◆伊那盆地を走る飯田線┃岡谷→飯田 |
先述のとおり、私の乗った飯田線電車は、岡谷発豊橋行きという、実に6時間もかけて走る長距離列車である。今ではどんなに地方に行っても短距離列車ばかりで、これだけ時間をかけて走っているというのは非常に貴重な存在であろう。
3両の短い電車は、岡谷を出ると川岸、辰野と停まる。ここまでは中央本線で、本当の飯田線の旅はここから始まる。このあたりは盆地のためか比較的平らなところをゴトゴトと走っていく。
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▲なんとなく撮ってみた駅
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遠くには南アルプスの美しい山が申し訳程度に拝めるが、田んぼ、山、家並みの単調な風景が続いていく。このあたりではまだまだ住宅の数は多い。途中伊那市や駒ヶ根などの大きな駅で、乗客の大半が入れ替わる。
飯田線はもともと4つの私鉄が別々に建設した路線である。それが国有化されて飯田線となったわけだが、そのためか駅間距離が非常に短い。総延長205kmのところに100駅近くあるのだから、ものすごく時間がかかるのも当然。少し走っては停まり、また停まりを繰り返しながら、のんびりとした時間が過ぎていく。
……と思いきや、すごく忙しそうにしている人がいる。それは車掌さん。2駅ごとくらいに全車両を検札しながら往復している若い車掌さんを見ていると、あんまりくつろいでいてはなんだか少し申し訳ない気分になる。
岡谷を出てから2時間、ようやく赤い屋根の飯田駅に到着する。ここでは7分停車し、その間に後ろ1両を切り離して2両編成となる。しかしまだ飯田線の旅は半分も終わっていない。どこまでも「雄大」な路線である。
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◆列車は山の中へ┃飯田→中部天竜 |
飯田を出てもしばらくはこれまでとあまり変わらない風景が続く。飯田から2つ目の鼎(かなえ)駅は願いが「かなう」にかけてお守りなどが発売されているらしいが、見た目は普通の住宅地の駅。木造駅舎が残る時又駅を過ぎ、列車は天竜峡に到着する。ここからは本当に山の中へ入っていく。
天竜峡では多くの人が下車し、列車はますますローカル色を深めていく。天竜川と山々の間を縫うように走る。山の裾野を申し訳なさそうに通り、トンネルが多くなってくる。時々落石かなだれ用のシェルターをくぐったりもする(おおコワ…)。
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▲飯田線の電車
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次第に空には夕暮れが広がり始めた。山と山の間を走る飯田線の周りは暗くなる。車窓に映るのは山の黒と空の橙、そして天竜川の悠々たる流れのみである。
ところで、当ページと相互リンクさせていただいているサイト「
秘境駅へ行こう!
」(管理人:うっしーさん)では飯田線の“秘境駅”(田本、小和田など)についてもいろいろと掲載されているので、興味のある方はぜひ参考になさるといいかもしれません。
列車は長野県から静岡県へと入る。赤い橋が見えてくるとまもなく中部天竜駅に到着する。と、そこには数多くの旧型車両が!ここがいわずとしれた「佐久間レールパーク」である。
佐久間レールパークは、中部天竜駅構内の留置線に現役を引退した懐かしき車両たちを「動態保存」しているところである。すなわち普通の鉄道博物館とは違い、ここの車両たちはまだ走ることができるのである。飯田線の「トロッコファミリー」号などがその代表。相当古いはずの車両たちだが、かなりきれいに整備されているのはここの職員の方々の力であろう。
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◆暗闇を抜けて…┃中部天竜→豊橋 |
中部天竜を出たあたりで、日没となったらしく車窓は夜の様相を呈し始めた。静岡県から愛知県に入ると、飯田線の旅ももう終盤である。長篠の合戦で有名な本長篠駅ではかなりの乗降があり、車窓は空の明るさに代わって町の明かりが目立ち始める。
17時53分に新城駅に到着すると、特急伊那路の待ち合わせのためしばらく停車する。乗客の乗り降りは少なく、夜の帳の中を静かな時間が流れる。単調な音を残して走り去った特急の後で、私の乗った列車は静かに走り出した。
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▲なぜかすごく大きく見えた豊橋駅
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旅の終盤にさしかかり、車内は落ち着いた雰囲気に満ちていた──が、さっきから一人の老人が、少し後ろの通路の真中でなにやら前方を見つめている。私もこっそり見てみたが別に変わったところはないが、妙に怪訝そうな顔をしているのも怪しい。べつに前に面白いものがあるわけでもないのに…。顔をあわせるのは気まずいので真っ暗な車窓を眺めてみるが、って、いつまでみてるんだっ!(笑) それから10分ほどしてその老人はようやく席についた。しかし……
少々うたた寝をした後ふと前方を見ると、ブラジル人と思しき男性が通路の真ん中でなにやら後方を見つめている。妙にうれしそうな顔をしているのも怪しい。なるべく目を合わせないように車窓を眺めようとするが、なぜこうも意味もなく何もない空間を見つめる人間がおおいんだっ!?窓に映る彼の表情に気をとられて、他のことをする余裕もなかった・・・(´д`;)
そんなこともありつつも、夜7時前にようやく終点豊橋に到着。さっきのブラジル人が駅の改札を後にして街の灯りの中に消えていった。ともに降りた多くの乗客たちの間を歩きながら、彼の無性にうれしそうな表情を思い出し、なぜだかこっちまでうれしくなってきた。
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- 今回の旅の経路 -
横浜→(東海道本線)→小田原→(東海道新幹線)→三島→(東海道本線)→富士→(身延線)→甲府→(中央本線)→岡谷→(飯田線)→豊橋
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