このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


〜思いでの航路シリーズ Ⅳ〜

甲子園フェリー
(津名〜西宮)
(平成10年8月31日航路廃止)

津名港にて むこがわ(左) あわじ(右)

 淡路島と阪神地区を結ぶこのルート。似たような航路を持っていた淡路フェリーは大橋開通と同時に廃止されたが、こちらは明石海峡大橋開通後も終日運航を続けていた。
人は0円! 津名港にて
 この航路の「売り」は何と言っても、「人は0円?」だったと言えるだろう。自動車航送料金には普通、運転者1名の2等運賃のみが含まれていることになっているが、甲子園フェリーでは4月1日から、「運転者と同乗者の運賃を含む」としたのだ。これは、定員までなら何人乗っても航送料金は同じ、と言うことになり、大人数で乗れば乗るほどおトク!ということだ。車に乗り合わせて淡路島を目指そうという人にとってはありがたい制度だったと言えるだろう。それはさておき。
 私が利用したのは、夕方の西宮行きだった。港にはすでに車が列をなし、料金ゲートでは渋滞まで発生していた。大橋開通前程ではないが、かなりの盛況ぶりが伺える。これだけを見ている限りでは、橋の影響は全くないのではないだろうか、と思ってしまう位だ。
 話は飛ぶが、淡路島を発着するフェリーでは、料金を港入口のゲートで支払う形の航路が多い。廃止された淡路フェリーもそうだったし、明石海峡フェリー、大阪湾フェリー、そしてこの甲子園フェリーもそうだ。阿那賀〜亀浦航路(大鳴門橋並行航路。平成8年10月廃止)以外の航路は全て、料金ゲート方式を取っている。船内徴収方式の船は何度か乗ったことがあるが、ゲート方式は淡路島以外では今のところお目にかかったことはない。この島だけにこれだけ集中しているのも、何か理由があるのだろうか。それはさておき。
 十台ほど並んだ乗船待ちのバイクを見て、陸上作業員が「少ない」という。聞けば、前の便では45台が乗り込んで行ったそうだ。団体が来たわけでもないが、天気のいい休日の午後はそういうこともあるらしい。「淡路フェリーさんがなくなったからね」と言っていたが、それはともかくとして、橋が出来てもフェリーを選ぶ人がいるということは、フェリーファンとして非常に嬉しく思った。
 接岸した船から車が降りてくる。数台が走り出してきただけで、いきなりバイクの乗船が始まった。拍子抜けするくらいに少ない車の数だった。これではいくら帰りの船がいっぱいでも、経営は苦しくなるのではないだろうか。
 車と人を満載にして出航。この船は、カーペット室と座席室が別れており、さらには売店やスナックコーナー、ゲームセンターまでもがある。航行時間2時間弱の航路とはとても思えない充実ぶりだ。もっと質素な船にして、その分経費を抑えてみては……、などと、よけいなことをつい考えてしまった。
明石海峡大橋遠景
 ビールを飲んで一眠り。すっきりしてからデッキに出ると、西には明石海峡大橋が見えた。大型船が小さく見えているのに、橋はかなりの大きさに見える。やはりこの橋は大きい。夕方は夕陽がじゃまで見えにくいが、それでもふたつの陸地の間をしっかりと結んでいる橋の形は見てとれた。
 東へ回ると、関西空港が見える。よく見ると、飛行機が離発着しているのも見ることが出来る。東側は、関西空港から大阪市内までの大阪湾沿いが一望出来る。なかなかの眺めだ。
船中海だらけ?
 船は徐々に西宮へと近づいていく。大阪湾奥に入っていくにつれて、船の数が多くなってきた。最初のうちは離れているように見えていたが、段々と間隔が詰まってきて、ついには限界一杯まで近づいているのではないか、と思うくらいになってきた。「船中海だらけ」と言った感じだ。このような中をよく運航しているな……、と、妙に感心してしまった。
 そろそろ暗くなろうとし始めた頃、西宮港に到着。駐車場には車の姿はほとんど見られなかった。やはり、片道だけしか賑わっていないらしい。西宮港が賑わうのは、休日の朝だけなのかも知れない。橋というものの持つ強さ、フェリーの持つ弱さが見えてきたように思えた。
 このような必死の努力にも係わらず客足は伸びず、大橋開通後わずか5ヶ月での航路廃止となってしまった。これによって、京阪神地区と淡路島を結ぶフェリーは、明岩フェリー(明石〜岩屋)と、大阪湾フェリー(泉佐野〜津名)の2航路のみとなってしまった。大橋直下の航路が残り、少し離れた所にある航路が廃止に追い込まれるというのも不思議なことだ。
 大阪に住んでいる私にとって、また淡路島が遠くなった。かつては淡路フェリーも運航されており、自転車や原付でも気軽に渡れたはずの島なのに、今や原付二種以下のバイクやタンデム、自転車利用者にとっては、見えるところに浮かんでいるのに遙か彼方の、手の届かない存在となってしまっている。この上明岩フェリーがもし廃止されたりでもしたら、「兵庫県から原付や自転車で渡れない兵庫県」という奇妙な地域が出現してしまう。このような異様な事態を避けるためにも、フェリーを守ることを考えなくては、と思った。

 間近に見える淡路島
かすかに見える 明石海峡大橋
「人は0円」 車に賭けた 船乗り達の夢が今
5ヶ月間の奮闘虚しく終わりを告げる
がんばってよく闘った
胸を張って陸に上がって欲しい
また少し 淡路島が遠くなる
5ヶ月の熱い舞台の名前をいつまでも心に
甲子園フェリー 終幕を下ろす汽笛が遠く聞こえる


MEMORIAL data
運航開始昭和46年11月26日
運航区間西宮港〜津名港(53㎞)
所要時間1時間55分
運  賃大人2等……930円
バイク(750cc未満)……2,820円
乗用車(4m未満)……4,500円
乗用車(5m未満)……5,560円

平成10年8月31日 明石海峡大橋開通の影響により航路廃止



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