次の日は朝 8時31分発の列車に乗り、隣の藪原駅へと向かった。この藪原と奈良井の間には鳥居峠という峠がある。「旧中山道屈指の難所として知られる」 (広辞苑より)らしいが、宿の人によると「2時間くらいで歩けますよ」とのこと。ということで、連日山歩きをしているにもかかわらずまた山登りすることとなった。
峠の入り口に差し掛かるあたりで、先生がおもむろに鈴を取り出す。なんとここではよく熊が現れるとのこと。そこで熊よけ用の鈴である。チンチロリンとなんだか情けない音を立てながら狭い山道を歩いてゆく。途中熊よけ用の大きな鈴が置いてあったらしいが、悪い人が持っていってしまったのかなくなっていた。
歩いているうちにだんだんと周りに生えている木が変化してきた。はじめはカラマツ、頂上付近はシラカバ、そして最後はトチノキといった風に。シラカバがあるということは、ここは相当寒いのだろう。
ちなみにトチノキはここの名物で、栃の実せんべいなどの名菓がある。食べ物類の少ないこの地域では、貴重なお土産品である。
やっとの思いで頂上に到着すると目に付くのが大きな石の鳥居である。鳥居峠の名はここから来ている。神社の脇には仏像がずらりと並ぶ。私のような愚か者は夜肝試しやったら怖いだろうなあくらいにしか考えないのだが、神社に仏像というのも日本ならではの光景なのだろう。ちなみにここは、14台将軍家茂に嫁いだ皇女・和宮も参拝したところらしい。
このあたりには御岳(おんたけ)信仰というものがあり、この神社ではよく酒を飲んで月を見るという行事が行われたそうで、ビール瓶が何本か置いてあった。そういえば境内は案外広くできている。100人くらいは大丈夫そうだ。
ここから先は下り坂で楽な上に、この時期では見事な紅葉が楽しめる。ちょろちょろと流れる小川と赤色のもみじが織り成す風景はまるで一枚の絵の様である。やはりこれは江戸時代の人々が、「木一本、首一つ」として子孫に美林を残そうとした努力の賜物であると思う。先人やここの手入れをしている人たちに、感謝!
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▲鳥居峠に至る道
▲最近建てられた休憩所
▲鳥居峠の大鳥居
▲木曽路の楽しみ
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