このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

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ジョバンニとカムパネルラ


カムパネルラはジョバンニを照らすひかりのようなものです。

銀河鉄道に乗ったばかりのジョバンニはカムパネルラに
考え・行動においてほとんど共鳴しています。

けれど、船が沈没して第四次銀河鉄道に来た青年・少女達が乗り合わせたあたりから、
少女と仲良くなるカムパネルラとの間に溝を感じるようになります。

その溝はジョバンニがカムパネルラと離れた自我を確立し、
自分も少女と仲良くなることでうまります。

青年と〔ほんとうの神さま論争〕をすることで、
自分で考え自分の意見をはっきり言えるようにもなりました。

それぞれが自分の道を進むなかで、
時にお互いの信念(正しさ)がぶつかりあってしまうことも学びました。
違う道を選んだために離れなければいけないさびしさも味わいました。

けれどカムパネルラとならどこまでも行けると思っています。


「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもう
あのさそりのようにほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかま
わない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」
ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。

 (4稿 九、ジョバンニの切符 〜サザンクロス出発後カムパネルラとジョバンニが二人っきりで話し合う場面


そのカムパネルラとも決別の時が来ます。


「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」カムパネルラが少しそっちをさけるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな穴がほとんどあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが云いました。
「僕もうあんな大きな暗のなかだってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」カムパネルラは俄かに窓の遠くに見えるきれいな野原〔注:あくまでカムパネルラの目線〕を指して叫びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやりしろくけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。なんともいえずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向こうの川岸に二本の電信ばしらがちょうど両方から腕を組んだようにあかい腕木をつらねて立っていました。

 (4稿 九、ジョバンニの切符 〜ジョバンニとカムパネルラの会話


ジョバンニとカンパネルラが見るコールサック。

これは南十字の下にある暗黒星雲です。
真っ黒ですがブラックホールではありません。

夜空のなかで一番くろい部分で小さな恒星が集まっているから黒く見える。
肉眼で確認できる星がない。けれど星はあります。

けれどジョバンニには星は見えません。
まっくらで見えないことにジョバンニはぎくりとします。

そして、カムパネルラの言う野原もジョバンニには見えません。


「カムパネルラ僕たち一緒にいこうねえ。」ジョバンニが斯う云いながらふりかえって
見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見え
ずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニはまるで鉄砲玉のように立ち
上がりました。そして誰にも聞こえないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱい
はげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉いっぱい泣き出しました。もうそこらが一ぺん
にまっくらになったように思いました。

 (4稿 九、ジョバンニの切符 〜カムパネルラとの別れ

この別れはカムパネルラと同化していたジョバンニのひとり立ちであり、
死で別たれたほんとうの意味でのカムパネルラとの別れとなります。

けれどジョバンニはカムパネルラが亡くなったことをまだ知りません。
ここは、あくまでも精神的な決別です。

カムパネルラという自分を照らすひかりがなくなったあと

1・2稿では
「さあ、やっぱり僕はたったひとりだ。きっともう行くぞ。
ほんたうの幸福が何だかきっとさがしあてるぞ。」
とジョバンニが決意するところで物語は終わります。

3稿では、
泣いているジョバンニの前に「やさしいセロのような声」を持ったブルカニロ博士が現れます。

「おまへはいったい何を泣いてゐるの。ちょっとこっちをごらん。」

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