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悲 劇 は 2 度 繰 り 返 さ れ る の か ?

− JR西日本福知山線脱線事故と中国国鉄膠済線脱線衝突事故を考える −


TAKA  2008年05月01日


中国国鉄の高速旅客列車 ※写真はイメージ写真であり事故とは直接関係有りません



 ☆ 繰り返された悲劇

 「2005年4月25日」は日本の鉄道史の中で忘れてはならない一日となりました。それは死者106名という未曾有の大惨事となったJR西日本福知山線の脱線事故が発生した日だからです。この事故は曲線通過速度の超過により曲線を曲がりきれなかった事により、宝塚発学研都市線同志社前行の上り快速列車第5418M列車が転覆し死者107名(運転士含む)負傷者562名という日本の鉄道史上7番目の死者数を出す未曾有の大惨事となった事故です。
 この事故に関しては、航空・鉄道事故調査委員会から事故に関しての「 鉄道事故調査報告書 」が出されており、公式に事故原因は「列車が半径304mの右曲線に制限速度70km/h を大幅に超える約116km/h で進入し、1両目が左へ転倒するように脱線し、続いて2両目から5両目が脱線したこと」という様に認定されています。
 この福知山線の脱線事故に関しては、未だに人々の記憶から消えて居ません。偶々所用にて4月の25日夕方にJR東西線北新地→JR宝塚線川西池田間を使用し事故から3年目に当る日にこの事故区間を利用しましたが、当日は事故地点通過前に事故に関しての「安全に努める旨」を趣旨とした放送がされると同時に、事故地点を通過時には車掌が最敬礼をしていましたし、現地には献花台が設置されていました。この様に事故から3年経っても事故は未だに人々の心の中に深く残って居ます。

 この福知山線脱線事故の教訓は、曲線等の速度制限区間での速度照査機能を持つATS設置などの形で、曲線等の速度制限区間での速度超過を防止する安全対策が行われるなどして、事故当事者のJR西日本だけでなく日本の鉄道事業者全体で生かされて居ます。
 その為4月25日に事故現場を通った時には「この様な事故はもう二度と起きないだろう(起きないで欲しい)」と思いましたが、その後直ぐにその願望が打ち砕かれる事故が発生してしまいました。しかしながらその事故の場所は日本ではなく中国でした。それが4月28日に発生した「中国国鉄膠済線脱線衝突事故」でした。


 ☆ 中国国鉄膠済線脱線衝突事故の概要

 この原稿を書いているのは、未だ事故が起きてから間もなくの時期であり、報道では事故原因を含めて色々な事が報道されて居ますが、海外の中国での事故という事も有り報道を中心とした断片的な内容しか未だ分かって居ません。本来なら断片的な情報のみで検討・判断・評価する事は危険を伴いますが、一応報道で中華人民共和国国務院の事故調査委員会見解が報道された事を踏まえて、事故の概要について書いて見たいと思います。

 事故についての報道
 (中国情報局):「 山東省で鉄道衝突:死亡43人 けが247人 」「 山東省の列車衝突事故、北京など他地域にも影響拡大 」「 山東鉄道事故:死者70人に「テロ」ではなく事故 」「 列車衝突で不通の膠済線が復旧 死者70人の惨事
 Yahooニュース ):「 列車同士が正面衝突、47人死亡 (Record China)」「 列車衝突事故、死者66人に=市鉄道局局長らは免職審査へ ( Record China)※ 写真参照 」「 速度超過が直接原因=列車衝突、22時間後に復旧 (時事通信社)」

上記の報道に基づいた事故の概要

・事故が起きたのは山東省の済南〜青島間を走る膠済線の山東省内の周村と王村の間。事故発生日時は28日午前4時41分。29日午前3時段階で死者70名、負傷者416名
・事故の概要は「北京発青島行きのT195列車が脱線し後部車両が隣の線路に飛び出たところに、反対方向の煙台(山東省)発徐州(江蘇省)行き5034列車が突っ込んだ」との事。
・中国国務院の事故調査委員会は29日「初期段階で掌握した状況から最初に脱線を起こした列車が制限時速80キロを131キロで走行したのが直接原因」との見方を示した。
・膠済線では1月にも、中国が外国の技術を導入して作った高速列車(CRH2のD59列車)が作業員をはねる死亡事故が発生している。

 JR福知山線の脱線事故を見た時にも「マンションに突っ込む列車」の映像を見た時には、驚くと同時に非常に恐ろしい気持ちになったのを覚えて居ますが、今回の膠済線脱線衝突事故も 写真 を見る限り、客車が折り重なり脱線しており一部は築堤から転落している状況から「如何に高速で事故が起きたか」「事故での衝撃は非常に大きい」という事が分かると同時に、「極めて恐ろしい事故が起きている」という事が分かります。
 この膠済線は青島と京滬線経由で北京・上海を結ぶ重要路線で、2007年4月の「第六次大提速」で高速電車CRH型が運行開始し、高速の「D列車」が走る高速路線となりました。
 その様な高速幹線で「制限時速80キロ」という規制が掛けられていたという事は、「其処に何か規制を掛けなければならない事」が存在していたと考えます。しかも速度OVERをしたT195列車は現地写真を見て分かる通り表題写真と同じ「DF11型DL+25Z型客者」で運行されていて、この機関車+客車は150km/hOVERの高速運転が可能です。という事はこの事故当時制限速度の51km/hOVERで走る事は十分可能で有ったですし、その高速運転から殆ど減速せず制限区間に突っ込んだ可能性も有ります。
 その様な事からも、中国側のコメントと各種報道・情報から推測する限り「高速旅客列車(T195列車)が通常の運転速度から減速せずに制限速度区間に突っ込んで何かしらの要因で事故を起こした」という可能性が高いと思います。


 ☆ 福知山線脱線事故と膠済線脱線衝突事故の共通点

 この様な膠済線脱線衝突事故ですが、内容と原因を見て即座に思い出したのが「福知山線脱線事故」との共通性です。此処ではその「両事故の共通性」について考えて見たいと思います。両事故の共通性に関しては2つの共通点が有るといえます。

 一つ目の共通点は直接的な要因で有る「速度制限区間に速度超過で入り込んだ」という点です。福知山線事故に関しては、公式の事故報告で「半径304mの右曲線に制限速度70km/hを大幅に超える約116km/hで進入」した事が事故原因である事が明示されて居ます。同じく膠済線脱線衝突事故も国務院事故調査委員会で「80km/hの速度制限区間に131km/hで進入した事」が事故原因で有るという見解が示されています。
 只福知山線では「曲線による速度制限」だったのに対し膠済線では「速度制限が何で有ったのか?」という事が示されて居ません。其処に現段階では不明な点がありますが、両方とも速度制限にオーバースピードで進入した事は間違い有りません。
 考えれば簡単な話ですが、「速度制限を掛ける」という事は其処に高速で走れば問題になる様な要因が存在していると言う事です。福知山線事故もそうですが、その様な制限速度の区間に想定を越える大幅な速度超過で進入すれば事故が起きるのは避けられません。福知山線事故の場合その結果が「脱線→転覆→マンション衝突」となり、膠済線事故では「脱線→対向列車と衝突」となっただけであり、原因の一つは「制限速度超過」に有った事は間違いありません。

 二つ目の共通点は間接的な要因で有る「過密ダイヤ」という問題です。福知山線事故の時も「事故報告書」に有る様に「余裕時分の全廃・(停車駅増に対応した)運転基準時間の短縮」等の所謂「過密ダイヤ」の下で運行されていて、これが福知山線事故の遠因となったオーバーランの原因や直接の原因となった制限速度超過の原因になった事は否定出来ません。
 これは中国国鉄に置いても状況は変わりません。近年 中国国鉄の現代化 が進むにつれて高速化・増発も進んでおり、それは北京上海間の大動脈京滬線と中国有数の経済成長地域で有る山東省の中心都市の一つ青島を結ぶ膠済線においても実施されて居ます。昨年4月の第六次大堤速では 高速電車CRHシリーズ が膠済線にも投入されていますし、輸送力に関しては膠済線は複線電化が実施され輸送力が増強されていますし、現在も北京オリンピックのウィンドサーフィン競技が青島で行われるのに対応して 青島駅を閉鎖しての改良工事 が行われているなど、輸送力増強が行われて居ます。この事が事故に影を落としている可能性は残念ながら十分有ります。
 その様な輸送力増強が「無理な運転」や「不慣れ」等のヒヤリ・ハッとを経て今回の事故に繋がった可能性もあります。実際膠済線では昨年4月の高速化の後、1月23日に高速列車(CRH2のD59列車)が作業員をはねて18名死亡・9人負傷という事故を起こして居ます。この事故の原因は工事保守側の注意不足に有ったとの事ですが、輸送力増強・高速化がこの様な事故を引き起こした事は間違い有りません。
 今回の膠済線の事故に関しては、「事故と過密ダイヤ・高速化の相関関係」については未だ何も明らかになって居ません。しかしこの様な現在の状況から考えれば、今回の事故に「過密ダイヤ・高速化」の弊害が何かしらの形で影響を及ぼし事故の原因の二つ目の要素になった可能性は否定出来ないと思います。

 福知山線脱線事故と今回の膠済線脱線衝突事故は、同じ場所で同じ状況下で発生した訳では有りません。ですから比較するには困難もありますが、似たような形の事故で有る以上分析をしてみればその共通点は見つける事が出来ます。その共通点が「制限速度の大幅超過」と「過密ダイヤ」という側面で有ったと私は考えます。


 ☆ 再発防止の為に「事故の経験の国際間での共有」は出来ないのか?

 この様に「似たような事故」であり、その原因が「制限速度の大幅超過」と「過密ダイヤ」に有った福知山線脱線事故と今回の膠済線脱線衝突事故ですが、似たような前例が有ったにも拘らず今回の膠済線脱線衝突事故は防ぐ事が出来なかったのでしょうか?

 日本で発生した福知山線脱線事故に関しては、緊急対策で「 速度超過防止用ATS等の緊急整備 」が謳われ速度超過防止用ATSの整備が行われると同時に、福知山線事故等の教訓に基いた「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の一部を改正する省令」で定められた「曲線・ポイント(分岐器)・線路終端等へ列車が進入する際に、安全上支障のない速度まで自動的に減速させること等ができる装置の導入の義務化」に対応する新型ATS・ATCの整備( 小田急電鉄でのD-ATS-P導入京王電鉄でのATC導入 )が大手民鉄などで進んで居るなど、「福知山線事故の教訓」に基いた対応策は着実に取られています。
 その様な効果も有り、2005年3月に「 土佐くろしお鉄道株式会社宿毛線宿毛駅構内列車脱線事故 」4月の「 JR西日本福知山線脱線事故 」と立て続けに発生した「速度制限の大幅な超過に起因する鉄道事故」は、この2件の事故の発生後(オーバーラン等の「ヒヤリ・ハット」的な事例は有れども)事故という明確に犠牲を伴う形では発生しなくなりました。それは上記の様な対応策が実施された事も大きな要因で有ると思います。

 しかし日本国内では再発防止策の実施で再発を(今の段階では)防ぐ事が出来ている福知山線脱線事故の類似事故ですが、東シナ海を渡った対岸で有る中国山東省では防ぐ事が出来ませんでした。未だ今の段階では憶測になりますが、今回の膠済線脱線衝突事故に関しては「80km/hの速度制限区間に131km/hで進入した事が事故原因」といわれている以上、もし膠済線に大幅な速度超過を防ぐ事が可能な速度超過防止用ATSが有れば、今回の事故は防げていた可能性は非常に高かったといえます。
 実際の所中国国鉄でも「営業路線全長61,015kmの内自動列車停止装置設置済み路線が22,724km」と完全では無いですがそれなりにATS(自動列車停止装置)の装備は進んで居ます。詳細は不明ですが、200km/hの高速列車が走る重要幹線で有る膠済線にもATSは装備されていた可能性は高いと言えます。もしそうならば「少しの改良」で速度超過防止に対応したATSにする事は可能だった可能性は高いと言えます。しかしそれは実施されて居ませんでした。(実施されていたら事故は防げていただろう)

 この様に見ると死者106名を出し王毅・中華人民共和国大使も日本政府に弔意を表明したほどの福知山線脱線事故の教訓が、弔意を表明した元で有る中華人民共和国では生かされる事が無かったが故にこの様な事故が起きた事になります。
 中華人民共和国政府は、外交儀礼的な「弔意」こそ表明したものの、「事故の原因と対策」という事故の本質に関して興味を示さなかったが故に、本国でこの様な「弔意を表明した事故に匹敵するほどの大事故」が発生してしまったのです。中華人民共和国が外交儀礼的に福知山線事故に対して弔意を表明した事は好意的に受け止めるべきです。しかし本当は「事故の原因と本室」という一番大切な所を教訓として学び対応して欲しかったというのが、今となっての感想です。
 実際同じ国内でも「事故の教訓を生かす」という事が難しい場合も有ります。実際福知山線事故の約2ヶ月前の「土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅列車脱線事故」に際して、「 全区間で速度照査する体制の必要性 」という2ヵ月後の福知山線脱線事故の原因の本質を指摘した人が日本国内に存在しながら、公にその用な対応策が打ち出される事もなく106名の死者を出す福知山線脱線事故が発生してしまいました。その様な事から考えると「大きな事故が発生し無いと教訓は生かされない」という事象は残念ながら存在すると思います。
 ましてそれが、「国境線を越えた向こう側」では「行政の強制力を持った再発防止策」を強制力を持って広める事が出来ない為、他国で起きた事故の再発防止策は当事国以外の国がそれぞれに「アンテナを高く張り情報や教訓を集めそれを国内に広める」事を自主的に行わない限り行う事が出来ません。
 しかし現実問題として、事故の対応策として運行の本数・ヒヤリハットの数という「危険予知の母数」が多ければ教訓の集まる確率も増えて事故の防げる可能性も多くなります。その「危険予知の母数」を増やす為には多くの事例を集める事になりますが、その為には国内だけで事例を集めるのでは数の限界があります。その為にも「ヒヤリハット事例・事故事例という経験の国際間での共有」という事は意義の有る事では?と思います。しかしその様な国際間での体制は今の段階では確率していません。
 残念ながら人間の行っている事ですから、事故をゼロにする事は不可能で有ると思います。しかし事故を減らす努力をする事は出来ます。その様な事に際して「国際間の協力」で対応して少しでも事故が減らせる教訓が共有出来る事は何処の国に取っても悪い話ではありません。その様な「鉄道に関するヒヤリハット・事故内容・事故対応策の国際間での情報共有・協力」という事も考えて実行して行く必要が有るのではないでしょうか?




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