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高速化による「鞭で追い立てられる」の到来は中国をどの様に変えるか?

−CRH型高速電車「和諧号」に乗り感じた中国国鉄「現代化」の現状とは?−



TAKA  2008年01月13日




現代的都市風景には現代的列車特急が良く似合う?@深セン



※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。
※一部中国の地名に関しては漢字にて表示がで無いため、漢字とカタカナの併用にて表示しております。

 ☆ ま え が き

 過去に祖国を半植民地状態から解放した経歴を持つ中華人民共和国(以下中国と略す)と政権党で有る中国共産党に取って、欧米・日本などの先進国に追い着く「現代化」に対して極めて強い願望を持ち、「現代化」は今や一種の国是に近い物で有るといえます。
 実際1965年・1975年に当時の周恩来首相が掲げた「 4つの現代化 」は、1976年の毛沢東・周恩来の死去・その後華国鋒時代を経て、1977年に復活した鄧小平が今の経済成長を演出した政策で有る「改革・開放」政策においてもその考え方の根幹に有った物は「4つの現代化を達成し社会主義強国を建設する」為に如何なる施策が相応しいかという考え方であり、今の共産党指導部が「自主創新」を打ち出しているのにも、 4つの現代化における最後の未達成課題と言われる「科学技術の現代化」の達成の為 だといわれています。

 この「現代化」という事は中国の鉄道においても非常に重要な事です。中国の経済に取って鉄道は正しく「動脈」であり物流・人の移動の根幹であり、それは鉄道網整備に加えて高速道路網・航空ネットワークの整備が進みつつ有る現代でも、その役割は変わる物では有りません。その為に(都市内交通を除く)中国の鉄道殆ど大部分を占める中華人民共和国鉄道部の鉄道(以下中国国鉄と表す)の現代化実現は、正しく「4つの現代化」と「経済・生産力の発展」を支える非常に重要なもので有るといえます。
 実際此処十年で中国国鉄の現代化は非常に早い勢いで進んでいます。改革・開放政策の実現による経済発展が始まった1980年代半ばから現在の約20年間で、中国経済は誰も想像出来ないほどの経済成長を達成しましたが、中国の鉄道もこの期間で大幅な発展を果たし、電化・複線化・信号設備の進化・軌道の強化等は格段に進んでいて、今やインフラの面では中国国鉄は日本・欧州等の鉄道の先進国にも並びつつ有るといえる程にまでなっています。

(中国鉄道の主要指標)
年度営業中の路線全長複線化済み路線電化済み路線列車集中制御装置下にある路線自動列車停止装置設置済み路線ロングレール敷設路線電気連動装置設置の駅数
1985年52,119km9,989km4,151km1,307km6,921km10,439km2,320駅
1990年53,378km13,024km6,941km1,169km10,370km14,644km3,535駅
1995年54,616km16,909km9,703km1,226km12,910km21,854km4,587駅
2000年58,656km21,408km14,864km1,199km18,318km29,975km5,232駅
2004年61,015km23,841km18,562km1,841km22,724km43,198km5,340駅
※上記表の資料は「 亜州IR株式会社 」の「 IRセミナー 中国鉄路貨運(8089/HK)資料 」より引用しています。

 この様に中国国鉄は此処約二十年で急速にインフラ面での「現代化」が進んでおり、それは電化率や制御装置の近代化等が示すように運転の面でも「近代化」(「現代化」ではない!)がかなりの勢いで進んでいます。今や蒸気機関車はよほど奥地の産業鉄道でも行かないと見れ無いほど実質的な無煙化を達成していて、同時に主要幹線では電化が進んでおり、高速運転可能な新型機関車が牽引する夜行列車が中国各地を縦横無尽に走っています。
 しかし無煙化の達成や電化や高速運転の実現などが達成されつつ有る事で、運転面の「近代化」は実現されつつありますが、中国国鉄の現状はあくまで客車運転主体の「一時代前」の運転形態であり、それは電車主体の高速運転という現代の最先端に近いレベルの技術を用いた「現代化」ではありません。
 日本・欧州の世界最先端の鉄道の運行のレベルに追い着く為の、「現代化」の試みが今中国国鉄で行われています。それがCRH型高速電車導入を柱とする「在来線高速化プロジェクト」です。

 弊サイト「TAKAの交通論の部屋」では、中国の鉄道に関してはここ数年色々な側面から追い掛けて居ますが、高速鉄道導入に関しても「 新幹線は海外に輸出できるのか? 」「 急速に”現代化”が進む中国国鉄の現状とは? 」等で取りあげて分析等をしていましたが、やはり一度現地を見てみないと一定以上の物を語る事は困難になってきます。昨年は1月に台湾高鉄開業・3月に中国国鉄第六次大堤速実施とイベントが重なり、しかも5月のゴールデンウィークの台湾旅行が叔父の急逝で取り止めになった為、8月に台湾訪問・年末年始に中国訪問というスケジュールになり、3月に行われた中国国鉄第六次大堤速の成果を見に行くのが遅くなってしまいました。
 3月の第六次大低速では、日本・欧州の技術を用いた「 CRH1 (ボンバルディアと提携・ スゥエーデン国鉄X50シリーズ の改良版)」「 CRH2 (川崎重工と提携・JR東日本E2系1000番台のダウンスペック版)」「CRH5(アルストム社と提携・旧フィアット社の ETR600 が原型)」の3種類の高速電車を、中国の現地メーカーとの提携の上メーカーの技術使用権を、中国現地メーカーに「輸出⇒ノックダウン生産⇒一部部品輸出の上現地生産(最終的に完全現地生産を目指す)」という流れの中で技術提供する契約内容で、第六次大堤速用の車両が調達されています。
 既に第六次大低速から9ヶ月経過し、CRH1は広深鉄路の広州〜深セン間を中心に運用されており、CRH2は今回の第六次大低速のイメージリーダーとして北京〜天津間・上海地区・京滬線沿線で活躍しており、CRH5は京哈線・秦瀋旅客鉄道を中心とした東北方面で運用されていると聞き、今回上海と香港を旅行して、「上海で1日上海南〜杭州間を往復して華東地区で高速列車に乗る」「香港から広深鉄路で広州を往復して華南地区で高速列車に乗る」という計画を立て、中国の高速鉄道の実状を見学する事にしました。

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 「今回の行程」 ・D109列車 上海南→杭州東(列車は長沙行) 15:50/17:06 ・D680列車 杭州→上海南 18:17/19:41 ・D761列車 広州東→深セン 11:50/12:59
 「参考サイト」 ・中国情報局 「 全国鉄路第六次提速 」 「 和諧号 (調和号)」 「 鉄道高速化:「和諧号」が「はやて」のごとく出発進行
                   「 技術導入の高速鉄道車両、広州−深セン間でも運行 」 「 CRH、京広線の許昌−安陽区間で試運転
                   「 メディアが伝える新幹線ベース和諧号の「光と影」 」 「 北京−天津間快速列車は08年7月開通へ
          ・人民網  「 日本語版 」「 中国初の時速300キロ国産高速列車が完成
          ・北京週報   「 中国の第6回鉄道高速化
          ・川崎重工HP 「 中国・在来線高速化向け鉄道車両を受注
          ・ 中国鉄道研究  「 CRH2で行く1泊2日杭州・西湖の旅 」 ・ 中国鉄道倶楽部第6次ダイヤ改正
          ・ 中国東北地方の交通網中国、一大高速鉄道時代へ
          ・日通総合研究所論集「 中国における鉄道輸送サービスに関する一考察 (陳麗梅 著)」
          ・ 国土交通省総合政策局国際企画室主要国運輸事情報告書 中国

 「参考文献」 ・鉄道車両と技術 NO125(レール アンド テック出版)より 「中国鉄道高速化への道のり :楊 中平 著(北京交通大学電気工程学院助教授)」
           ※主に下記で掲載している3つの表は上記参考文献掲載の物を引用・参考させていただいております。


 ※本文の表・参考資料等に関しては、過去に「TAKAの交通論・コラム」で執筆した「 急速に”現代化”が進む中国国鉄の現状とは? 」に使用したものを転載しています。

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 ☆ CRH型高速電車「和諧号」試乗記

 先ずはわざわざ中国まで訪問して見に行ったCRH型高速電車の試乗記です。今CRH型高速電車は、「和諧号」(和諧=調和の取れた社会)という共産党の打ち上げた「共建和諧」というスローガンから名前を愛称として命名すると同時に、列車番号に「D」を付けた特別列車として大都市間を中心に運行されています。
 今回上海では「上海へ飛行機が着くのが午後一番」で「香港へ飛行機が出て行くのが朝一番」と言う限られた時間で、しかも「どうしても本場で上海蟹を食べたい」という希望が有り20:30にレストランを予約し、その中でホテルにチェックインしてしかも何処かまでD列車に試乗するとなると、かなり制約が掛かってきて、結局リスクを減らす為に日本でチケットを予約する事にして南京と杭州を目的地に検討した結果、上海での自由時間という時間的制約から杭州を選択し、此処で他のブログでも「 CRH2で行く 1泊2日杭州・西湖の旅 」という特集も行われたりして居たので、此処でCRH2に試乗して広州でCRH1に試乗するスケジュールをたてて中国に渡る事にしました。


 ● D109列車 上海南→杭州東(列車は長沙行) 試乗記

 先ず最初はCRHで杭州に向かう事にします。上海中心部のホテルにチェックインした後、地下鉄を乗り継いで上海南駅へ向かいます。 上海南駅 は杭州・南昌・長沙方面へのターミナルとして2006年に作られた駅で、京滬線が発着する上海駅に対してのサブターミナルと言う位置付けですが、とてもサブターミナルに見えない立派な造りです。
 駅に到着して和諧号専用の待合室に入ると直ぐに改札が始まり、改札を受けてホームに降ります。ホームに止まっているのは・・・何とCRH1です。中国の時刻表には列車番号は書いてあっても運用車両は書いていないので、「上海地区は殆どがCRH2だから多分CRH2だろう」と考えていたのが脆くも崩れて行きます。しかしこの列車は杭州行きの短距離都市間列車では無く杭州経由の長沙行きなので、「多分長距離の長沙行きだからCRH1なんだろう」と思い気を取りなおし、列車に試乗する事にしました。

  
左:上海南駅に停車中の長沙行きCRH1和諧号  右:CRH1 特有の車両の中央の扉から乗降中の乗客

 ホームに降りると、長沙行きのCRH1が停車しています。ボンバルディア基本設計のCRH1はCRH各車種と同じく8両編成で車体はステンレス鋼製(ステンレスの上から塗装か?)で5M3Tの編成となっています。元々が最高速度が200km/hで設計されていたといえども、実体はスゥェーデンの近郊型車両が大元ですから先頭車両を見ても流線型が強く無く「早い車両」というイメージは湧きません。その点では平凡な車両と言う事が出来ます。
 CRH1は8両編成の内1等車が1両・食堂車が1両の他は2等車が6両着いている編成です。車両は中央に1箇所出入口が着いている形で、そこから2列+3列の方向固定のシートが向かい合っている形です。ドア配置は正しくJR九州の783系のような形です。又デザイン的には×ですが、車両1箇所の出入口の上に案内のLED掲示板が着いていて見やすいのは特徴的といえます。日本の基準から見ると「チープなアコモディーションだな」と言いたい所ですが、今までの中国の客車から考えればかなりグレードアップといえるでしょう。(だからCRH2導入時には「座席が回転する」と話題になったそうですから・・・)その基準から見れば、欧州仕様の近郊型車両でも中国では「金を払って乗る特急」になるのでしょう。其処にも欧州・日本と中国に有る経済格差を感じてしまいます。
 車内では車掌の検札と一緒にミネラルウォーターが配られています。車掌の愛想も良く今まで「中国国鉄の乗務員は(一部を除き)総じてサービスが悪い」と言われていましたが、その様な感じは全然感じられません。CRHシリーズの採用と高速化は中国国鉄の社員をも変えたのかもしれません。

  
左:CRH1和諧号 2等車車内  右:CRH1和諧号 食堂車車内

  
左:車内での検札風景と乗客にミネラルウォーターを配る車掌  右:近代的車両でも給湯器が有るのは中国的?

 定刻になると(中国なので)駅でベルもならずに突然ドアが閉まり発車します。上海南駅を出ると暫くは上海近郊の住宅地を走り、暫くすると工場と住宅と池と畑が混じる「発展した地方」という感じの地域を杭州へむけて走ります。路線は「電化した在来線」という感じで、高速新線ではありません。只ジョイント音はせず完全なロングレール&PC枕木化が成されており、踏み切りも見当たらず時々立体交差が有るだけで地上を走れどもほぼ完全に立体交差化が図られており、加えて線路の脇には一応策も作られており、在来線を使用していても「高速運転をするための最低限の環境」は造られて居ると感じました。
 その様に整備された走行環境にありながら、CRH1は余裕を持って走ります。大体が140km/h〜160km/h位の速度で走り、一番出た時でも170km/hまででした。此れだけ軌道等も整備されているのにこの速度は勿体有りません。只その様な余力を持った走りなので「若干モーター音が目立つかな?」という程度で乗り心地も悪く無く、一部で指摘されるような「 車体がステンレス鋼製であることから、130km/h以上で車体が震動 」という問題は感じられませんでした。この乗り心地等のレベルであればスゥェーデンの近郊型車両を持ってきたCRH1でも「在来線を走る(世界的に見て)二線級レベルの高速鉄道」というレベルで合格を出せるでしょう。
 CRH1は乗った感じでは上海南〜杭州間で200km/hで走っても問題無い様に感じられました。車両に問題が有るなら別ですが、CRH1が200km/h走行に問題ない事は広深間で証明済みなので、ダイヤ的に余裕が有るのだと思います。それならばこの列車だけでも長沙行きの長距離列車(長沙着は23:20で所要時間7時間半)なので少しでも所要時間を短くした方がサービスになると感じます。所要時間短縮のための高速化なのですから出来る限りの事はした方が良いのかな?とは感じました。

  
左:杭州周辺の車窓風景(奥には貨物ヤードがある)  右:在来線区間だからか?最高速度は170km/hに留まる

  
左:乗客が長蛇の列で待っているのは人気の証?@杭州東 右:長距離列車専用という事も有り鄙びた感じ?@杭州東駅

 杭州にはほぼ定時で到着しました。しかし到着したのは「杭州東駅」です。何と南昌・長沙方面へ向かう列車は杭州駅には停まらず杭州東駅に停まるそうです。此れは想定外!流石に慌てましたが、その前に乗降の風景を見る事にしました。杭州の郊外の杭州東駅でも流石に長沙直通の長距離列車なので、百名近くの降車客がありながらホームの乗車口には長蛇の列が出来ていました。此れは「極めて需要旺盛」といわざる得ません。隣に停車していた上海南先発ながらCRH1に杭州東で抜かれた南昌行きがそんなに混んでいない状況から、速達列車への需要は旺盛なのだな!と改めて感じさせられました。此れを見る限り「第六次大堤速による高速化は利用者に完全に受け入れられた」といえるでしょう。なんせ「早いが高い列車」の方が混雑しているのですから、此れが最大の証拠だといえます。

 杭州東で降車後何とかタクシーで杭州駅へ移動する事が出来て、帰りのD680列車に乗る事がで来ました。本当はCRH2に乗るために色々迷いましたが、言葉の通じない中国でリスクを犯す事を最終的に諦め、チケットを持っている列車に乗る事にしましたが、この列車が・・・何とCRH1を2編成併結した列車でした。広州にはCRH2は配備されていないと聞いていたので、此れで今回の旅行でCRH2に乗る事は諦めざる得ない状況になりました。
 しかし流石に2編成併結の列車だけ有りそれでも殆ど満席という人気の列車だったようです。流石に疲れてしまい、しかも3列シートの真ん中に押し込まれてしまい日も暮れて真っ暗になったので、杭州⇒上海南間は殆ど爆睡状態でしたが、170km/h高速走行で座り心地がイマイチのシートでも十分寝れた事からも、CRH1の乗り心地も強ち悪く無い事を改めて証明できたのかな?と感じました。


 ● D761列車 広州東→深セン 試乗記

 12月30日に上海〜杭州間でCRH1に乗車したあと、今度は飛行機で上海から香港へ移動して、その後1月1日に 九広国際列車 の乗車&広東省訪問と絡めて、今度はその帰路に当る広州東〜深セン間で広深鉄路のCRH1に乗車する事にしました。
 今や「世界の成長センター」の一つとなっている広東省の省都であり昔から良港に恵まれ華南地域の中心として栄えてきた人口約713万人の広州市と、NISEの一つで97年まで英国領だった香港に隣接し場所柄「改革開放のモデル地域」として発展して来た人口約400万人の 深セン市 を結ぶ、広州東⇔深セン間は利用客数でも中国国内有数の都市間連絡鉄道です。その為実質的には中国国鉄の路線ながら広州⇔深セン間の路線だけは、ニューヨーク・香港・上海の市場にも上場されている 広深鉄路有限公司 として運営されており、広深鉄路有限公司の主力路線で有る広州(及び広州東)⇔深セン間の路線は年間約22,226,000人の輸送人員を誇る路線です。
 広深鉄路では過去に「複線の高速線と単線の在来線の3線化」が行われた後、「在来線の複線化による複々線化」が今まさに完成しようとしており、それに合わせるように今回の第六次大堤速では高速列車用にCRH1が大量に投入され、今や広州(及び広州東)⇔深セン間ではCRH1の高速電車が毎時約4本(約15分毎)で運転される程の幹線路線となっています。

  
左:和諧号専用に多数の券売所が並ぶ広州東駅  右:遂に中国にも長距離列車用自動券売機が登場?@広州東

  
左:貨物列車と並ぶ姿が象徴的?@広州東  右:CRH1和諧号 2等車車内

 広深鉄路ではその様な頻発運転をされている事は知っていたので、今回香港で広州に向かうために「ホンハム(Hung Hom)→広州東」間のチケットを買った時に帰りのチケットは用意せず、現地で深セン行きの列車を買う事にしていました。その為九広国際列車で広州東駅に到着後、コンコースで切符の販売場所を探すと・・・何と「CRH」のロゴマークのついた切符売り場が沢山並んでいます。加えて今まで中国国鉄で見た事の無い「自動券売機」が沢山並んでいます。中国語が話せなく筆談で切符を買うしかない私に取って大変な救いです!。早速自動券売機で深セン行きの切符を買う事にしました。
 切符を買って改札をして(空港並みの)荷物検査を受けた後、和諧号専用の待合室に入り列車を待つ事にします。元々中国の大駅には大きな待合所が完備されていますが、上海南・杭州・広州東の各駅共に「CRH和諧号」専用の一段と立派な待合室が完備されています。この様な点から見ても中国国鉄のCRH和諧号に対する力の入れ具合が分かります。
 ホームに上がると広州発深セン行きのCRH1の和諧号が既に入線して待っています。隣の中線には貨物列車が待機しています。貨物列車の隣に高速列車と言う姿が今の中国国鉄の「前時代性と現代化ぶり」の混合した状況を示しています。今回は狭い席を避けて1等車を取ったので、一番前まで移動しなければならなく車内を見ながら最前部まで移動します。2等車は8割以上の乗車率でしたが、1等者は数人しか乗客がいない状況です。今中国では見栄を張り軟座(1等車)から売れる傾向が有ると聞いていましたが、広深鉄路では必ずしもその様な状況は無い様です。その様な席の販売状況は広深鉄路の「成熟した輸送状況」と「如何に日常利用が多いのか」を示していると感じました。

  
左:CRH1和諧号 1等車車内  右:遂に達成!? 最高速度200km/hの瞬間

  
左:ホームドアも完備?途中駅の石龍駅  右:広東省有数の工業都市東莞駅では乗降客も多い

 和諧号は広州市の副都心として整備された広州東駅を出た後、検車区の脇を通り抜け東〜南東の方角に一路深センを目指して走り出します。電車列車だけあって鋭い加速でドンドン速度を上げて行きます。電光掲示板の速度と私自身で計測した秒数を比較すると0km/h→150km/hの加速に要した時間は133秒でした。加速度にすれば約1.12km/secです。まあ高速電車ですからこの様な高速度でしょうが、客者列車から比べれば格段に早い加速度です。暫くすると車内の掲示板が200km/hの速度を示して速度の上昇が停まります。此処で始めて第六次大堤速の売りであり200km/h運転をやっと体感で来ました。それでも列車の騒音・振動等も酷く無く安定した200km/h走行でした。流石に高速専用線と言う事なのでしょう。列車の性能が許すならもう少しの高速化が図れるのでは?と感じました。
 広深間の高速線には石龍・東莞・樟木頭の3都市に中間駅があります。CRH和諧号には中間駅に停車に対して色々な停車パターンがありますが、私の乗った列車は偶々全駅に停車するパターンの列車でした。その内石龍・樟木頭に関しては通過対応用にホームに柵がありましたが石龍はほぼ完全なホームドアになっていましたが、樟木頭は「如何にも簡易に据えている途中です」殆ど通過列車対策に意味に無い柵が有るだけで、東莞の駅には柵すら有りませんでした。又東莞はホーム嵩上げが完了していた物の石龍・樟木頭ではホーム嵩上げが完了しておらずCRH1からはステップが出ていました。この様な状況から見ると広深間の高速線は今回の第六次大堤速前から造られていた路線だけ有り、今回の電車化にはまだ未対応なのかもしれません。

  
左:嵩上げされたホームの高さが足りない駅ではステップが出る@樟木頭駅  右:工事現場の中に発着?@深セン駅の和諧号ホーム

  
左:深セン駅に停車中のCRH1和諧号  右:CRH1運転席内部

 途中停車の石龍・東莞・樟木頭3駅で其れなりの乗降が有った後、和諧号は増築建設中の車庫の脇を通り高層ビルが立ち並ぶ深センの市街地に入ってくると暫く走れば終点の深セン駅です。深セン駅では一番東端のホームに到着しました。このホーム降りたら何と・・・ホームには仮囲いが建っていて床は未だ石貼りの最中で一部に段差が出来ている状態でした。此処も正しく「突貫工事」でCRH1和諧号の受け入れ工事を行っている状態です。「急いでいる現代化」の歪を広深鉄路に見た感じがしました。
 最後に先頭車に回り窓からCRHの運転席を除き込んでみます。CRH1の運転席にはワンマスコンハンドルと幾つかの液晶パネルが有り非常に現代的な運転席という感じでした。又停車前などには最前部の1等車車内の最前部にまで聞こえる位の声で中国語で警告放送が聞えるなど(残念ながら意味は不明)運転支援の装置も完備して居るようです。しかし広州東・深セン両駅を在来線と併用している事や在来線と高速線で同じ信号が立っていた事からも、在来線と同じ信号システムで高速線のCRH1和諧号は運転されているようです。今のままでももう少し高速化する事が可能に見えましたが、実際は信号システム等をもう一段進歩させる事が「高頻度運転の上での200km/hOVER高速運転」には必要では?とも改めて感じさせられました。
 高速新線と高速車両が有りながら、ホームにはステップが必要で工事中の所も有る。しかも高規格軌道で有りながら信号システムは在来線と大差ないというように、基本的に第六次大堤速で高速化を果たしてもその実状には「真の世界最先端の高速化」には未だ至らない所があり、少々無理が有ると所いうのが中国国鉄の現状で有るといえます。その様な事が示している事は、今の中国国鉄は「近代と現代が入り混じっている状況」という事なのかもしれません。


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 ☆ CRH型高速電車が示す中国国鉄「現代化」の現状とは?

 今回上海南→杭州東・杭州→上海南・広州東→深セン間の3箇所で、第六次大堤速の主役で有るCRH1和諧号に乗って、中国の高速鉄道の状況を見てきました。
 確かに今まで中国に関して興味深く観察して来た上に、ここ数年中国の鉄道について色々と見て述べてきた私に取り、 上海トランスラピット で「一点突破で世界の頂点に立った」という事も正直いって驚きでしたが、それ以上に今回の第六次大堤速で(東北・華北・華東・華中・華南を中心に)広大な中国の国土のかなりの部分で200km/h運転と言う高速化を行ったというのは、有る意味「中国国鉄も此れほど変わってきたのか!」と感じさせる出来事でした。
 中国の政治経済を有る程度知る人間にしてみれば、中国に取って「現代化」は周恩来・鄧小平の悲願であり、それは中国国内の物流・人的移動の根幹を占める鉄道においても同じ事です。
 此処では、今回見てきたCRHシリーズ導入が主眼となって行われた第六次大堤速を中心として進んでいる中国国鉄の現代化の状況について、過去に論述してきた内容と今回の中国訪問で見てきた内容を踏まえながら、「どの様に現代化が進んでいるのか?」「今後現代化はどの様に進んで行くのか?」という点を考えてみたいと思います。


 「1」 先ず中国国鉄の輸送の実情について考える

 さて「現代化」の状況について分析するのに、大元になる「今の中国国鉄の輸送の実状」について分析をしたいと思います。
 中国は「国土の広大さ」「インフラ基盤の未整備」「所得の低さ」などが影響し、過去においては長距離旅客輸送に関しては、鉄道がメインの状況が長く続きました。同時に貨物輸送に関しても「道路の未整備」などが影響し、水運と並んで鉄道輸送が物流の主力であった時代が長く続きました。
 その為旅客輸送に関しては、北京・上海などの大都市と全国各地を結ぶ長距離客車列車が多方面に1日1本〜数本のレベルで走り、それが中国国鉄の旅客輸送の中心となってきました。要は日本でいう戦前〜1960年代までの「客車列車で東京と全国を結ぶ列車網が中心」という輸送形態と同じシステムが、近年まで鉄道旅客輸送の主力となっていました。今でも根本の面ではその状況は変わりません。
 又貨物輸送では「計画経済の根幹」を占め、中国の大部分のエネルギー源である石炭の輸送が貨物輸送全体の4割強を占めています。実際過去に「 中国国鉄最大幹線「京滬線電化」が示す物について考える 」という中国国鉄京滬線の電化と石炭輸送の状況とエネルギー事情に関する一文を書きましたが、此処でも書いたように中国国鉄に取っては「石炭輸送」は国家経済の根幹を握る重要問題となっています。この様な「石炭輸送が貨物輸送の根幹」という状況は日本の戦前〜1960年代の日本の鉄道の貨物輸送と殆ど変わりません。
 要は今でも中国国鉄の旅客・貨物の輸送形態の根幹は、日本の1960年代の国鉄の旅客・貨物の輸送形態と殆ど変わりがない状況に有るのです。

  
左・右:今でも中国国鉄の輸送の主力は長大石炭貨物列車と長距離客車輸送?@杭州東

 その中国国鉄の輸送状況に変化が出て来たのが此処約10年です。
 中国経済は1978年11月の中国共産党第11 期中央委員会第三次全体会議以来始まった「経済体制改革・対外経済開放」以来中国の経済発展は目覚しい物が有り、特に1992年の鄧小平「南巡講話」以降改革開放はさらに進展し、特に経済分野は今でも尚高度成長を続けています。
 経済成長が交通のインフラ分野に一番大きな影響を与えたのが、モータリゼイションの進展とその受け皿となる高速道路網の発達です。中国では1992年に始めて生産台数100万台を突破した自動車生産が2005年には571万台に達するまで成長するなど車の生産は急速に進んでいます。(出典: 中国の自動車産業その過去と現在 ) 同時に高速道路網も急速に進んでおり1988年に始めての高速道路が出来て以来、約11年後の1999年11月には総延長1万キロを突破し、2002年には総延長25,100kmになり今や世界第二位の高速道路網が出来るまでになっています。(出典: 中国の高速道路業界
 その流れのなかで、今中国では各種のトラック物流が急速に伸びて居ると同時に、大小様々な事業者が運行する高速バス網も着実に広がっており、加えて中国民航分割による航空企業改革でサービス・運行本数の向上と同時に所得の増加で航空料金負担が可能になった事に起因する航空需要の増大などが要因となり、鉄道から貨物・旅客需要が逸走する状況が生まれています。

 この様に貨物輸送は「計画経済の最後の縛り」ともいえる石炭輸送に絡め取られていながら、旅客輸送は乗用車・高速バス・航空に取られつつ有るという形で、徐々に先進国が辿った「苦難の道」に嵌りつつ有る状況だった中国国鉄ですが、近年特に旅客需要の回復を狙っての施策が行われて居ます。それがこの10年間に6回行われた「大堤速(大規模ダイヤ改正)」です。

(近年の中国国鉄ダイヤ改正)
年月日区間スピードアップ概要
第1回1997.4.1京滬線・京広線・京哈線 等主要幹線140km/h運転実施
第2回1998.10.1京滬線・京広線・京哈線 等主要幹線200km/h運転実施(広深鉄道)・140km/h運転1454kmで160km/h運転445kmで実施
第3回2000.10.21隴海線・蘭新線 等の中西部幹線沿海部〜中西部間所要時間短縮・140km/h運転4658kmで160km/h運転1104kmで可能に
第4回2001.10.21京九線南部・哈大線・滬杭線 等140km/h運転可能延長が9779kmに増加
第5回2004.4.18京滬線・京広線・京哈線 等主要幹線都市間ノンストップ列車(Z直快)38往復運行・140km/h運転可能延長7700km
第6回2007.4.18京滬線・京広線・滬杭線等全国幹線200km/hCRH型電車運行・120km/h5000t貨物列車運行

 中国国鉄の場合1949年の中華人民共和国建国以来確かに鉄道への投資を行ってきて居ますが、80年代までは「新線建設」が主体でした。特に「三線建設」で国防上産業拠点を内陸部に動かそうとした60年代・70年代前半には成昆鉄道(成都〜昆明間)など内陸部の鉄道が多く建設されました。しかし80年代以降新線建設に加えて複線化・電化・軌道強化・信号設備強化等の質的向上を積極的に行うようになり、冒頭の表で示した様に今や中国国鉄の質は大幅に改善されています。
 その質的改善をダイヤに反映させる為に行われたのが、1997年以降都合6回に渡り行われた「大堤速」です。その内容に関しては上記表の通りですが、人口が集中しており経済発展が著しい華北・華東・華中・華南・東北地域を中心に幹線で速度向上を中心としたダイヤ改正が行われており、同時に前回の第五次大堤速で登場した「 Z列車 」の様にサービスの質が向上した列車が登場するなどの改革も進んでいます。今回の第六次大堤速は有る意味「都市間輸送の高速化・電車化による高頻度運行」という点で非常に革新的なダイヤ改正でしたが、今の中国国鉄の置かれた現状に対応する為に行われてきた変革の「一つの結果」で有ると同時に「一つの通過点」といえるものです。
 今や中国国鉄は、特に旅客輸送ではモータリゼイションと航空に挟撃されつつ有る状況で、その苦境に対して生残りの方策として打ち出されたのが、インフラ改善を梃子にした電車化による高速化でした。その様な苦境に陥りつつ有る中国国鉄の輸送の実状を打開する為に、正しく切り札としてCRH型高速電車が投入されるのです。


 「2」 何故今回CRH型高速電車シリーズが導入されたのか?

 「1」の最後で述べたように、今回の第六次大堤速で「都市間輸送の高速化・電車化による高頻度運行」を目的に投入されたCRH型高速電車ですが、中国国鉄にとり今回のCRH型高速電車投入が実質的に始めての大量の高速電車投入ですが、実を言えば「高速電車投入の試み」自体はずいぶん前から始まっています。
 先ず最初に中国で「電車による高速化」を図ったのが、香港返還後の1998年に広深鉄路有限公司の九広国際列車(広州〜九龍間)に投入された 新時速 です。広深鉄路で中国史上初の200km/h運転を実施した新時速ですが、車両はスゥェーデンのX2000を1編成リースした物で目玉商品的な使われ方をして今回の第六次大堤速直前まで約9年間広深間を走っていました。( 今は成都〜重慶間で運転
 その後中国国内運用になる広州〜深セン間には国産ほぼ唯一といえる200km/h運転可能な実用電車「 藍箭 」号が頻繁に走るようになりましたが、「藍箭」号は動力集中型ですがそれ以外に「先鋒・中華之星・長白山・中原之星」等動力集中型・動力分散型を問わず、ここ7〜8年の間でかなりの種類の新型高速電車を製作して居ますが、広深間でかなりの期間頻繁に活躍した「藍箭」号以外はどれも殆ど「試運転」「ためし運行」の域を出ず、中国国鉄は実用化可能な高速電車を開発する事を未だに出来ずに居ます。

 未だに実用化を果たせない中国の国産高速電車の状況の為に有る意味追いこまれて、今回中国国鉄はCRH型高速電車に関しては「海外からの技術導入」「中国での生産」「複数採用」という、中国が「確実に成果に結びつけながら技術を吸収する」時に使う手法を生かして、今回4種類の高速電車を日本(川崎重工グループ)・カナダ(ボンバルディア)・ドイツ(シーメンス)・フランス(アルストム)の4カ国の「世界に間たる鉄道車両生産メーカー」から導入しました。

(CRH型を含む中国の高速列車車両の概要)
型式原開発者原型車両編成購入編成数最高速度備考
CRH1ボンバルディアRegina5M3T20編成200km/h広深鉄道で運行開始。現在上海地区でも増加中。第六次大堤速の影の主役?
CRH2川崎重工E2-10004M4T60編成200km/h第六次大提速の主役でイメージリーダー。M車増で 300km/h運転可能の性能を生かし北京〜天津間高速新線にも投入
CRH3シーメンスICE3不明60編成300km/h2008年7月開業予定の北京〜天津間高速新線に投入?でも間に合わないとの噂も?
CRH5アルストムETR6005M3T60編成200km/hアルストム受注の車両だがTGVではなく買収先のフィアット車両を使用。北京〜東北方面に投入。 故障が多いとの噂 も有る。
中華之星中国国産新規開発EL+9T+EL1編成?270km/h瀋陽〜山海関間で暫定営業運転中
長白山中国国産新規開発6M3T試運転中210km/h2004年完成後未だに試運転中?

 今回の高速電車採用では、「中国の在来線(一部は高速新線)を200km/hの速度で運転できる動力分散式電車」という条件を課したが故に、最初から300km/hの高速新線用で本国仕様と大きく変えずに済んだシーメンスのICE3以外に関しては、各社とも「中国に売り込む車両」を探すのに苦労したのは、各社が中国に売り込んだ車両の原型車両を見れば明らかです。
 CRHシリーズの原型車両は、「 CRH1 (ボンバルディアと提携・ スゥエーデン国鉄X50シリーズ の改良版)」「 CRH2 (川崎重工と提携・JR東日本E2系1000番台のダウンスペック版)」「CRH5(アルストム社と提携・旧フィアット社の ETR600 が原型)」であり、ボンバルディアは「中長距離用の特急電車の原型に欧州の近郊型電車を使う」という裏技を使っていますし、アルストムは「買収したばかりのフィアットの車両を使う」というチョット恥ずかしい事をしています。この様に見ると「200km/h運転で特急使用の分散型電車」という車両が、世界的に見て少ない事が「CRHに使える車両が限られていた」事から分かります。
 この様に見ると「日本は新幹線型車両と言うハイグレードの先端技術車両を売った!」様にも見えますが、良く考えてみると有史以来今まで日本の鉄道メーカーで「広軌で25m級車体でしかも大型車両限界、輸送力が求められて200km/hで走れる分散型電車」という条件に当てはまる車両は?と考えると新幹線の0系・100系・200系のクラスしか無くなってしまうのです。しかし今更この様な「ウン十年前に造った車両」を再生産する訳には行きません。その為苦肉の策として「今有る(中国から見れば最先端の)新幹線車両をMT比の変更等のダウンスペックをして輸出」(入札だからダウンスペックしないとコスト的に厳しくなる)という施策を取らざる得なかったのです。

 今の中国国鉄の高速電車運行の環境は、軌道・インフラなどは確かに「もう少し高速でも運転できる?」状況ですが、今までが160km/h運転のレベルでしたから其処から200km/h大幅OVERの速度での運転となると技術の発展レベル的には「冒険」の域に入る可能性の有る進歩になってしまいます。しかも在来線には低速の客車列車や石炭貨物列車も走っています。その中での高速化となるとやはり200km/hが現実的という事になります。
 その様な中国国鉄の抱える「理想と現実」の狭間で、今回のCRHシリーズが海外から導入されたといえます。しかし250km/h〜300km/hの速度が主流という世界の技術水準から見れば今のCRHシリーズの規格は「世界では二線級の高速鉄道規格」という事になります。この様に考えれば、今のCRHシリーズの規格は「現状の困難を打破しながら技術のステップを踏む為の規格」であり、過渡期の規格で有るといえます。そうなるとCRHシリーズには「次のステップアップが必要」という事になるといえます。


 「3」 最終的には「高速専用線建設」による貨客分離が中国国鉄をもう一段発展させる?

 その中国国鉄と中国の高速鉄道を「次の段階」へ引き上げるために必要なものが、「在来線と高速新線の分離」すなわち高速専用線の建設ということになります。
 実際の所中国の沿海部の人口集積はかなり多く、人口5000万人以上の省が9か所ありますが、四川省を除く8か所が何れも華北・華東・華南・華中の地域に集まっており、北京〜武漢〜広州を結ぶ京廣線の東側の沿海部に人口1000万人を超える北京・天津・上海の3直轄市と人口5000万人を超える河南・山東・広東・江蘇・河北・湖南・安徽・湖北の8省が並んでいるという世界有数の人口密集地帯であり、其処に鉄道の移動手段として200km/h運転の在来線しかないというのはいささか貧弱といえます。
 加えて貨物輸送では、いまだに中国国鉄では「滞貨」が日常化しており、慢性的な輸送力不足に陥っています。その理由は単純明快「全輸送量の40%強を占める石炭輸送」の存在です。しかしこの石炭輸送を止める訳にはいきません。何と言おうと石炭は中国にとって重要なエネルギー源です。しかも資源価格が高騰している今、多少鉄道輸送でコストが掛かろうと遠くから船で運んでくる石炭より沿海部へ鉄道で運べる山西炭の存在は重要性を増しています。そうなると石炭輸送を虐める訳にもいかず、しかも貨物輸送力を増やさなければならないという厳しい状況に中国国鉄は追い込まれる事になります。

  
左:広深鉄道では高速新線建設の他に単線在来線の複線新線への造り替えが進行中  右:分離新設された複線在来線を行く長距離旅客列車

  
現在中国唯一に等しい高速新線を走るCRH1 左:石龍駅  右:樟木頭駅

 そのような状況の打開策が「高速新線の建設」という事になります。高速新線ができれば、都市間旅客輸送は今の在来線での200km/h運転から、高速新線での25%〜50%最高速度向上の250km/h〜300km/h運転にレベルアップが可能になり、同種同速度の列車を高速新線で運行すれば大幅な増発も可能になります。それにより旅客輸送に関しても広深鉄路の高速新線がCRH1の運行で200km/hの高速列車の毎時3〜4本の高密度運転を実現して旅客量・旅客収入を大幅に増やした成功を、中国沿海部全土に広げることが可能になります。
 しかも空いた在来線に関しては、貨物列車が増発可能になり、石炭輸送列車の増発や問題になっている滞貨の一掃の為の輸送力増強が出来るだけでなく、コンテナ専用列車での輸送などの(中国にとって)新しい輸送形態にもチャレンジする事ができます。(ちなみに今の中国ではコンテナを石炭輸送等に使う無蓋車に乗せて普通の貨物列車で運ぶ例が多い)しかも戦略的物流ネットワーク形成のための「チャイナランドブリッジ」構想等にも輸送力を向ける事が出来るようになり、その効果もまた大きいといえます。
 ましてや沿海部の各線は沿線は人口集積が多い地域ですから、都市近郊型輸送に在来線を活用することも可能になります。そうすれば在来線の旅客収入も維持できると同時に大都市・その近郊部で自動車交通から鉄道への転移を呼ぶことも可能になります。ここまで輸送形態を変革できれば中国国鉄は大きく生まれ変わることは間違いありません。

(中国高速鉄道路線(客運専線)計画の概要)
路 線 名区   間距 離最高速度備   考
京滬専線(南北ルート)北京〜天津〜徐州〜上海1300km300km/h(将来は350km/h可能)07年着工・10年完成予定
京廣専線(南北ルート)北京〜鄭州〜武漢〜広州2230km200km/h以上08年12月完成予定
京哈専線(南北ルート)北京〜瀋陽〜長春〜ハルピン1860km200km/h以上瀋陽〜大連間370km含む 未着工・完成未定
杭甬深専線(南北ルート)杭州〜寧波〜深セン1600km200km/h以上計画のみ 未着工・完成未定
青太専線(東西ルート)青島〜済南〜太原770km200km/h以上計画のみ 未着工・完成未定
徐蘭専線(東西ルート)徐州〜鄭州〜蘭州1400km200km/h以上計画のみ 未着工・完成未定
寧漢蓉専線(東西ルート)南京〜武漢〜成都1900km200km/h以上計画のみ 未着工・完成未定

 そのような幾つものメリットがある「高速新線」建設ですが、中国国鉄ではすでに沿海部・東北地区で今の在来幹線と並行する路線を基本に、ポストCRH次代を担う7本の高速新線を建設する壮大な構想を持っています。
 この高速新線計画は、国土・人口のカバー率で見れば日本の「 全国新幹線鉄道整備法 」に基づく整備新幹線計画にも匹敵する計画といえるでしょう。しかもこの計画はすでに一部は実現に向けて進みだしています。この路線の中で一番需要が多いであろう「京滬専線」に関しては、建設主体として「 京滬高速鉄路股フェン有限公司 」が設立され、 全線の工事の内一部が発注され今月起工式も執り行われました 。その「京滬専線」の内 北京〜天津間に関してはすでに工事が進んでおりオリンピックに合わせて8月開業予定 になっています。
 その他の高速鉄道計画でも、北京〜武漢〜広州間の京廣専線では近々予定の 石家荘〜武漢間の着工 で全線着工になり、北京・大連〜瀋陽〜長春〜ハルピン間の京哈専線も 大連〜ハルピン間の建設が始まる など着々と高速鉄道網建設に向けて工事や計画が進んでいます。
 これらの流れを見れば、中国に「ポストCRH時代」としての「世界の第一線級の高速鉄道が出来る」ということは、路線建設という「インフラ」の面からは遠くない将来であるといえます。それを梃子にする事ができれば、中国国鉄がもう一段大きく変わり可能性が否定できないといえます。

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 ☆ (結論に変えて)今回のCRH型高速電車採用が示した「中国の技術レベル」とは?

 そのような「バラ色」に見える中国の高速鉄道の将来ですが、ウィークポイントが無い訳ではありません。それは「車両を製造する技術がない」という点です。誤解がない様に言えば現在の中国に鉄道車両を生産する技術は有ります。実際機関車の大部分は国産で最新の機関車はかなりの高性能を発揮しています。しかしその一歩先を行く「高速電車」を生産する技術が残念ながらまだ無いという事です。
 実際の所、今回乗ったCRHシリーズも良く見れば「世界水準では二線級orダウンスペックの高速電車」であることは既述の通りですし、中国国産の高速電車に関しても此処数年いろいろな車種の高速電車を開発しているものの未だに大量採用される車種は有りません。そのような点から見れば残念ながら中国の鉄道生産技術は「まだ高速電車は開発できない」レベルにしか無いと言わざる得ないのです。
 だからこそCRHシリーズの導入条件に「生産技術とその使用権をブラックボックスの無い形で中国側に譲渡する」という事が入っていたのです。その点で考えればCRHシリーズの導入は「中国の鉄道を高速化させ電車時代を到来させる」という現実的な輸送体制変革の側面と同時に、「車両設計技術・生産技術も合わせて中国に移転させる事で中国の鉄道生産技術を短時間に飛躍的に進歩させる」という生産技術の革新という側面も含まれていたという事になります。
 その様な「生産技術導入」の次の成果?が出てきました。「 中国初の時速300キロ国産高速列車が完成 」という事です。確かにこれだけ見れば「凄いことだ」と思うかもしれません。しかしそれが「中国の鉄道車両技術の高さ」を証明するものでしょうか?それは必ずしもそうではありません。中国鉄道部の関係者はこの車両について「 確かに日本の6社の技術を使っているが、その上に中国が自主研究・開発を行って完成させたもの 」とコメントしていますが、実際の所CRH2の「MT比1:1」というダウンスペックを変えてMT比を上げてあげれば300km/hの速度を出せる高速電車を造ることはそう難しくありません。確かにそのような設計の変更はかなり大規模になりますから「其処を自主研究・開発した」といえばそうかもしれませんが、それだけで「中国の技術が素晴らしい」とはいえる物では有りません。

 実際中国の経済発展は著しく、中国の国是といえる「現代農業・現代工業・現代国防・現代科学技術の四つの現代化」は今や達成されつつある様に見えます。しかし現実は「現代農業・現代工業・現代国防」という表面に出やすい側面の課題は現代化を達成しつつありますが、国力の基礎的側面といえる「現代科学技術」に関して、まだ中国は「世界に冠たる技術を持っている」とはいえないレベルです。
 良く云われるのが「 中国企業の独創的技術開発力の無さ 」です。確かにここ数年中国での国内社の特許出願件数は増えていますが、現実の所中国企業が「世界に誇れる最新技術を開発した」という事を殆ど聞いた事がありません。実際我々も「中国製品」に対して「価格」を求める事があっても「技術力」を求める事は殆ど無い、だから「模倣品」で有れども「安いから」買う製品を作るというのが、中国企業の技術力の実態です。
 なぜそうなるか?といえば、著しい経済成長を納めて今や「世界の工場」とまでいわれる様になったが、実体として中国は「労働価格の安さを武器に世界市場に進出してきた」という側面があり、「世界の二線級の技術製品を安く作る」ことが中国の存在意義だったからです。では何故そうなるかといえば、総合的な面で中国の「基礎技術力の低さ」というものが厳然と存在していたからです。
 中国は1949年の中華人民共和国成立時まで、長い間外国の侵略と内戦という戦乱の時代を経てきて経済的発展を果たす事が出来ず、1949年以降も技術導入を頼った国が旧ソ連で民生技術に関してはレベルが高くなく、しかも旧ソ連からの技術導入も1960年の中ソ論争以来の中ソ対立の中で途絶えてしまい、1978年の改革・開放政策を始めるまで殆ど西洋技術には触れずに国家を建設してきました。その中で1964年の核実験成功・1970年の人工衛星打ち上げ成功などの「自力更生」による技術開発も進めて居ますが、大元の所で「基礎的な国力が足りない」事には変わりがありません。実際1978年の改革・開放政策実施後、欧米から最新技術を導入しますがそれを使いこなすのに苦労しています。例えば1980年代にアメリカから軍艦用ガスタービンエンジン技術を導入したときには「マニュアルを翻訳する為に英語の勉強から始めた」というほどです。いまは其処まで酷くは有りませんが、中国が実質的に欧米との門戸を塞いでい1949年〜1978年までの間に遅れをとった「差」は非常に大きいといえます。

 その様な「差」が鉄道車両の生産技術の世界でも存在して居る事を深く認識しているからこそ、今回CRHシリーズの導入時に「世界水準では二線級orダウンスペックの高速電車」という技術でも「完全技術開放及び使用権の獲得」に固執したのです。そのような技術でも「導入して学習の道具とせざる得ない」程度のレベルにしか、中国の鉄道車両生産技術は達していないのです。
 しかしこの施策は必ずしも間違えている訳では有りません。実利として「輸送体系の改革に使える車両」を導入できた上で、将来に備えるという意味で「世界的には二線級orダウンスペックでも国内の生産技術より優れたものをフリーハンドで使える権利」を手に入れたのですから、これが中国の鉄道車両生産技術の進歩に大きな一歩となった事は間違いありません。
 良く「少量の最先端技術を導入してバラバラに分解した後再組み立てをしながら生産技術を学び模倣していく」事を「リバースエンジニアリング」といいますが、いまや世界で中国は「リバースエンジニアリングの大家」だと思われています。それは日本国内でも思われていて中国へ最先端技術を出すことを嫌う風潮が有ります。しかしこの様な「リバースエンジニアリング」は技術を学び発展させていく上で一番効率的な方法です。実際過去に「リバースエンジニアリング的手法」で技術を学んで今や世界の最先端国家となった国があります。何を隠そうそれは「日本」です。特に明治〜戦前期にかけては日本は「最先端の製品を少量輸入してそれを研究して国産化して世界に冠たる物を作り出した」という事を多数行っています。それは鉄道技術とて例外では有りません。日本の鉄道電化の初期の時代海外から電気機関車を少量輸入してそれを元に国産電気機関車を作った事は正しくその好例です。
 今の中国の鉄道車両生産の現場では、その技術導入のやり方を真似ているだけに過ぎません。(只時代背景が別としても、数両しか買わずそれで技術を学んだ日本に対し、60編成・約800億円のビジネスになる技術導入をしている中国の方が良心的ともいえますが・・・)そのように考えれば「中国国鉄の高速電車に対する技術」が今あるレベルというものは大方想像が出来るといえます。要はまだ模倣が全てという低いレベルにしか高速鉄道の車両技術は至っていないという事になります。
 しかし「いまだに模倣レベル」といえども、電気機関車生産技術などで「基礎的な車両生産技術」はある程度存在している以上、今の中国の技術レベルを馬鹿にする事は出来ません。今は二線級でも今後急速に発展していく可能性も十二分に秘めているといえます。その様な「多種多様な背景」を冷静に分析しながら、今後中国を見たり付き合ったりして行く事が重要であるといえます。そうでないと(鉄道を含めて全ての点で)中国を見誤る事になる可能性が有るといえます。我々に必要なのは「冷静かつ客観的に中国を見る眼」なのでは無いでしょうか?

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 この様に今回中国訪問の機会を生かして、実質的に中国初といえるCRHシリーズという高速電車の大量導入の現場を見る事が出来ましたが、確かに日本製のCRH2という新幹線型の車両には乗る事は出来ませんでしたが、それでも中国国鉄の現在の状況の片鱗を見る事が出来たと感じています。
 今年2008年は北京オリンピックの年で有ると同時に、1978年に改革・開放が始まって30年という節目の年であります。中国が今の様に経済成長路線を取りだしてから丁度30年、今の中国は大きく変化しています。私も95年・03年・04年・05年・今回と都合5回中国を訪問して居ますが、最初の95年の時と比べてこの13年での変化は目を見張るものだといえます。「高度成長の終焉」といわれるオイルショックの年に生まれて日本の高度成長を知らない私にとって、中国の今の成長は「あれこそ高度成長なのか!」と感じさせる物が有ります。
 その高度成長が「実体を伴った物なのか?」と問いかけられると、果たしてそうなのか?非常に答えに窮するのが今の中国の状況で有ると思います。何故その様な疑問を抱かなければならないのか?それは正しく今回の最後で述べた様な「技術の未熟さ」です。高速新線が有っても高速車両が輸入車両という「中国の鉄道技術の状況」と、高層ビルが立ち並び先進国の姿をして居れどもそれを裏付ける技術力が無い企業経済を支えている中国経済の状況は正しく「ダブって見える」といっても過言では有りません。

 しかしこの30年で此れだけ中国が経済発展をして、同時に鉄道の技術も幾ら決して技術レベルが高くないといえども、特にインフラ部分の整備を中心に「世界の先進国の後ろに着く第二・第三ランナー」位置にまで成長してきたのも又真で有るといえます。
 今回表題に取りあげた「鞭で追い立てられる様だ」という言葉を使ったのは、「改革開放の総設計師」といわれた 鄧小平 です。この言葉は鄧小平が丁度30年前1978年に訪日して新幹線に乗った時に感想としてもらした言葉とされて居ますが、鄧小平はこの言葉を新幹線の速度の速さと技術の素晴らしさへの感想として述べたと同時に、「中国も鞭で追いたてて此れぐらいの現代化を達成しなければならない」という比喩として言葉を使ったともいわれています。
 鄧小平が中国共産党首脳として始めて新幹線に乗ってから30年、今度はお膝元の中国大陸を新幹線型の車両が走るようになりました。「日本の新幹線が中国を走る」という事も「(ダウンスペックといえども)新幹線が走れるほど中国の鉄道が現代化した」という事も、30年前に新幹線に乗った鄧小平が予想出来たのでしょうか?流石にその時は予想出来なかったと思います。

 これは「新幹線(型車両)が走るほど、中国も現代化が進んだ」という事と「新幹線(型車両)が走るほどほど日中の経済関係は一衣帯水の関係になっている」という事を示しているといえます。幾ら政治面では歴史認識などの対立事項があり「冷たい関係」となっていても、経済面では日中関係は既にかなり深い相互依存関係が築かれており、今やどちらに取っても「非常に重要な二国間関係」となっています。日本の鉄道の象徴で有る新幹線(型車両)が中国を走るという事はその象徴とも取れる事です。
 この関係は「政冷経熱」という言葉で評されますが、その様な「対立と緊密の相反する二重関係」であれども、今や日中両国はお互いに欠かす事が出来ないパートナーとなっています。私たちはその状況を冷静に認識すると共に、凝り固まった偏屈な感情を捨てて、「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」という現実主義の視点に立って冷静に日中関係を考えないと、今回は「CRHシリーズ採用で新幹線(型車両)が中国を走った」という事が現実化しましたが、将来は(鉄道だけで無く色々な分野で)中国が日本を切り捨てて欧州の技術を取る可能性もあります。そうなると今回の新幹線型車両輸出で約800億円のビジネスに繋げた日本企業のビジネスチャンスが失われる可能性が出てきます。私たちはこの様な事を含めて日中関係を冷静に考えてものを見る必要が有るな?そうでないと大きな損出を蒙る可能性が有ると今回CRHシリーズについて色々な側面で見た時に改めて感じさせられました。

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 ○「参考資料」中国鉄道地図
 

 ※上記地図は「 中国まるごと百科事典 」様からダウンロード・転載してます。メールで「ダウンロードした地図は、自由に利用頂けます」とのお言葉を頂いておりますが、著作権等諸権利は左記のサイト様が保有している事を明記します。





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