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「新幹線新駅建設」は本当に「もったいない」のか?

−東海道新幹線「(仮称)南びわこ駅」建設予定地を訪問して−



TAKA  2006年09月21日




「(仮称)南びわこ駅」建設予定地を走る東海道新幹線




 7月2日の滋賀県知事選挙で、東海道新幹線「(仮称)南びわこ駅」(以下「南びわこ駅」と略す)建設の凍結・中止を訴えた嘉田由紀子氏が現職に3万票以上の差をつけて滋賀県知事に当選して以来、「東海道新幹線最後の新駅」と言える「南びわこ駅」建設を巡り凍結・推進を含め色々な動きが出ています。
 私もこの話に関しては色々と興味・意見が有り、「 TAKAの交通論の部屋 」で「 新幹線の駅は本当に要らないのか? 」「 何故行政はリスクを取る事は出来ないのか? 」で取り上げてきましたが、滋賀県内でも民意を背に凍結派の嘉田知事と新駅建設の地元で推進を主張する栗東市等の地元勢力で意見が割れている様に、「推進」「反対」で色々な意見が有るのも又事実であります。
 その中で偶々仕事で9月の15〜16日に豊橋まで行く用事が有り、その後名古屋で友人と飲んで1日名古屋〜伊勢方面を散策する予定を組んでいたので、「南びわこ駅について色々と述べている以上一度は現地を見よう」と思い、伊勢から近江に足を伸ばしシャープ亀山工場と言う「世界に誇る最先端の液晶生産工場」の誘致に成功した亀山市をチョット見ながら、「南びわこ駅」建設予定地とその地元栗東市を訪問してどの様な所に新駅を作るのか見てみる事にしました。

 「参考HP」
 (自治体) ・ 滋賀県HP  ・ 滋賀県交通政策課HP  ・ 栗東市HP  ・ 亀山市HP
 (市の概要)・栗東市の概要( 栗東市HP統計書  ・ 滋賀県HP ) ・亀山市「 市の概要 」(亀山市HP)
 (新駅関係)・ (仮称)びわこ栗東駅前先導プロジェクト基本計画  ・ びわこ栗東駅周辺基本構想
       ・ 新駅設置位置  ・ 新駅整備計画概要  (以上4件栗東市HPより)
       ・「 新幹線新駅整備の波及効果と地域整備戦略の深度化調査の結果 」(守山市HP)
       ・ 栗東新都心土地区画整理事業 基本計画
 (その他) ・ シャープ亀山工場HP  ・Yahooニュース「 滋賀県の新幹線新駅問題
 (地 図) ・ (仮称)南びわ湖駅周辺航空写真  ・ (仮称)南びわ湖駅周辺地図  ・ 亀山駅周辺地図  (どちらもyahooMAPより)

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 ☆ 「南びわこ駅」建設予定地を訪問して (建設予定地 現地編)

 9月17日午前中を伊勢で過ごした後、関西本線〜草津線経由と言う旧東海道ルートで台風が迫り雨の降りそうな近江路に入ったのは午後も3時を過ぎていました。
 本当なら栗東市内をゆっくり見た上で、近江鉄道も乗ってみるor何処かで近江牛でも食べる事を考えていましたが、18:29発の帰りの新幹線の時間(既に「乗変」で指定席が取って有った)を考えるとその様な寄り道も出来ず、此処は寄り道を諦めて草津線を手原駅で降りて約1時間半の時間を使い、栗東インターの周辺の覗いた後新幹線新駅建設予定地を訪問して、その後JR東海道本線(琵琶湖線)栗東駅へ抜けた後電車で米原へ向かう事にしました。
 上記の様に草津線手原駅で下車して駅周辺・名神高速栗東IC周辺を見た後、徒歩で「南びわこ駅」建設予定地を訪問したのですが、此処では先ずは今回の本命の「南びわこ駅」建設予定地を取り上げる事にします。


  
左・右:栗東新都心土地区画整理事業施工予定地


 南びわこ駅建設予定地は、草津線の手原駅の裏口と言える北口(如何見ても市役所側の南口が表口だろう)を抜けて国道1号線を渡った先(大きく迂回しないと渡れない)に有り、手原駅から歩いて15分ほどの所に有ります。
 航空写真を見ると分かりますが、国道1号線と東海道新幹線の間には空き地が広がっています。この空き地は一部分が田圃として耕作されていましたが、殆どは空き地状態で放置されています。栗東市はこの空き地を「栗東新都心土地区画整理事業」で区画整理して湖南地域の核として開発しようと構想していますが、駅前となる土地が低開発で放置されている状況を見ると「新駅が着手出来れば何時でも開発OK」と言える状況でしょう。

  
左:「南びわこ駅」建設予定地(後方は積水化学滋賀栗東工場)  右:「南びわこ駅」建設予定地と草津線新駅建設予定地(正面を走るのが草津線)


 「栗東新都心土地区画整理事業」予定地の先が、「南びわこ駅」建設予定地です。「南びわこ駅」は栗東市下鈎地区に建設予定で、丁度東海道新幹線南びわこ駅建設予定地を挟んで栗東駅側の北西に積水ハウス・積水化学の工場、南西に草津線が走りその先には日清食品の工場、北東には済生会病院と住宅地、南東には栗東新都心土地区画整理事業地の先に国道1号線・8号線・名神高速栗東ICが有り、色々な意味で開発余地と交通アクセスの有る新駅建設予定地で有ると言えます。
 南びわこ駅建設予定地には「新幹線仮称南びわこ駅2012年開業」と言う大きな看板が立っています。この看板と新幹線の風景は新駅建設凍結問題が表面化してから何回か報道等で出ていますが、私の場合台風接近の雨模様の天候の中で訪問したので、何か「もったいないので建設してくれ」と涙雨で訴えている様な状況に感じてしまいました。
 只用地の問題等も有ったのでしょうから仕方ないのかもしれませんが、南びわこ建設予定地と草津線新駅建設予定地が道路を挟んで200m以上離れてしまうので、乗換に難が出てしまうことでしょう。南びわこ駅の建設効果を拡げるには草津線は重要な要素ですからこの乗換抵抗に関しては「動く歩道」等の導入で解消する必要が有ると言えます。

  
左:「南びわこ駅」建設予定地東京寄りに有る新幹線の変電所  右:「南びわこ駅」建設予定地大阪寄りに有る新幹線の保線基地


 新幹線南びわこ駅建設予定地近くには、線路沿いに下り線側に新幹線の変電所・上り線側に保線基地が有ります。場所的には丁度南びわこ駅建設予定地を挟んで対称に存在しているので新駅建設に干渉している施設で有ると言えます。その内栗東の保線基地は規模が大きいので移転は不可能ですから、変電所を移設する事になります。実際にJR東海は今月に入って「南びわこ駅建設に伴う変電所移設工事」の届出を行っています。
 建設費に関して「盛土構造」が仮線設置を必要としその為に建設費が高騰したと言う説明が過去に有りましたが、実際はこの様な「支障施設移設」で費用が嵩むという問題が有るのだと思います。加えて新幹線駅建設予定地と積水ハウス・積水化学の工場が隣接していると言う事も有り、上り待避線・ホーム設置の為にこの工場の施設一部移転・用地一部買収が必要で有ると言えます。これ等の要素が南びわこ駅建設工事の建設費が膨らんだ要因で有る可能性は高いと言えます。
 確かにこの南びわこ駅建設予定地の場所は「周辺に開発余地が多い」「他の交通アクセスも充実している」と言う点で新幹線新駅建設&開発による地域拠点形成の為にベターな立地であると言えます。しかし建設費用的問題で考えると制約と増額要素の多い場所で有ると言えます。今回の新駅建設凍結問題で「他の新幹線新駅に比べると建設費が高い」と言う事が問題になっていましたので、今になりその点で考えると「痛し痒し」だったのかな?という感じはしました。


 ☆ 「南びわこ駅」建設予定地を訪問して (栗東市内 建設予定地 周辺編)

 南びわこ駅建設予定地に続いて、栗東市内の建設予定地の周辺を見てみる事にします。本来見た順番は草津線手原駅・栗東IC・国道1号線・国道8号線周辺→南びわこ駅建設予定地周辺→JR東海道線(琵琶湖線)栗東駅周辺と言うルートで廻りましたが、纏めの都合上「南びわこ駅建設予定地」と「周辺地域」に分けることにします。此処では前の「南びわこ駅建設予定地」に続いて「周辺地域」について見てみる事にします。

  
左:栗東新都心区画整理事業予定地南東側に有る草津線手原駅  右:草津線手原駅から栗東市役所方面を見る


 先ず最初は草津線手原駅とその周辺です。 手原駅 は旧東海道に沿って関西本線の柘植と東海道本線の草津を結ぶ 草津線 の駅で草津から4kmの所に有り栗東市で唯一の草津線の駅です。
 駅は04年に出来た橋上駅舎でエレベーターも設置されて居ます。栗東市の中心街はJR東海道線栗東駅前と言えますが、栗東市の市役所は手原駅から南の方角に一寸行った所に有るので、栗東市の行政の中心と言う事も出来ます。JR東海道線の 栗東駅 自体は91年に出来た駅で1922年に出来た手原駅が其れまでは「栗東の玄関口」であった名残が市役所の位置に現れているのでしょう。
 その為か南口は駅前広場も整備されており金融機関の支店やマンション等も建っています。又駅からチョットはなれた市役所周辺にはスーパーもあります。その為駅の表側と言える市役所側はそれなりの集積が有ると言えます。その点でJR東海道線の栗東駅と棲み分けが出来ているのかもしれません。

  
左:国道1号線と国道8号線の分岐地点  右:国道1号線と名神高速栗東ICの入口


 続いて市役所の反対側の手原駅の北口に出てみます。北口を出て少し進むと立体交差の有る大通りに出ます。此処が国道1号線と国道8号線の分岐点になります。元々江戸〜京都間の大街道の鈴鹿越えの東海道と関が原越えの中仙道の分岐点は隣町の草津でしたが、今や旧東海道の国道1号線と昔の中仙道(一部)北国街道である国道8号線の分岐点は栗東になっています。中部・関西・北陸を結ぶ国道の分岐点と言う事は取りも直さず「道路交通の要衝」であります。交通の要衝で有る事は発展の重要な要素です。その点からも栗東は発展性の有る土地で有ると言えます。
 国道1号線に立って国道8号線との分岐点の反対側を見ると、名神高速道路の 栗東IC の入口が有ります。名神高速の尼崎〜栗東間は1963年に開通した「日本初の高速道路」です。此処から高速道路に乗れば、東京・名古屋・大阪の三大都市圏だけでなく、米原JCT経由で北陸道や吹田JCT経由で中国方面に高速道路が繋がっています。一般国道のネットワークも重要ですがそれ以上に高速道路のICの存在も重要です。その点で言えば栗東は既に「高速交通に恵まれた地域」で有ると言う事が出来ます。

  
左:栗東駅から「(仮称)南びわこ駅」建設予定地方面を見る  右:JR東海道線(琵琶湖線)栗東駅


 草津線手原駅・栗東IC周辺を見た後、今度は現在の栗東市の玄関口であるJR東海道線(琵琶湖線)栗東駅周辺について見てみます。栗東駅は91年に出来たJR東海道線(琵琶湖線)の中でも未だ新しい駅です。京都・大阪に直結のJR東海道線(琵琶湖線)でバブル期に出来た駅であり駅前を土地区画整理事業で開発した事もあり、駅前には中高層のマンションが林立していて完全に大阪・京都のベットタウンとなっています。
 栗東は隣接の草津・野洲・守山などと異なり関西圏の速達列車の象徴である新快速の停車駅では有りません。その点では栗東は対大阪・京都への利便性で一歩劣る立地で有る事は否定できませんが、それでもバブル時開発の恩恵か?それとも区画整理の開発基盤に上手くマンションが付いて来たのか?野洲・守山の駅前に比べて開発が進んでいると言えます。
 駅前には林立するマンションに加えて、地元のスーパー平和堂を核テナントとした商業施設も有ります。この様な栗東駅前の住居の集積・商業施設の集積により栗東市内では「行政拠点の手原駅周辺地区・対大阪及び京都のベットタウン&商業拠点としての栗東駅前」と言う役割分担が出来ていると言えます。栗東駅前の状況はその事を示していると言えます。


 ☆ 新幹線新駅建設がもたらす効果について考える

 この様な「既存の交通環境に恵まれ」「開発余地に恵まれ」と言う開発のポテンシャルの高い栗東ですが、実際新幹線の南びわこ駅建設はどのようなメリットが有るのでしょうか?上記で述べた現地の状況を踏まえて、此処では新幹線新駅建設がもたらすメリットについて考えて見たいと思います。

 ・新駅建設が街の発展を引き起こす効果とは?

 一般論で言えば少なくとも有る特定の条件が有れば、新駅建設は地域に対して大きな成長・発展効果をもたらすと言えます。その条件とは「(1)既存産業立地が存在し利便性向上でより一層の誘引効果が望める」「(2)大都市近郊で新たな人口を集めやすい」と言う発展の要素が存在する所に、より一層の集積のコアとなるインフラを投下した時に一層の発展が望める環境を生み出すと言う事が出来ます。
 その様な発展の要素が有る中で、「新駅建設」と言う名の「産業・人口の集積のコア」が投入され発展した例が、下記の写真に有る「東海道新幹線三河安城駅周辺」や今回取り上げた中に有る「JR東海道線(琵琶湖線)栗東駅周辺」であると考えます。

  
左:新幹線三河安城駅周辺状況  右:栗東駅駅前広場


  三河安城駅 の場合は(1)の要素が強いと言えます。(名古屋近郊圏と言う事で(2)の要素も加わっているが)元々安城・刈谷・豊田と言う「トヨタ自動車」を中心に自動車部品デンソー・アイシン精機等を含めた自動車産業の集積が高く極めて高いポテンシャルを持っていた物の、地域からの長距離移動や他地域からの来訪客の経由地が空港も有り新幹線も止まる近隣の大都市名古屋に流れていた西三河地域でしたが、東海道新幹線で「こだましか停まらない東京から一番遠い駅」と言う恵まれない条件下でも、三河安城と言う新幹線駅が安城・刈谷・豊田から遠く無い所に出来た事で、元々は何も無かった所に今や街が出来ています。
 三河安城駅は東京からの新幹線利用では極めて不便であり、しかも直ぐ隣が大都会名古屋と言う事もあり新幹線駅としての利用客数は芳しくなく単独の新幹線新駅建設としては成功でなかったかも知れません。しかし「こだましか停まらない駅」で有っても駅周辺の写真を見ればマンション等が多く建っていますし、 駅周辺の地図 には複数のホテルが出来ています。
 これは「新駅設置の効果」と言わずして何でしょうか?「こだま停車駅」で名古屋の陰に隠れた「サブの玄関口」で有っても、新駅設置は此れだけの開発・発展をもたらすと言えます。これは「地域の産業集積」と言う要素に新幹線新駅と言う発展のコアを投げ込んであげた効果で有ると言えます。

 これに対して栗東の場合(2)の要素が強いと言えます。栗東の場合バブルの真っ盛りの91年に新駅が建設されていますが、その新駅は平成元年〜17年施工の「 栗東駅前土地区画整理事業 」に合わせての開業であり、ほぼ完成している区画整理事業により栗東駅前には37.8haの優良な住宅地が供給されています。
 その駅前の優良な宅地に、バブル期にJR東海道線(琵琶湖線)新快速利用で京都・大阪方面に通勤する人たちが流れ込んできて、駅前の優良宅地に建てられたマンション群に定住し今の賑わいを作り出しています。
 栗東駅の場合「需要が爆発的に増えたバブル期の開発」で「区画整理で安価な土地がマンションとして大量に供給され」「新駅と高速列車の存在で大都市への通勤が容易」と言う要素が噛み合い、新駅建設(+土地区画整理)が開発の促進と人口の定着に結びついたと言う事です。栗東の場合「後出しじゃんけんの勝利」では有りませんが新駅開業+土地区画整理事業施工が周辺の他の駅・地域より遅く、それがバブル期に当たった事が今の開発と定着人口を生んだと言えます。その点ではタイミング的にも恵まれた新駅開業・開発事業であったと言えます。

 この様に周辺に有る程度既存の需要がある地域の新駅開業は、「費用対効果が高いか低いか」は別にして、絶対的側面で新幹線・在来線を問わずにかなりの開発効果を引き起こすと言えます。その点は三河安城・栗東共に当てはまると言えます。
 三河安城・栗東の様な新駅建設の効果が高いと言えるのは、「新駅がコアになりえる」と言う点にあると思います。地域を発展させるには新駅建設だけでなく色々な手法が有ると思います。その中で新駅建設は「(第二次・第三次を含めて)産業も人口もひきつける要素がある」と言う引き付ける要素が多いので、芯となる新駅建設を地域に放り込んであげれば周りに必然的に色々な産業や人々が集まってきて地域の発展につながると言えます。
 その点では「産業は来たけどなかなか恩恵を受けられない」と言う今流行の「大規模な補助を投じての企業誘致」よりかも、新駅建設の方が地域の発展には大きく寄与するかもしれません。では「90億の補助金」を投じて「世界最新鋭の液晶工場」を誘致した例を見てみる事にしましょう。

 ・企業誘致だけでは地域は豊かにならないのか?「液晶工場」を誘致した亀山市の状況

 「亀山ブランド」とはシャープの主力商品液晶テレビのAQUOSで良く言われる表現ですが、工場の場所がブランドとして語られるのは非常に珍しいと言う事が出来ます。シャープの亀山工場は天理・三重と並ぶ液晶の大手シャープの主力工場で、特に亀山第二工場は第八世代の液晶も生産可能な世界最先端の液晶工場です。(参考資料: 家電メーカーのデジタル戦略を探る
 この様に「世界に冠たるブランド名」にまでなった街でしかも世界最先端の液晶工場とその関連企業が多数終結する「 クリスタルバレー構想 」は、シャープの三重・亀山の工場を中心に三重県全体に「 液晶関連産業 」の誘致を成功させる事となり、 多額の補助 を注ぎ込んでいるものの、クリスタルバレー構想は「企業誘致の成功例」と持て囃されています。
 今回その「クリスタルバレー」構想の核都市のひとつと言える亀山の状況を見てみようと思い、三重から栗東へ移動する間に亀山の駅前を見て見ました。


  
左:「亀山ブランド」をアピールするシャープの液晶テレビAQUOS@東京駅 右:工場進出を当て込んで出来た?新しいビジネスホテル


  
左:亀山駅近くのレストラン・中古車販売店に有る「英語表記・ブラジル国旗」  右:亀山駅前の(寂れた?)商店街


 亀山駅前に降り立ったのは9月17日日曜日の午後2時頃でした。四日市から関西本線の2両編成のワンマン列車に揺られ亀山駅に付きましたが、日曜日と言う事もありスーツを着たビジネス客はチラホラでほとんどの人が地元の人か学生の感じでした。休日ならいざ知らず平日に、世界からのビジネスマンが新幹線乗り換えの名古屋からこのローカルな各駅停車に揺られて亀山に来ると考えるとチョット驚くものが有ります。(参考: 亀山市HPアクセスマップ )東名阪自動車道・名阪国道が走っているので自動車交通のアクセスは良いですが、公共交通のアクセスの悪さは驚くばかりです。
 駅を降り立つと「如何にも田舎の駅」と言った感じで、シャープ亀山工場行きの三重交通のバスが止まっている以外「クリスタルバレーの中心地」と言う賑やかさは何処にも有りません。電車の待ち時間を利用して県道沿いのショッピングセンターの有る地域まで行ってみるとチョット開けた感じになります。郵便局などの公益施設・ちょっとした大きさのスーパー(マックスバリューだった)・昔からのビジネスホテルに加え、如何にも「最近シャープ客狙いに建設しました」と言う感じの新築ビジネスホテルが建っています。新築のビジネスホテルは亀山市内に此処以外に他にも有るようです。それ以外は「クリスタルバレーの中心地」を感じさせる物は殆ど有りません。 135億円の補助金で5500億円の経済効果 と言うシャープ亀山工場の経済効果は何処へ行ったのでしょうか?
 中心街で買い物と郵便局への用(軍資金補充)を済ました後駅周辺に戻ってみます。駅前近くの県道沿いに驚くべき光景がありました。県道沿いに中古車屋とレストランが並んでいるのですが、どちらの看板にもブラジル国旗が掲げられていて、看板には英語表記(もしかしたらブラジル語?)が有ります。外国人観光客が来る様な所には見えませんし外国人が来る空港・港の周辺ではありません。その様なところに何故この様な物があるのか?良く考えると「 シャープ亀山工場の請負労働 」と言う話は 週刊東洋経済 にも出ていました。その請負労働が日本人だけでなく合法的な外国人の日系ブラジル人にも波及している可能性が高くその証拠がこの状況ではないかと感じました。

 シャープ亀山工場は「130億円の血税による補助金でもたらされた5500億円の経済効果」と持て囃されていますが、亀山の駅前を見る限り「5500億円の経済効果」は感じる事が出来ませんでした。確かの雇用の側面で「請負労働ばかりで正規雇用を創出できない」と言う問題は、近年の格差社会の問題の中で浮上してきています。その象徴の一つとして亀山が取り上げられている事も多々有ります。その点は事実かもしれません。
しかしその前に色々な経済効果があっても「街に賑やかさがない」のは何故なのでしょうか?「請負労働者だから給料は安く街で買い物もしない」と言う点もあるでしょうが、それでもこれだけの大工場ですから来客等が有りその人が待ちにお金を落としてくれるのではないでしょうか?しかし亀山にはその気配も有りません。クリスタルバレーと持て囃され液晶工場は賑やかでも街はそれほど栄えていない感じがします。
 その点から考えると「亀山パッシング」と言う事象が発生しているのではないでしょうか?幾ら工場に社員や労働者が多く、遠方から来客が来ても亀山駅前のように栄えていない街では宿泊しないでしょうし、新幹線駅から1時間もローカル線に揺られて亀山駅に到着では誰も利用せず、高速道路の東名阪自動車道を利用するでしょう。その為「高速を利用し車で工場に来てそのまま帰る」と言う行動パターンつまり「亀山パッシング」が発生している可能性があります。
 その象徴が寂れつつある亀山の中心市街地であると思います。企業誘致には成功し高速道路もあると言う環境ですが、地域の開発と言う側面では産業・商業・人口を集める核となる高速公共交通の拠点が弱いと、遠方からの客は地元はパスしてしまいます。その状況が今の亀山の状況で有るといえます。「亀山に新幹線を!」と言うのは無理な話ですが(リニア中央新幹線のルート上で「 亀山駅誘致 」の動きはあるが完成はいつになる事やら・・・)新幹線・空港に接続する高速交通(高速バス・直通快速列車等)が必要であったのかもしれません。亀山の市街地には経済効果を集める「金平糖の芯」が無いというのがシャープ亀山工場の経済効果を十二分に吸収できない理由なのかもしれません。


 ☆ 新幹線「(仮称)南びわこ駅」建設工事は本当に「もったいない」のか?

 ・実際の経済効果はどれくらいなのか?

 上記で三河安城・栗東の例を見てきた様に「新駅建設」は絶対的意味で地域に成長をもたらす物であり、又亀山の様に世界に冠たる最新鋭工場を誘致して「クリスタルバレー」を作り出しても高速公共交通手段が整備されないとそのターミナルが有る中心市街地は「パッシング」され地域の成長に結びつかないという事を見ることが出来たと考えます。
 つまり絶対的な基準で見れば、地域の総合的な発展には「企業誘致」も大切ですが世間の流れの変化でなかなか経済効果が上がらない中で、「企業誘致」のセールスポイントと言う効果に加え、駅の集客効果に期待した商業施設立地や利便性に引かれた流入人口等を考えると新駅建設効果は極めて高いと言えます。ましてや新幹線の駅です。その効果は非常に大きいと言えます。
 今「南びわこ駅建設」に関する滋賀県のHPが消滅してしまい、県の需要予測等の試算が見れなくなってしまいましたが、守山市HPの中に「 新幹線新駅整備の波及効果と地域整備戦略の深度化調査の結果 」と言う資料が有ります。これによると「・開業時(2010年)の乗降客数7,480人/日・2020年の乗降人数8,938人/日・2020年の県全体の人口4.5万人増・2020年の県全体の観光客数121万人増・新駅関連建設効果約876億円(累計)・地域全体建設効果約5,550億円(累計)・2020年の継続的な観光消費効果(単年)約217億円・2020年の継続的な消費・生産効果(単年)約3,553億円・平成32年度の税収効果約113億円」と出ています。
 これに対し南びわこ駅の建設費用は「新幹線駅建設に約240億円・草津線新駅や土地区画整理事業をあわせると約650億円・その内栗東市の先行投資額(主に公共用地取得費)は約177億円(9/23ダイヤモンド120ページ資料より引用)」との事です。総額650億円の投資で此れだけの効果が有る事業は他に有るのでしょうか?

 ・同じ交通関係でも「より効率的な資金投入先」が有るのか?

 巨額の投資と莫大な経済効果が有るという試算が出ている新幹線「南びわこ駅」建設工事ですが、今滋賀県知事選挙を見れば明らかですが「反対・凍結・中止」と言う意見が多数出ています。しかし此れだけの(公共投資に対する経済効果・税収と言う名のリターン等の)効果が有る公共事業が他に有るのでしょうか?
 交通関係では、公的セクターで今行われている「 琵琶湖環状線 」事業や構想として上がっている「 びわこ京阪奈線 」構想等が有ると同時に、湖東・湖南地域の公共交通で有る近江鉄道・京阪石山坂本線・信楽高原鉄道の活性化の方が効果が有るとの意見も有ります。果たしてその通りなのでしょうか?

  
左:信楽高原鉄道@貴生川駅  右:近江鉄道@近江八幡駅(手前はJR東海道線下りホーム)


 投資額に関して言えば「びわこ京阪奈線(新線建設30km+既存近江鉄道・信楽高原鉄道改良では1000億単位の費用が掛かるのは確実)>南びわこ駅建設(総事業費約650億円)>琵琶湖環状線(滋賀県+自治体で75億円+駅舎改修等関連事業105億円)>既存民鉄路線の梃入れ(数十億円程度だろう)」と言う事になります。
 その中で比較して一番投資効果が低いのは間違いなく「びわこ京阪奈線」であると思います。1000億単位で投資しても隣接大都市京都を通らない路線の上新快速の速度に継接ぎ路線が叶うのか?と言う点で考えれば、1000億円投資しての経済効果が乏しい上に運営主体が長期的に赤字を垂れ流す可能性が高いと言えます。これは正しく「もったいない・無駄だ」と言える事業であります。
 又経済効果が明らかにはなっていませんが、直接・間接を合わせて滋賀県と自治体が180億円を投入する琵琶湖環状線も地元では「長浜だけでなく湖東地域全体で観光客を呼び込める」「通勤・通学が便利になる」と意見が出ていますが、180億円税金をつぎ込んで得られる物は「(湖西線経由)敦賀まで毎時1本+(東海道線経由)近江塩津まで毎時1本(どちらも昼間)」だけです。(JR西日本HP18年10月21日ダイヤ改正 全体近畿地区 )琵琶湖環状線は全体で180億円投資して新快速が毎時1本〜2本です。650億円投資して「毎時(東京行)ひかり1本+こだま1本」が停まる南びわこ駅と比較してどちらが全体的に効果が高いのでしょうか?私はその様に考えれば「琵琶湖環状線」に「もったいない」と言う意見が出ない事に大きな疑問を感じます。
 その上で「既存民鉄路線の梃入れ」は「地域の公共交通の維持」と言う点では必要かもしれませんが、経済効果と言うリターンの点では「殆どゼロ」と言えます。輸送密度的には京阪京津線及び石山坂本線8,815人/日はまだ良い物の他の2路線は近江鉄道1,420人/日・信楽高原鉄道571人/日しか有りません。この様に利用されていない路線は収益的に厳しいのならバス転換の上「公共交通の最低限を維持」した方が効率的で有ると言えます。少量輸送では鉄道よりバスの方が効率的な輸送が出来ます。その点から考えれば「鉄道の維持」は必要有りません。その点で考えれば「民営鉄道路線維持の為の税金投入」は「効率的な資金投入先」であると言う事は出来ません。
 この様に考えれば「南びわこ駅建設」が他の鉄道プロジェクトや地域公共交通の維持の為の税金投入より「非効率で無駄」であるとの根拠は非常に乏しい事が分かります。「南びわこ駅建設が無駄でチマチマしたものにチマチマと金をかける方がよろしい」などと言う主張をするのは結構ですが、その根拠を数字を示して主張すべきです。根拠も無く有用な事業を妨害するのは社会的妨害行為と言わずして何なのでしょうか?

 ・「もったいない」の意味を真剣に考えてみよう?

 この様に大きな経済効果とチャンスが明らかになっている南びわこ駅建設事業を「もったいない」の一言で民を煽動し潰してしまう事がはたして本当に「正しい」事であり、「もったいない」事なのでしょうか?先ずは「もったいない」と主張する前に「もったいない」の意味を真剣に考えてみる必要が有るのではないでしょうか?。
 「もったいない」と槍玉に上がっている南びわこ駅建設は「県も周辺自治体も支持南びわこ駅建設の基本協定締結の条件として周辺地域の開発」を突きつけられた栗東市は用地取得に約177億円を投入しています。新駅建設がパーになればこれが全て無駄になります。これを「もったいない」と言わずして何を持ったいないと言うのでしょうか?
 加えて新駅建設がパーになった時には上記で述べた「各種の経済効果」が全て「遺失利益」になってしまい得られなくなります。加えて新幹線新駅での利便性向上が図れないときには地域の魅力が下がり地域環境層に負けて企業が他地域に流失してしまう可能性も有ります。そうなると「利益が入らない」だけでなく「マイナス」が発生する事になります。これも又「もったいない」事になると考えます。
 「もったいない」と言う言葉の意味は「何で有用な物を捨てるの?」と言う点に有ると考えます。この場合有用な物は何でしょうか?新駅建設に投入される(付帯事業を含めて)650億円の税金が「もったいない」のでしょうか?嘉田新知事や知事を支持した人たちはその様な意味で使ったのでしょうが、この投入した税金は「税収増等の経済効果」で帰ってくる有用な物です。それを「もったいない」と言う事は誤っていると言えます。其れよりかも先行投資した栗東市の177億円が無駄になり何も帰ってこない、加えてJR東海から損害賠償を請求される可能性も有りリターンが無いのに追加の出費を迫られる可能性があります。ですからその場合177億円+αの税金が何もリターン無く「ドブに捨てる」事になります。これを「もったいない」と言わないのでしょうか?
 物事は「ミクロ」に見て重箱の隅を突いても意味がない事は多々有ります。もっと長期的かつ「マクロ」的に物事を見て判断する必要が有ると言えます。そうでないと「今の出費がもったいない」と言う「マクロ」な判断で、機会を喪失すると同時に今まで投下した税金を無駄にすることになります。その様な事を踏まえ嘉田新知事と滋賀県民は改めて「もったいない」と言う言葉の意味を改めて考える必要が有るのではないでしょうか?

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 今回「百分は一見に如かず」と思い滋賀県まで足を伸ばして南びわこ駅建設予定地を見てきましたが、改めて感じたのは南びわこ駅の立地条件のよさ、潜在的ポテンシャルの高さでした。
 正直言って「何故この新駅がもったいないのだろうか?」と言う疑問は現地を見た限り私には分かりませんでした。他の地域では「泣いても喚いても」手に入らない新幹線新駅を「もったいない」の一言で捨ててしまう道を選択した滋賀県民の気持ちが分かりません。
 9/26号のダイヤモンドでは『「しまつ(節約)してきばる」と言う近江商人の精神風土が「もったいない知事」を生んだ』と書いて有りましたが、その近江商人の精神が(需要予測が大幅に狂っても)税金投入に見合うリターンが得られる可能性が高い新駅建設を「もったいない」と捨ててしまうのでは、残念ながら私は「得られそうな利益を捨ててしまうと言う点で近江商人の商人としての根本資質を疑う」気持ちになります。
 
 この新駅建設は今までのスキームで建設しても極めて高い確率で投入した税金以上の総合的リターンが期待できる極めて有望な事業であると言えます。その点は需要予測を見ても明らかです。
 もし通常スキームで費用対効果に不安ならば、前に「 何故行政はリスクを取る事が出来ないのか? 」と言う一文の中でも試算しましたが、新たに「新幹線駅利用料」を創設して需要予測の利用客数の100% 8,938人/日が南びわこ駅利用として300円の利用料を取れば年間約978百万円*約24.5年間で新幹線駅建設費240億円を回収することが出来るのです。これは「利子無しの資金ならば24.5年で投下資金を回収できる」と言う意味を示しています。
 これに事業主体が公共ですから間接的な税収等でも投入した税金を回収することが出来ます。又新駅が出来れば駅前の日清食品・積水グループの工場等が寄り付加価値の高いショッピングセンター等に変り色々な意味で地域に収入をもたらす可能性も有ります。まして新幹線新駅開業で177億円掛けて栗東市の取得した先行公共用地を含む「栗東新都心土地区画整理事業地」の価値も上がります。保留地等のその一部を売却すれば其処でも投下の税金を回収できるでしょう。
 この様に新駅建設と区画整理等のその付帯事業が有望だからこそ、南びわこ駅を中心とした新都心のまちづくり事業提案協議のコンペに大成建設が「 エコライフビレッジ栗東 」を提案し当選するような「土地区画整理事業に民間も参入を希望する」事例が出てくるのです。民間は採算性が取れない(=損をする)場合参加するはずが有りません。それなのに事業コンペに複数のゼネコン・商社主体のJVが参加すると言うことは、南びわこ駅建設の付帯事業とも言える「栗東新都心土地区画整理」が有望である、如いては「南びわこ駅」建設も有望なビジネスチャンスと捉えている証しです。
 正直言って「南びわこ駅」建設が有望でなく「もったいない」と感じているのは、嘉田滋賀県知事と嘉田知事に投票した滋賀県民だけでは無いでしょうか?今まで見てきた様にこの事業が「もったいない」事は無いと言うのは明らかです。今が考え直すラストチャンスで有ると言えます。「もったいない」と言う言葉の意味をかみ締め「新駅のメリット」を再試算し、南びわこ駅の有望性・必要性を改めて考える必要が有ると私は考えます。





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