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『募金活動』だけで赤字地方鉄道を存続させる事は出来るのか?

−鹿島鉄道の地元で起きている「2億円の基金募金」と鉄道の存続の関係を考える−



TAKA  2006年09月04日



「かしてつ応援団」のラッピングトレイン@鉾田


 今まで廃止問題が取りざたされていた鹿島鉄道ですが、本年3月30日に国土交通省へ「 鹿島鉄道廃止届 」が出された事で、鹿島鉄道の廃止問題が遂に現実化されてきました。
 未だ最終的に国土交通省から廃止の認可が下りていないため、『正式に廃止』と決まったわけでは有りませんが、現行法制下であれば実質的に鹿島鉄道㈱が運営する鹿島鉄道の廃止を阻止する方法は無く、第三セクターor代わりの運営者による鉄道存続もしくは廃止によるバス代替えしか方策がなくなっている状況に有ります。
 その様に「廃止問題のカウントダウン」が進む中で、 地元の存続活動 等はかなり積極的に行われている物の、自治体の廃止対策の根幹で有るべき「 鹿島鉄道対策協議会 」でも「10月までに方針を決める」と言う状況であり、茨城県「先ずは地元で」との方向性で自治体が根本的方策を打ち出せない状況の中で、地元で新たな動きが出てきました。存続に向けた「2億円の募金集め」です。
 今まで私も鹿島鉄道廃止問題に関しては「 かしてつを救うことが出来るのか? 」と言う一文を書いたりしていますので、非常に興味の有る問題です。又「存続問題に対する市民活動」と言う点では「かしてつ応援団」を一定の評価をしているつもりです。そう言う事も有り、今回は鹿島鉄道存続運動で新たに出ていた団体とその団体が始めた「2億円基金募金」の動きについて考えて見たいと思います。

 ☆ 「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」による『存続再生基金』募金の内容

 今回話題に取り上げた「募金」は、今まで鹿島鉄道存続運動の前面に出ていた「 鹿島鉄道を守る会 」や「 かしてつ応援団 」とは違う団体である「 鹿島鉄道存続再生ネットワーク 」が旗を振って行っています。
 「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」は「かしてつ応援団」や今の段階での存続運動の旗振り役のひとつである「 かしてつブルーバンドプロジェクト 」とは参加者のメンバーを見れば被っているので相互連絡の有る活動団体と言えますが、代表・副代表のメンバーを見れば「石岡総合スポーツクラブ・まちづくり市民会議」等の石岡市内のNPO法人が主体となって造った団体です。
 この団体は「地方鉄道は地域の基礎的な社会資本であり、地域が一体となって支えていく必要があります。「鹿島鉄道」を核とした地域活性化の方向こそが将来を開く可能性を秘めており、鹿島鉄道がなくなるのは「もったいない」のではないでしょうか?」(同HPより引用)と言う主張の下で、今の段階で存続運動を行い出しその根幹として、「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」+地域の病院の医師や地元の有力者や鉄道マニアまでを発起人に加え「 存続再生基金 」と言う名の寄付を募っています。
 この「存続再生基金」は本年8月〜9月の2ヶ月間で2億円を集め、「鹿島鉄道(株)が継続して経営する場合は、そこに対する支援として運用」もしくは「代替事業体が経営する場合は、その事業体に対する支援とした運用」する事を目的にしてます。又目標の2億円は「面鹿島鉄道2年間存続資金相当額:2年間は、再生の検討と準備のための期間」と言う計算の下で寄付の必要額を算定しています。(因みにHP上の9/3現在の寄付予約は74名・1,842,000円)

 ☆ (疑問その1)果たして2億円の募金は集められるのか?

 先ず大きな疑問ですが、2億円の算定根拠は別にして(2年間の赤字補填)実際問題「2億円集めることが出来るのか?」と言う問題が有ります。一言で2億円と言いますが、鹿島鉄道沿線の人口(合併前の石岡・玉里・小川・鉾田の4自治体の人口計)は164,650人に過ぎず、2億円の寄付は1人当たりに直すと約1,215円と言う金額になります。
 その内実際直接鹿島鉄道の沿線に住んで利用していて存続問題に興味を示す人となると、どれ位になるのでしょうか?1日の利用客が約2,600人(01年の利用人員946千人/365日)と言う数字から見れば、実際の利用者・関連者は4自治体住民の中でもそんなに多くないと言えます。其処からなると住民の1人あたりの必要額はもっと大きくなります。
 此れだけ大規模な募金を僅か2ヶ月で集める事が出来るのでしょうか?此れは「寄付予約」と言う当座は出費を伴わない物であっても、実際問題としてその実現は極めて難しいと言えます。
 鉄道の存廃問題で市民団体が大規模な寄付・募金を募集した例として「 万葉線新会社設立時のRACDA高岡等の市民団体が主体となった募金 」が有ります。
 このとき集めた募金が1億円でした。募金自体は1年以上の時間をかけて行われていますし、中心となったRACDA高岡などの市民団体も「突然出来た市民団体」ではなく、その前から存続運動の活動を行っていた団体です。又沿線の高岡・新湊両市の人口も合計で218,910人と鹿島鉄道沿線より遥かに多い状況で、少なくとも鹿島鉄道沿線よりは募金が集めやすい状況に有ったと言えます。
 その様な状況で高岡で集めた募金が1億円です。(後民間からの出資金が4,900万円)しかし「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」は僅か2ヶ月間でその2倍の金を募金で集めようとしています。日本鉄道賞の受賞団体である「かしてつ応援団」の高校生が今まで地道に集めた 募金額が2,997,765円(8/29現在) です。その数字と比較するの何ですが、果たして現実として集まるのでしょうか? 8/23の読売新聞記事 「相当厳しい数字」と言う茨城県幹部の言葉が出ていますが、私もこの募金活動の現実性に大いな疑問が有ると言えます。

 ☆ (疑問その2)果たして2億円の募金で鹿島鉄道を支えられるのか?

 もう一つの問題は、「募金が成功して目標の2億円集めても、鹿島鉄道の約1億3千万円の赤字(全事業経常赤字:01年度数字・数字で分かる日本の鉄道2003)の2年分にも足りない」と言う深刻な問題が有ります。
もし万が一自治体決断が遅れた場合、07年3月31日のタイムアウトから自治体決断までの当座の時間稼ぎにはなります。その意味では「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」の言うような募金の意味は有ると言えます。
 間違いなく1年は耐えられる金額です。今の段階で存廃問題が決まらず、第三セクターを含めて引き受け相手が見つからない以上、最低08年3月までは鹿島鉄道に運営してもらう事が存続には必要です。その「時間稼ぎへの対応」と言う一時凌ぎに意味では、「2億円の募金」は集まれば大きな意味を持ちます。又「民意が存続に有る証拠」と言う意味でも「2億円の募金が集まった」と言う実績は大きな意味が有ります。
 しかし問題は存続が決まった時です。存続が決まった場合、自治体から応分の支援が出る事は間違いないでしょうが、2億円と言う金額は上記の様に鹿島鉄道の赤字を埋めるには「焼け石に水」の金額です。鹿島鉄道の場合車両4両有るKR−500系以外の旧式の気動車に関しては早急な更新を迫られています。車両以外のインフラに早急な補修箇所が無いにしても、旧型気動車5両に5〜6億円掛かります。有る程度の補助が有るにしても此処に2億円の募金を使っても足りないのが実情です。
 又赤字補填の「経営安定基金」に使うとしても、2億円の原本に手を付けず運用利回りだけで補助するとしても、5%の利回りが有ったとして年間1,000万円です。鹿島鉄道から新事業主体に変ったとしても劇的な赤字減少は困難ですから、これも又とても足りる金額でなく「焼け石に水」と言う事になります。
 こう考えると民間団体が集める「2億円の募金」と言う金額は極めて大きい金額では有りますが、実際問題として鹿島鉄道の存続費用の中で2億円と言う金額を考えると、「焼け石に水」の金額と言うしか有りません。存続の場合県・沿線自治体からかなりの補助が出た上での運営と言うことは容易に想像できますが、存続には数十億円単位の巨額の金が必要です。そう考えると存続決定時の「2億円の募金」の使い道は多い物の如何使うかは自治体との折衝を含め難しい物が有ると言えます。

 ☆ 募金集めより先にやる事が有るのでは?

 今回「鹿島鉄道存続再生ネットワーク」の「存続再生基金」の為の「2億円募金活動」を知り、「金額の壮大さ」と「巨額募金を募集しながらの先のビジョンの不透明さ」と言う2つの意味で驚きました。
 確かに2億円の募金を集める事が出来れば、「金を出した事での民意の反映」「存続運動への地元の誠意としての担保」と言う点で意味が有ると言えます。私はTAKAの交通論で書いている「かしてつを救うことが出来るか?・ 鹿島鉄道存続の具体的方策 」の中で「鹿島鉄道の存続運動を推し進める市民にも、強要はしたくは無いですが、高岡・福井レベルの「金も出して存続を裏付ける」と言う意識が必要」と書いているので、今回の2億円募金集めはその具現化と言う事も出来ます。
 しかし私がその中で「出資・寄付を集める」と言う言い方をしている通り、「住民が金を出す必要あり」と考えるのは「存続が決まり運営スキームが決まる段階」であります。「今から集めておいて、存続が決まった時には切り替えれば良い」と言う考えも有るでしょうが、私はそんなに簡単に存続が決まるとは思いません。それほど鹿島鉄道の現実は厳しいと言えます。
 少なくとも今の段階では、存続活動を「存続を確実にすること」の1点に絞るべきです。「何故必要なのか?」「此れから如何生かすのか?」「どうやって乗客を増やすのか?」と言うビジョンと、存続を望む地域の住民の声を「民意」と言う物に変えその上数字の裏付(此処では署名活動を指す)をつけて、其れを元に自治体・議会に直接的圧力を掛ける政治活動です。
 もし存続しなければ集めた「2億円の募金」は如何するのでしょうか?その様になる可能性は十分ありえる話です。
 募金集めにも必要な事は「先のビジョンを示す事」です。先ずはその精力を「存続活動1本」に絞り、その段階で「存続活動に全力を傾ける」「1年間の時間稼ぎの間の繋ぎ資金に基金が必要だから募金を集める」「存続決定時には、1年分の自治体補助金を募金で立て替えたことにして、投入募金の一部返還を受け其れを新運営主体の基金に積み上げる」「存続活動に失敗したら、この募金は地域の交通環境改善に使う」と言う事を明示して、その上で存続決定後のスキーム決定時に改めて「(前のときの募金あまり転用を加えて)新会社の為の募金集め」を行うのがスジで有ると考えます。
 今の段階では「2億円の募金集め」に対して、明確なビジョンが示されているとは言えません。残念ながら表題の疑問の通り「募金活動だけで存続を決定させる事」は出来ないのです。存続運動に取っては先ずは「存続を決定付ける事」が一番大切なことです。その上での新運営スキームへの出資・募金・寄付なのです。その順番を間違えると最終的には後々に禍根を残す可能性が有ります。その点を良く考えて動くべきでは無いでしょうか?





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