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太宰治 (だざい・おさむ) 1909〜1948。




 (青空文庫)
掌編。知人の娘・キクちゃんが仕事で留守の間、彼女の部屋で原稿を書く私だが、しまった! いけねえ! 泥酔の末、気がつけば彼女の部屋で寝ていた私は、停電で真っ暗の中で、キクちゃんと二人きりの状況に。何事も仕出かさずにすむよう、蝋燭に火を灯すが…。「足袋をおぬぎになったら?」、「なぜ?」、「そのほうが、あたたかいわよ」。若い女を眼前にした男の心理状態が面白く、オチも楽しい。

姥捨(うばすて)』  (青空文庫)
短編。あやまった人を愛撫した妻と、妻をそのような行為にまで追いやるほど、それほど日常の生活を荒廃させてしまった夫──。一緒に死ぬことに決めた夫・嘉七と妻・かず枝は、谷川温泉の杉林で催眠剤を飲むが…。おれは、この女を愛している。どうしていいか、わからないほど愛している。そいつが、おれの苦悩のはじまりなんだ。けれども、もう、いい。おれは、愛しながら遠ざかり得る、何かしら強さを得た。生きて行くためには、愛をさえ犠牲にしなければならぬ──。太宰自身が引き起こした心中未遂事件を題材とした作品。

黄金風景  (青空文庫)
掌編。子供の頃に、のろくさかった女中・お慶をいびり、いじめ抜いたことがある私(作家)。今はすっかり落ちぶれてしまっている私は、二十年ぶりにお慶と再会するが…。「お慶がいつもあなたのお噂をしています」。“敗者”にも前途の光を与える素晴らしき復讐譚。

黄村先生言行録  (青空文庫)
短編。井の頭公園の水族館で見た山椒魚にすっかり魅了された黄村先生。甲府市外の湯村温泉の見世物小屋で、巨大な山椒魚を発見した私は、早速、黄村先生に連絡するが…。「十銭です」、「安いね。嘘だろう」、「いいえ、軍人と子供は半額ですけど」、「軍人と子供? それは入場料ではないか。私はその山椒魚を買うつもりなんだよ」──。黄村先生の座談に対する私の“ツッコミ”が笑える。

お伽草紙 瘤取り  (青空文庫)
短編。厳粛なお婆さんと品行方正な息子に気兼ねしながら暮らす酒好きのお爺さんは、月下の宴に興じる鬼たちに踊りを気に入られ、愛着のあった右頬の瘤を取られてしまう。それを聞いた近所のお爺さんは、邪魔っ気な左頬の瘤を鬼に取ってもらおうとするが…。「お願いがございます。この瘤を、どうかとって下さいまし」。二人の明暗を、人間性の問題ではなく「性格の悲喜劇」として描いて面白い。
お伽草紙 浦島さん  (青空文庫)
短編。冒険心のない旧家の長男・浦島太郎を説得して、竜宮城へ案内する饒舌(しかも毒舌)な亀。飲めや歌えのドンチャン騒ぎなどない、竜宮の鷹揚すぎるもてなしを受けた浦島は、薄布をまとった無口な乙姫から、お土産の玉手箱をもらうが…。年月は、人間の救いである。忘却は、人間の救いである──。「パンドラの箱」と対比させつつ、「不可解なお土産」の「尊い意義」を考察していて面白い。
お伽草紙 カチカチ山  (青空文庫)
短編。狸に復讐した兎のやり方が男らしくないのは当然だ。この兎は無慈悲で悪魔的な十六歳の処女だったのだ。美しく高ぶった処女の残忍性には限りが無い。まことに無邪気と悪魔とは紙一重である──。兎の少女に懸想した三十七歳の中年狸の女難…。「あいたたた、ひどいぢゃないか。おれは、お前にどんな悪い事をしたのだ。惚れたが悪いか」。「カチカチ山」の主題は男と女の性質にあり!
お伽草紙 舌切雀  (青空文庫)
短編。日本一の「桃太郎」を放棄し、日本で一番駄目な男が主人公の「舌切雀」をシリーズ完結として書く太宰。世捨人同然の生活を送るお爺さん(と言ってもまだ四十歳にもならない)への不満と、若い女への焼き餅から雀の舌を切ってしまったお婆さん(今年三十三の厄年)だが…。「私だって何も、洗濯をしに、この世に生まれて来たわけじゃないんですよ」。幸福の非合理を描いた太宰流面白昔話。

女の決闘  (青空文庫)
短編。夫の浮気相手に決闘を申し込んだ妻・コンスタンチェ…。愛してもいない男のために決闘を挑まれてしまった医科大学の女学生…。女同士が拳銃で撃ち合う決闘場面を作家の目で観察する男…。女の恐るべき実体を見てしまった悪徳の芸術家(作家)のその後は?──ドイツの作家・オイレンベルグの原作(森鴎外・訳)を土台にして、太宰独自の視点による解説を交えつつ、太宰独自の描写による小説を書いちゃおうという新しい試み。著者の小説論といったものがちょっと垣間見えて興味深い。 →森鴎外・訳「女の決闘」

佳日  (青空文庫)
短編。北京在住の友人・大隅忠太郎君のために、縁談をまとめることになった私。結婚が嬉しいくせに不機嫌な態度をとる大隅君の困った性格や、結婚相手の小坂正子さんが若くて美人のため、大隅君の薄くなりかけた頭髪を心配する媒酌人・瀬川先生の様子が面白い。「時にどうだ、頭のほうは」、「大丈夫です。現状維持というところです」。慎み深い小坂家の人々も素晴らしく、ラストは感涙。

花燭  (青空文庫)
短編。“男爵”という軽蔑を含んだ綽名で呼ばれている青年・坂井新介。志のない貧しい訪問客たちを、拒否することができず、接待してしまう“好人物”な彼は、実家の女中だったとみと再会する。今は有名女優となった彼女から相談があると言われ…。「あたし、結婚しようかと、思っていますの」、「いいだろう。僕の知ったことじゃない」。卑屈な主人公に勇気と幸福をもたらすオチが素敵に素晴らしい。

家庭の幸福  (青空文庫)
掌編。役人と民衆が議論するラジオ番組を聞いた太宰。役人のヘラヘラ笑いに腹を立てつつ、役人の生活を勝手に空想し、さらには「家庭の幸福」をテーマにした短編小説(主人公の名は津島修治)を案出するのだが…。太宰家のラジオ購入のエピソードが面白い。

貨幣  (青空文庫)
掌編。私は、七七八五一号の百円紙幣です。貨幣を女性に見立てた異色作。巡り巡って酔いどれの陸軍大尉の手に渡った私だが…。ああ、欲望よ、去れ。虚栄よ、去れ。日本はこの二つのために敗れたのだ──。貨幣の視点による人間模様が面白い。ラストは感動。

帰去来  (青空文庫)
短編。中畑さん(五所川原の呉服屋)と北さん(品川の洋服屋)に大変世話になっている私(太宰)。過去の事件が原因で、十年間、津軽の実家に顔出しできない状態にある私のために、帰郷旅行を実行する二人の心意気。「あなたは柳生十兵衛のつもりでいなさい。私は大久保彦左衛門の役を買います。お兄さんは、但馬守だ。かならず、うまくいきますよ」。中畑さんと北さんの人柄が素晴らしい。
→太宰治「故郷」

饗応夫人  (青空文庫)
掌編。犠牲的精神でどこまでも客をもてなしてしまう奥さま(戦争で生死不明になっている大学の先生の妻)。夫の友人・笹島を接待する彼女だが、図々しい笹島は、仲間を呼んで徹夜で酒を飲み、まるで自分の家のように振る舞う。遂に体調を崩してしまった奥さまは、故郷へ帰る支度をするが…。「ごめんなさいね。私、いや、と言えないの」。女主人公の“逆上の饗応癖”が滑稽すぎて悲痛すぎる。

きりぎりす  (青空文庫)
短編。無名画家の男と結婚した私は、貧乏な暮らしがぞくぞくするほど嬉しく、張り合いを感じるのだが…。「死ぬまで貧乏で、わがまま勝手な画ばかり描いて、世の中の人みんなに嘲笑せられて、けれども平気で誰にも頭を下げず、たまには好きなお酒を飲んで一生、俗世間に汚されずに過して行くお方だとばかり思って居りました」。貧乏という生き甲斐を失った女主人公の恨み辛みが何とも面白い。

グッド・バイ  (青空文庫)
短編。もう、この辺で、闇商売からも足を洗い、雑誌の編集に専念しよう。それに就いて、さし当っての難関。まず、女たちと上手に別れなければならぬ──。愛人たちとの関係を清算して、改心しようと考えた色男の田島周二は、鴉声、怪力、大食だが、超美人である担ぎ屋の永井キヌ子に協力を頼むが…。「何も、君、そんなに怒る事は無いじゃないか。酔ったから、ここへ、ちょっと」、「だめ、だめ、お帰り」。漫画チックなぶっ飛びキャラであるキヌ子が魅力的。抜群に楽しいストーリー展開を見せていただけに、未完なのが残念すぎる。

故郷  (青空文庫)
短編。「帰去来」の続編。世話になっている北さん(東京の洋服屋)と中畑さん(故郷の呉服屋)から、故郷の母が重態であることを聞いた私(太宰)は、妻・美和子と娘・園子を連れて、津軽の実家に帰郷する。過去の事が原因で、兄・文治と直接、話ができない、ややこしい状態にある私は、北さんと中畑さんを頼りにするが…。「私は、ただ、あなた達兄弟三人を並べて坐らせて見たかったのです。いい気持ちです。満足です。修治さん(太宰の本名)も、まあ、これからしっかりおやりなさい」──。兄弟水入らずの情景に感動を覚える。

佐渡  (青空文庫)
掌編。何しに佐渡へなど行くのだろう。自分にも、わからなかった。新潟の高等学校で講演をしたついでに、前から気がかりになっていた佐渡へ立ち寄ることにした私(太宰)。佐渡は淋しいところで、何も無いとわかっていながら、見物の心理で、のこのこ佐渡までやって来た私だが…。人生とは、見てしまった空虚、見なかった焦燥不安、それだけの連続。何も起らないところが面白い、そんな旅行記。

斜陽  (青空文庫)
長編。日本で最後の貴婦人だった美しいお母さま…、貴族の血に反抗し、麻薬に溺れ、酒に溺れる弟・直治…。「私ね、革命家になるの」。道徳に反し、小説家・上原の妾になる事を望むかず子…。「しくじった。惚れちゃった」。ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ──。没落貴族の末路を描く。

女生徒  (青空文庫)
短編。あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い──。母と二人暮しの主人公の少女の起床から就床までの一日。可哀想な犬・カアにわざと意地悪してしまったり…、図画の伊藤先生の絵のモデルになったり…、厚かましい今井田夫婦を嫌悪したり…。──幸福は一夜おくれて来る。幸福は、──。多感な女学生の心情を瑞々しく繊細に描く。

 小杉先生のお話は、どうして、いつもこんなに固いのだろう。頭がわるいのじゃないかしら。悲しくなっちゃう。さっきから、愛国心について永々(ながなが)と説いて聞かせているのだけれど、そんなこと、わかりきっているじゃないか。どんな人にだって、自分の生まれたところを愛する気持はあるのに。つまらない。

女類  (青空文庫)
掌編。新橋のおでん屋のトヨ公のおかみに惚れられた僕(二十六歳の青年・伊藤)だが、郷里の先輩である作家の笠井健一郎氏に、何度も馬鹿野郎と言われ、面罵されてしまう…。「僕はね、人類、猿類、などという動物学上の区別の仕方は、あれは間違いだと思っている。男類、女類、猿類、とこう来なくちゃいけない。全然、種属がちがうのだ」。男類という生き物が一番、愚かだということです(悲)。

 (青空文庫)
掌編。戦地で肺病になり、伊東で療養する加藤慶四郎君。射的場の娘・ツネちゃんが、色男と出来ちゃったという噂を聞いた彼は、ブリキの雀を狙って射的をするが、彼女の膝を撃ってしまう…。「雀じゃないわよ」。戦地の宿酔から醒める男の姿を描いた反戦的小説。

正義と微笑  (青空文庫)
長編。
「微笑もて正義を為(な)せ」
“このごろの自分の一日一日が、なんだか、とても重大なもののような気がして来た”ため、日記をつけ始めた俳優志望の十六歳の少年・芹川進(せりかわ・すすむ)。

旧制中学四年の僕(進少年)は、一高の受験に失敗し、ひどく絶望するが、キリスト教系のR大に合格し、晴れて大学生に。しかし、大学生活に幻滅を感じた僕は、“いつのまにやら、きまっていた、将来の目標”である“俳優”になるため、いよいよ劇団の試験を受けることに…。

 「僕もずいぶん考えたんですけど、弟は、ひどく苦しくなると、きまって、映画俳優になろうと決心するらしいんです。子供の事ですから、そこに筋道立った理由なんか無いのですが、それだけ宿命的なものがあるんじゃないかと僕は思ったんです。気持の楽な時、うっとり映画俳優をあこがれるなんてのは、話になりませんけど、いのちの瀬戸際になると、ふっと映画俳優を考えつくらしいのですが、僕は、それを神の声のように思っているのです。そいつを信じたいような気がするんです」 

直面する出来事に苦悩し幻滅しながらも、弟思いの優しい兄さん(小説家志望の帝大生)や、「ひとりでやれ!」と一喝する劇作家・斎藤市蔵先生たちに支えられ、目標に向かって積極的に努力していく少年の姿を、明るく正しく“ユウモラス”に描いた感動の成長物語。

九十九里浜での兄弟の会話や、劇団の面接の様子など、どの場面も素晴らしく印象深いのだが、中でも、“姉の離婚騒動”を進少年が見事に解決するエピソードが、良質な推理小説を読んでいるようで、素敵に心温まる。

数々の名文句が登場する本作の中から、特に印象に残ったものを以下に抜粋してみました。

「日常生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ」

「学校っていやなところさ。だけど、いやだいやだと思いながら通うところに、学校生活の尊さがあるんじゃないのかね」

「お前は、日記をつけるために生活しているのか?」

「まじめに努力して行くだけだ。これからは、単純に、正直に行動しよう。知らない事は、知らないと言おう。出来ない事は、出来ないと言おう。思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところらしい。磐(いわ)の上に、小さい家を築こう」


清貧譚  (青空文庫)
短編。菊作りが好きな貧乏人・馬山才之助は、旅の帰りに知り合った少年・陶本三郎とその姉・黄英に納屋を提供する。清貧にこだわりすぎる才之助は、菊を売って金儲けする三郎と意見が合わず、絶交してしまうのだが…。「天から貰った自分の実力で米塩の資を得る事は、必ずしも富をむさぼる悪業では無いと思います」。蒲松齢の怪異小説「聊斎志異」の中の一編を太宰流にアレンジした作品。

惜別  (青空文庫)
長編。
これは日本の東北地方の某村に開業している一老医師の手記である──。
仙台医専の同級生で、清国留学生である周樹人(魯迅)と松島で出会い、仲良くなった私(田中卓)。清国の現状や周さんの生立(おいたち)などを聞いた私は、彼の救国の信念に大いに感心する。

周さんの勉強を熱心に指導する恩師・藤野先生の人柄…、周さんをスパイだと疑うおせっかい焼きの東京人・津田憲治や、藤野先生が添削する周さんのノオトを試験問題の漏洩だと誤解する田舎ダンディ・矢島との交友…、所謂「幻燈事件」がきっかけで医学から文学へ転身したとされる魯迅の方針の変化の解釈など…。

「そうだ。僕は、やっとあの哲学が体得できました。帰国して、僕はまずあの民衆の精神の改革のため、文芸運動を起します。僕の生涯は、そのために捧げてしまうのです」。

中国の文豪・魯迅(ろじん)の仙台留学時代を、太宰らしい明るい文体で描いた感動作。→魯迅「藤野先生」 →太宰治「雪の夜の話」

誰も知らぬ  (青空文庫)
掌編。女学校時代の友人・芹川さんが、慶応出の文学青年と駆け落ちした。心配して訪ねて来た芹川さんの兄さんからそのことを聞いた私だが…。私をこのまま連れていって逃げて下さい、私をめちゃめちゃにして下さい──。一瞬間の恋のときめきを描いて鮮やか。

断崖の錯覚  (青空文庫)
短編。大作家になる素質がないことに絶望した虚栄の青年。ある新進作家の名をかたって、海岸の温泉地にやって来た私は、“愛読者”である喫茶店の少女・雪に恋をするが…。「僕は君みたいな女が欲しくて、小説を書いてるのだよ。僕は、ゆうべ初恋の記という小説を書いたけれど、これは、君をモデルにして書いたのだ。僕の理想の女性だ」──。他人の名をかたることの功罪を描いた犯罪小説。



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