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果 た し て 「 輸 出 仕 様 新 幹 線 」 は 成 功 す る か ?

− 川崎重工による「輸出専用新型新幹線車両プロジェクト」について考える −



TAKA  2008年09月14日



        
果たして川重製の先輩に続く事が出来るか? 左:台湾高鉄に改良型が採用されたJR東海700系・右:中国国鉄に改良型が採用されたJR東日本E2型



 ☆ ま え が き

 「新幹線」は日本の鉄道の誇りですし鉄道技術の象徴です。「新幹線」は1964年の開業以来、大量輸送可能な高速鉄道として「鉄道の新しい可能性」を示し、その後欧州諸国を中心に「鉄道復権の旗手」としてTGVを中心とする高速鉄道が登場するきっかけを創った事は間違い有りません。
 しかし日本の新幹線は、「1970-80年代の国鉄経営悪化に依る技術革新の停滞」により、TGVを開発したフランス等に(最高速度等で)技術的に追いこされ、しかも「日本国内の特殊な運行形態」の中でローカルに発展した為、世界的に見ると「特殊な高速鉄道」になってしまい、グローバルスタンダードの世界から外れてしまい、その為90年代〜現在に至る世界中での「高速鉄道ブーム」において、国際進出が図れなく「日本独特の高速鉄道」になってしまいました。
 その中で近年、日本の鉄道車両製造業の国際進出が進むにつれ、日本の鉄道の「主力商品」といえる新幹線も遅ればせながら海外進出が行われるようになりました。日本の新幹線は1994年の韓国高速鉄道の入札ではフランスのTGVに破れたものの、1999年の台湾高鉄の入札で逆転で新幹線を売り込む事に成功し、2004年の中国鉄道部の高速車両の入札でもアルストムの高速車両・シーメンスのICEと並んで川崎重工提案のE2型も多数採用されており、やっとアジア圏で「フランス・ドイツの高速鉄道車両と競争出来る」国際競争力を持つまでになりました。
 その様に「フランス・ドイツ・日本」の3大高速鉄道先進国の中で、周回遅れながらやっと国際進出を図る事が出来た日本の高速鉄道ですが、此の頃「車両製造メーカー」を中心に、世界でアルストム(TGV製造メーカー)・シーメンス(ICE製造メーカー)と伍して競争する為の努力を行い、高速鉄道車両の海外進出を目指す動きが出てきました。今回はその動きについて、車両製造メーカーの側面から新聞の報道を基に考えて見たいと思います。

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 ● 参考HP、資料  ・ 世界市場向け350km/h新型高速鉄道車両「efSET」の自社開発について  (川崎重工9月11日ニュースリリース)
            ・ 川崎重工 時速350キロ、高速鉄道開発へ (9月11日21時39分毎日新聞) ・ 時速350キロで世界へ発進 川重が高速列車開発 (9月12日8時1分産経新聞)
            ・「TAKAの交通論の部屋」● 新幹線は海外に輸出できるのか?  ● 遂に海を越えた新幹線
 ※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」「mixi」とのシェアコンテンツとさせて頂いてます。(mixiに関しては要約版です)予めご了解下さい。

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 ☆ 「国内派」「海外派」流れが二分化されてきた日本の車両製造業界

 現在日本の鉄道車両製造業界は大手の有名どころの企業で「 日立川崎重工日本車両東急車輛近畿車輛 」と5社有りますが、その中では二つの流れが起きていると言えます。それは「鉄道会社との緊密化で生き残る」と「自力で技術開発・海外進出を図り規模を拡大する」という二つの道です。
 前者の「鉄道会社と親密化を図る」道を歩んで居るのが、鉄道車両製造専業に近い日本車両・東急車輌・近畿車輛の3社です。その内東急車輌と近畿車輛は「東急車輌⇒東急系・近畿車輛⇒近鉄系」と言う様に、私鉄会社の系列会社でありましたが実際系列の私鉄会社の仕事だけでは食べていけず昔から国鉄の仕事をしてきましたが、近年では東急車輌が通勤車輌の製造でJR東日本と関係を深め、近畿車輛もJR西日本の車輌を多く受注するようになっています。その中で独立系で有った日本車両も、JR東海の新幹線車両を多く受注して関係を深めて居ましたが、遂に「 JR東海に依る日本車両製造のTOBによる子会社化 」が行われJR東海の系列企業となり、これらの会社は日本でも大手の鉄道会社を後ろ盾に持ち「鉄道会社と関係を深める」事で生残りを図ろうとしています。
 それに対して後者の「自力で技術開発・海外進出を図り規模を拡大する」道を歩んだのが、総合電機メーカーで有る日立と総合重工業メーカーの川崎重工です。この2社は持って居る鉄道車両製造のノウハウと総合メーカーとしてのネットワークを活用し、国内では川崎重工はJR東日本を中心とした車両製造で日立はA-trainの技術を売りに国内鉄道会社向け車輌を製造し基盤を固めると同時に、海外へその総合力を持って打って出る事になります。川崎重工は アメリカに車両製造工場 を持つと同時に台湾・中国に新幹線車両を販売し海外へ大きく羽ばたき、日立はイギリスで 2004年にCTRL線高速車輌を受注 し、今では イギリスで独自に高速車輌入札に参加 するなど着実に海外進出を図り、縮小しつつ有る国内市場から脱出して、ボンバルディア・アルストム・シーメンス等の世界の大車両製造メーカーを競い合おうとしています。
 特に後者の海外進出組の車両製造メーカーは、一番「金になる」市場で有る高速鉄道車両の市場でやっと世界の大メーカーと伍して戦える力がついてきました。その証拠は「日本の新幹線」モデルから脱した新しい高速車両を造る動きが出てきた事で示せると思います。
 実際日立は今回のイギリスのインターシティプログラムでは独自の高速車輌を提案して居ますし、その様な流れに川崎重工も乗ろうとしています。その動きの中に有るのが今回川崎重工の「efSET」プロジェクトで有ると言えます。


 ☆ 川崎重工の「三匹目のドジョウ」を狙う切り札? 世界市場向け350km/h新型高速鉄道車両「efSET」

 未だ概要の段階でプレスリリース以上の詳細は不明ですが、今回川崎重工が開発する「efSET」は世界最高水準の時速350km/h運転を目指す車輌ですから「新幹線の技術生かしつつ、世界の高速鉄道の最前列に出る車輌」の開発プロジェクトで有ると同時に、汎用性の有るスタンダードな車輌を造る事で量産効果を狙いコスト競争力を持たす事で、多国籍車両製造メーカーと正面から競い合うツールを持つ為のプロジェクトと言えます。
 実際この車輌は「自社開発」を謡って居る以上独自の車輌になるとは思いますが、実際の所国内の新幹線に近づけて造った方が量産効果は出ます。そう考えるとモデルが存在する事になりますが、川崎重工ではN700系だけは「何も係わって居ない」事から考えると現在最新式のN700系をモデルにする事は考えづらく、逆に「全ての新幹線車両に係わって居る」JR東日本との親密さを合わせて考えると、この新幹線車両は実体は「 JR東日本が現在開発中のE5系新幹線車両 」を有る程度のモデルにすると考えられます。実際「ダウンスペック」で有れども中国輸出の新幹線車両はJR東日本のE2系をモデルにして居る事からも、その可能性は十分有るのかな?と思います。
 しかし「時速350km/h運転」自体は、鉄道車輌よりインフラに左右されるものであり、鉄道車輌技術的には中国で川崎重工が輸出したE2系の中国での改造版のE2-300系が「 北京−天津高速鉄道で350km/h運転 」を実用化している事から見ても、騒音問題等の「日本独特の制約」がなければ十分に達成可能な技術で有るといえます。

 ライバルはズバリ、フランスの アルストム社が開発したAGV でしょう。AGVは今まで動力集中式のTGVがメインで、中国の高速車輌入札では自社に動力分散式車輌が無く買収したフィアットのペンドリーノをCRH5として投入せざる得ない状況を脱して、此れから世界の高速鉄道車輌のメインになるであろう動力分散式高速車輌の市場で、ドイツや日本の高速車輌と戦う為に開発された車両です。
 まあ此れから開発される最新技術の車両ですから、既に実用化が進んで居るドイツのICEやプロトタイプが登場したフランスのAGVよりかも、技術的に進んだ車輌になると思います。実際の所「動力分散式高速車輌」の市場では、「在来線改良」の高速化ではアルストム(昔のフィアット)のペンドリーノシリーズが世界的に優勢ですが、「新設高速鉄道」ではスペイン・中国で採用されたドイツシーメンス社製のICE3と台湾・中国で採用された日本の川崎重工製新幹線型車両が優勢な事は間違い有りません。
 この「やっと巡ってきた有利な状況」を一層進めて動力分散型高速車輌の分野で、仏アルストム・独シーメンスとガチンコで戦う為に開発される車輌が、今回の川崎重工の「efSET」で有ると言えます。有る意味「efSET」は、上手くコンセプト通り開発が進めば「日本で始めて世界に通用する車輌」という事が出来るのでは無いでしょうか?この様な車両ですから、将来登場した時が楽しみです。

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 ☆ あとがきに代えて - 改めて考える 今のやり方で新幹線輸出は成功するのか? -

 この様に、今回川崎重工が「自社リスクで輸出用高速車輌を開発」したという事は、今まで仏アルストム・独シーメンスに比べて大きく周回遅れで有った日本の高速車輌の海外進出の世界で、一つの活路を見出した事になります。
 又日本の高速鉄道も、台湾高鉄での「高速鉄道のシステムとしての輸出」で成功し、中国のCRHプロジェクトで「車輌のみ輸出しても現地の鉄道レベルに合わせて高速運転出来る」事も有る程度実証しました。実際の所新幹線は「日本の大量輸送のシステムに合った独特の高速鉄道」であり「新幹線内完結のクロージングシステムで有る事が長所であり短所」であると考えて居ましたが、ここ数年の実績から考えて必ずしも「新幹線が輸出に適さない」とは言えない事が証明されたと思います。

 その点からも、川崎重工が中心となり「国内鉄道事業者ならびに国内外の機器・部品メーカーからの協力」で開発される「efSET」は、世界基準に沿った高速鉄道車両であり欧州列強との競争に勝ち切り、世界市場での受注を獲得できる高速鉄道車輌になる素質は持ち合わせて居ると思います。
 しかし過去に弊サイトで何回か述べて居ますが、世界的に高速鉄道の市場が拡張しつつ有る今こそ、車輌等の個々の商品を売るだけでなくオールジャパンとして「新幹線をシステムとして売る」事が必要なのではないでしょうか?。
 高速鉄道の効果を最大限に発揮するには、高速新線を造り有る程度のクロージングシステムの中で高速車輌の性能を最大限に発揮するトータルシステムを造り上げる事が必要です。そう考えると、今回川崎重工が開発した「efSET」はそのシステムの一部分であり、本当にその能力を最大限発揮するにはもう一歩進めて、公的機関・JR各社・車輌メーカー・商社・電気信号メーカー・商社等が一体となり、オールジャパンとして「新幹線」というシステムを売って行く事が重要なのでは?と感じます。

 今まで日本では長い時間・巨額の資金・多大な労力を投じて、世界に冠たる「新幹線システム」を造り上げてきました。此れからは日本国内の「既存新幹線の改良」「整備新幹線建設」でその投資を回収するだけでなく、そのノウハウを海外に輸出する事回収する時期が来たのではないか?と思います。
 既に日本では「リニアモーターカー新幹線」という次世代技術が前進しようとして居ます。その時期だからこそ、前に「 JR東海による「資本提携策」は何をもたらすのか? 」で述べたように、既存では有るが未だ十分優れていて競争力の有る「新幹線技術」で金を稼ぐ必要が有ると思います。その為には車輌輸出だけでは物足りません。あくまで「新幹線をシステムで販売する」事で収益を最大化することが重要で有ると思います。その事を真剣に考えても良いのでは無いでしょうか?




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