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新規参入系航空会社の「第二の路線展開」は成功したのか?


−スカイマークの「神戸・新千歳線」とスターフライヤーの「新北九州線」の現状を分析する−



TAKA  2006年07月17日


    

左: 3/16開業のスターフライヤー羽田〜新北九州線
中: 2/16開業のスカイマーク羽田〜神戸線
右: 4/28開業のスカイマーク羽田〜新千歳線開業で影響受けた同じ新規参入系航空会社エア・ドゥの羽田〜新千歳線



※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 本年上期は、今まで「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」で取り上げてきた様に( 空の世界に芽生えた「新しい息吹」は航空業界を変えるのか?  参照)、神戸・新北九州の2つの空港開業を受けて新規参入系の航空会社による路線開業と、不採算路線撤退と高需要路線への競争的新規路線開業が活発に行われました。
 新規運行当初は華々しい活躍の路線の話も出てきましたが、一番開業の遅い路線であるスカイマークの羽田〜新千歳線が開業してから約2ヶ月が経過した現在、色々な意味で状況や影響が見えてきました。5月にも「 運賃が安い事だけが良い事なのか? 」と言う一文を書きましたが、今回羽田からの神戸・新北九州・新千歳への新規路線開業から2ヶ月〜5ヶ月経過し、搭乗率等で一定の数字が出てきたのを受けて、「新規開業路線」の状況と「新規参入系航空会社」の取った戦略について分析してみたいと思います。

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 ☆ 「新規参入系航空会社」の各路線の状況
 
 新規開業の各路線に関しては各社のHPにて色々な形で搭乗率が公表されているので、その資料を辿ると参入した各路線が実際にどれくらい利用されているかが明らかになります。
 今回は新規参入系航空会社「新規開業路線」に注目していますが、新規参入系航空会社の新規参入路線に加えて過去から運営しているスカイマークの羽田〜福岡線の4月〜6月の利用実績を中心に「旅客数・提供座席数・搭乗率」の3つのデータを取り上げて集計したいと思います。(執筆時には各社で発表時期に差が有るため5月・6月分に関しては未発表の会社も有ります。その為就航全社の資料が揃っているのは4月分になります)

 「資料参考HP」・ 日本航空 (月次輸送実績)・ 全日空 (プレスリリース)・ スカイマーク (搭乗実績)
         ・ スターフライヤー (プレスリリース)・ エア・ドウ (運行実績 ※全路線の合計で発表なので統計から除外)

 ○ 羽田〜新千歳線(日本航空・全日空・スカイマーク 3社)
航空会社名運行本数4月旅客数4月提供座席数4月搭乗率5月旅客数5月提供座席数5月搭乗率6月旅客数6月提供座席数6月搭乗率
日本航空21往復240,935456,38752.8%299,787505,79459.3%
全日空15往復261,230470,17555.6%
スカイマーク10往復9,00115,40558.4%83,858148,09056.6%49,225130,52537.7%
 ※スカイマークは4月28日就航の為、就航日以降の2日間のみの統計数値です。

 ○ 羽田〜神戸線(日本航空・全日空・スカイマーク 3社)
航空会社名運行本数4月旅客数4月提供座席数4月搭乗率5月旅客数5月提供座席数5月搭乗率6月旅客数6月提供座席数6月搭乗率
日本航空2往復27,74841,08867.5%27,88842,35465.8%
全日空2往復19,73930,64564.4%
スカイマーク7往復59,79471,39083.8%62,46973,16085.4%58,33773,98678.8%

 ○ 羽田〜新北九州線(日本航空・スターフライヤー 2社)
航空会社名運行本数4月旅客数4月提供座席数4月搭乗率5月旅客数5月提供座席数5月搭乗率6月旅客数6月提供座席数6月搭乗率
日本航空4往復34,56869,07250.0%33,13363,65252.1%
スターフライヤー12往復54,574102,52853.2%60,178106,27256.6%50,009103,10448.5%

 ○ 羽田〜福岡線(日本航空・全日空・スカイマーク 3社)
航空会社名運行本数4月旅客数4月提供座席数4月搭乗率5月旅客数5月提供座席数5月搭乗率6月旅客数6月提供座席数6月搭乗率
日本航空24往復278,678454,23461.4%287,790474,62760.6%
全日空16往復312,012443,48170.4%
スカイマーク11往復68,256133,87851.0%90,407172,60852.4%68,581161,98442.3%

 データ的には各路線とも全日空の利用実績が1ヶ月しかない為不十分とは言えますが、それでも新規参入航空会社の分が3ヶ月有る為新規参入航空会社の動向に関しては有る程度把握できると考えます。
 なのでこのデータを基にして今年に入り新規参入系航空会社の行った施策・新規開業路線の動向を分析してみたいと思います。


 ☆ スターフライヤーの「小型機多頻度輸送」は空回り!?

 先ずは本年3月の新北九州空港開港に伴い羽田〜新北九州線に新規参入したスターフライヤーです。
 スターフライヤーの羽田〜新北九州線は当初こそ順調で、私が乗った3月26日も満席で運行の状況でしたし、スターフライヤーの売りである深夜便も3月運行開始直後にWBC優勝の王監督が福岡での開幕戦に備えスターフライヤーの深夜便で新北九州経由で福岡に戻ったのが報道され注目を集めたりしていたので、「比較的順調なのかな?」と思っていましたが、どうも其れは御祝儀相場で有った様で現在は搭乗率が50%を割る状況になってしまっています。
 スターフライヤーは、百万都市北九州を後背に抱えながら空港設備が悪く航空便が少なかった北九州に、地元に支持された新規参入路線(北九州市から補助も貰っている)として参入し、しかも既存運行会社の日本航空より本数・供給座席数とも多いと言う「新規参入航空会社としては優位な立場」で参入したので、それなりに善戦するかと思っていました。
 しかし現実はこの様に「現在苦戦中」と言う状況です。スターフライヤー自身他の新規参入航空会社との差別化と言う事も有ったのでしょうが、「普通の運賃帯で素晴しいサービス」「小型機(A320)で多頻度(12往復)の運行」と言う比較的斬新なコンセプトで運行を始めました。果たしてこのコンセプトが間違えていたのでしょうか?

 スターフライヤーの苦戦の原因は「新北九州空港のアクセスの悪さ」と「高運賃・高サービスでは乗客を呼べなかった」と言う点に有ると考えます。これ等が相乗効果を引き起こしてスターフライヤーの供給過剰を引き起こしていると思います。
 但しスターフライヤーだけでなく日本航空も横並びで苦戦と言う事を考えると、最大の原因は「新北九州空港のアクセスの悪さ」に有るのかもしれません。  新北九州空港は周防灘に浮かぶ海上空港ですが、小倉からアクセスバスで40分位かかります。小倉起点で考えると40分有れば隣接の福岡空港へ十分アクセスできます。元々北九州には福岡・北九州と言う2つの大都市がありながら「福岡空港の立地の良さ&本数の多さvs北九州空港の立地の悪さ&本数の少なさ」と言う対比関係の中で、利便性の高い福岡空港が「北九州地域のメイン空港」として使われてきました。
 この「巨大な惑星」の大きさ故に、北部九州では佐賀空港も苦戦していましたが、新北九州空港も同じ道を歩んでしまったという事が出来ます。東京便が数えるほどの佐賀空港に比べて確かに本数も多く利便性も高いですが、小倉から40分のアクセスは致命的なマイナスポイントと言えるかも知れません。
 このアクセスの悪さが、北九州では福岡空港への流失を止める事に失敗させると同時に狙っていた山口県の需要(山口宇部空港の需要)を取り込むという算段も狂わせた可能性が高いと言えます。

 その空港側の需要予測の「取らぬ狸の皮算用」と利便性の高い福岡空港近接と言う地理的条件が、スターフライヤーの「小型機高頻度輸送」「普通運賃での高サービス」と言うサービスコンセプトを上手く引き立たせる事が出来ずに、現在の状況のように足を引っ張ったという事が可能性として存在します。
 本来ならこの立地条件は「福岡空港の需要を切り崩し、新北九州空港&スターフライヤーに取り込む」と言う積極策が成功する可能性が有るほど一面においては魅力的な存在でした。しかし相手が巨大すぎたと言う事もできますが、「福岡空港に遭えなく返り討ち」を受けてしまったというのが実情で有ると思います。決して「無謀な挑戦」とは私は思わなかったのですが、「新北九州空港のアクセスの悪さ」と「高運賃・高サービスでは乗客を呼べなかった」と言う二つのマイナスが、「負の相乗効果」を引き起こしてしまったのかもしれません。

 問題は此処からの立て直しです。スターフライヤーは流石にこの状況に危機感を抱いた様で、早速対応策を打ち出しています。
 具体的には利用率の低い早朝・深夜便梃入れのために「羽田駐車場料金の一部負担」や「乗り合いタクシー利便性向上」や「日豊本線夜行列車への接続」と言う方策を取ると同時に、高いと言える運賃関係も「片道23,200円の【往復割引】」や「28日前までの予約で9,800円〜13,000円と言う値段の【STAR28】」なども導入しています。(詳細は「 6月旅客実績と今後の対策について 」参照)
 この対応策は有る程度インパクトの有る内容を提示した運賃に関しては一定の効果が有ると思います。しかし問題は不便な新北九州空港のアクセスです。今回のスターフライヤーの対応策が、アクセスが不便で有っても新北九州空港からスターフライヤーを利用してくれる程スターフライヤーの魅力が向上したかといえば疑問です。
 北九州市もアクセスに40分掛かる現在の状況を劇的に改善(アクセス時間半減以上)する切り札として「 新北九州空港アクセス鉄道 」を構想として検討していますが、未だ構想の域を出ない状況です。「新北九州空港にアクセス鉄道を作るだけの需要も有るか?」と言う問題も有りますが、その前に「アクセス鉄道が完成するまでメイン航空会社のスターフライヤーが持つか?」と言う深刻な問題が有ります。その点ではアクセス鉄道はスターフライヤーの現状を直ぐに打開する方策には成り得ないと言えます。
 スターフライヤーの置かれている状況も深刻であるのは数字が示していますが、この状況を打開する妙薬が見つからないと言う事が、現在スターフライヤーの置かれている深刻な状況を示していると言えます。


 ☆ スカイマークの「ダンピング施策」は大失敗!?

 続いて本年2月に「 第二の創業 」と位置付けて、大幅運賃値下げ・料金制度変更・新型機(B737-800)導入・不採算路線(徳島・関空・鹿児島)からの大胆な撤退・大都市路線(神戸・新千歳)への参入と言う思い切った施策を取ったスカイマークです。
 今回行った一連のスカイマークの施策の狙いは明らかでした。つまり「潜在需要の少ない地方路線を削減し」「路線を大都市間の高需要路線に絞り」「大手各社には運賃ダンピングで対抗し」「ダンピング原資は低コスト航空機(B737-800)への切替とサービス削減と 値下げの変わりに航空機遅延の場合他社便・他交通機関への振替中止 等の運行約款変更で捻り出す」と言う事を実施し、「大需要地間を結ぶ低コスト航空会社」に会社を変身させるという事です。
 確かに「第二の創業」で(本当に創業時に抱いていたビジネスモデルへ)会社のビジネスモデルを変えるほどの大胆な変身を行ったスカイマークですが、その変身のもたらした結果は如何だったのでしょうか?

 この3ヶ月の数字を見る限り、スカイマークの「第二の創業」は残念ながら失敗で有った公算が強いと断言できます。
 確かに関空(28.6%)・徳島(47.4%)と言う搭乗率50%未満の不採算路線を切り捨てたのは、経営の肩の荷を降ろしたと言う点で大きなメリットが有ったと思います。同時に大都市近郊でしかもアクセスが良い神戸空港に有利な状況で乗入できた(運行本数・座席供給数共にトップシェア)と言う事は大きなプラスで有ったと思います。其処までは間違えて居なかったと思います。
 しかし最大の失敗は「競合路線で低価格運賃が利用客に受け入れられなかった」と言う点につきます。これは6月に入ってから運行本数や供給座席数で劣勢だが日本航空・全日空との完全競合を強いられている新千歳・福岡線の搭乗率が30%台後半〜40%台前半に急落している事が如実に示しています。特にスカイマークのメイン路線で就航してからかなりの時間が経っていて固定客も掴んでいると思える、福岡線での10%近い搭乗率の急落は極めて深刻な状況であると言えます。
 6月の旅客数は福岡>神戸>新千歳と言う状況ですが、福岡・新千歳は神戸より運行本数が多い事を考えると、この2路線は現行のB767-300では大幅な供給過剰で、機材をB737-800荷変更しても十分対応可能な程度の輸送量しかない(新千歳線はそれでも過剰?)と言う「閑古鳥が鳴く」と言える燦々たる状況です。
 しかし唯一堅調なのは神戸線だけです。神戸線は搭乗率が平均で80%程度を堅持していると言う事は、満員の便も有るというかなり堅調な状況で有る事を示しています。これがスカイマークの唯一の救いであると言えます。

 この様な「福岡・新千歳の壊滅的打撃」と「神戸の堅調」は何を示すのでしょうか?この状況が示している事は「大手2社に正面決戦を挑んでも勝てない」「需要がありながら大手2社の運行便の少ない所に進出すれば勝算が多少は有る」と言う事、つまりは「ゲリラ的戦法で戦えば勝算は有る」事を示していると思います。
 元々福岡線参入時には「大手より低コスト・低価格」を売りにして進出当初は一定の支持を受けました。しかし完全に大手を駆逐する程ではなく、大手が直ぐに「追従値下げ」を行ってきてスカイマークが売りとした「価格面のメリット」をアピールする事が出来ずに苦戦した歴史が有ります。(これでAirDoは全日空傘下に入った)
今回もその失敗に懲りずに同じ過ちを犯していると言えます。つまり企業体力の大きい大手航空会社は「値下げ」と言う体力勝負になれば、独現状では禁法の絡みで露骨には出来ないにしても、スカイマークの低価格のアピールを暈す位の値下げをする事が可能です。もし其処まで値下げしてくれば「サービスが良く」「搭乗時の利便性が高く(バスでなくボーディングブリッジを使えるのは大きい)」「本数が多く」「マイレージサービスが充実している」大手に乗客が流失してしまうのは間違いありません。
 乗客に取っては価格は「AllOfThem」ではなく「OneOfThem」に過ぎないのです。価格の差以上に他のメリットでプラスの差がついていると感じれば乗客は意図も簡単に流失してしまいます。其処を見誤った「経営のミス」が今回の結果を招いたと言えます。

 但し唯一の救いは「神戸の善戦」です。神戸ではスカイマークがトップシェアであり、競争を受ける立場に有ります。しかも阪神間・神戸市街・播磨地域まで広がる地域から需要を集められる為元々多頻度運行に耐えられる需要が存在します。この様な「大手2社のニッチマーケット」でありながら「高需要路線」を探す事がスカイマークには必要であると言えます。
 スカイマークが今の危機的劣勢を立て直すには、先ず短期的方策として「新千歳便減便・神戸便増便」と「新千歳にB737-800を就航させ、そこで浮いたB767-300を神戸線に投入する」「神戸便の運賃を少しでも値上げして増収を図る」事で神戸線の座席供給量を増やすと同時に収入も増やす事が必要と考えます。
 確かに神戸線も旅客数は福岡・新千歳と大きくは変らず、供給のパイを増やすと供給過剰になる可能性が有ると言えます。しかし大手2社との競争で劣勢に立たされている所で供給過剰で座席を遊ばせるより、大手2社に対し立場が優位な神戸で需要拡大を図る方が可能性は高いと思います。
 スカイマークは「 七月十四日から九月十日(那覇発は同十一日)まで深夜・早朝の発着枠を使って羽田〜那覇線を一日一往復運航する。その為この間は新千歳−羽田線を一往復減便し九往復とする。 那覇線はその後、一日二往復の定期便とするが、長距離路線のため、新千歳−羽田線、羽田−福岡線の計四往復を減便して機材を振り向ける。 」(7/11北海道新聞)と羽田〜那覇線就航の方針を出しています。確かに過去においては人気路線でしたが、やはり此処も大手との競合が激しい路線です。スカイマークにしてみれば「ビジネス路線より観光路線」の方が合っていると考えているのでしょうが、大手2社が手薬煉を引いて待っている所に打って出て勝算が有るのかは極めて疑問です。
 それともう一つのヒントは、新千歳線での同じ新規参入組のAirDoとの競争の中で「 スカイマークの搭乗者数は約8万4000人で、エア・ドゥ(約9万人)とほぼ同数だったが、搭乗率は56.6%だった。前年同月の新千歳線の平均搭乗率(64%)を大きく下回った。「就航記念」として片道普通運賃を1万円に設定したものの「安全トラブルの影響を払拭できなかった」としている。エア・ドゥの搭乗率は89.8%と前年同月比13ポイント増加。道内在住者などが対象の「道民割引」を9500円に設定したほか、飲み物の提供など機内サービスの差が奏功したとみている 」(6/2日本経済新聞)と言う報道も有ります。やはり「低価格でサービスを削る」と言う方策は「低価格でもサービスあり」の前には、叶わなかったという事が出来ます。
 この事から「一部サービス復活」も必要と考えます。簡易なサービスの有無で客室乗務員の数が大幅に変る訳では有りません。実際私のスカイマークの搭乗時には客室乗務員は飛行中後ろで手持ち無沙汰にしていました。この時間的暇をサービスに変えるべきです。ジュースを出しても原価は数百円しか変りません。それで何人か多く乗ってくれるのなら其れこそ「儲け物」と言えます。
 振替輸送等のサービスに関しては、「そのサービスを求める人には多少の割り増しをする」等費用を取ってもいいと思いますが、簡易なサービスぐらいは低価格でも行うべきです。「低価格でもサービスは重要」と言うのは低コストエアラインの雄であるサウスウエストも示している事です。この様な成功例を学ぶ事も必要であると感じます。


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 この様にスターフライヤー・スカイマークの2つの新規参入系航空会社の新規開業路線とスカイマークの新規戦略について分析してきましたが、両者の新規開業路線・スカイマークの新規戦略両方とも苦戦している事は間違い有りません。
 しかし新規参入系航空会社の苦戦は何もこの2社だけでは有りません。スカイマークの新規開業路線である新千歳線と新規戦略の影響が、同じ新規参入系航空会社であるAIR・DOを直撃する様です。実際AIR・DOの 18年3月期決算単信 を見ると、売上は29,553百万円→30,000百万円とほぼ横ばいであるのに対し経常利益は2,171百万円→200百万円と10分の1に激減します。この要因は最大の収益源の新千歳線へのスカイマークの新規参入による競争激化で有る事は間違い有りません。
 AIR・DOは2002年に「 民事再生手続申請 」を行うと同時に「 全日空との包括提携 」を行う事でやっと再生し現在まで辿り着いた会社です。その会社が同じ新規参入系航空会社であるスカイマークによる無謀なダンピング競争に巻き込まれ、今や「共倒れ」の危機に陥りかねない状況になってきています。

 この事から考えても、新規参入系航空会社の新規展開の内、スカイマークが行った「市場をかき乱す」と言う表現が適当な新規参入と運賃ダンピングが、スカイマーク自身の首を絞めるだけで無く他にも大きな影響を与えている事が判ります。この様な無秩序な事が好ましい事なのでしょうか?
 確かに国土交通省が航空法を改正し需給調整規制を撤廃し新規参入を図る規制緩和を行った事自体は正しいと言えます。(参考資料: 国内航空における規制緩和−改正航空法による規制緩和− 国土交通省政策レビュー)其れが総論として正しく、新規参入が則された事により、今や我々は新規参入会社の安い運賃・サービスや、昔に比べ格段に安くなった大手航空会社を利用できる様になりました。其れこそ規制緩和による競争の成果で有ると言えます。
 しかし今や特に今回のスカイマークの一連の行動は正しく「規制の負の側面」を全て示したと言う事が出来ます。不平等な条件下(例:空港ではバス利用で搭乗・遠い所に有るチェックインカウンター・制限された羽田発着枠 等)での競争が歪な状況を生み出し、歪んだ価格競争万能主義が破滅的な価格競争を引き起こし、又合法だが同義的に問題の有る手法での路線新設を行うなど、色々な意味での問題の有る状況を現出していると言えます。
 この様な事が好ましい筈が有りません。このまま進んでいけば「 空の世界に芽生えた「新しい息吹」は航空業界を変えるのか? 」や「 運賃が安い事だけが良い事なのか? 」で憂いた様にスカイマークは会社存亡の危機に立たされる可能性が非常に高いと言えます。加えてスターフライヤーも唯一の路線である新北九州線の苦戦で苦しい状況に追い詰められています。それにAIR・DOもスカイマークの仕掛けた競争の影響で大幅な減益決算を迫られる予想をしています。
 この様な新規参入系航空会社が全滅する様な破滅的競争が究極の状況に達し共倒れと言う状況になった場合、その後もたらされるのは日本航空と全日空による「日本の空の寡占体制」です。「自由競争→新規参入会社の登場→競争激化→新規参入会社の敗退→大手の寡占体制」と言う流れは航空産業の自由化で先を歩んだアメリカの辿った道です。日本の航空業界も辿りつつある道ですが、この道が好ましい道でない事は誰が見ても明らかです。
 本来ならプレーヤーの理性有る行動で調和とバランスを取れればベストですが、今の日本の航空業界ではスカイマークが今の路線を実行し続ける限りはその様な理性有る行動を期待する事が出来ません。その様な状況の中で、この「何時か来た道」を防ぐには残念ながら国土交通省の最低限の「調整」が必要です。調整と言う意味で「神々の見えざる手」の担い手をプレーヤーの理性に頼れないのなら監督官庁が行うしか有りません。
 今回のスカイマークの無謀な一手が引き起こした物事の影響の意味の大きさを正確に認識すると同時に、「日本の航空業界の寡占化」を意味する「新規参入系航空会社」の共倒れと言う状況だけは避けなければ成りません。そうしないと「アメリカの失敗」を繰り返す事になる事を肝に銘じなければならないと思います。又そうなった場合一番損をするのは我々消費者で有るという事も改めて自覚する必要が有るのではないでしょうか?
 




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