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地方民間鉄道の優等生が地域交通を活性化させるのか?

−松山市と伊予鉄道市内線・郊外線を訪問して−



TAKA  2007年03月18日




ライトアップされた道後温泉駅と坊ちゃん列車




 今地方の私鉄は極めて厳しい状況に置かれています。旧国鉄を継承したJR各社は「予め特定地方交通線を整理したので、継承した路線は可能な限り維持」と言う姿勢を取っている為、原則として幹線を中心とした路線ネットワークを維持しておりその中で付帯の地方ローカル線を内部補助で維持して地方公共交通を維持していますが、民鉄の場合地方内で路線が完結している為内部補助が難しく極めて厳しい経営状況に置かれています。
 その様な地方ローカル民鉄の中で地方中核都市を拠点に複数の路線を持ちネットワークを形成する事で、比較的採算性が良好で輸送量が多い路線を複数持つと同時にバス・不動産・流通等の関連事業を持ち鉄道を中心とした小コングロマリットを形成し、堅実に経営を行い同時に確実に地域の公共交通を自立的に運営している会社は複数有ります。
 例えば長野市の長野電鉄・静岡市の静岡鉄道・浜松市の遠州鉄道・広島市の広島電鉄・松山市の伊予鉄道等です。これらの民鉄は30万〜100万の人口の都市を基盤に交通事業を中心とした多角経営を行い「地域有数の企業集団」を形成し、各地方に存在する地方交通企業の中でも「優等生」と言う存在となっています。

 今回はその中でも伊予鉄道を取り上げる事と致しました。伊予鉄道の走る松山は江戸時代からの城下町で有ると同時に全国的には夏目漱石の小説「坊ちゃん」と観光地としての道後温泉が有名な町であり、環瀬戸内海経済圏の中で政令指定都市の広島に次ぐ高松・岡山と並ぶ「2番手」の規模の都市であり、愛媛県内だけで無く四国近県から広く客を集める商業都市として有名な街です。
 同時に松山では、交通機関を中心とした企業集団として「伊予鉄道」がかなり重いウエイトを占めています。「伊予鉄道」は松山市内線・3路線を持つ郊外線を中心とする鉄道業・バス業を中心とする交通業と同時に、43,000㎡の広さと420億円の売上を持つ「地方の優良百貨店」である「いよてつ高島屋」等を傘下に持ち、「愛媛県有数の企業集団」であると同時に全事業経常利益1,311,468千円と言う地方民鉄有数の優良企業です。
 毎年恒例の正月旅行で本年は初めて国内旅行を選択し、その目的地として道後温泉の有る松山と金比羅宮の有る高松を選択したため、正月元旦でしたが松山で伊予鉄道の路線を見ることが出来ました。
 その中で50万都市である松山に市内線・郊外線バス路線を展開している伊予鉄道は正しく「松山の交通を担う中核企業」であると同時に、伊予鉄は特に市内線を中心に自身での高収益企業体質を元手に色々な設備更新・サ−ビス向上策等を実施しており、その為もあり非常に利便性の高い鉄道として評価されています。
 今回見学には相応しくない正月でしたが、道後温泉に寄りながら松山を訪問する事が出来たので、松山市内線・郊外線を中心に「地方鉄道の優等生」と言える伊予鉄道の状況を見て「高収益民間鉄道の有用性」と言う物を視点にして見てみることにしました。

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 「基礎的資料」

 (松山市の概要)
項目面積人口世帯数人口密度DID人口密度
数値428.89k㎡515,372人219,056世帯1,202人人/k㎡

 「伊予鉄道 主要指標」
年度営業キロ輸送人員輸送密度職員資本金営業収益営業費用全事業経常損益
H13年43.5km17,740千人4,984人/日327名1,500百万円3,219,966千円3,185,976千円1,508,921千円
H15年43.5km18,163千人5,083人/日330名1,500百万円3,118,580千円3,022,317千円1,407,680千円
H16年43.5km17,756千人5,056人/日207名1,500百万円3,028,440千円2,984,988千円1,311,468千円
 ※上記表数値は「数字で見る鉄道2003(H13年度)・2005(H15年度)・2006(H16年度)」「路面電車新時代LRTへの軌跡」「松山市HP」から引用しています。

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 (1)  「松山市内の気軽な交通機関」伊予鉄道松山市内線訪問記

 (2)  「市内への機能的な集客手段」伊予鉄道松山郊外線訪問記

 (3)  地方鉄道の優等生「伊予鉄道」が地域にもたらす効果とは?

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 今回初めて四国・松山を訪問し伊予鉄道を見てきましたが、一地方の民間鉄道企業集団が此処まで繁栄していて地域公共交通に貢献している例が有ると言う事に正直驚かされました。
 伊予鉄道の今の繁栄は色々な複合要因が重なり合って出来た物であると言えます。この主は伊予鉄道の努力で有る事は間違いありませんが、経済的に繁栄している時代に副業の基盤が築けた幸運や道後温泉などの観光資源が有ること等色々と恵まれた事象が有った事は否定できません。しかしその最大の物は伊予鉄道が地域の交通企業を主体とする企業集団の本質を見誤らず公共交通事業の改善に力を注ぎ続けてきたと言う点に有ります。
 その「歩むべき道の根本」を見失わず継続して交通事業の改善に努めてきたからこそ、中心市街地に人が集まり都市が繁栄し其処を基盤にする各種事業特に百貨店業(伊予鉄高島屋)が繁栄して収益をもたらし其れが公共事業の活性化の原資になると言う「善の循環」を引き起こしたからこそ今の伊予鉄道グループの繁栄が有ると思います。
 この様な素晴しい企業集団を地元に持った事の幸運は松山の隣の高松と見比べて見れば明らかです。同じ様な県規模・都市規模の高松と松山で同じ様な規模の路線規模を持つ高松琴平電鉄と伊予鉄道を比べると「 交通事業をサービス向上をせず放置したまま経営しそごうの連鎖倒産が引き金で破綻した高松琴平電鉄 」と「幹の交通事業の改善を進めその波及効果で副業の百貨店業もそごう破綻でびくともせず今も盛業の伊予鉄道」では大違いで有ると言えます。
 松山に取り伊予鉄道と言う優良企業集団が存在した事は地域にとって非常に幸運で有ったと思います。しかしこの様な盛業の企業集団が地域交通を担っている事による恩恵を地域が蒙ると言うことは何処でも通用する事では有りません。有る意味松山は「恵まれた事例」で有るという事ができます。今後の問題は「地域が優良企業集団に甘えず如何にして地域と企業が協業して公共交通の一層の発展に向けて協力をするか?」と言う点です。逆に松山にしてみると今後が試されているのかも知れません。

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 「参考資料・参考HP」
 (参考資料)
 ・「路面電車新時代 LRTへの軌跡」 (服部重敬 著)  ・「路面電車ルネッサンス」 (宇都宮浄人 著)
 ・鉄道ピクトリアル1993年4月増刊号「四国の鉄道」 ・「最新 全国百貨店の店舗戦略」(麻倉佑輔・大原茜 著)
 (参考HP)
 ・ 伊予鉄道HP  ・ 松山市HP  ・交通と街づくりのレシピ集 「 松山の路面電車 」 ・ 伊予鉄道 (wikipedia)

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