私の亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ。お前はそれでも私を女房にするつもりなのかえ」。わがままな女の命令で、他の女房たちを殺戮した男は、「首遊び」に夢中になる女のために毎晩、人を殺し続けるが…。いつまでも涯のない無限の明暗のくりかえし…。桜の森の満開の下の秘密を描いた幻想ホラー。

出家物語  (青空文庫)
短編。美しい未亡人・キヨ子とお見合いをしたオデン屋の五十男・幸吉。見合いをしたその日に体を許すほどの好色のキヨ子だが、戦死した主人が生きて帰るかも知れないからと、幸吉は彼女に結婚を拒まれてしまう…。「主人はいろんな風に可愛がってくれたわ。あなたなんかと比較にならないうまさだったわ。あなたはダメね。それに、へたね」。キヨ子が結婚しない本当の理由がしたたかで面白い。

正午の殺人  (青空文庫)
短編。流行作家・神田兵太郎が自宅の寝室で射殺された。犯行時刻と思われる正午に神田邸を訪れた美人記者・安川久子に嫌疑が掛かる。久子の無罪を信じる新聞記者・矢部文作は、旧友の巨勢博士に助けを求めるが…。ピストルの音を誰も聞いていないという謎! 「その日の異常は全てが音だぜ。視覚については異常は起っていないのだ」──。名探偵・巨勢博士の推理が楽しめる一編。

人生案内  (青空文庫)
短編。新聞の人生案内の熱狂的ファンである中年男・山田虎二郎。人生案内を読んだり投書したりしたいばかりに、仕事を辞めてしまい、女房のお竹を働きに出すが…。「人生案内てえものがニセモノに限るように、人生も人間てえものもいいカゲンの方がいいのかも知れねえな」。創作した悩みばかり投書してきたために、ホンモノの悩みを書けない人生案内狂の男の“悟り”を描いて面白いコメディ。

心霊殺人事件  (青空文庫)
短編。戦死した長男の霊のお告げを聞くため、わざわざ大和の心霊術師・吉田八十松を呼び寄せた高利貸の後閑仙七だが、真っ暗な部屋で開かれた「心霊実験会」のさ中に、何者かに殺害されてしまう…。心霊にかこつけた仙七の“本当のコンタン”とは? 「どうやら事件が解決したと思いますよ。すくなくともあの荷物の内容を調べてみればね」。奇術師・伊勢崎九太夫が事件を解決する探偵小説。

選挙殺人事件  (青空文庫)
短編。国政選挙に立候補した三高木工所の主人・三高吉太郎。知名度も地盤もなく、落選することが分かっていながら、なぜ彼は立候補したのか? 何か裏があるに違いないと睨んだ新聞記者の寒吉は、三高の動向を探るが…。三高が言った「放さないでくれ。ああ無情、ああ…」の意味とは? あの「不連続殺人事件」を朝メシ前にスラスラと解決した私立タンテイ・巨勢博士が登場する推理小説。

町内の二天才  (青空文庫)
短編。息子の長助に野球をさせている魚屋の金サンと、息子の正吉に将棋をさせている床屋の源サン。自分の子供を天才だと思っている二人は、隣人同士でありながらとにかく仲が悪い。「今に見てやがれ。十年後には何のナニガシと天下にうたわれる花形選手にしてみせるから」、「十年の後にはウチの正坊は天下の将棋の名人だ」──。天下は広大だということで…。めでたし、めでたし(笑)。

投手殺人事件  (青空文庫)
短編。プロ野球・チェスター軍の大鹿投手が刺殺された。恋人・暁葉子と結婚したい大鹿は、葉子の夫・岩矢に手切れ金を渡すため、三百万円の大金を用意できる球団への移籍を急いでいたが…。大鹿を巡って争奪戦を繰り広げる球団スカウトの煙山と光子…。「どうしても、犯人はあれだけしかないネ、ハッキリしとるよ」。京都の名探偵・居古井警部が暴く鉄道トリック! 見事な出来栄えの本格推理。

南京虫殺人事件  (青空文庫)
短編。密売組織の女親分「ミス南京」の比留目奈々子が殺害された。波川巡査と波川の娘・百合子(婦警)は、中国人の陳氏の邸に逃げ込んだ犯人の男を追跡するが…。「お父さんのカンは当ったらしいわね。この事件には表面に現れていない裏が隠されていると思うの」──。事件の証拠品である南京虫(婦人用腕時計)から意外な真相が明らかになる展開が面白く、探偵役の父娘コンビも楽しい。

握った手  (青空文庫)
短編。映画館で衝動的に見知らぬ若い女性(事務員の綾子)の手を握ってしまい、握り返されたのがきっかけで、彼女と付き合うようになった内気な大学生・松夫。綾子はあのような時、誰に対しても握られた手を握り返すのではないか? 不安に陥った松夫は、心理学に凝っている女学生・水木由子の手をいきなり握るという“革命”を起こすのだが…。「オレに必要なのは革命だ。偉大な革命! 今日行われたあの革命。あの解放感! オレにだって、いろいろなことが、できるのだ」。“革命”の顛末を描いて最高に面白い悲喜劇。

不連続殺人事件  (青空文庫)
長編。
探偵小説の従来の公式などは問題じゃない。探偵小説は合理的でなければならぬ──。
詩人・歌川一馬の家に集まった一癖も二癖もある個性的な面々(文士の私(矢代)を始め、画家・土居ピカ一、弁護士・神山東洋、女流作家・宇津木秋子、医者・海老塚晃二、看護婦・諸井琴路、等など)。一馬の母・梶子の一周忌が近づく中、山中の洋館を中心舞台とした殺人事件が次々と発生していく…。

「人間はどいつもこいつも、人殺しぐらいはできるものだ。どの人間も、あらゆる犯罪の可能性をもっている。どいつも、こいつも、やりかねない」。

「不連続」に見せかけた周到な連続殺人事件を、探偵の才能に長けた青年・巨勢博士が暴く! 「ここのウチは、犯罪よりもエロチシズムの刺戟の方が強すぎますよ」。犯人が残した不覚なる「心理の足跡」とは一体?

犯人当てが主眼(何と懸賞付き)の作品だけあって、登場人物の数がハンパじゃないが、「人間的に完全に合理的な探偵小説」ゆえに、読後感はスッキリ納得で、「館もの」にありがち(?)なモヤット感がないのが嬉しい。各回の最後に登場する坂口安吾の「附記」も楽しい。
「探偵小説ともなれば、色々策を施しますよ。あなた方を相手に、そこまでする必要はないのですがネ」──。ミステリー史に残る本格推理小説の名作。

保久呂天皇  (青空文庫)
短編。大金の入った大事なシマの財布を盗まれてしまった保久呂村の金持ちである中平は、日頃から仲の悪い貧乏人の久作を疑うようになる。この村の天皇家は自分だと思い込むに至った久作は、何年もかけてミササギ(天皇の墓)を造り上げ、石室の中で生活するうちに、この上ない安らぎを感じるようになるが…。「これが神の心、天皇の心だ」──。天皇になり損なった男の顛末を描いた悲喜劇。

水鳥亭  (青空文庫)
短編。ウダツの上がらない小学校教員・梅村亮作。妻・信子と娘・克子に見捨てられ、空襲で焼け出された彼は、元同僚で戦争成金の野口に頼み込んで、野口の別荘の鶏小屋に住ませてもらう。戦争で価値のなくなった別荘を野口から買った亮作は、「温泉と畑づきの別荘の所有者」という身分になるが…。「ウム。水鳥亭。これがいい」。皮肉なラスト。ケチンボーの野口との価格交渉合戦が面白い。

紫大納言  (青空文庫)
短編。女好きの五十男である紫の大納言は、ある夏の夜、一管の小笛を拾う。それは、月の国の姫の秘蔵の笛で、姫の侍女(天女)があやまって落としたものであった。美しい天女に恋をした彼は、彼女が月へ帰ってしまわぬよう、盗人(盗賊・袴垂れの保輔の徒党)に小笛をあげてしまうが…。「月の国の仕返しを受けますよ」。平安中期の京都を舞台に、官能の虜となった男の報いを描いた幻想小説。

屋根裏の犯人  (青空文庫)
掌編。一年前に盗まれた銀(かね)包みが母屋の屋根裏から見つかるが、隠居の婆さんは、犯人が鼠(ねずみ)であることに、なかなか納得しようとしない。医者の妙庵先生はいい方法を思いつくが…。ドケチすぎる婆さんのどこまでもドケチなオチが笑える。

夜長姫と耳男  (青空文庫)
短編。夜長の長者の娘・夜長姫のために仏像を造ることになったヒダのタクミのオレ(耳男)。姫に耳を斬り落されてしまったオレは、姫の無邪気で明るい笑顔に真の怖ろしさを感じる。姫の笑顔を押し返すほどの怖ろしいモノノケの像をつくる決心をするが…。「好きなものは咒(のろ)うか殺すか争うかしなければならないのよ」──。夜長姫の笑顔の秘密と、凄切な愛の形を描いた幻想小説の秀作。



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