このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
○製造元:浜嶋酒造(資)
大分県大野郡緒方町
下自在381番地
○度数:25度
○原材料:酒粕
○製品の特徴:無濾過瓶詰め。
まろやかな飲み口。
レッドブック度:現存
■当該銘柄について
大分県大野郡緒方町。地理的には大分県の南西部に位置し、町の南部には大分県と熊本県、宮崎県を隔てる“天嶮”祖母・傾山系を望む。共に登山家にとっては昔から魅力的な山で、標高は1756m、1602m。連なる岩峰へのアプローチは本格的な登山技術を要する箇所もあるとか。また、標高を経るに連れて変化していく植生、ニホンカモシカ等、既に九州では絶滅したと言われているツキノワグマの目撃例があったりと非常に自然色濃い。そういえば、2000年に世間を騒がせたニホンオオカミの目撃情報があったのもこの山系であった。
このようなことを書くと、緒方町は山山山・・・な町であると思われるかも知れない。しかしながら『東洋のナイアガラ』と称される原尻の滝がある緒方川の流れは古くから流域に恵みをもたらし、豊富な水と土壌・気候条件などの複雑なファクターが絡み合って、“緒方五千石”と言われるように大分県でも古くからの米所であった。
“
浜嶋酒造合資会社
”は原尻の滝より近い。明治22年創業の銘醸蔵で、大正3年には九州連合品評会で1等になっている。しかしながら近年は造りを行っていなかった時期があった。5代目の浜嶋弘文専務がサラリーマン生活を辞め蔵へ入った後、18年ぶりに自家醸造を再開してからは、レギュラー銘柄“
金鷹
”よりも“
鷹来屋 五代目
”を醸す蔵として知名度は既に全国区だ。
蔵自体も茶房を併設し、地域外の人々を気持ちよくもてなすだけでなく、集落の人にとっての交流の場としても機能しているようだ。蔵の2階にはギャラリーが置かれ、アーティストがそれぞれの個性を輝かせている。
さて、この“
富源
”。
石原けんじ大佐先生
のプロデュースによる
日向マターリ隊の蔵元見学
により、“籾殻を混ぜて通気性を確保した後に庭先で蒸留をする”という古い製造法を踏襲することが明らかになった銘柄である。製造量は地元流通量である500本ほど。蒸留後、25度に割り水し、無濾過で瓶詰めする。
そのため、透明の瓶に詰められた液体は白濁している。何も知らない人にとってはショックの外見であるが、その味はいかに!?
■ボトルデザイン
クリーム地にブルーの帯のラベルと、グリーンのキャップが美しい。“
FUGEN−SHOCYU
”、“
粕取焼酎
”という表記に私の懐古趣味はくすぐられてしまった。
ラベルのクリーム色の部分であるが、単なるキャンバスと思われがち。しかしながらよく見てござれ。珊瑚に巻物に宝袋、そして大判小判がザックザクである。この焼酎を飲めばお金持ちになれる。まさに『
冨の源
』だ。
■香り
まさに正調粕取り焼酎。「
粕取り焼酎を濾過すると機械を他の酒の濾過に使えなくなる。
」という蔵元のお言葉は、飲み手にとってこの粕取り焼酎が取っ付きにくい酒であることを表していると思う。ただし、そのような香りも慣れてしまうと心地よくなるから不思議な物だ。
■味わい
当然だが、コップに注ぐと白濁している。外見や香りの高さに風味もやはりハードなものなのでは?と思ってしまったが、実は全く異なっていた。穏やかなのである。静かで奥深い風味なのである。原料として使われる中吟以上の酒粕のせいなのか、まさに甘露といってもはばからない仕込み水に使用している軟水のためなのか・・・。なお、毎年毎年の造りによって微妙に酒質は変わるらしい。使用する酒粕の割合などによるらしいが、こういったことは地の酒にとっては切り離せない重要なファクターであると個人的に考える。
緒方町には特産であるさといも、コンニャク、しいたけを猪肉と緒方味噌で炊いた“さぶろう鍋”という郷土料理があるが、是非ともこれを食べながら一緒に飲んでみたい。
■レッドブック度
流通範囲は地元緒方町から大野町の一部と非常に狭い範囲の流通である。また、若い人たちには受け入れがたい性質のため、高齢であった飲み手も更に年を重ねて行く。このように行く末はあまり明るいとは言えない。しかしながら、弘文専務は力強く言った。
「地元に飲んでくれる人がいてくれるなら、この酒は造り続けますよ。」
非常に嬉しくてならない。
カテゴライズは当然ながら『
現存
』としたい。粕取り焼酎といえども酒粕もろみ取りが主流の中で、壊滅的となった“古くからの造り”を守り続ける貴重な蔵元である。周辺の集落と共にあり続ける酒。末永く愛されんことを願う。
(04.06.25)
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