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(3)地方鉄道の優等生「伊予鉄道」が地域にもたらす効果とは?



 「1」鉄道だけでなく「生活総合企業」として地域に根付く伊予鉄道の現状

 今まで見た様に伊予鉄道は松山都市圏を中心に交通を中心とした「総合生活産業」として地域に根付いていると言う事ができます。伊予鉄道が関与している鉄道・バス・タクシー・百貨店・土地売買賃貸仲介・スポーツセンター運営・自動車販売・航空代理店・旅行業等々事業の中身を見れば伊予鉄道グループが松山都市圏で広範囲に渡る事業を営み大きな影響力を及ぼしている事は間違い有りません。
 その様な事業を営む伊予鉄道を企業集団として見るならば、正しく「大手民鉄企業集団」とその企業の収益構造は同じであり、正しく「地域限定版スモール大手民鉄」と言える状況に有ります。
 その伊予鉄道の企業集団の事業規模は範囲の広がりこそローカルで企業集団としても規模は決して大きくは有りませんが、地域に根ざした多様な事業基盤と収益力の強さで見れば決して無視できない規模であり、地方民鉄のトップを走る規模で有ると言えます。

(準大手・地方民鉄の連結売上高)
会 社 名 伊予鉄道 静岡鉄道 遠州鉄道 広島電鉄 富士急行 山陽電鉄 神戸電鉄 新京成電鉄
連結売上高626億9千万円138,803百万円150,112百万円40,446百万円43,342百万円52,772百万円27,245百万円20,109百万円

 民鉄の企業集団の場合、百貨店・スーパー等の大型流通事業を営んでいる企業を傘下に持つ企業集団の連結決算が膨らむ傾向にありますが、其れを割り引いても伊予鉄道の企業集団としては規模はかなり大きいと言え、準大手上場の3社より大きいと言うのは特筆すべきだと言えます。。
 今や企業は連結決算で判断させる時代ですが、その連結決算で見れば連結売上で500億円を超える地方鉄道企業集団である静岡鉄道・遠州鉄道・松本電気鉄道(アルピコグループ、連結売上の資料は無いがスーパーの アップルランド の売上が537億円・ 松本電気鉄道 の売上が67億円有るのでグループ売上が600億円を超えるのは確実)伊予鉄道等の存在感は地域経済の取り非常に大きい物が有り決して無視できない物であると言えます。これらは「鉄道」だけを見ていると決して分からない物ですが、厳然たる事実でありこの様な巨大地方交通企業集団の存在と言う物を無視できないと言う事ができます。

   
左:[1]伊予鉄道経営の根幹 松山市駅に集まる「いよてつ高島屋・いよてつバス・鉄道線・軌道線」  右:[2]駅で副業で行っているコンビニ@古町
   
左:[3]松山の中心街大街道に有る「伊予鉄会館」(左側のビル)  右:[4]グループのカード戦略の根幹「IC・モバイルい〜カード」

 又伊予鉄道の場合、2005年8月に「 い〜カード 」と言うICカードを導入しており、今では鉄道・バス・タクシーだけでなく伊予鉄百貨店等でも使用可能になっており、未だ 使用範囲は伊予鉄グループ内 がメインですが、導入後約1年半で 発行枚数は12万枚 に達し松山市の人口が515千人で有ることを考えると沿線人口の約23%をカバーするほどの普及を示しています。
 交通系ICカードを上手く広範囲にリンクさせつつ普及させカードを持たせる事が、鉄道企業集団の経営に取り「利用者の囲い込み」と言う点で大きな意味を持つ事は「 SuicaPasmo 」が証明していますしだからこそ大手民鉄各社はPasmo導入時に競って勧誘合戦を行っているのです。その点「い〜カード」は(JALマイレージカード以外の)他のカード(クレジットカードを含む)との連携が無い点を除けば利用範囲の広さや普及率の点から見て「ローカルカード」として考えれば文句なしの普及を示していると言えます。
 この様に普及しつつある「い〜カード」が「総合生活企業」を目指す伊予鉄道に取っては大きな武器になります。伊予鉄道は企業集団としての規模も大きいですが同時に傘下の企業が松山の市民生活の大きな範囲と言える多岐に渡る範囲に及んでいる事は前述の通りで有ると言えます。その企業集団を取りまとめるツールとして沿線人口の20%を超える普及率にまで達している「い〜カード」は大きな武器になります。加えて市内の商店街にまで普及が広がれば地域の活性化にもなりますし伊予鉄道の子会社で有る「㈱e−カード」に決済手数料収入が入り企業としても安定した収益源を確保する事ができます。これは伊予鉄道に取っては大きな武器になると言えます。
 この様に見ると伊予鉄道は広範囲な事業範囲と地域を囲い込むICカードと言う2つの武器を車の両輪にして「総合生活企業」として地域により深く根付こうとしている事は間違い有りません。住民の足である鉄道・バス会社も「地域に根ざしている」と言えますが、多様な傘下企業を持つ幾つかの地方鉄道企業集団はその傘下企業の豊富さから普通の交通企業より「地域への密着度」は一歩も二歩も進んでいると言えます。その中で伊予鉄道は総合生活企業としての企業集団として見れば「ホテル・量販店としてのスーパー」が欠けていると言えますが、其れを補う「い〜カード」と言うハウスICカードを持っています。今後ともこの様な優位な状況を武器に、伊予鉄道は「総合生活企業」として発展して行くことでしょう。

 「2」繁栄する地域交通企業集団の存在が地域にもたらすメリットとは?

 この様に比較的規模も大きく企業集団としても安定した企業経営が行われている伊予鉄道ですが、其れが松山の公共交通にとっても非常に良い効果をもたらしていると言えます。実際民間会社が地方交通を担っている場合「経営が安定している事」が地方公共交通の維持・存続・発展にとって重要かつ最低限必要な事である事は間違い有りません。それは過去に見てきた 高松琴平電鉄茨城交通湊線 の例を見れば明らかです。その点では伊予鉄道はコンスタントに利益も出していますし鉄道事業単体でも黒字であり「合格」で有ると言えます。
 只現実問題として見てみると、鉄道事業単体の収益は黒字(伊予鉄道は 鉄道事業→黒字・乗合バス→均衡・貸切バス→赤字 )の伊予鉄道ですが、近年は乗客数の減少に悩まされていました。(参照: 伊予鉄道輸送実績 )普通なら減少傾向に有る地方公共交通の輸送実績は地方都市の衰退と共に釣瓶落としと言うのが普通ですが、伊予鉄道の場合平成12年度の鉄道・バス計23,817千人の利用客を底に回復傾向をたどり平成17年度では鉄道・バス計26,318千人にまで回復しています。其処には伊予鉄道の努力が有ります。
 そのが伊予鉄道努力こそが「 サービス向上宣言・いきいき交通まちづくり宣言 」です。これは伊予鉄道が平成13年4月に始めた運動で公共交通の利便性向上の為にいろいろな方策を打ち出した物であり、特筆できるのは「鉄道・バス運賃値下げ、50円刻みへ値下げ」と「ループバス導入等のバス利便性向上策」でありこの成果により伊予鉄道の利用客数は回復傾向を辿る事となり、この成功に押されてLRV導入やバスロケーションシステム導入などの第二弾・第三弾の施策が行われるようになり、その新しいステップとして平成16年に「 いきいき交通まちづくり宣言 」が打ち出され(梅本駅などの)駅舎の改修によるバリアフリー化推進やICカード導入等の新施策が行われるようになり、今では松山の公共交通は進んだ地方公共交通ネットワークとして評価される様になってきました。

   
左:[5]伊予鉄が展開している「LOOPバス」  右:[6]伊予鉄が松山市内で展開する「マドンナバス」

 この様な施策が如何に素晴しいかと言う点で考えて見ると、これらの一連の公共交通改善策が個別の公的補助は受けて居るにしても伊予鉄道が主体的に施策を考え実施し、特に一番最初に実施した「バス・電車値下げ」などは伊予鉄道が自らリスクを負い行い、其れにより会社側の利用客増課の目的も有るにしても、その施策で公共交通の利便性向上を図ったと言う点です。
 実際問題として公的セクターが旗を振り公共交通利便性向上策を主体的に取りまとめて、その上で民間交通事業者と共同で施策を実施すると言う例は多数ありますし今では一般的なパターンで有ると言えます。しかし其れは「民間企業に改善意欲が乏しい」もしくは「民間企業にその余力が無い」と言う点が多く影響していると言えます。
 しかし伊予鉄道の場合、利用客が減少して行く中で自ら主体的にその打開策としてこれら一連の方策を考え出し実施し成果を出して来たと言う点です。これらは十二分に評価できる事ですし素晴しい事で有ると思います。けれどもこれらの方策を実施するにはそれだけの財力を持たなければなりません。その裏付が好調な不動産業や百貨店業と言う好調な副業で稼いだ利潤と言う事に成ります。値下げにしても原資が必要ですし設備投資にしてもキャッシュが必要です。伊予鉄道の場合鉄道を始めとする交通事業で其れを裏付けるのではなく好調な副業によりその様な施策の裏付をする事が出来たからこそこの様な大胆な鉄道・バス事業の活性化策を打つ事が出来て、人口50万人の都市を基盤にする交通事業者でありながら鉄道事業は黒字・乗合バス事業は収支均衡を実現し利用客増を実現する事が出来たのです。
 これを「繁栄する地域交通企業集団」を持つメリットと言わずして何をメリットと言うのでしょうか?他の地域では税金を大幅に投入して公共交通活性化策を実施しています。其れは税金と言う形で地域住民が負担の上公共交通利用客に恩恵を与えていることです。それが松山では民間の事業者の企業努力で今達成されようとしています。これこそ伊予鉄道と言う繁栄する企業集団が松山に存在し、それにより地域にもたらされた最大の効果で有ると考えます。
公共交通機関を運営する企業手段に取り地域に根ざす事は非常に重要であり、その地域に貢献する事は良質な交通サービスを提供することです。その中で日本の交通事業者は巨額の費用を必要とする交通事業を維持・発展させる為に副業を沿線で展開し住民にサービスを提供しながらその対価の中の適正な利潤を元手により一層の公共サービス改善を行ってきました。しかし今地方ではその様な「日本的交通ビジネスのモデル」が上手く行かず公的セクターの助力を得たり交通事業そのものを放棄したりしています。その中で決して繁栄している豊かな都市と言う事ができない松山で、伊予鉄道が「日本的交通事業のビジネスモデル」にて繁栄する企業集団を作り上げ其れを梃子に松山の公共交通を再活性化させる試みを行い今や成果を出しています。これは地方での交通事業者の稀有な成功例でありこの様な企業を持った事が松山に取っては幸せで有ったと言えます。その点は 高松 と対比して見てみると面白い関係で有ると言えます。

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