このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

ニコイ高原の遊歩道③


 
⑤ 暗闇のダンジョン






ふぅ…。
ちょっと落ち着こう…。

私は大きな発見があると、一旦振り返って撮影する習性があるが、この時はまさにその時であった。
まさかこんな場所に隧道があろうとは…。
さて、もう一度振り返って隧道と見合うんだ。




うん、間違いなく隧道だ。

橋を渡った直後、遊歩道は直角に曲がり、この隧道に吸い込まれる。
断面は狭く、人が二人並んで歩ける程度。
コンクリートで固められたシンプルな坑口。
銘板など、隧道の名前を示すものは存在しない。

ここでは便宜的にニコイ隧道と呼ぶことにする。

リュックの中に入ったヘッドライトを装着し、ゆっくりと進入する。





いきなりこれかよ!!

コンクリートで綺麗に化粧された、涼しい顔で私を迎えてくれたのは、あくまで表の顔だったのだ。
入った直後、そんな化粧も剥ぎ落し、素顔をむき出しにするニコイ隧道。

じわじわと崩壊が進んでいるのか、足元には岩がゴロゴロと転がっている。







隧道のお肌から剥がれおちた角質を踏み越えて進む。

向こうの光が見えないが、閉塞しているのであろうか…?
それとも…。
もう一つの可能性が頭に浮かぶ。





その予感は当たっていた。
隧道はカーブしていたのだ。
左へ、つまりニコイ大滝の方角へと、ゆっくりとカーブ…。

崩落多発地帯は脱したらしく、一旦足元は安定したものとなる。
それでも当然舗装など、洒落た処置は施されていないため、前方と足元を交互に照らしながらの慎重な歩みとなる。





狭隘、素掘、カーブ…
怪しい要素が詰まった隧道で、私のテンションもどんどん上がるばかりであったが、この隧道はまだまだこんなもんではなかった。


カーブの先に見えたもの…。
私は目を疑った。

え!?あれはまさか…。













か…かか階段だとぉっ!?

暗闇の中で、一人鼻血を吹きそうになった。
ゆっくりと左へカーブしながら、かなりの角度で登っている。
何なんだ?この隧道は…。
一体どこへ向かおうとしているんだ?

ちなみにやや右側に写っているコードのようなものは、照明に電気を送るためのものらしい。







物凄い勢いで上る階段。
所々段差が欠けており、慎重に登ってゆく。

一段一段登りながら、私の思考はネガティブな方へと向かっていた。

これ、鉱道の類じゃないだろうな…。
だったら深入りはしない方がいいよなぁ…。
分岐が現れたりしたら、引き返そう…。

どこまでも登り続けそうな階段も、しばらく進むと終焉を迎える。





階段が終わっても、まだ登り続ける。
かなりの勾配だ。

さらにこの辺りでは、天井から水が滴り落ちており、私はカメラを守りながら進んだ。
頭に落ちた水はハーブのような匂いがしたのだが、何なのであろうか?
得体の知れない液体を浴びながら進むのは、気持ちの良いものではない。

写真からも分かるとおり、先ほどまでは左にカーブしていたのであるが、ここからは右カーブ。
方向感覚が狂ってきた。





もし、ここが観光地になっていたならば、この照明も煌々と光っていたのであろうか。

ただ、この明かりがついていたとしても、鉱道に見えることには変わらないと思われる。
ここをリゾートと呼ぶに相応しいものにするならば、かなりドギツイ厚化粧が必要となろう。







右にカーブした隧道は、再び右へ。
もう体内磁石(もともとそんなに性能の良いものではないが)は悲鳴を上げ始めた。
このまま私をどこへ導こうというのか、ニコイ隧道よ。





右にカーブしたところで、再び階段。
先ほどの階段とは違い、直線で、短い。
さらに、傾斜は緩く、一段一段の広さも余裕がある。
その先は行き止まりになっているのか、カーブしているのか、壁となっている。

隧道の行く末が気になり、私は先ほどよりゆったりとした階段を一気に駆け上がった。





階段を登りきったところで、隧道は左に90度折れており、そして間もなく出口を迎える。

入口付近に岩石が積もっていたため、どこかで閉塞している可能性は決して低くなかったのであるが、結局あの場所の他に派手に崩れている箇所は見当たらなかった。

それより、隧道を出たところには何があるんだ?
小走りで出口へ急ぐ。







入口と同じように、出口側も一部分だけコンクリート巻き。

肝心の出口。
その先には、どうやら橋のようなものがあるようだ。
それを渡った先には斜面…。








ニコイ隧道を抜けた先は、小さな沢を渡る小さな橋。
そんな沢沿いの崖に、ニコイ隧道はその口をぽっかり開けていた。



橋の上から、沢の下流方面を眺める。
沢のゆったりとした流れ、さらにその先に視線を移すと…空だ。
両脇から迫る崖は途中でなくなり、その先には何も無い空間が見えている。
そこが滝の落ち口なのだ、すなわち・・・。

ここはニコイ大滝の真上なのだ!!!!

螺旋階段のような隧道を通り、私はニコイ大滝の正面から、落ち口へと導かれたことになる。





沢の下流方面から、右岸側へ視線を移すと…。

穴じゃねぇか!!!!

この期に及んでまだ隠し玉を出そうと言うのか?
ニコイめ、底が知れねぇ!!
橋から穴への道はほぼ消えていたが、カモシカのように斜面を這い上がり穴のもとへ。







怪しすぎる。

今はなくなっているが、元々は扉があったのだろう。
もしかしたら施錠されていたのかもしれない。
扉の枠には「火気厳禁」の文字。
扉の奥はいろいろな物が放置され、乱雑とした様子。

こりゃあ…。
本気で入りたくないな。





奥を覗いてみると、高さがある洞床。
そして低い天井。
したがって、這わないと進入出来ないほど狭い。

絶対嫌だ。

どこまで続いているのか分らないし、下手すると方向転換もできないかもしれない。
さすがにこんな穴は入れない。



二つ目の穴から見た、ニコイ隧道と橋。

この先へ進まないと、ニコイ隧道の存在意義も分からないのかもしれない。
…と私はこの時思ったのであるが、この先には進めなかった。
ニコイ大滝を拝めただけで満足だったのに、こんな怪しい隧道を通れたので、今日はお腹いっぱいだったのだ。
恐ろしくて進めなかったというのが一番大きな要因であるが。

探索二回目にして、ようやくニコイ大滝、廃橋、そして思いがけず隧道まで発見した私は、深い満足感とともに、再びニコイ隧道の闇の中へ踏み込んでいった。




帰宅後のネットによる調査にて、興味深い情報を知った。
その情報は「 NTC洞窟探検隊 」様の ニコイ洞の紹介のページ に記されていた。
気になる情報を抜粋してみた。
下記のとおりである。

——洞窟にたどり着くためには草むらにはいり、 古びた滝見橋をわたり、
——崩壊しそうな手彫りのトンネルを抜ける必要があります。

「NTC洞窟探検隊」様より抜粋

第一章の冒頭部分で少し触れたが、ニコイ高原には鍾乳洞も存在する。
その鍾乳洞へのアプローチ路として、隧道が掘られた…ということであろうか。

また、「 タンナカ高原(田中高原) ニコイ高原 」様における 鍾乳洞紹介のページ には以下のような記述がある。

鍾乳洞の入り口から少し下流に、ニコイトンネル(仮名)があり、 そのトンネルを抜けるとニコイ大滝に出ます。
「タンナカ高原(田中高原) ニコイ高原」様より抜粋。

この文から、私はある可能性を考えた。
このサイトの筆者様は、私と逆ルートを辿って、ニコイ大滝へと至った。
つまり、滝見橋を通らずとも、鍾乳洞へ辿りつく道があるのではないだろうか。
…ということは…この遊歩道は市道から滝見橋、ニコイ隧道、鍾乳洞を経由して、再び市道へ戻るという周遊路だったということか?

ご存じの方がいましたら、教えていただければ幸いであります。


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