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「両刀遣いのサラマンダー」は地方ローカル線の救世主たり得るか?
− 「DMV試乗会@富士市」を見学して −
TAKA 2007年02月06日
近年旧国鉄の分割民営化時に「特定地方交通線の転換」と言う形で整理された地方のローカル線問題が、旧国鉄の路線(転換第三セクター等)だけでなく民間運営の路線の各所での廃止と言う形で再燃しています。
実際私のサイトでも「
近年のローカル線の廃止問題について考える
」「
ローカル線廃止のドミノ倒しは止まるのか?
」等で取り上げていますが、ここ数年で廃止or存続の剣が峰に立たされた鉄道を上げれば「南海貴志川線」「えちぜん鉄道」「のと鉄道」「鹿島鉄道」「神岡鉄道」等々複数存在していますが、輸送密度の比較的多い鉄道は新運営主体による再生を果たせていますが、地方の輸送密度低いローカル鉄道は残念ながら廃止の道を辿る経過を経ています。
経営的に成立する有る一定以上の輸送密度が有れば、地方自治体の補助に加えて経営面等のソフト的側面の改革で比較的簡単に再生を図ることが出来ますが、収入の根幹たる輸送密度が絶望的に低い鉄道では「鉄道の根本からコスト構造を改める」改革を行わなければ生き残れず、その方策が見つからないが故に輸送密度1000人以下の鉄道でバタバタと廃止が相次いでいる状況になっています。
その中で「鉄道路線」も「道路」も走れる新しいシステムとして、JR北海道が開発した「デュアル・モード・ビークル(以下DMVと略す)」が色々な所で注目を集めています。
近年「地方との『格差』」が話題になっているのに加えて多くの地方ローカル鉄道が廃止されていることもあり、マスコミで地方ローカル線問題が取り上げられる事も増えてきて、「日経スペシャルガイアの夜明け『
住民の足を守れ〜消えくローカル線再生への闘い〜
』」で生き残りの一つの形としてDMVが取り上げられたりして、「地方ローカル線の救世主」と言う期待も持たれています。
加えて「鉄道も道路も走る事が出来る」と言う利点から、地方自治体では「中心市街地等から離れて敷設された鉄道と中心市街地を結びつける交通機関」として、本来の「バスと鉄道の合いの子」と言うメリットを生かした新しい交通機関として注目する事例も出てきていて、今までJR北海道が行った試乗会では地方自治体等から多くの試乗者が訪れていて、具体的な導入を検討している都市も有ると聞いています。
その中で今回静岡県富士市が「岳南鉄道を利用した都市東西交通の機軸」としてDMV導入を「
公共交通の基本指針
」で示しており都市交通へのDMV導入を積極的に検討していますが、その富士市が「市制40周年記念DMVデモンストレーション走行」を行うと聞き、「北海道まで行く事はなかなか出来ないが富士だったら簡単に行けるな」と言う感じでデモンストレーション走行2日目に(初日は所用で行けず)富士市を訪問してDMVの走行風景を見学してきました。
参考サイト: ・
JR北海道HP
・
富士市役所HP
「
公共交通ニュース 富士市制40周年記念DMVデモンストレーション走行
」
・
デュアル・モード・ビークル Dual Mode Vehicle (DMV)
〜JR北海道HPより
・
「DMVが実現する社会インフラのイノベーション」JR北海道副社長柿沼博彦氏インタビュー
(イノベーティブワン)
・世界初の新技術 次世代の乗り物「DMV」(
前編
・
中篇
・
後編
)〜Brain News Network
・朝日新聞MYTOWN北海道「線路・道路両用車DMVの挑戦」(
上
・
中
・
下
)
・
デュアル・モード・ビークル
(wikipedia)
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☆DMV試乗会in富士市(07/1/21)
今回1月14日と21日に行われたDMVの試乗会でしたが、試乗会は1日当り5回(9時・10時・12時・14時・15時)行われているので、早めに家を出て厚木で一件現場に寄って見積の数量を拾い、加えて「岳南鉄道」も一緒に見て、その上DMVの試乗会の様子を見て、その上夕食までには家に帰りたいと言う流れの中で、「厚木経由で小田原から新幹線で新富士入り、その後岳南鉄道を軽く往復乗って岳南原田で降りて12時の便のモードチェンジを見学後、公設市場に向かい実車を見学して沼津からあさぎり6号で東京へ戻る」と言うハードスケジュールを組んでしまいました。
岳南鉄道については「
富士の裾野を走る産業鉄道
」として取り上げたので、此方ではDMV試乗会をメインに取り上げたいと思います。但し見たのは「モードチェンジ→実車見学」だったのですが、それでは話を組み立て辛いので話の順序的には「実車の話→モードチェンジ見学」の順番で話をしたいと思いますので、ご了解頂きたく思います。
・ DMVの実車はどんな感じか?
左・右:JR北海道のDMV サラマンダー901
元々この車両は
日産シビリアン
と言うマイクロバスを改良して造られているので、そもそもが定員が19名〜29名と言う小型車両であるのに加えてマイクロバスの前部と後部をボンネット化して前部には車輪を設置し、後部にはエンジンを移設(その場所に車輪システムを置いている)して新規設備のスペースをひねり出している事も有り、傍目から見ると今のマイクロバスベースでは旅客利用には「かなり余裕が無いな」とは見えます。
実際聞く所によるとDMV用の設備を付ける為に車両の重量が増したので乗客定員を28名→19名に減らして対応したとの事ですから、9名分の重量(多分500〜600kg)が鉄軌道走行用設備の重量と言う事になるでしょう。現行作られているマイクロバスを改良してDMVを造るのであれば、車両重量約3700kgの車に500〜600kgの重量増はかなり厳しいものが有ると言えます。此処は将来への課題として残ると言う事が出来ます。
・ DMVのモードチェンジ施設はどんな感じか?
左:岳南原田駅に新設されたモードチェンジ施設 右:富士市公設市場前の鉄道→道路へのモード転換場所
一般的に「鉄軌道に車輪を嵌める」となるとクレーンで釣り込んでレールに嵌める等大規模な設備を用いて行う方法が思い浮かびますが、DMVの場合は「鉄道模型をレールに乗せる補助具」の如く簡単な施設で上手く補助の鉄車輪をレール上に載せる事が出来ます。実際レールに乗せる時には舗装されているレール上を走り赤錆色に塗られたガイドレールにガイドの車輪を合わせてその誘導に従い走ると自然に鉄車輪とレールが合う位置に誘導され其処で鉄車輪を下ろせばOKと言う極めて簡易なシステムで行う事が出来ます。
加えて鉄道→道路のモードチェンジはもっと楽で、要はタイヤで自走できるアスファルト等で舗装されている場所で鉄車輪を格納するだけで対や走行が可能になるつまりはモードチェンジが可能であり、究極を言えば「タイヤで自走できる場所であれば何処でもモードチェンジOK」と言える極めて簡易なシステムになっています。
実際今回の実験で岳南原田駅に設置された道路→鉄道のモードチェンジ施設は「軌道上を舗装+ガイドレールを設置」と言う土地さえあれば其処にでも設置できる比較的簡易な施設ですし、公設市場前の踏切に有る鉄道→道路のモードチェンジ施設は「施設」と言える物は特に無く踏切のスペースを広げる事でモードチェンジ出来るようにしただけであり、極めて簡易な施設で対応する事が可能で有ると言えます。
・ DMVのモードチェンジを実際に見学して
と言う訳で実際のモードチェンジの場所を見てみました。今回の試乗会では道路→鉄道のモードチェンジは岳南原田駅構内の(今回の為に造られた)特設施設で、鉄道→道路のモードチェンジは公設市場脇の踏切で行われていましたが、時間と移動手段の関係上両方は見ることが出来なかったので、岳南原田駅構内の道路→鉄道のモードチェンジに絞ってみる事にしました。
左:岳南原田駅のモードチェンジ場所に向う道路走行モードのDMV 右:モードチェンジ施設に入るDMV
左・右:試乗会でのモードチェンジ説明風景
その後試乗の招待客が降りてきてモードチェンジの説明を受けていましたが、此処でのメインはモードチェンジの説明であった様で、有る意味拍子抜けでした。免許の問題等有りますが運転免許を持っていて小型トラックであれば運転経験が有る私でも簡単にモードチェンジ場所にDMVをすえつけられるのでは無いか?と思うほどでした。多分2種免許を持つ人なら簡単にモードチェンジ場所に運転手一人で据え付けられる様に考えてこの様な簡単な装置を考えたのでしょう。
左・右:モードチェンジで鉄道用鉄輪を出している状況
左:モードチェンジ完了状況 右:モードチェンジを完了して鉄道線に入るDMV
正直言えば「わざわざ富士まで見に来てメインイベントのモードチェンジはこれだけ!?」と言うほどあっけないモードチェンジでした。特にハイテク機器を使っている気配も無かったですし、DMVの運転手さんも富士急静岡バスの運転手さんが担当していましたが、頂いたパンフレットに寄れば(デモンストレーションで有る以上当然ですが)経験年数多いベテラン運転手の方でしたがDMVの運転経験はJR北海道で2日間の講習と11月の3日間の夜間試運転だけで有ったようで「経験が有るバス運転手であれば運転できる簡便さ」と言うのがこのモードチェンジを見れば良く分かります。
このモードチェンジを見れば、「DMVとは極めて簡単なシステムなんだな」と言う事を改めて感じさせられました。この様な簡単なシステムであれば色々な所で汎用性が有ると言えますし、鉄道とバスの間で色々な応用性を考えることが出来ると言えます。だからこそ開発主体のJR北海道だけでなく富士市を始め色々な機関が興味を示すのだろうと思いました。簡単なシステムの奥に有る発展性を改めて感じさせられました。
・ 鉄軌道上を走るDMVはどんな感じ?
左・右:鉄道線上を走るDMV@岳南原田
DMVは大きさを見ればLRVと殆ど変わらないと言えますから、普通の車両とDMVを比べれば「小さいな〜」と感じますが、LRVと比較すれば大きさ的にはそんなに違和感が有りません。富山の様にLRVが鉄道線を走る時代ですから大きさが変わらないDMVが鉄道上を走っても可笑しい事は無いと言えます。只大きさを道路の基準に合わせざる得ないDMVは電車とはあまりに大きさが違うので、LRVの鉄道線乗り入れにも有る問題ですが既存の鉄道インフラでは施設が大きすぎると言う問題は抱えるでしょう。特に駅のホームの高さ等は全然合いません。DMVの高さを鉄道並みにすると道路での乗降が問題になりますし、今の高さで鉄道に持ち込めば低床ホームの新設が必要です。此処はDMV導入の意外なネックになるかもしれません。
只この大きさの小ささは違和感は無い物の将来実用化を考えると輸送力的には大きなマイナスです。今の901型は実験車両だから置いておくにしても将来本格導入するとなると今の定員数では洒落にもなりません。少なくとも現行低床バス程度の輸送力は必要です。又鉄道では乗降口を左右に設けることになると今の低床バスより定員が減る事になります。しかし道路での運用を考えると今の大型バス程度が限界になるはずです。加えて採算性を考えると今のバス程度の輸送力が無いと採算性はペイしない可能性が高いと言えます。今は実験段階だから良いですが、将来的にはDMVを(特に道路での)実用性を持たせながら如何にして大型化して行くか?と言う課題があると鉄軌道上を走る小さなDMVを見ながら考えさせられました。
☆DMVの「両刀遣い」は発想のブレークスルーか?
この様な「鉄道とは似ても似つかない」物であり、鉄道車両と言うよりバスに近いと言える物で、確かに「サラマンダー」の愛称に有るとおりの鉄道・道路の「両刀遣い」であるDMVですが、果たしてそんなに騒ぎ立てるほどの珍しい物なのでしょうか?
確かに今回試乗会でモードチェンジのやり方を見て「何処かで見た事が有るな?」とは感じていました。岳南原田での道路→鉄道のモードチェンジを見た後に公設市場脇踏切の鉄道→道路のモードチェンジの場所を見て、「そう言えば踏切と言う同じ様な所で鉄道に出入りする車両が有る!」と分かった瞬間に、DMVがどの様な発想を元にどの様な技術を用いて造られた物か分かったと言えます。その車両とは「軌陸車」です。
「
軌陸車
」と言えば簡単に言えば「トラックに自走用鉄道車輪をつけたトラック」であり主に保線作業に使われています。軌陸車といえばドイツのベンツ社のウニモグを使った軌陸車が有名ですが、今やダンプ・ユニック等々トラックに鉄輪をつけた軌陸車が多数種類があり保線作業では欠かさない物となっています。昔は保線用モーターカー等が保線作業の物品輸送の主役として活躍していましたが、今や軌陸車が主役となっています。
私も仕事の関係上鉄道関係の工事に関しては色々と関係をしていますが、その仕事の関係で直接軌陸車を使う事は有りませんが色々な場面で軌陸車を見ていますし(他社の)軌陸車に便乗して荷物等を運んでもらったりしています。その様な場面から「軌陸車のメリット」と言えば「(1)作業場所直近の踏切から出入りできるから線閉確認後直ぐに作業場所に辿り着けるし初電時間近くまで作業できる(2)道路上ではトラックとして走れるので荷物の積み替えをしないで軌道上の作業場所まで入ってこれる」と言う点が軌陸車のメリットで有ると言えます。要は「何処からでも線路に入れて積み替え無しで線路上を荷物を運べる」と言う事が軌陸車を保線作業で用いる最大のメリットで有ると言えます。
この「軌陸車」の「荷物」を「人」に置き換えて「何処からでも線路には入れて人を運ぶ車両」となると其れが正しくDMVになります。要は「DMV=人を運ぶ軌陸車」と言う様に考えれば、DMVは別に珍しい物ではなく「軌陸車のトラックに客室を付けた」と言う事や「軌陸車の車輪システムをマイクロバスに付けた」と言うだけの物であり、技術的には何も珍しい物を使っている訳ではなく今や鉄道保線の世界では一般的に使われている軌陸車を客用にしただけの物と言う事が出来ます。
この様な「軌陸車」自体はかなり昔から有り、旧帝国陸軍鉄道連隊でも「
百式鉄道牽引車
」と言うジャッキアップで鉄輪とタイヤを取り替えて鉄道・道路上両方を走る事が出来る軌陸車を開発・実用化しています。その百式鉄道牽引車の技術がその後鉄輪を自動で簡単にかつ短時間に出し入れできる技術になり、其れにより現在の様に踏切からも簡単に鉄道線上に出入りできる軌陸車が開発され、その技術が客用に転用できる技術として今回DMVとして開花したと言う事が出来ると考えます。
その点から考えれば、DMV自体は何も新しい技術と言うわけでも有りません。今まで有り他で実用化されていた技術を鉄道上で走る事のできる客用のバスとして転用しただけと言う事が出来ます。DMVについてその様に考えてしまうと「な〜んだそうか」と言って御仕舞いになってしまいます。
しかしその様な既存の技術により造られたDMVですが、今までその様な技術がありながら他の目的に使われてきて居た物を今回客用輸送機関として活用したと言う点に、DMVがもたらした大きなブレークスルーが有ったと言えます。
DMV自体はJR北海道柿沼副社長の
インタビュー
に有る様に、「幼稚園の送迎用のマイクロバスを見てこれならば線路に乗るのでは?」と言う所が発端になっていて「鉄道の発想で無くバスの視点から考えた」と言う比較的発想が固いと言える鉄道人から見ればコペルニクス的転換の上で開発された物です。この発想の転換が有ったからこそDMVが出来たのだろうと思います。
軌陸車自体は正しく「トラックに車輪をつけた物」ですが、これはトラック中心の視点で作られた物であるからこそトラックのシャーシを使用して造られています。DMVでは鉄道車両と言う発想を捨てて「バスを鉄道上に走らせる」と言う考え方で車両を作ったからこそ、今の様な道路も鉄道も支障なく走れるDMVが出来たのだと思います。鉄道マンには比較的出来辛い「鉄道から離れた視点で物を造る」と言う事が出来て壁をブレークスルーしたからこそDMVは成功したので有ると言えます。
その様な点から考えればDMVは技術的には目新しい物は無いが、今有る技術を簡単に使えるようにした上で鉄道視点からバス視点に切り替えた上で造ったが故に出来た「発想のブレークスルー」により作る事が出来たシステムで有ると言えます。その点こそがDMVの素晴しさで有ると言えます。
☆DMVは前評判通りの「ローカル線の救世主」となるのか?
その様な「発想のブレークスルー」で出来たDMVですが、今や世間では「ローカル線の救世主」的な見られ方をしています。実際「日経スペシャルガイアの夜明け」でもローカル線生き残りの新しい形として取り上げられています。しかしDMVは「地方ローカル線の救世主」となる様な「ばら色」の乗り物なのでしょうか?
実際利用者が激減しているローカル線では「如何にして利用者を増やし収入を増加させるか?」と「如何にして原価を落とすか?」と言う2点が生き残りの為に必要で有ると言えます。その中でDMVがどの様に貢献できるかを考えて見たいと思います。
先ず「利用者と収入を増やせるか?」と言う点に関しては、今までの鉄道の「点と線」だけの輸送に簡単に道路輸送にも対応できるDMVを導入する事で、鉄道線の無い小さな拠点までのフィーダー輸送にもシームレスで対応できる事で、「鉄道駅まで乗客に来てもらう」と言う今までの受身の態勢から「街中へお客様を迎えに行く」「鉄道の無い目的地までお客様を送る」と言う積極的な姿勢で集客が出来る事での利便性向上と利用者増を図る事が出来ると言う点です。確かに今までの鉄道の「駅から乗り換えて目的地移動」であればドアtoドアで移動できる自動車に利用者が流れてしまう事は多々有ったと思います。其れを鉄道に呼び戻す為に地域にシームレス輸送を提供すると言うのは利用者を呼び戻すと言う点では効果が期待できると言えます。
次に「原価を落とせるか?」と言う点では
インタビューでの提示資料
で見る様にキハ40系等の気動車と比べても「コスト7分の1(約13000万円:約2000万円)」「燃費4分の1(約6km/l:約1.4km/l)」「定期検査費8分の1(約55万円/年:約440万円/年)」と言う様に省力化・省エネ・低コストを実現していると言えます。少なくとも1列車を購入・運行するにおいては現行の鉄道気動車に比べれば遥かに低コストで有ると言う事が出来ます。今や鉄道車両単行で運行しても空席が目立つローカル鉄道においては、低コストで運行できるDMVは魅力的であると言う事が出来ます。
しかしこの様な「集客力があり」「低コストな」DMVが必ずしも「ローカル線の救世主」となるか?となると私は残念ながら大きな疑問が有ります。それは「バスの輸送力で運べる程度の輸送量しかないならば鉄道は成立し得ない」と言う命題をDMVでは解消する事が出来ないという点に有ると思います。
今のDMVは実験車両と言う事も有りますが、定員が19名しか有りません。バスの世界で見ると
一般的大型路線バス
クラスでも定員は69名と言うレベルですから、バスを基にDMVを造った場合定員は50〜60名程度になってしまうでしょう。この輸送力は鉄道仕様の
最新型気動車
の定員117名(しかもトイレ付)と言う輸送力から比べると半分程度と言う事になってしまいます。
ですから輸送力の側面で見ると、単体では低コストでも輸送単位が小さい為に集客に成功してしまいDMVで多くの人を地域で集めてしまうと増発が必要になりその分車両・運転手等のコストが増えてしまい、大量輸送に適した鉄道車両の方が低コストと言う場面も出てくる可能性が有ると言えます。そうなるとDMVは単体での車両コストが安いし燃費が良いですから、鉄軌道上では一人の運転手での多数車両の併結運転が可能なシステムを作り(今の段階では未だDMVは2両併結の実験しか成功していない)フィーダーの道路上ではバス並みのコストで運転、多量の客が集まる鉄道上では低コストの多数併結運転が可能と言うシステムを作り出さないと、鉄道上でのDMVの有効活用はなかなか難しいと言えます
この様な中でJR北海道は何を目指してDMVを開発したかとなると、「ローカル線での究極の低コスト運行手段としてのシステム」と言う側面でその車両としてDMVを開発したのでは無いかと考えられます。
今JR北海道が保有する路線のうち大部分はローカル線ですし、JR北海道は営業距離数約2500kmの内約3分の1に当る約800kmは輸送密度500人/日以下であり究極は輸送密度二桁の路線を抱える極めて厳しい経営環境の中にあります。その中で国鉄改革時のしがらみがあり赤字ローカル線で有れども民鉄の様に簡単に廃止する事は出来ない状況に有ると言えます。
その様な制約の中で如何にして究極のローカル線を維持して行くか?となると「究極の低コスト運行」を計る事で極限まで耐え忍ぶしかない状況に有ると言えます。その為に「究極の低コスト運行システム」として
DMV全体システム
(GPS活用の信号システム+DMV車両+モードチェンジシステム)を鉄道の概念を脱した鉄道と言う全く新しいシステムとして構築する事で、何とか低コストの運行システムを開発しようと言うのがDMV開発の根底発想で有ると考えられます。
実際今の段階で世に出ているDMV車両+モードチェンジシステムは極めて低コストですし、DMVで運行すれば今のマイクロバス〜大型バス等で十分賄える程度の輸送量しかない路線では、DMVの低コスト体質が十二分に活用する事が出来てしかも柔軟な運転で面をカバーする事が可能になるメリットで、少しでも低コストで乗客増・増収を図る事で極限状態のローカル線の延命を計る事が可能になる可能性を秘めていると言う事が出来ます。
その様な点から見ればDMVは「ローカル線の救世主」となる要素も秘めているとは言えますが、それ以上にJR北海道の考え方としては「ローカル線の低コスト運行手段」と言う位置づけが強いと言えますし(其れは
JR北海道柿沼副社長インタビュー
でも語られている)心境的には「ローカル線運営の為の『最後の砦』」と言う感じが強いのではないかと感じました。其処を見誤るとDMVと言うシステムの根底を見誤る可能性が有ると言えます。
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今回わざわざ富士市まで遠征してDMVの試乗会を見に行ってきましたが、確かに本論で述べた通りDMVは「既存技術を改良して使った新しい交通システム」と言う側面が強いですが、色々考えて行けば今後色々な発展性を見出す事が出来る技術で有るという事を改めて感じさせられました。
確かに鉄道線路上を走り有る場所で簡単に鉄道から道路へ乗換が出来るシステムと言うのは、素材として色々な発展性を期待する事が出来ます。実際ローカル線用のシステムとして開発されたシステムが富士市等では鉄道+バスの都市交通機関として活用しようとしていますし、鉄道が廃止されたり未成線で鉄道が無い場所を鉄道+バスとしてシームレス輸送を行おうとする構想も有ると聞きます。この様な構想が有る事からもDMVの発展性はかなり高いということが出来ます。
しかしローカル線の現実は「既に鉄道と言うツールだけでは存続できない」状況まで来ていると言えます。だからこそ鉄道・道路両方が運行可能でしかもバスを取り入れる事での車両の低コスト化を図ったシステムを開発し、何とかローカル線を低コスト運行システムで底支えしようとJR北海道は考えたのでは無いでしょうか?
極めて斬新な技術ですから「華々しい発展性」にばかり目が行きますが、今地方過疎地域のローカル線が置かれている極限の状況考えると華々しい側面ばかりを見る訳には行きません。この技術は「新技術」や「華々しい発展性を持つ技術」と言う側面だけでなく「地方ローカル線を支える最後の砦」と言う厳しい側面についても考えないと、方向性を見誤る可能性が有ると言えます。
「華々しい発展性」と言う明るい側面と「究極の低コスト運行技術」と言う暗い側面両方を直視した上でこのDMVと言う運行システムを見る事が、この技術の正しい評価と理解をするためには必要なのではないでしょうか?「DMVと言うマイクロバスで運行されるローカル線」と言う姿は鉄道としてのローカル線の極限の状況を示していると感じるのは私だけでしょうか?
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