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山間部袋小路の過疎地で苦しむローカル第三セクター鉄道 TAKA 2007年04月11日 私も社会人になり早10年以上が過ぎ、今では仕事の多忙等が続きなかなか友人にも会う機会が無くなってしまいました。まして大学時代に友人などは仕事の転勤やUターンなどで地方に行ってしまった人も居り、社会人の宿命であり致し方ないですがですが冠婚葬祭等のイベントが無いとなかなか会うことができない状況になってしまっています。 ※「
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− わたらせ渓谷鐵道 −
終点間藤駅に停車中のわたらせ渓谷鐵道列車
そのような中で偶々大学時代のゼミの友人が群馬県内に2名住んでいて(桐生&大田)桐生に住んでいる友人に子供が生まれたとの事で、そのお祝いに関東在住の友人が(と言っても群馬在住の2名以外は東京にいる私と埼玉に住んでいる友人の計4名だが・・・)桐生に集まりお祝いをしようと言う事になりました。
そのお祝いの会が土曜日の18:00〜21:00という事になり、しかも朝は御茶ノ水で仕事がありその間の時間が空く上に酒を飲むので車で行けないので、何処かで時間を調整しなければならないので東武特急りょうもう号で早めに桐生入りをして会合の時間まで周辺の鉄道でも散策をしようという事に決め、桐生から出る2つのローカル私鉄わたらせ渓谷鐵道と上毛電鉄を乗ってみる事としました。
わたらせ渓谷鐵道は元々は1913年に出来た足尾鉄道が起源でその後国有化され日本有数の銅山である足尾銅山の輸送に活躍していましたが、1973年の足尾銅山閉山・1986年の精錬事業縮小等のあおりを受け第2次廃止対象特定地方交通線となり、その後第三セクター鉄道に転換され現在に至っています。
そのような経緯で出来た鉄道なので、ご多分に漏れず「赤字に喘ぐ地方第三セクター鉄道」という状況であり、わたらせ渓谷鐵道も開業以来毎年赤字で今や利用客も94年の106万人/年から02年には73万人/年に減少し、転換時に積み立てた7億円の第一基金も底をつく状況にまで経営が悪化し、沿線自治体が作る「わたらせ渓谷鐵道再生等検討協議会」で「2005年から3年間を経営再建期間と位置づけ効果が見られない場合にはバス転換を図る」という方針が打ち出されるまでになっています。
この様なわたらせ渓谷鐵道の状況は今まで関東では茨城県に多く見られていた「ローカル鉄道廃止のドミノ現象」が遂に群馬まで感染してきたと言う事が出来ます。しかしわたらせ渓谷鐵道は沿線人口も少なく銅山廃止で産業も廃れた渡良瀬川上流の過疎山間地域を走る鉄道であり、需要の基礎となる地域の実情がわたらせ渓谷鐵道を鉄道として存続が不可能な状況にしているとも考えられます。
そのような実情と現状を踏まえつつ「果たしてどのような状況なのか?」という事はやはり一度現地を訪問してみなければ分かりません。と言う訳で今回「友人の子供の誕生祝い会」に託けてわたらせ渓谷鐵道を訪問してみることにしました。
参考HP:
わたらせ渓谷鐵道HP
・
わたらせ渓谷鐵道
(wikipedia)・
わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線
(wikipedia)
わたらせ渓谷鐵道の利用者特性と沿線住民意識
(
前橋工科大学建設工学科地域・交通計画研究室
研究一覧
より)
参考文献: 鉄道ピクトリアル96年4月増刊号-関東地方のローカル私鉄-
「わたらせ渓谷鐵道 主要指標」年度 営業キロ 輸送人員 輸送密度 従業員 営業収益 営業費用 営業損益 1991年度 44.1km 1,017千人 866人/日 33人 275,265千円 390,366千円 ▲115,101千円 1997年度 44.1km 817千人 961人/日 41人 325,424千円 433,805千円 ▲108,381千円 2001年度 44.1km 797千人 793人/日 41人 274,836千円 420,828千円 ▲145,992千円
※上記数値は「年鑑日本の鉄道1994・2000・2004」より引用・算出してます。
☆ わたらせ渓谷鐵道試乗記 (相老12:02→13:27間藤13:59→桐生15:31)
当初桐生を訪ねたのは冬の真っ只中1月27日でした。この原稿は4月になってから書いていますが、わたらせ渓谷鐵道を訪問したこの日は「暖冬」と言われる本年でありながら寒い一日で、積雪こそ乏しかったのですが「寒く枯れ山が広がる」観光には不適な北関東の冬と言う状況が生々しく現れている一日でした。
桐生に電車で向う場合、JRで小山・高崎経由で両毛線で入る経路と東武鉄道を利用する経路の2パターンがあり、JRルートは新幹線が使えるし終電が遅いので夜等は使いますが、今回は千代田線で東武のターミナル北千住に1本でアクセスできる場所に居たので、東武の特急りょうもう号を使い桐生入りする事にしました。
北千住発10:21のりょうもう9号は時間も中途半端で有る上に土曜日の為ビジネス客も少なく乗車率が25%程度のパッとしない状況です。前に「
東武は北関東ネットワークを捨てるのか?〜東武鉄道3月ダイヤ改正〜
」と言う一文を書き、東武鉄道の伊勢崎線を中核とする北関東ネットワークの今後について一文を書きましたが、北関東諸都市⇔東京間の都市間輸送を担うりょうもう号がこの調子では「東武北関東ネットワークの先行きの危惧が正しく現実になるのでは?」と先行きを憂いざる得ません。
左:相老駅駅舎 右:相老駅構内(右がわたらせ渓谷鐵道・左が東武)
東武特急りょうもう号は東武桐生線が桐生の中心市街地(JR桐生駅〜上毛電鉄西桐生駅周辺)を通過しない為(多分東武は渡良瀬川を越える事を嫌がったのだろう。それは足利にも当てはまる)、桐生周辺の拠点駅として新桐生・相老・赤城の3駅に停車します。この3駅は新桐生→錦桜橋経由で桐生市街地アクセス・相老→わたらせ渓谷鐵道アクセス・赤城→上毛電鉄アクセスと役割分担をしているのでしょうが、電車だけで桐生の中心へアクセスと考えるとりょうもう号は中途半端でJRに魅力を感じます。
今回はわたらせ渓谷鐵道が目的なので、相老で乗り換える事にします。相老は住宅と工場が混在している地域に有り駅前には商店も殆ど無く寂しい感じでわたらせ渓谷鐵道乗換駅としてしか機能していない感じです。今回はりょうもう号→わたらせ渓谷鐵道乗換の時間が約10分しかなかったので、駅周辺をチョット見てわたらせ渓谷鐵道の切符を買って列車をホームで待つことにします。そうすると間もなくDC単行のわたらせ渓谷鐵道間藤行き列車が入線してきます。
左:わたらせ渓谷鐵道の運転上の中心 大間々駅 右:温泉センター併設の水沼駅に停車中の列車
左:間藤行き列車車内(大間々出発時点) 右:間藤行き列車車内(通洞到着前時点)
列車に乗ると土曜日昼の列車と言う事も有るのか、25〜30名程度の人が利用しており、クロスシートが半分位埋りロングシートにも人が丁度座っている程度の感じです。
相生を出て暫くは住宅地の中を走り、運動公園に停車後大間々駅に到着します。大間々駅は車庫等もありわたらせ渓谷鐵道の中核駅であると同時に、東武・上毛の赤城駅と並ぶ「みどり市」の玄関口と言う感じの駅です。只赤城駅⇔大間々駅間は約1km程度の間隔でこの間に市街地が広がっていますが歩く事も可能な距離関係です。
その様な微妙な距離感に対桐生でわたらせ渓谷鐵道と上毛電鉄が並走していますが、それでも運行本数に劣るわたらせ渓谷鐵道で桐生〜大間々間を利用する人も多く、桐生〜大間々間の区間運転折返し列車も有ります。今回も(相老駅では私一人の乗車だったが)大間々駅で数名乗車してきた物の10名近い人が下車しこの区間利用の需要の旺盛さを裏付けています。
わたらせ渓谷鐵道は大間々を境に車窓が一変します。「わたらせ渓谷鐵道」はその社名が示すように渡良瀬川に沿って走っている鉄道ですが、桐生〜大間々間は比較的平地で住宅街の中を走りますが、大間々から先は渡良瀬川は山間部の渓谷に入りそれに従いわたらせ渓谷鐵道も渓谷沿いに線路を左右に曲げながら渓谷の奥地にある足尾を目指す事に成ります。
大間々から先は川と山に挟まれた中で猫の額ほどの平地に住宅が有る場所に駅を設けていて乗客を拾う形態になりますが、わたらせ渓谷鐵道に国道122号線(銅街道)が平行して走っており整備も進んでいる為「鉄道が絶対必要」と言う環境に有りません。絶対的人口が少ない地域で国道を走る乗用車とわたらせ渓谷鐵道が競合している状況に有ると言えます。
その中でも駅に
温泉センター
が併設している水沼駅と
富弘美術館
の最寄駅であり駅にレストランを併設している神戸駅では数人程度の観光客と思しき乗降が有ります。しかしそれ以外の駅では殆ど乗降ゼロの状況で列車は草木ダムにより付け替えられた区間を通過し足尾町に入ります。
足尾に入ると通洞・足尾で数人ずつの降車が有り終点間藤駅に到着する時には車内は数人の乗客しか居なくなっていました。
左:わたらせ渓谷鐵道の終点間藤駅 右:間藤駅で折り返し待機中のわ89-310形
間藤駅は足尾銅山の入口に当る位置関係で、昔はこの先銅山まで貨物線が延びていました。しかし今ではこの先国道122号線日足トンネル経由で日光まで道路は延びていますが鉄道は完全な行き止まり駅となっています。駅周辺には商店も殆ど見当たらず工場と少しの住宅が有るだけで「観光地」とはとても言えない場所です。その様な状況が間藤を目指す需要は極めて乏しい事を示しています。
実際列車に乗っていた乗客の内間藤の町に消えていったのは数人で、私を含む5〜6人の人達は(鉄ヲタと言う感じではないが)「取りあえず間藤まで乗ってみよう」的なわたらせ渓谷鐵道を目的とした観光的需要な利用であり、皆で駅周辺をプラプラしたり駅前広場に有る展望台に上り写真を取ったりしており、暫くすると皆折返しの列車の車内に入って行きます。
私も桐生が目的地で実際目的も有ったため、周囲の人たちの行動を真似て次の折返し列車で戻る事にします。しかし終着駅に人を引き付ける観光資源が無いしかも観光地である(同じ自治体である)日光へ抜ける公共交通が整備されていないと言うのも、わたらせ渓谷鐵道の集客面で見るとマイナスで有ると言えます。
左:間藤駅周辺の車窓風景 右:広い駅構内が広がる足尾駅
左:足尾の中心地に近い通洞駅 右:鉱山の廃屋が有る通洞駅周辺
今回間藤駅で折返し時間中に「足尾で何か見るところは有るかな?」と色々と調べていましたが、なかなか観光に適した見る所は有りそうに有りません。帰りに水沼の温泉センターによることも考えましたが、夜は飲む事を考えるとその前に温泉に入った後飲んでその後長距離移動は厳しい物が有りますので此処は途中下車をせず桐生に戻り次のターゲットを上毛電鉄に据えることにします。
間藤で私を含めた「観光試乗組」を乗せて列車は渡良瀬川沿いに下って行きます。しかし足尾・通洞の足尾地域では殆ど乗客は無く10名位の乗客しか乗りません。この先渡良瀬川渓谷沿いに原向・沢入と停車していきますが、この地域は足尾の町並みも外れ駅間も長くなり殆ど人家も無く風景は綺麗ですが「猿しか需要が無い?」と言う程の需要が乏しい地域となります。
左・右:渡良瀬川渓谷沿いの沿線風景
左:草木ダムのダム湖を越える鉄橋 右:水沼駅周辺の沿線風景
左:沿線の観光拠点神戸駅 右:花輪駅風景
その様な「需要が無い」と言う状況は草木ダムを越えて、神戸に到達すると多少は変わってきます。其れは渡良瀬川の流れが多少緩やかになり川幅が広がり多少の平地が有るようになった事が大きいと言えます。その神戸駅では10名近くの人が乗ってきましたが多くは観光客でした。やはり神戸以南では「平地が増えてきた」と言えども駅周辺人口数百人程度の集落毎に駅が有る感じなので、日常利用客を集めると言うのは厳しい物が有ると言うのは偽らざる状況で有るといえます。
と言っても観光資源が豊富ですか?と言う事になれば必ずしもYesとは言えない状況です。この地域の観光資源は前にも述べた神戸の美術館と水沼の温泉ですがこれらも残念ながら大きな集客力の有る観光地とは言えません。しかしそれでも沿線人口の乏しいわたらせ渓谷鐵道に取っては重要な顧客で有る事は間違い有りません。実際神戸・水沼を中心とした乗客で乗った列車はやっと20名強の乗客になり、渓谷部を抜けて関東平野に出てきます。
左:桐生行き車内(通洞出発前) 右:桐生行き列車車内(大間々出発前)
左:開業後に新設された運動公園前駅 右:JRとの共用駅桐生駅に到着した列車
上り列車では沿線の大集落である大間々で乗降が有る物の「微減」と言う感じで発車しますが、隣の運動公園前駅で状況は一変します。運動公園での部活の試合帰りと思われる30名を越える中学生が運動公園前駅のホームで列車を待っておりこの乗客で単行DCの車内はかなりの混雑になります。しかしこの中学生は隣の相老駅で下車してしまい又静かな車内に戻ってしまいます。この1駅間は距離にして1km程度ですがわざわざ1時間に1本程度の列車を待って中学生がわたらせ渓谷鐵道を利用するとは驚きです。只運動公園からだと対桐生は毎時2本運転で上毛電鉄が走って居るので上毛電鉄で対応できない運動公園前〜相老の限定利用だからこそわたらせ渓谷鐵道を利用しているのかも知れません。
わたらせ渓谷鐵道は東武との乗換駅で有る相老を過ぎた後、JR両毛線との交差地点で南から東へ90度方向を変え今度は両毛線と並走して桐生駅を目指します。並走して直ぐ新設の下新田駅に停車した後、JR両毛線に合流して渡良瀬川を渡り桐生市街地を目指します。わたらせ渓谷鐵道の路線を引いた足尾鉄道は当初から桐生乗り入れに対しては官鉄線乗り入れで対応しています。足尾鉄道は国有化の予兆が有ったから巨額の渡良瀬川架橋を避けたのか?資金が無くて単独の渡良瀬川架橋を避けたのか?分かりませんが、この区間は両毛線も単線(実際はわたらせ渓谷鉄道+両毛線の単線と引上げ線が並走)の為わたらせ渓谷鐵道の線路容量的には大きなネックとなっています。
両毛線の上を走り渡良瀬川を越えると高架に上がり桐生駅に入ります。桐生駅ではわたらせ渓谷鐵道は1番線のみが使用可能となっており、相老以南は1閉塞しかない状況で運転上のネックと言えます。加えて運動公園前〜相老間で一時期増えた客以外の大部分の客は桐生まで乗り大間々〜桐生間では殆ど乗客に変動が無かったと言えます。この様に見ると大間々以北とは一変して大間々〜桐生間はみどり市の玄関口大間々・運動公園の足となる運動公園前・東武線乗換の相老・桐生の玄関口でJR線乗換の桐生など重要駅が並びますが、実際は終点の桐生が一番の重要駅と言う事に成ります。そう考えると効率よく収益を稼げる大間々〜桐生間で線路容量で増発できないのは経営的には大きなネックと言えるでしょう。
☆ わたらせ渓谷鐵道を取り巻く状況とは?
この様な状況に有るわたらせ渓谷鐵道ですが、この乗客が少なく厳しい状況はこの会社の収支にも現れています。実際第三セクター転換以来一回も黒字の経験は無く毎年1億円以上の営業赤字を出しており、今や転換時に蓄えた第一基金を食い尽くしその後沿線自治体が溜めた第二基金に手を出してしまう状況に追い込まれています。
実際わたらせ渓谷鐵道は旧国鉄特定地方交通線の転換第三セクターで有る以上、元々国鉄で経営が成り立たず運営が放棄された鉄道を地元の官民で引き受けた鉄道であり、しかも足尾銅山閉山・精錬事業縮小等で産業も衰退してきており加えて沿線は(日足トンネルで日光に抜ける以外)行き止まりの渓谷で平地も乏しく、山も足尾銅山の有毒煤煙の為足尾地区では緑が少ない山で観光的にも魅力が乏しく厳しい状況で、わたらせ渓谷鐵道が厳しいという以前に沿線自体が「過疎で地域自体が極めて衰退している」と言う厳しい状況に有ると言えます。
只わたらせ渓谷鐵道自体が無為無策で赤字を垂れ流している訳では有りません。わたらせ渓谷鐵道自体、副業収入と観光施設立地による定期外収入増を狙い神戸駅で東武DRC車体を利用したレストラン「レストラン清流」を経営したり、水沼駅脇で温泉センターを受託経営するなど色々副収入を得る為に努力はしています。
加えてわたらせ渓谷鐵道では「渓谷鉄道の風流さ」を売りにして観光客を集めようと各種の客車を保有し、企画列車としての
御座敷列車
・観光列車としての
トロッコ列車
が運行されています。線路の配線の都合上桐生発が出来なく大間々発と言うのがちょっと難点ですが(せめて東武特急と接続できる相老発にしたい、相老では機回しが出来るから可能な筈である)、観光列車として一定の集客と収入を得ている様です。
左:神戸駅のわたらせ渓谷鐵道経営の「レストラン清流」 右:水沼駅のわたらせ渓谷鐵道受託経営の「温泉センター」
左:わたらせ渓谷鐵道保有の御座敷列車 右:わたらせ渓谷鐵道保有のトロッコ列車
しかしそれらの「経営努力」は輸送密度793人/日の鉄道を支えられる物では有りません。この輸送密度は「鹿島鉄道よりマシ」ですけれども決して多いレベルでは有りません。正直言えばわたらせ渓谷鐵道は「鉄道輸送が成立するレベル」の輸送密度ではない事は明らかで有ると言えます。ですから「毎年赤字・1億円/年の赤字」と言うのは有る意味当然と言えます。
けれども「基金を食い潰す」と言う状況では「赤字で良いや」と安閑として居られません。実際沿線の群馬・栃木両県と桐生・みどり・日光の3市で構成されている「わたらせ渓谷鉄道再生協議会」でもわたらせ渓谷鐵道の経営問題が話し合われています。
わたらせ渓谷鐵道でも自助努力として年間フリーパス「わたらせ夢切符」を1万円で売り出し、赤字を解消しようと目論む等施策は実施しています。しかし「わたらせ夢切符」は目標の初年度22,000枚の販売目標に対し実績は3,922枚の販売で目標未達しかも定期客が「わたらせ夢切符」に流失して定期収入が半減と言う燦々たる状況であり、赤字解消の「自助努力」は空廻りで「
わたらせ夢切符は大失敗
」と言う状況です。
わたらせ渓谷鐵道の大部分がある群馬県自体は、地元のローカル民鉄の上信電鉄・上毛電鉄に対して支援をしており、同じ桐生市・みどり市を地盤にしている隣接の上毛電鉄に対しては「
群馬型上下分離方式
」を導入し、自治体の補助の上でインフラ改善を実現するなど先進的事例が行われています。しかし一番状況が厳しいはずのわたらせ渓谷鐵道に関しては、第三セクターと言う事が有るのか?隣の栃木県が絡んでいるからか?今まで群馬県内の民鉄の中で自治体の支援体制が一番放置されてきたと言う事が出来ます。
実際当初「わたらせ渓谷鉄道再生協議会」では一時期「赤字前提の経営再建計画は好ましくない」と言う意見もあり、なかなか支援の形態が纏まらず「赤字の経営再建計画」が認められない場合将来の存続が危ぶまれる可能性が有りました。しかし3月23日の「わたらせ渓谷鐵道再生協議会」で「赤字前提の経営再建計画の承認・自治体の赤字負担」を承認する事となり(3/24
毎日新聞
)取りあえずの支援スキームは決まりました。
今回群馬県は「インフラ支援はする」と表明し、07年度以降の信号機やレール更新などの年間事業費約5000万円の内国負担分を除く最大3分の2を負担する意向を示し、又桐生・みどり・日光の沿線3市は「無限に補助金は出せないが、路線廃止という選択肢は絶対にない」とわたらせ渓谷鐵道の今後への存続を明言するなど、わたらせ渓谷鐵道は取りあえず将来への運営継続の自治体の支援の保証を取り付けたと言えます。
☆ 果たしてわたらせ渓谷鐵道は「地方ローカル線廃止のドミノ」に飲み込まれてしまうのか?
この様な状況のわたらせ渓谷鐵道ですが、取りあえずは自治体の足並み揃えた支援表明で「地方ローカル線廃止のドミノ」に巻き込まれる事は避けられたと言う事が出来ます。毎日新聞記事では(廃止されると一番影響の大きい日光市足尾地区を抱える)栃木県の意向が出て居ませんが、それ以外の群馬県・沿線3市がインフラ支援・運営費支援に前向きの約束をした事で、少なくとも経営再建計画の最終年度である09年度までの存続は約束されたと言う事が出来ます。その点でわたらせ渓谷鐵道は「第二の鹿島鉄道」になる事は避けられた事は間違い有りません。
しかしこれらの支援表明はわたらせ渓谷鐵道の存続の担保にはなりますが、今のわたらせ渓谷鐵道を取り巻く経営環境の根本問題つまり「渓谷で袋小路の地勢・沿線人口の少なさ・決定的な利用客数の少なさ・観光資源の乏しさ」と言う問題は、今回の支援表明では何も解消されて居ません。これらに何か「打破する為の方策」を見出さなければわたらせ渓谷鐵道の将来は無いと言えます。
左:間藤駅前の日光市営バスのバス停 右:デモンストレーション運転中のDMV
わたらせ渓谷鐵道の抱えている問題の内「人口・利用者数・観光資源」についてはなかなか打破する方策は見当たりません。これは「巨額の投資」をしても成功する物では有りませんし日本全国何処の過疎地域でも悩んでいる問題であり、「特効薬が有れば教えて欲しい!」と言いたいのが地方自治体の実情で有ると思います。その点から言えば現状で打破策を見つけるのは難しいと言えます。
その中で一番打破しやすい問題は「地勢的な袋小路」の解消策で有ると言えます。わたらせ渓谷鐵道は渡良瀬川の渓谷沿いを走る鉄道で分水嶺に近い間藤が終点になっていて袋小路で終点になっていますが、その先は平行道路の国道122号線がまだ先に延びており細尾峠を越える日足トンネルで栃木県日光地域に抜ける事が出来ます。
しかしこの日足トンネルを越える公共交通は日光市営バスの
双愛病院⇔JR日光駅路線
しかなく、加えてこの路線は1日4往復しかなく同じ市内でありながら「最低限の公共交通を保証」するだけのバス路線となっています。これを改善すれば「地勢的袋小路」を打破する事が可能で有ると言えます。
そのための切り札がDMVです。
道路・鉄道の両方を走れるDMV
は「究極の低コストでの運行車両」として開発された車両ですが、この鉄道・道路両方走行可能な両用性がわたらせ渓谷鐵道の場合、利用者減少化での低コスト運営と地勢的袋小路打破の為のモードチェンジでの日足トンネル経由日光までの延長運転と言う2つの側面でメリットをもたらすと言えます。
実際日足トンネル経由での日光延長運転が実現できれば、わたらせ渓谷鐵道沿線の少ない観光資源もネットワーク化された先に存在する日光の観光資源で補完する事も可能ですし、この周遊路をDMVによるネットワーク強化で「観光周遊ルート」として売り出すことも可能になり観光客の利用増と定期外収入の増加をもたらし、同時にDMV採用による運営コスト削減に関しても期待が持て赤字減少の効果も期待できます。
又この観光周遊ルートを大幅に売り出せば、色々な観光客例えば東京東部〜埼玉東部の小学校・中学校の林間学校に多い「日光林間学校」のバリエーションとして、「日光見学・宿泊後日足トンネル経由で足尾銅山見学、その後足尾〜大間々間でバスを回送の上トロッコ列車に乗って渡良瀬川沿いの自然を見学する」と言う様な林間学校観光ルートを売り出すことが出来ます。これらは片輸送になりますが、平日昼間纏まって利用してくれる人たちです。これらを上手く引き込むことも活性化に取り必要なことであると思います。
これらはわたらせ渓谷鐵道活性化の為に考えられる方策の一つに過ぎないと言えます。只これらの効果は限定的であろうと言う事は容易に想像でき、「経営再建計画実施でも数千万円の赤字」と言うわたらせ渓谷鐵道の経営状況を改善するには決定的な方策になるとは言えない程度の方策で有る事は間違いないと言えます。
しかし只手を拱いているばかりと言う訳には行きません。幾ら「欠損補助をもらえる」と言えども自治体が言う様に「無限に補助金が出せる」と言う甘い状況には無い事は間違い有りません。となると地域の努力とわたらせ渓谷鐵道の自助努力で赤字を大きく減らす様に努力をしなければなりません。その最大限の努力の先に自治体の欠損補助は有るのです。
その為には上記の「DMV導入による日光延長によるネットワーク化&運営コスト削減」と「観光周遊ルート構築による集客」等考えられる増収策を行い、増収とコスト削減策を確実に実施して行く事が必要で有ると言えます。
今回のわたらせ渓谷鐵道への自治体支援の決定はあくまで「未来永劫」と言う訳ではないと言えます。沿線3市は「路線廃止の選択肢は絶対無い」と言っていますが現実問題としてこれらの自治体も財政が無限に豊かなわけでは有りません。この言葉は「わたらせ渓谷鐵道が努力する限りは限界以上の分の補助はしますよ」と言う意味だと言えます。わたらせ渓谷鐵道は今回「存続への無限手形」を手に入れたわけでは有りません。あくまで「将来に期待しての執行猶予」でありわたらせ渓谷鐵道が何時「ローカル線廃止のドミノ」の最前列に並ぶか分かりません。その点に危機感を持って会社・自治体・沿線住民が一丸となって改善策を継続的に打って行く必要が有ると言えます。そうしないとわたらせ渓谷鐵道の先行きは危ないのではないでしょうか?
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |