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合理化の為の「バス事業分社化」問題について考える

−相模鉄道のバス分社化問題と労使間の紛争が示す「合理化の問題点」−



TAKA  2007年12月23日




バス事業分社化で労使間が対立している相模鉄道はどこへ向かうのか?@西谷


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 例外無く会社を株式市場に上場している(例外は上場廃止になった西武鉄道)日本の大手民鉄では、近年の日本経済全体を取り巻く「収益至上主義」の風潮の中で、ご他聞に漏れず「収益追求」を追求する経営方針が強く行われるようになって居ます。
 元々日本の大手民鉄では、その根幹を占める鉄道事業においては、都市圏鉄道事業では投資負担は多い物の比較的高い収益性を確保しており、その為に合理化に関する意欲は比較的弱くかなり高い給与水準( 鉄道運転手の推定平均年収は621万円・鉄道車掌の推定平均年収は587万円 )をそのまま維持しながら事業を行って居ます。しかし鉄道事業者の企業グループの中で比較的採算性の厳しい事業分野においては、事業採算性確保の為に色々な手段を使って合理化・再編成を行って居ます。
 その中で大手民鉄企業グループの事業再編成の矢面に立たされているのが、バス事業です。バス事業は利用客の減少や高速・貸切バス事業での競争激化等に起因して、近年採算性は急速に低下しており、特に大手民鉄グループに関係するバス事業はその給与水準の高さ等に起因して、特に苦しい経営状況に陥って居ます。

 この様な状況の中で、色々な合理化策が行われて居ますが、その中でバス事業の合理化の「切り札」ともいえる位置付けで行われているのが、「分社化」です。特に大手民鉄では「合理化の切り札」として「分社化」が行われており、関東では元々直営バス事業が実質的無かった小田急・西武以外の各社ではバス事業は電鉄会社直営で行われていましたが、直営を維持して来た鉄道会社でも近年バス会社の分社化が進み、現在では関東の大手民鉄で鉄道会社の直営バス事業が存在するのは相模鉄道だけ(一部は相鉄バスに移管)になって居ます。
 その様にバス事業の合理化に関して「周回遅れ」状態で有った相模鉄道でも、この度バス事業の合理化を図る為に相模鉄道のバス事業の相鉄バスへの移管によるバス事業の合理化を行おうとしています。しかしそのバス事業完全分社化を巡り秋闘において労使間の対立が激化して、「平成19年12月24日始発から交渉妥結まで、最長96時間に及ぶ電車・バス等のストライキ」が計画されるまでの状況になって居ます。
 近年良い意味でも悪い意味でも「労使協調路線」が根付いている鉄道業界で「96時間ストライキ」をこの年末の時期に企画するというのは、有る意味非常に異常な状況となって居ます。確かにバス事業者などで「秋闘」が行われストが企画される事は有りますが、大概の場合妥結され春闘でストが行われる事が有っても秋闘でストが行われる事は殆ど有りません。その中での今の相模鉄道の状況は特筆すべき状況になって居ます。
 今回は、バス事業分社化を巡り「労使対立」と「秋闘での96時間ストライキ」という異常な状況に陥りつつある、相模鉄道の状況を見ながら、合理化として行われている「バス事業分社化」の等の合理化の姿について考えてみたいと思います。

 ※本記事執筆中の12月22日10:40に、相模鉄道HPにて「秋闘での96時間ストライキ」は回避されたと報じられました。

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 ☆ 今回の「相模鉄道のバス事業分社化」問題と労使間対立の概要

 今回「秋闘での96時間ストライキ」と「神奈川県労働委員会に対するあっせん申請」という近年の鉄道業界の労使間関係で見て尋常で無い事態を引き起こしている、相模鉄道と相鉄労働組合間の労働紛争で問題になっているのは、組合の要求として提示している「非正規社員の正社員化・裁判員特別休暇制度の新設・入社初年度年休付与日数の改善・格差是正本給の新設・年齢別最低賃金保障の全員適用・傷病休職満了時の取り扱い変更」に加えて、近年相模鉄道が着々と進めている「自動車事業の分社化」という問題です。

 ● 相鉄グループHP  ・ 相模鉄道労働組合のストライキについて  ・ 神奈川県労働委員会に対するあっせん申請に関するお知らせ
 ● 相鉄労働組合HP  ・ 2007年秋闘「格差是正へ」非正規社員の正社員化など要求を提出  ・ ストライキ中止のお知らせ

 私は直接当事者で無いので、相模鉄道と相鉄労働組合の間での労使間の話し合いは表面に出てきた所しか分かりませんが、上記の様に両者のHPで主張を見比べると、会社側は「今般、2007 年秋闘交渉における労使合意点が見出せない大きな背景としては、関東大手民鉄において唯一自動車事業の分社化が実施されていないことがあります。」という様に自動車事業分社化問題が労使間交渉の最大の問題といって居ますが、相鉄労働組合の方を見ると「非正規社員の正社員化等の格差問題」を前面に押し出していて、会社側が争点といっている「バス事業分社化」の問題については一言も出て居ません。
 しかし現実としては、「 相模鉄道労働組合のストライキについて 」で書いてある様に、今回の秋闘の闘争点は非世紀社員の正社員化や給与・待遇関係の等の「待遇問題」で有っても、実際労使間の対立の根底に有るのは「バス事業分社化問題」で有る事は間違い無いといえます。

 その労使間紛争の問題の根幹をなしている「バス事業分社化問題」の内容は、大きく分けると「出向による分社化(旭営業所・横浜営業所を各々分社)」と「不採算路線を同業他社へ移譲が骨子になっており、既に7年前の平成12年から分社化については協議が続けられており、同時に不採算路線の委譲に関して一般路線1路線・都市間高速バス路線3路線については、平成18年に労使間で合意が成立し既に第一期として委譲が行われて居ます。
 その後、バス事業分社化の実施と第二期・第三期の路線委譲に関して労使間協議を繰り返して居ますが、11/14・11/28・12/12と会社側から3回組合へ通知が出ており、組合は第一回・第二回通知に関しては受け入れを拒否しており、その中でも会社の「分社化及び第二期・第三期路線委譲についての強い姿勢」が示されており、その為「バス事業分社化問題」における労使間の対立は解消する事無く現在に至って居ます。

 今回の「バス事業分社化問題」の背景に有る物は、相模鉄道がいって居る様に「毎期10億円以上の営業赤字」「赤字累計額は平成に入ってからだけでも200億円」というバス事業の赤字体質と、コスト削減への障害となっている「業界最良水準の実働条件でありながら、正社員運転士の平均年収は800万円に及ぶ業界最高水準の賃金条件」という労働条件の問題が有ります。
 特に労働条件に関しては、高給与体系の民鉄会社の鉄道事業と同じ待遇条件で、バス事業を営む事になれば、鉄道事業に対して労働生産性が落ちる(当然社員1人当りの乗客輸送量は鉄道>バスになるから生産性は落ちる)にも拘らず同じ待遇が維持されている矛盾が、「大幅なバス事業の赤字」と言う形で跳ね返っている事は誰が見ても明らかです。実際高給与待遇が問題となった神戸市交通局の場合でも「 市バスの運転手の3割が年収1000万円を超えており、平均でも約890万円と、兵庫県内の民間バスの平均(44歳)が約500万円と比較して大きな開きがある 」(交通総合フォーラム:単純な批判では見えない真実 より)という待遇状況で有り、其処から見ると相模鉄道の「正社員運転士の平均年収は800万円」と言う水準は、高給与で批判を受けた地方自治体交通現業公務員と近い給与水準で有り、一般的なバス事業者の給与水準よりかなり高い(数百万円高い?)給与水準に有るといえます。
 現在において相模鉄道は「既存社員の労働条件には一切影響を与えないもの」「、今回の第2期及び第3期不採算路線の他社移譲に続く、第4期及び第5期不採算路線の他社移譲の実施に際して、既存社員の雇用に関しては影響のない形態での実施」という様に、雇用関係にはメスを入れないと明言して居ますが、実際の所「分社化による新規雇用者には、新給与体系を用いる事での長期的なコスト削減」を狙っている事は明らかで有るといえます。其処が見え隠れしているから「バス事業分社化問題」が労使間の対立要因となった事は間違い有りません。


 ☆ バス事業に吹き荒れる「分社化」という名の「合理化」について考える

 この様に現在相模鉄道では問題となっている「バス事業の分社化」ですが、これ自体は決して珍しい物では有りません。実際在京大手民鉄では、1991年の東急電鉄からの分社による東急バス設立を始め、1997年の京王バス設立による京王電鉄からの段階的路線譲渡開始(2002年京王電鉄バス設立で全路線電鉄本体よりの切り離し完成)、同じく2002年4月の東武鉄道バス事業本部の分社化による東武バス株式会社の設立、2003年4月の京浜急行バス・2003年10月の京成バスへの京成電鉄バス事業の移管完成など、次々と分社化が行われており、実際今回問題になっている「相模鉄道の分社化問題」は一番最後に出遅れた分社化ともいえる物です。
 又この様な「分社化」はバス事業が本業となっているバス事業者においても行われて居ます。全国第二位の規模を誇る神奈川中央交通でも、1996年以降地域別に湘南・津久井・横浜・相模・藤沢の各神奈交バスに分社化されていますし、小田急バスでは高速バス・路線バスの受け皿会社として2000年に小田急シティバスを設立し、立川バスでも一般路線バスの受け皿会社として2000年にシティバス立川を立ち上げ、拝島営業所路線を中心に一部路線の移管を進め現在も移管の規模を拡大しています。又西武バスでも秩父・長野県東部の路線を地域分社で西武観光バス・西武高原バスに移管すると同時に、業務の管理受委託のために西武自動車を設立し、現在練馬・高野台・立川・飯能で業務の受委託の関係に有ります。
 この様に見ると、地域分社・一括切り離し分社・分社設立後徐々に路線移管という様に、形態こそ色々あれども、民鉄系のバス事業者を見るとどのような形で有れ、分社化という手法もしくはそれにる維持した手法を用いて、バス事業の合理化を行っている事が分かります。

 では何故合理化の手法として分社化が行われるのか?それは今回最後列からバス事業の分社化による合理化を行い、労使間対立が発生し見事に躓いている相模鉄道が「 相模鉄道労働組合のストライキについて 」の中で、及び分社化の先陣を切った一社である京王電鉄が「京王電鉄五十年史」の中で、分社化による合理化の必要性を説明してくれています。
 相模鉄道は、分社化の必要性を「業界最良水準の実働条件でありながら、正社員運転士の平均年収は800万円に及ぶ業界最高水準の賃金条件等が現存している現状において、分社化を果たし得ないまま、当社においてかかる業界トップクラスの労働条件下で新たな正社員運転士を採用することは、当社自動車事業の収支改善に逆行する」「嘱託運転士としてではなく、分社会社での正社員運転士としての積極的な採用募集活動によって、退職等による欠員補充にも迅速に対応できる」という事を述べて居ます。
 又京王電鉄も「京王電鉄五十年史」においても、「新しい事業構造に転換していくためには、経費の大部分を占める人件費の削減を図らなければならず、そのためには、基本的な労働・賃金条件に触れざるを得ない。すなわちバス事業の収入実体に見合った新しい賃金・労働条件を再構築しなければならなかった」「そこで既存の従業員の雇用を維持し、かつ余剰を出すことなく、徐々に新しい事業構造に転換していくために、新会社を設立し、毎年の当社バス乗務員の退職者数に合わせて路線を新会社に移し、新会社が新しい賃金・労働条件で採用した従業員により運行していくという段階的分社化方式を選択することとした」と述べて居ます。
 この様に相模鉄道・京王電鉄のコメントを見れば、バス事業分社化の狙いは、分社化による鉄道会社の高いレベルの賃金体系との分離と、新会社での新賃金体系による退職者・不足要員の補充により、結果として労働者に配慮しつつ合理化・低コスト化を図るという点にあります。これが正しく鉄道会社からのバス事業分社化の目的で有る事は間違い有りません。
 実際の所「分社化による新賃金体系導入を図りコストダウンを狙う」という事は、民鉄直営でもバス専業でも分社化を行った会社何処でも、大元の部分で「分社化をする狙い」として考えて居た事は間違い無いと思います。実際今の雇用形態に手をつけず、労使協調路線で分社化を行いながら、正しく「真綿で首を絞める」様に徐々に高給与社員を新規雇用の低給与社員に切り替えて行く事で、最終的に低コストでバス事業を運営できる形態を築く事が色々な会社で行われています。
 上記のように見ると、近年行われている「バス事業の分社化」に関して、どの様な意図と目的が有ったか?という事が明らかになったといえます。

 ※斜字部分は、相模鉄道「 相模鉄道労働組合のストライキについて 」、京王電鉄「京王電鉄五十年史 162ページ」より引用しています。


 ☆ 分社化による合理化施策は果たして万能で正しいのか?

 上記で見てきたように、確かに「バス事業の分社化」による合理化は「労務関係に配慮しつつ漸進的にコスト改革を進める手法」として有用な手法で有り、複雑な労務関係に有りその調整が困難で有り、しかも企業体力が有る大手民鉄企業グループにとり、改革の手法として有用なやり方で有る事は間違いないでしょう。そうでなければ「バス事業分社化」は此れだけ多数の大手民鉄企業グループで採用されないでしょう。
 しかし本当に「バス事業分社化」は、大手民鉄バス事業の再建策として有用なのでしょうか?此処では「バス事業分社化」のもたらす限界や問題点について考えてみたいと思います。

 先ずは「バス事業分社化」の限界点について考えてみたいと思います。その限界点とは、正しく「分社化による合理化」は労務関係に配慮しつつ漸進的に進めるが故に、高コスト従業員の退職による社員の入れ代わりが進み、新会社による低コストで雇用した新社員が増えてこないと、コスト削減効果が発揮出来ない点にあります。
 それは「バス事業分社化」を進めた大手民鉄各社とも自覚しています。だからこそ、京王電鉄は「この方式(段階的分社方式)は長期的な事業の切り換えとなるため、当社のバス事業が徹底した効率化で事業収支がまだ均衡しているこの時期に着手するしかなく、この選択について労働組合の理解が得られ平成8年12月に合意に至った」といってますし、周回遅れでしかも事業収支が既に赤字に転落してから「バス事業の分社化」を行おうとした相模鉄道の場合「最終的には完全に自動車事業から撤退せざるを得ないという状況も視野に入れなければならない所にまで差し迫っております。」という、「分社化か廃業か」という究極の決断を迫る事になっているのです。
 実際の所大手民鉄企業グループは、企業体力が有るからこそ相模鉄道のように「業界最良水準の実働条件」「正社員運転士の平均年収は800万円に及ぶ業界最高水準の賃金条件」でも「全員を出向扱いとし、既存従業員の解雇は一切行わない上、出向先での賃金減少部分等については会社が完全補填」という条件を提示できるのです。これは企業再編の中では極めて恵まれた条件であり、バス事業が営業赤字で累積損失約200億円の事業の再編として考えると、恵まれた企業再編で有るといえます。しかしこの様な好条件下での分社化は、大手民鉄のバス事業分社化では普通に行われていても、一般のの赤字事業の再建・再編では到底行える物では有りません。
 その点で見れば大手民鉄が取った形での「バス事業分社化」による再編施策は、必ずしも「間違った施策」とはいえませんが、実際の所恵まれた企業体力と言うバックボーンがないと出来ない「条件付でしか実行できない限定的施策」で有るという事が出来ます。

 ※斜字部分は、相模鉄道「 相模鉄道労働組合のストライキについて 」、京王電鉄「京王電鉄五十年史 162ページ」より引用しています。

 加えて最大の問題は、大手民鉄各社が取った既存事業からの移行を伴う分社化の場合、幾ら分社化で「新賃金体系に移行」しても、実際は「親会社からの出向者」への親会社からの差額補填がある為に、実質的な所「一つの会社に二つの賃金体系」という歪な形が残ってしまうという点です。
 実際既存事業完全移行型の分社化が実施されて数年〜10年近く経ってきた、先発の大手民鉄系バズ事業子会社では、「同じ仕事をしているのに、出向者と新規採用のプロパーで賃金が大きく違う」という例が発生してきて、同じ社員の間に「出向者とプロパーという二つの階層」が登場して、新規採用で大幅に賃金の低いプロパー社員を中心に、職場の定着率が低く離職者が多数出ているとの話を聞いた事が有ります。
 当然の事ですが、此れは決して好ましい話では有りません。「職場への定着率が低く離職率が高い」という事は、バス運転手の技量と言う点で問題が発生する可能性があり、それは最終的にバス運転手の入れ替りが激しい事で低技量の運転手が増えて安全性に問題の出る可能性もあります。加えて一つの社内に同じ仕事でも給与の大幅に違う「二つの階層」が登場する事で、特に低賃金で雇用されたプロパー社員に待遇面に起因する不満が広がり、その結果として待遇に不満の持つプロパー社員のやる気やモラルが低下して、安全面を含めた大きな問題を引き起こし、最終的には職場・バス事業者の荒廃や崩壊を引き起こす可能性が有ります。

 この様に考えると、確かに今までのデフレ経済下での「賃金水準低下の時代」においては、不況に起因して悪化した企業の収益状況を改善するには、「リストラ」という言葉に代表される「賃金・人件費削減策」が一番有用な施策で有った事は間違い有りません。実際今回取り上げた「バス事業の分社化」も突き詰めれば、その様な「労働関係リストラ」という世間の流れに沿った施策で有った事は間違い有りません。
 しかし現実として、分社化による総人件費低下策が一巡してバス事業の収支安定という効果を得つつある現在では、逆に「職場の荒廃」という負の側面が目立つようになってきていますし、加えて景気の改善による労働市場の市況改善により低賃金での雇用は難しくなっており、実際バス会社では過去に「 今や極めて厳しい状況に有る公共交通の現実とは? 」で取りあげたように「新規バス運転手を雇用する事に苦労する状況」が、今や都市部のバス会社を中心に発生しています。
 その為「分社化による再編成」で大幅に下げる事が出来た労務費に関して、バス事業者は低賃金で雇用した社員が離職して行くなかで、その補充として新規運転手を雇用するのに給与コストが上昇しつつ有ります。それにより今までのコスト削減効果は失われつつ有り、分社化によるコスト削減でのバス事業維持は今や曲がり角を向かえつつ有ります。
 もっと問題なのは、コスト上昇だけならいざ知らず運転手自体が集まらなくなってきて居ます。運転手が集まらないという事は、コストだの賃金だのを言う前に、バス事業その物の存続に対して危機を向かえつつ有ります。この様な危機に対して「バス事業分社化による労務費コスト削減」は、過去においては意味が有りましたが今や無意味と化しつつありますし、今迎えているバス会社の「新たな危機」に対しては全く無力で有るといえます。
 この様な「社会情勢の変化」のなかでは、昔は通用した「バス事業分社化」ですが、今の時代にその手法が通用するか?となると大きな疑問で有るといえます。分社化を実現してもその効果が出る前に「運転手の減少にともなう補充コストの増大」に悩まされる事になるでしょう。そう考えると今回の相模鉄道の「バス事業分社化」は、実現しても相模鉄道バス事業の大幅な経営改善に寄与する可能性は低く、結果として非常に困難な道を経る事になると思います。あまりにもタイミングが遅すぎたといえるのでは?と感じます。
 以上のように考えると、「分社化による合理化施策は果たして万能で正しいのか?」という命題に対して、その答えは「NO」という事になります。しかし「NO」と簡単にいっても「その代替策は有るのか?」といわれると、残念ながら「今の段階でバス会社の困難を解消する名案はない」「地道に利用者が増えるような施策を行いコスト増を上回る収入増を期待するしかない」としかいえません。こう考えると民鉄系バス会社の抱えている問題の根は深いといわざる得ません。

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 今回問題の発端として取りあげた「相模鉄道の96時間ストライキ」に関しては、労使間交渉の妥結の結果回避する事が出来ました。しかし現状では相模鉄道・相鉄労働組合両者からの 公式発表 で、如何なる内容で妥結したのか?は明らかになって居ません。その為相模鉄道と相鉄労働組合がバス事業の抱える問題に対して如何なる施策を持って取り組むのか?は、公式の表明があるまで依然として不明の状況に有ります。
 しかし相模鉄道のバス事業が多額の営業赤字が出ている状態では、今のままの体制でバス事業を放置する訳にはいきません。何かしらの改革は必要で有る事は間違い有りません。しかし残念ながら「バス事業分社化」が効果が薄いとなると、今の段階で「相模鉄道バス事業改善の妙策」が有る訳ではありません。こうなると相模鉄道が取るべき方策は、最悪のシナリオといえる「売れる路線は同業他社に売却の上、売れ残った路線を抱えながら完全に自動車事業から撤退」という事になりかねません。そうなった時に相模鉄道に残ったバス運転手雇用を如何するのか?売れ残った路線の地域に対する公共交通維持の責任を如何果たすのか?この様な問題を含めて、総合的に考えなければならないのかもしれません。
 その意味においては相模鉄道・相鉄労働組合両者に取り、バス事業を改善して会社の収益と従業員の最低限の雇用を守りつつ如何にして地域の公共交通を維持するのか?極めて重い命題を抱えて、解決策を見出していかなければその者会的責任を果たせない状況にまで追い込まれているといえます。

 けれども実際の所、相模鉄道と相鉄労働組合の抱えている「バス事業への対処策」を見出すという問題は「氷山の一角」に過ぎません。
 過去に私を含めて交通総合フォーラムでも取りあげて来た「 賃金論問題 」がバス事業者全体に重く圧し掛かりつつ有ります。タクシーに関しても今回の 値上げ に際して「過当競争の果ての労働環境の荒廃」が問題になりましたが、バス事業者にも「労働環境の荒廃とバス運転手の不足」という問題が現実となりつつ有ります。
 今までは分社化等の「労務関係コストの削減」という施策で何とか危機を乗り切ってきましたが、今やその施策では残念ながら危機を突破出来なくなってきて居ます。しかも人件費に次ぐコスト要員である燃料費も近年劇的に高騰して来ており、地方バス路線では「 燃料高騰に対応しての地方バス路線への補助施策 」を自由民主党が検討して居ますが、この様な施策は地方には有効でも、収入は多くても数多くのコスト増加要因に苦しみつつある都市のバス事業者には無力な物で有り、労務費・燃料費コストの上昇という経営圧迫要因に対して今や都市のバス事業者は「無力」ともいえる状況になっています。
 その中で、公共交通としてのバス交通を如何にして守って行くのか?バス事業者と労働者・労働組合だけで無く、行政・政治や利用者を含めて、民営企業で有れども地域の公共交通の足を守る為には如何なる施策を講ずるべきなのか?真剣に考えないと今の民営企業中心の日本の公共交通としてのバス交通網が崩壊する可能性があるといえます。その様に今のスキームが崩壊してしまうと、利用者は直接不便を蒙りますし、バス公共交通網再構築の為には巨大な労力を投じなければ再建は不可能になります。その様な「破局」が来る前に如何なる方策を講ずるべきなのか?今真剣に考える事が求められていると感じます。




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