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青いロマンスカー「MSE」が持つ平日の顔とは?

−平日の「メトロホームウェイ」 MSEの「通勤特急」としての顔を見る−



TAKA  2008年03月18日



 今回は前回の「青いロマンスカー「MSE」が持つ休日の顔とは?」に続く小田急ロマンスカーMSE試乗記の第二弾です。
 小田急のロマンスカーといえば、華々しい「箱根への観光輸送」が先ずイメージとして挙がりますが、実際の所03年実績でロマンスカー利用客1400万人の内、新宿〜箱根間ロマンスカー利用客は約2割の300万人に過ぎないという数字を見て分かる通り、ロマンスカー輸送の太宗を占めるのは昼間の短区間利用客や夜の通勤利用客で有る事は間違いありません。実際その為に大手民鉄で最大級の輸送力を誇る有料特急用車両30000形EXEが、評判は別にして実質的主力車両として活躍している事からも、「ロマンスカー輸送で重視すべきは箱根輸送と観光へのイメージ作り」であっても、実際の所「ロマンスカー輸送の根幹は日常・通勤輸送」で有る事は明らかです。
 この現実は3月15日より運行開始した「ロマンスカーMSEの東京メトロ千代田線乗り入れ」でも全く変わらないという事が出来ます。逆に言えば普通のロマンスカーは「新都心」である新宿発着ですが、千代田線乗り入れの「MSE」はビジネスの中心地である大手町・官庁街である霞ヶ関を直接通る分、新宿発着のロマンスカーに比べて「夕方〜夜の通勤輸送には有利なポテンシャルを持っている」といえます。

 という事で、3月15日の開業初日の「メトロはこね」の状況については試乗記を書きましたが、それだけでは「ロマンスカーMSEの東京メトロ乗り入れ」の効果の本質を見る事が出来ません。なので今回試乗記の第二弾として平日運行の初日で有る3月17日に夕方以降時間が取れたので、下り夕刻の通勤列車で有る「メトロホームウェイ号71号大手町⇒小田急多摩センター」「メトロホームウェイ41号大手町⇒本厚木」の2本の列車に試乗して見る事にしました。
 果たして「新ルートでのロマンスカーのもう一つの顔」である、千代田線からの通勤優等列車は一体どんな感じなのでしょうか?

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 (1) 3月17日 メトロホームウェイ71号 大手町17:45⇒唐木田18:45 試乗記

 夕方1本目のMSE「メトロホームウェイ」は多摩線の唐木田行きです。現在は千代田線⇔小田急の乗り入れのメインルートは「多摩急行」による千代田線⇔小田急小田原線・多摩線の間の輸送で有り、「唐木田行き」自体かなりの頻度で運転されているので、大手町駅で「唐木田行き」と聞いても「唐木田が何処に有るか」を知っている私は違和感を感じません。
 大手4町駅に着いたのは発車の約10分前でした。その時には「如何にもMSEを見に来ました」という人がホームに居る位でしたが、発車5分前位になると乗車位置の所に20名近い行列が出来ます。私が乗ったのは1号車で、大手町では1号車・2号車が同じ乗車口でしたから、少なくとも大手町から1・2号車に20名近い乗客がいる事になります。しかも「如何にも試乗がメイン」という人も居ましたが、半分以上は「普通のサラリーマン」という感じです。大手町17:50発というのは対通勤で見ると「速すぎる」時間ですが、これだけの需要が根付くのであれば全体を見たら「将来は有望」という可能性も有ります。
 メトロホームウェイは3分1程度の乗車率で大手町に入線してきます。北千住からの乗客は流石に「試乗狙い」という感じの人が多く見られます。北千住に「小田急線から通勤してくる人が勤める業務集積」が有るとは思えませんので、「開業当初のご祝儀相場」が終われば北千住〜大手町間はガラガラになるかもしれません。

  
左:大手町でのメトロホームウェイ乗車待ちの客  右:大手町に入線するメトロホームウェイ

  
左:大手町での乗車風景  右:霞ヶ関で乗り込んでくる客

 大手町で私を含めた乗客を乗せ、2分程度停車した後発車します。その後霞ヶ関・表参道に停車して乗客を集めますが、大手町ほどは乗車してきません。比率でいえば乗車客の数は北千住3.5:大手町3:霞ヶ関2:表参道1.5位の感じかもしれません。流石に運行開始初日のメトロホームウェイだけあり、通勤に速い時間帯でも全体を見て8割程度の乗車率です。
 又乗客の乗車数を見ると、やはり業務集積の多い大手町・霞ヶ関からの乗客が多いのは見て明らかです。この状況は「客層のメインがビジネスマンの通勤需要」という事を示しています。元々ホームウェイ自体が「コーヒー代+αでゆとりの通勤」というのが狙いですから、そのコンセプトに応じられる余裕を持った客層が大手町・霞ヶ関界隈には居ると思えます。其処が「メトロホームウェイ」の狙いでも有るでしょう。

  
左:メトロホームウェイ車内@表参道〜成城学園前  右:成城学園前での乗降風景

  
左:新百合ヶ丘での降車風景  右:唐木田に到着したメトロホームウェイ

 東京メトロ千代田線から代々木上原でのお約束の乗務員交代を行い、小田急小田原線に入って一つ目の停車駅が成城学園前になります。成城学園前では数十名の降車客が有りました。この降車客の内かなりの割合は「如何にも試乗客」という人達でしたが、「通勤や都心から成城への移動に使いました」という降車客も存在していました。成城学園前は都心から特急を使うには近い距離ですが、成城学園前・新百合ヶ丘・玉川学園前は小田急線でも高所得の人達が住む街です。その人達の都心からの足という位置付けを狙ってメトロホームウェイを運転して居る事も有ると感じました。
 成城学園前の次の停車駅は新百合ヶ丘です。新百合ヶ丘では今までの唐木田行きのホームウェイは2番線に停まり小田原線の普通との接続を取って居ましたが、メトロホームウェイは3番線に入ります。これには驚きました。今までの新百合ヶ丘停車のホームウェイは、鶴川・玉川学園前の利用客が「新百合丘までホームウェイで来て普通列車に乗り換えて鶴川・玉川学園前を目指す」という利用が有りました。その利用に答えるには2番線停車が必要ですが、運行上の理由でしょうが3番線停車にしてしまいました。実際乗車客の4割〜5割が新百合ヶ丘で降車した現状から見ると、スムーズな乗り継ぎ形態を期待した利用客も居た筈です。其処はなるべく早く改善した方が良いのかも知れません。元々多摩線ホームウェイでは新百合ヶ丘が最大の降車駅でした。その新百合ヶ丘(及び新百合ヶ丘からの接続駅)の降車客に対しては手厚い対応をする事が、この列車の先行きを左右する要素にもなるのでは?と感じました。
 新百合ヶ丘からは多摩線に入ります。此処から先の停車駅は「小田急永山・小田急多摩センター」という多摩ニュータウンの中心地と終点の唐木田になります。意外な事に小田急グループが不動産・マンション事業を手広く展開している栗平には停車させません。「ロマンスカーの停まる駅」というのは良い宣伝材料ですから、栗平にメトロホームウェイを停車させて、宣伝をすると同時に「マンションの価格を5%上げて売る」位の貪欲な商売をしても良いのでは?と感じました。新百合ヶ丘発車時点では車内に残った人は約4割程度です。その人達が永山1:多摩センター1:唐木田2位の比率で降車します。比率的にも絶対数でも元々小田急線が弱い多摩ニュータウンですからこの様な数字になるのかもしれません。
 又この日は「永山+多摩センターの降車客=唐木田の降車客」という感じでしたが、実際は唐木田まで来た人達の大部分は「試乗組」でしょうから、実需では唐木田は数人しか居ない位になるはずです。そうなるとメトロホームウェイ71号は他の多摩線ホームウェイ号と同じく「新百合ヶ丘狙い」という事になる可能性が高そうです。そうなった場合只ですら時間帯が早い列車ですから、今後ご祝儀相場が終われば只ですら利用客が減る可能性が有るのですから、利用者の多くが利用する新百合ヶ丘で「利用しやすい」形でのフォローが必要と感じました。


 (2) 3月17日 メトロホームウェイ41号 大手町20:33⇒本厚木21:32 試乗記

 大手町からメトロホームウェイ71号に唐木田まで乗車したあと、新百合ヶ丘まで多摩線で出て夕食を取った後小田急線⇒千代田線と再度移動して、今度は大手町20:33始発の本厚木行きホームウェイ41号に試乗してみる事にしました。
 小田急線を多数走るホームウェイ号でも、特に混雑して座席が取りづらいのは新宿発19:30〜22:30頃のホームウェイ号です。ビジネスマンにしてみれば「チョット残業して帰る」とか「チョット一杯呑んでから帰る」となると、やはり19時〜20時は簡単に越えてしまいます。しかもその様な+αの事を行った場合、やはり疲労が増して「ゆっくり帰りたい」と思うのは普通の人の気持ちです。其処に「コーヒー1杯+αの金額で楽に帰れますよ」と誘惑を掛けて利用者を増やしたのが、小田急のホームウェイやJRのホームライナー等の「通勤座席指定特急」です。この様に考えるとメトロホームウェイの場合も、需要が多くて有望なのはメトロホームウェイ41号やその後の時間帯です。この「本命の時間帯」にどれだけの利用客が有るか?興味津々で試乗してみる事にしました。
 再度大手町に到着したのは20時半チョット前でした。ホームは普通の夜のラッシュ時といった感じです。只スーツ姿の人でもカメラを持った人が居るのにはチョット驚きました。やはり「鉄道マニア」だけでなく普通の人もロマンスカーMSEはかなり興味が有るようです。

  
左:大手町駅の特急券券売所  右:大手町駅での乗車風景

 大手町で見た感じでは、全体の乗車客数ではメトロホームウェイ71号と同じ位ですが、北千住からの乗客の分少ない感じです。「試しに利用してみようか?」という人は結構居る感じですが、流石に本厚木着21:32という事も有り「鉄道マニアの試乗客」が少なく感じられ、これがかなり実際の輸送量に近い感じなのかもしれません。
 大手町からの地下鉄線内の停車駅はメトロホームウェイ71号と同じ、霞ヶ関・表参道です。この3駅からの乗車の比率は大手町1:霞ヶ関1:表参道0.5という感じです。やはり大手町・霞ヶ関の比重は大きいのは分かりますが、この列車で意外に表参道からの乗客が多かったのには驚きました。表参道にそんなにビジネス街が有ったのかな?と思いました。全体の乗車率は殆ど満席で空席が少々という感じと見ました。未だ一般人にルート・列車が定着して居ない中で、ご祝儀相場を除いて実需で此れ位乗ってくれれば今の段階としては上出来でしょう。

  
左:メトロホームウェイ41号車内@表参道〜町田  右:町田駅での乗降風景

  
左:パソコンで仕事をするのが似合うのか?@MSE車内  右:本厚木駅での乗降風景

 メトロホームウェイ41号の場合、表参道からは小田急線内の町田まで停車駅がありません。という事は表参道〜町田間は乗客も車内も動きが無いので此処は落ち着いてノートPCを開いてこの訪問記を書く事にしました。只喉が渇いたので「車販は廻って来ないかな?」と待っていても車売は廻ってきません。良く聞くとホームウェイ号には車内販売が無いそうで自動販売機だけになるそうです。「だから新宿駅では良く売店でビール等を買う人が居るんだ!」と妙に納得しましたが、メトロ線内の場合大手町の売店はそんなに充実した感じではありませんでした。(だから何も買わなかった)。これは「快適な帰宅をしてもらう為のサービス」として有料特急を運行するに際してチョット手落ちの気がします。車販を乗せるのは時間的にも効率的にも厳しいのは分かりますので、せめてメトロホームウェイ停車駅のメトロのホーム売店位は充実させて欲しい物です。
 落ち着いてPCで執筆をして居ると、直ぐに町田に到着します。さすが町田は小田急線中間駅でも最大の駅だけ有り、乗客の約6割程度の人が町田で降りて行きます。という事は引き算をすれば明らかですが終点本厚木まで乗った人は約4割程度という事になります。
 しかしこのメトロホームウェイ41号は「東京の都心部」といえる大手町・霞ヶ関と町田・本厚木を殆どピンポイントといえる形で結んで居る列車です(町田・本厚木で他列車に乗り換える事は出来るが実質的にカバーして居るのは町田〜秦野間の範囲ぐらいか?)。それで運行初日という事が有れども殆ど満席に近い利用客が有る事は「ご祝儀相場」「試し乗りをしてみよう」という側面が有るにしても正直いって驚きでした。
 基本的には「夜の帰宅客向けの優等特急による着席サービス」というのは「手堅い需要が有る」分野ですから、大コケはしないと思って居ましたが、上手くニーズを拾える位まで運行本数を増やせば、もっと大きく成長するかもしれません。その様な可能性の一端を今回見る事が出来た気がします。小田急に取っては「新宿」は絶対のターミナルで「新宿の充実」は至上命題ですが、「第二の都心ルート」として千代田線ルートにも「大きな可能性が有る」という事を、今回のロマンスカーMSEの東京メトロ千代田線乗り入れは示したといえます。この可能性を如何に生かすか?此れが小田急の今後に課せられた課題なのかもしれません。

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 ロマンスカーMSEの東京メトロ千代田線乗り入れ運行開始初日の3月15日に関しては「 青いロマンスカー「MSE」が持つ休日の顔とは? 」という事で休日の観光特急の側面を取り上げましたが、今回は「平日の顔」として平日運行開始初日の夜のホームウェイ号の状況について見てみました。
 今回ロマンスカーMSEは「東京メトロ千代田線乗り入れ」という新規軸を打ち出し世間一般からも注目を集めて居ますが、確かに「地下鉄乗り入れ」自体は世間から注目を集めども、実際の所1つの車両で「休日は観光特急で平日はビジネス通勤特急」という「一人二役」に関しては、果たして上手く行くのか?チョット心配して見ていました。
 なぜなら過去にも小田急電鉄では行った例が有るからです。そうです30000系EXEが正しく同じ様なコンセプトで登場したのです。実際の所今でも「ワークホース」的に活躍はして居ますが、「観光特急としてはビジネスライク過ぎる」「ロマンスカーとして相応しく無い」と陰口を叩かれてしまう事も有ります。要は「二頭を追う物は一頭も得ず」という事になってしまうのです。その様な前例が有るため、MSEは最初の話題作りの花火こそ「東京メトロ乗り入れ」という形で打ち上げましたが、その後は観光と通勤という2つの顔を合わせ持つ事が、果たして上手く行くのか?少々心配はしていました。

 しかしながらこの心配は今の段階では「杞憂」に終わりそうだと感じました。「如何にも鉄道車両」という感じの30000形EXEに対して、60000形MSEはデザイン的にも変化を加えており「観光で乗っても新鮮で斬新」「通勤で使っても落ち着いて快適」というのを上手く両立させて居ると感じました。
 加えて休日の顔で有る「メトロはこね」の場合、北千住接続の東武伊勢崎線・JR常磐線や大手町接続の東京メトロ東西線という広大な可能性を持つ後背地を持つため、「箱根に客を集める」という点でかなり大きな可能性を持っています。同じく「メトロホームウェイ」も日本有数のビジネス街大手町と日本の中心といえる官庁街霞ヶ関を通って、其処に通う一流企業・中央官庁のサラリーマンを小田急線沿線のベットタウンで有る町田・厚木方面に運ぶ事が出来るという事は非常に大きな可能性を持って居るといえます。
 その様に見るとロマンスカーMSEは、30000系EXEの時には無かった「東京メトロ乗り入れ」という武器を手に、上手く「観光輸送と通勤輸送の両立」という、小田急・東京メトロの収益極大化への課題に対応出来るのでは?と今回の一連の訪問で試乗してみて感じさせられました。
 但し、やはり「新しい形態」の列車を運行しだした状況に有る事から考えても、未だ少し改善の余地が有るのでは?と感じさせられる点が有ると思います。東京メトロに関してはもう少し接客面でのオペレーションを洗練化させて、効率よくしかもレベルを向上させる必要が有ると感じました。又小田急に関しては「メトロホームウェイ」の内本厚木行き列車の新百合ヶ丘停車も考えても良いのでは?と思います。新百合ヶ丘は高級住宅地のイメージがありますし、ここで各駅に接続すれば鶴川・玉川学園前もカバー出来ます。同時に小田急が住宅開発を進めて居る多摩線の五月台・栗平もカバー出来る事から、「メトロホームウェイ」の全列車停車も考慮に入れるべきでは?と感じました。
 その様な「微修正」の上で、利用実績を積み上げて、編成増備⇒運行本数増加という次のステップへ速やかに進めるようになれば、「ロマンスカーMSEの東京メトロ乗り入れ」は大きく化ける様になるのでは?と感じました。是非上手に大きく育てて欲しい物だと思います。




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