第二話 「CINEMA」
タナカ村にはテレビが一台しかなかった。
そのたった一台のテレビは私たちの滞在するマノ家の倉庫にあった。
大きな南京錠をぶらさげ、鎖でがんじがらめ、おもりまでかけられていた。
宝というよりは囚われの身のような痛々しい姿だった。
「シネマですよ」
のっぽ(イタリア人)とガイドは映画をシネマと言った。
毎晩 7 時位になるとどこからともなく村人がその倉庫に集う。
タナカ村のビデオ上映会のはじまり、はじまり。
床にはゴザが敷かれて皆膝を抱えて座る。
後ろのほうは画面が見やすくなるように木か何かを置いていたような。
いや、それはただの気のせいだ。
なぜなら見ていた者のほとんどが子供達で、無条件に私達の座高が高かっただけ。
吹き替えも字幕もないすっかり褪色してしまった映像。
1人の女性をめぐって男達が争うが、大戦が始まりそれぞれの運命も時代の波に翻弄されるといういたってシンプルなストーリー。
そう、上映されるのはのんきな映画ばかり。
現代社会で屈折しきっている私には退屈だった。
横ののっぽも生あくび。
 | 「シネマに行きましょう」
毎晩ガイドが誘う。
「ゴメン、ねむたい。」
マンダレーに住むガイドの家にはテレビがない。
日本中が「力道山」に夢中だったころ、
街頭テレビに黒山の人だかりができたという映像をみたことがある。
私はテレビのある時代に生まれたから、その映像をみても遠い国の話のようで、なんの感慨もわかない。
しかしガイドがタナカ村の
「シネマ」
を懐かしく思う日を想像することもできない。
そんな昔の事も、そんな未来の事も。 |
続く、、、。
written by ザジゴン |