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「 不 公 正 な 競 争 」 が も た ら す 社 会 的 弊 害 に つ い て 考 え る

−高速路線バスvsツアーバスの不毛な競争の現状とは?−



TAKA  2008年 12月 15日


え〜。片道2,500円!? 此処まで競争は激化したか!? @JRバス関東の夢街道会津号の広告



 ☆ ま え が き − 規制緩和の影をとは? − 

 日本では「規制緩和」とはここ数年の流行りの言葉でした。
 2001年の小泉内閣成立以来、「規制緩和」は「構造改革」「郵政民営化」と並ぶ小泉内閣の政治的なスローガンとして持ちあげられ、色々な分野に有る色々な公的な規制が撤廃されて、新規参入・競争が促進されていきました。
 この規制緩和は、有る意味世界的に見て1980年代以降アメリカ・イギリスでの主流となってきた「 新古典派経済学 」を経済政策の根幹に据えた「 新自由主義 」の流れの中で、市場が絶対で有るという「市場原理主義」に基いて競争を促進させるための方策として行われてきました。その結果としてアメリカ・イギリス等では1970年代〜80年代前半の経済低迷を脱し、1990年代〜2000年代前半までの経済の繁栄を演出して来た事は間違い有りません。
 又この考え方は1980年代半ば〜後半の時期に、一部日本にも持ち込まれて、「行革」という名で官から民への権限委譲という名の規制緩和で「小さな政府」が目指され、その成果として「国鉄・専売公社・電電公社」の三現業の民営化が行われ、一定の成果が上がりました。
 日本ではその後のバブル崩壊を発端とする「失われた10年」の中で低迷した日本経済の建て直しの為に、2001年に登場した小泉内閣で全面的な「規制緩和」「構造改革」を進める事での経済改革を図りました。この改革は色々な「光と影」をもたらしたのは今の日本を見れば良く分かります。

 その小泉内閣による規制緩和による影響は、交通の分野においても平成11年以降に大きな規制緩和がありました。
 それが、運輸の各分野で行われた規制緩和「 需給調整規制 」の見直し・廃止という動きです。此れにより鉄道事業者・バス事業者・タクシー事業者などは参入・退出が容易化されて、地方などでは不採算路線の廃止が進み、都会ではタクシー・貸切バスなどで参入容易化により競争が激化し、しかも運賃価格設定に関しても「上限範囲内での届出制・もしくは完全事前届出制(貸切バス)」になるなど、大幅に規制が緩和されています。

 その結果として、確かに国土交通省の目論見どおり色々な所で競争が起きています。しかし「需給調整規制撤廃」の動きが大きくなり法制化されてから3年〜6年が経過しようとして居ますが、その弊害が色々な所で見えてきています。
 例えば鉄道・路線バス分野では、国土交通省がセーフティーネットを作らずに「需給調整規制が支えてきた内部補助」を否定して退出規制を緩和した為に地方の不採算路線の廃止が加速的に進み色々な社会問題になりましたし、タクシー業界では過去に「 値上げは単純に『悪』と言えるのか? 」で取り上げた様に過当競争の弊害がタクシードライバーの給与に跳ね返り、今やタクシードライバーの平均年収は315万円と平成8年と比べて労働時間がほとんど変わらないのに給与が4分の3に減り労働環境が悪化するなどの弊害を受けています。

 この様に書くと「規制緩和は全て悪なのか?」と取られますが、確かに規制緩和で利用者のメリットが有る分野も沢山有ります。例えば航空業界では新規参入航空会社の登場で、大手航空会社の国内運賃も各種割引が作られて値下がりし、今では新幹線より航空運賃が安い例も出てきて居ます。又バス業界でも都市間輸送に路線高速バスに対して貸切ツアー形態を取るツアーバスが参入して競争が激化して「東京〜大阪間4,100円」等という低価格運賃のバスツアーが出たりして居ます。
 確かに此れは「規制緩和のもたらした価格低下」と胸を張っても良いでしょう。しかし此処にも競争の弊害としての「過当競争によるサービスの質の低下や安全性の低下」が起きて居ます。航空業界では低価格運賃競争を挑んだ新興航空会社の内唯一残ったスカイマークも「 機長が居なくて飛行機が欠航 」という公共交通では極めて異例な状況を生み出すまで荒んだ状況になり、又貸切バス業界でも低価格による競争が激化して あずみの観光のスキーツアー事故 以来「貸切バス業者の安全管理」の有り方が問題になるなど、色々な問題が発生しています。

 その中でも規制緩和に伴う特徴的な問題として、路線バスによる都市間高速バスと貸切バスによるツアーバスの競合の問題が有ります。此れは「都市間を結ぶバスという」一見同じ様に見えるバス輸送に、道路運送法の「一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス)」による路線バスと「一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)」による貸切バスを使い旅行業法に規制された旅行会社の旅行募集という形の貸切旅行による実質的都市間輸送という二つの輸送形態が、違う法規制下で違うシステムで行われるという歪な状況が色々な問題を引き起こして居ます。
 その様な路線高速バスとツアーバスとの競争は色々な所で出現しており、色々な問題を引き起こして居ます。その競争の中で基本的には「ツアーバスが攻めて路線高速バスが守る」というのが基本的な形でしたが、今回路線高速バスがダンピングで対抗する事例が発生しました。
 今回はその様な「高速バスとツアーバスのダンピング競争」の現場を訪問して、問題になって居る現場を見てその状況と有るべき姿を考えて見る事にしました。

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 「参考サイト」 ・ JRバス関東HP  ・ 会津乗合自動車(会津バス)HP  ・ さくら観光HP  ・ さくら交通HP  ・ 貸切バスに関する安全等対策検討会報告
         ・ 路線バス風のバスツアー(ツアーバス) (SWA の Web ページ) ・ 特集「ツアーバス」の実態私鉄総連HP )・ ツアーバス (wikipedia)
 「参考文献」  ・BUSRAMA No109号 「都市間輸送バスサービスの新時代」

 ※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。

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 ☆ 高速バスとツアーバスが正面から競争する現場を見る −東京⇔会津若松間の高速バスとツアーバスの現状を見る−

 今回取り上げるべく訪問した高速バスとツアーバスの競合路線は東京⇔会津若松・喜多方線です。
 この路線は路線高速バスのJRバス関東と会津乗合自動車(以下「会津バス」と略す)の共同運行線の新宿〜会津若松・喜多方線と、ツアーバス路線で有るさくら観光・さくら交通の東京駅〜会津若松・喜多方線が運行されて居ますが、JRバス関東・会津バスの路線高速バスがツアーバスに対抗して「 お客さま感謝キャンペーン 早割1 」と称して、通常4,800円の料金を座席数限定・前日まで購入という条件付きでツアーバス料金に合わせて2,500円までダンピング?と思いたくなる値下げして真正面から競争を挑んで居ます。
 正直言って全部各駅の「東武〜野岩〜会津」の鉄道ルートを普通列車で辿っても5,940円(約5時間40分)・上野〜会津若松を普通列車で行っても4,940円(約5時間半)という金額から考えて、今回の高速バスのダンピング料金・ツアーバスの料金2,500円は非常に安い料金と言えます。
 さてこの様な低価格で「ガチンコ競争」が行われて居る状況は、正しく「路線高速バスとツアーバスの競争の現場」と言えるでしょう。という訳で、10月の3連休を使い3連休の中日の10月12日の日曜日を使い、路線高速バスとツアーバスで東京(新宿・東京駅)⇔会津若松間を往復して、ツアーバスと高速バスの競争の現状を見てみました。


 ● 先ずは勝負を挑んだ路線高速バスに乗る −10月12日 9:10発夢街道会津3号−

 今回「往復で路線高速バスとツアーバス」どちらかを利用する予定でしたが、どちらを先に乗っても良く如何チケットを取るか考えながらJRバス関東HPとさくら観光HPを見比べたら、連休の中日だけあり結構混んでいて、JRバス関東は会津若松行きの夢街道会津3号しか空席が無く、結果として行きは路線高速バス・帰りはツアーバスという選択になりました。
 新宿の発着の昼行高速バスは、「中央道高速バス」が西口の京王の高速バスターミナルから「小田急系高速バス(御殿場・木更津)」が小田急ハルク前から「(中央道を除く)JR系高速バス」が新南口のハイウェイバス乗り場から発着します。今回は会津若松行きなので新南口駅舎下に有るJRのバスターミナルに向かいます。

  
左:新宿駅新南口のJRバス関東バスターミナル  右:各方面に向かう高速バスを待つ人々@新宿のJRバス関東バスターミナル

 新宿の場合、高速バス乗り場が3箇所なのはチョット判り辛くマイナスですが、ターミナルが有るだけ良い環境ですし、チョット分かりづらいJRのバスターミナルも今新南口に造って居る人工地盤上に新しいバスターミナルが出来れば多少状況は改善されるでしょう。
 今回はネット上で発券済みなので、ターミナル内の券売所で買う必要が無かったので、ターミナル隣接のJR系のコンビニのNewDaysで飲み物などを買った上ターミナルでバスへの乗車時間を待つ事にします。新宿駅新南口バスターミナルは工事中でスペースも狭い上に新宿からも各方面に多くの高速バスが出て居る事も有り結構混雑しています。
 それも朝比較的早い時間で、連休中に比較的近い目的地のTDLなどに向かうバスが出発時間が重なって居たので、バスターミナルは結構混雑して居ました。繁忙期という特殊な時期も有るのでしょうが、このターミナルを見る限り、路線高速バスもかなりの利用率を稼いで居るといえます。

  
左:工事中のバスターミナルから高速バスに乗り込む人々  右:夢街道会津号のバス車内

 ターミナルの待合室で待って居ると、出発時間が来てバスに案内されます。会津若松行きの夢街道会津3号への乗客も多く、ざっと40名近く居る感じです。この後池袋・王子でも数人ずつ乗客が有り、最終的には乗車率で8割以上40名以上の乗客を乗せて、会津若松・喜多方を目指します。
 明治通り・北本通りを通り池袋・王子を経由して、首都高王子北入口から首都高中央環状線に入り其処から首都高川口線を経由して東北道に入ります。東北道に入ると蓮田SA周辺から3連休の渋滞に巻き込まれ、休憩を取った羽生PAを挟んで宇都宮周辺まで段続的に30km近い渋滞に巻き込まれ、次の休憩地点である阿武隈PAに到着した事には連休中の渋滞で有る以上仕方ない物の最終的には1時間近い遅延が発生してしまいました。
 阿武隈PAでは、運転手が交代します。多分JRの高速バスは東北道をかなりの頻度で走って居るため、此処で交代して東京方面のバスに乗る運用について最終的には(規定時間内で)複数回バスに乗務する事になるのでしょう。しかし同じ乗務時間でも「1時間でもバスを離れて休憩した運転手」と「乗客と同じ休憩時間でぶっ続けで同じバスに乗る運転手」では、運転手の疲労に起因する安全性は異なります。そう言う意味で長距離路線高速バスでは「途中で運転手が変わるor2人乗務で交代しながら運転する」体制が出来て居るのは安心です。

  
左:連休の中日だけあり高速道路も大根雑  右:会津若松駅前広場での高速バスからの降車風景

 阿武隈PAを出発した後、東北道〜常磐道を通り会津若松ICを降りて無料駐車場もある会津アピオ入口で数名降ろした後、一般道を通り会津若松駅を目指します。最終的に会津若松駅の駅前広場の降車場に着いたのは、定時から1時間近く遅れた14時半頃でした。前に 会津若松⇒池袋間で高速バスに乗った時 は駅前の会津バスの郊外線のバスターミナルを使用して居ました。どうも乗車⇒バスターミナル・降車⇒駅前広場と使い分けて居るようです。
このバスは喜多方まで行くバスですが、大部分の乗客は会津若松駅で降りてしまい、喜多方まで乗るのは数人でした。私を含めて数名の人が隣に停まって居た会津バスの市内循環バス「 ハイカラさん号 」に乗換えました。会津バスの路線バスへの乗換が割引になって居る事からも、乗換易い駅前広場降車は正解かもしれません。


 ● 生まれて始めて?ツアーバスに乗ってみる −10月12日 16;30発白虎ライナー−

 会津若松に到着後、会津若松市内を少々廻り、何回か行ったお気に入りの「お秀茶屋」の田楽を食べた後、もう既に16時を廻り帰りのバスの出発時間が迫って居ます。しかも路線バスでは間に合わない事が確実なので、タクシーでバス乗り場を目指します。帰りの白虎ライナーのチケットを買った時には(ツアーバスだから当然だが)「15分前までに乗り場にご集合下さい。遅れそうな場合は御連絡下さい」と注意があったので、タクシー内から「バス乗り場に到着が16時20分頃になる」旨を連絡入れたら「16時半に遅れなければ大丈夫です」と返答がありました。何故だろうと思い乗り場の「会津若松ワシントンホテル」前に到着して見たら、人は集まって居る物のバス停が有る訳で無く係りの人が居る訳では有りません。何か「本当に此処で良いの?」という感じのバス集合場所です。
 私は慌ててタクシーで駆け込んだので、ホテルロビーのトイレを借りて用を足した後、飲み物でも買おうと思いましたが廻りには自動販売機一つ無く仕方無くそのままバスを待つことにしました。そうすると出発直前にバスが入り運転手が降りてきて名簿に照らし合わせながら座席を指示して乗せて行きます。まあ添乗員が居ないバスツアーですからこうなんでしょうが、運転手さんは大変そうです。結局ほぼ満席に近い45人近い乗客を集めてバスは定時から少々遅れて会津若松ワシントンホテル前を出発しました。

  
左:会津若松ワシントンホテルの前からバスに乗り込む人々  右:白虎ライナーの車内

 バスは会津若松ワシントンホテルを出た後、最寄の磐越道のICである会津若松ICでは無く、国道49号線を走り一つ先の磐梯河東ICを目指します。会津若松駅からは比較的道が良いルートなので会津若松IC利用も磐梯河東IC利用も時間的には大きく差は出ませんが、料金では浦和⇔会津若松(大型車)9,650円:浦和⇔磐梯河東(大型車)9,500円と150円違います。たかが150円ですが、1日10往復で3,650円・1年では1,332,250円差が出ます。1年で考えればこの差は馬鹿には出来ません。此処に「ツアーバスのコスト意識」が出て居るかもしれません。
 高速道に乗るとバスは順調に走り磐越道⇒東北道に入り阿武隈PAで休憩をしますが、途中の矢板の先からはお約束の「連休渋滞」に巻き込まれます。結局帰りの渋滞は大渋滞でこの後休憩場所を追加して当初予定の羽生PAの他に上河内SAでも休憩を追加します。只無線か何かで先行のバスと連絡を取り有って居るようで、休憩の度に先行バスの渋滞状況が案内され「どれ位遅れそうか?」という事が比較的丁寧に案内されて居ました。そう言う意味では丁寧だなとは感じました。

  
左:行きだけで無く帰りも東北道は大根雑  右:東京駅前の八重洲通り路上で白虎ライナーから降車する乗客

 結局の所、東北道上りの大渋滞の影響で2時間遅れて、東京に到着です。バスは首都高呉服橋出口を降りて外堀通りに入り東京駅八重洲口を左折して八重洲通りに入ってから路上駐車して停車して降車させます。バス停の所に止められる訳では無いので、歩道にはガードレールと地下街の出入口が有り降車客は車道を歩いてから歩道に入ります。路線高速バスと一番異なるのはバスの乗降場所かもしれません。
 降車場所でも誰も居ないので、バスの運転手さんが床下トランクから荷物を出すなど一生懸命頑張って居ます。しかしこの運転手さん一人乗務なので、会津若松駅(厳密には車庫出庫時点から)ずっとハンドルを握り続けて居ます。しかも一人乗務なので途中の乗客休憩地点でも殆どバスから離れて居なかった(少なくとも私が離れた時間よりは短い)ので殆ど休憩しないでここまで乗務して居ます。確かにこの日は渋滞で2時間遅延して居るので想定外とも言えますが、普通に乗務していても行きのJRバス関東の乗務員と比べると過酷な労働と言えます。この労働強度の問題は安全性と労働生産性とも絡む話で一概にはいえる物では有りませんが、乗客の安全性を考えれば単純に労働強度を高める事は好ましく有りません。そのバランスは重要と今回のツアーバス乗車で感じました。


 ☆ 路線高速バスとツアーバスの差の現状と問題とは? −夜の東京駅八重洲口で夜行高速バスターミナルとツアーバスの集合場所を見る−

 今回一念発起して日帰り強行軍で会津若松を往復して、路線高速バスとツアーバスに乗り比べてきましたが、この乗車記を見て「何が路線高速バスとツアーバスで違うのか?」と考えると、本来は「運賃」という所ですが運賃は路線高速バス会社が値下げして居るので、乗降のターミナルと乗務員の乗務形態位しか違う所は有りません。
 その中で、目で見て一番分かり易い差は「乗降ターミナルの状況」でしょう。東京で路線高速バスのターミナルと言えば新宿と東京駅八重洲口ですが、此処はツアーバスの一大集結地で有ります。今回ツアーバスを降りたのが東京駅八重洲口で、しかも東京出発のツアーバスが多い時間帯の22時頃だったので、ツアーバス降車後に東京駅八重洲口のJRバスターミナルと八重洲口周辺のツアーバスの乗車状況を見る事にしました。


 ● 先ずは「路線高速バスとツアーバスの差」が一番出て居る所を見てみよう

 先ずは東京駅八重洲口のJRバスターミナルを覗いて見ます。この時間のJRバスターミナルは昼行便の最終便と大阪・名古屋方面へのドリーム号の発車が重なる時間帯で非常に混雑する時間帯です。ましてこの日は3連休の中日の夜で東京で遊んだ人達が夜行で帰るという需要をメインに、多くの行楽系の人がバスを利用しており、ターミナルは混雑して居ました。
 八重洲口のバス乗り場は元々交通広場内にタクシー乗り場・路線バス乗り場・高速バス乗り場が平面で広がって居てスペース的に余裕が無い中で、しかも今東京駅八重洲口はJR東日本による「 東京ステーションシティ 」として再開発工事が行われて居るため、施設・舗装等が仮設になっている所が多く、チョット利用しづらい状況になっています。只2013年には整備工事が完成する予定なので、その時には今の状況が大幅に変わるでしょう。

  
左・右:JR東京駅八重洲口併設の高速バス乗り場から秩序だって夜行高速バスに乗り込む人々

 丁度見に行った時間帯が夜の10時半〜11時頃だったので、夜行便乗車客でごった返して居ました。その中でも特徴的だったのは、つくば線から転用されたメガライナーによる「 青春メガドリーム 」号が丁度乗降を行って居ました。元々つくば線運行時代から東京駅八重洲口にはお馴染みの車両ですが、15m車体という車両の大きさにはやはり驚かされます。
 確かに工事中の為施設は仮設がメインですが、それでもバス停がちゃんと設置されていて出発案内等が設置されていて「何処から何時に何処行きのバスが出る」という事が明確になって居るのはバスに乗る人に取っては安心出来ます。後は東京駅の構内並みに「お土産・食べ物・飲み物を買う店」と「寒さ・暑さを避けられるバス乗り場・待合室」が完備されていれば文句無しとは感じました。規模に関しては地域・場所により色々有るにしても、このレベルの施設が整っていれば安心してバスに乗れると改めて感じさせます。

 八重洲口のJR高速バスターミナルを見た後は、対比の意味で八重洲通りで行われて居るツアーバスの乗降風景を見る事にしました。
 東京駅八重洲口のツアーバスの乗車には大概八重洲通りのヤンマービル前が使われます。大体ヤンマービルを取り囲む様に八重洲通り、外堀通りにツアーバスが停まり此処から客を乗せて日本各地を目指します。この日も訪れた時間は丁度夜の11時チョット前でツアーバスの台数が一番多い時間帯でした。
 この場所は東京駅を降りて分かり易い場所でしかも上手く路線バスのバス停を避けられる為、結構昔からツアーバスの乗車場所として使われていて、学生時代には此処からスキーバスでスキー場に行った記憶もあります。

  
左・右:東京駅前八重洲通りヤンマービル前の路上から無秩序にツアーバスに乗り込む人々

 しかし、この場所のツアーバス乗り場の最大の問題点は「何処に何処行きのバスが停まって居るのか分からない」という点と「乗客が秩序を持って待機して居ないので、周辺のビルに迷惑を書けて居る」という点に有ると思います。
 今回に関しては「何処に何処行きのバスが停まって居るか分からない」という事に関しては、私はバス予約をして行かなかったので、バス会社から案内が無かったから分からなかったのかも知れませんが、バスには小さな案内が出て居るだけですし、案内に関しても係員が案内に歩きまわって居ましたが、それでも非常に分かり辛い状況にありました。「ツアーバス」という定義上「特定に人達が乗るバス」ですから、その特定に人達にちゃんと案内をしていれば良いという事も言えますが、それでも「○○時に東京駅八重洲口ヤンマービル前集合」と言われても、此れだけ複数社のバスが並んで居ると、流石に分からないと思います。此れだけ利用されて居るツアーバスの状況として考えると好ましい状況とは言えません。
 それ以上に問題なのは、「ツアーバスを待つ人の行儀の悪さ」です。高速路線バスと異なりツアーバスは路上を乗車場所として指定して居る為、写真に有る様にビルの敷地内に入って座りこんで待って居る人も居ます。これが正しい姿でしょうか?実を言えば私は、ヤンマービルと八重洲地下街に関して仕事で少々係わりを持って居ますが、夜間工事をする時に路上にバスが停まり、建物周囲や地下街入口にバスを待つ人が座りこみ非常に邪魔な状況になっています。路上に駐車して乗降しているのも道交法違反状況に有る可能性もありますし、状況によってはバスを待って座り込んで居る人達は不法侵入の場合も有ります。この様な状況でのバス乗降が好ましいのでしょうか?

  
ツアーバス乗降時の違法の可能性の状況について(撮影は2007年10月6日新宿西口で) 
左::明らかに違法の停車禁止区域内でのツアーバス乗降風景( 横断歩道から5mは駐停車禁止
右:路上で幟・看板を無許可で立ててのツアーバス客扱いは「歩道の無断使用」(道路使用許可は探しても明示されて居なかった)

 実際の所、路線高速バスとツアーバスで一番差が分かり易いのは「バスターミナル」でしょう。確かに「ツアーバスは駅前広場のバス乗り場に入れない」という問題もありますが、それは公共交通では無い以上仕方有りません。しかし公共交通では無いツアーバスだから「なんでも許される」訳では有りません。
 少なくともツアーバスの問題で話題になる「旅行業法」「道路運送法」の問題だけで無い問題が、ツアーバスの乗降風景には存在して居る事は間違い有りません。此処で見ただけでツアーバスの乗降に「道交法違反」「不法侵入」の可能性が有る上に、他の場所では「歩道の不正使用」を行って居る所も有ると聞きます。
 実際上記の2007年10月に新宿駅西口で撮影した写真には、明らかに道交法違反の乗降風景と違法の可能性が高い(無許可の可能性が高い)歩道に幟・看板を立ててのツアーバス乗降誘導風景が見られました。この様な状況は、 私鉄総連のツアーバスに関する調査でも過去に報告 されて居ます。その状況が今でも改まって居るとは言えません。この様な状況で運行されて居るツアーバスが本当に好ましいのか?これは真剣に考えなければならないと思います。


 ● 「路線高速バスとツアーバスの差」とはどんな物なのか?

 この様に、色々な点で差が有る路線高速バスとツアーバスですが、実際の所「路線高速バス」と「ツアーバス」の差は何なのでしょうか?
 究極の所を言えば、路線高速バスは「不特定多数が利用する公共交通」であり、ツアーバスは「特定の人が利用する旅行」という事になりますし、法的には路線高速バスは「道路運送法」により規制されますが、ツアーバスに関しては貸切バスの運行というバス直接に係わる所は「道路運送法」に規制されますが、客の募集に関してはあくまで旅行で有る為に「旅行業法」により規制を受けます。其処に根本的な差が存在します。
 色々な所で言われて居ますが、路線高速バスとツアーバスの『差』とは、ほとんどがこの「規制される法律の差」に起因する物で有ると言えます。実際の所路線高速バスは「不特定多数の人が利用する公共交通」で有るが故に、上記の様な「バス停設置の有無」など利用者の利便性確保の為に多くの規制が存在します。
 その「乗客の為の規制の有無」が有る意味非常に大きいと言えます。その規制の有無について下記で対比して見たいと思います。

 ※高速バスとツアーバスの違い (一橋祭研究2008 「都市間輸送ネットワーク」 第三部第一章「 鉄道とバス 」内の表を参考に表作成)
項  目高速バスツアーバス
事業(運行)計画国土交通省への作成と届出が必要提出は義務付けられて居ない
運行形態事業計画に基づく通年運行が義務付けられて居る増減便・運休に規制は無い(最小催行人員以下なら旅行約款規定のキャンセルで運行しなくて良い)
運行の休廃止30日前までに国土交通大臣に届出が必要届出の必要無し(旅行業法の旅行約款のキャンセル規定で対応)
最小輸送(催行)人員定められて居ない(ゼロでも運行が義務付けられる)定められて居る(その人員以下であれば運休理由になる)
バスの停留所事業計画にバス停位置の明記を義務付け(設置しなければならない)設置義務は無し(道路上の場合は誰とも協議せず勝手に決める事が多い。但し民有地を借りて居る例もある)
運賃・代金の割引・変更上限運賃変更は国交相認可申請・実施運賃は国交省地方局届出旅行業約款に基き自由に設定可能

 此れを見れば、有る意味『差』は明白です。路線高速バスは「決められた通り輸送サービスを確実に提供する」事が求められて居ます。それ故に明確に事業計画を立てて行的に届出手それに基づいて確実に運行する事が求められています。今や路線都市間高速バスは、日本の都市間輸送において欠かす事の出来ない交通機関と言えます。その公共交通を維持する事は地域間の流動を確保する為に非常に重要です。その役割が有るからこそ「運行を維持する為の規制」が掛けられて居るのは、この表を見れば良く分かります。
 それに対して、ツアーバスはあくまで「貸切バスによる旅行」であるのは、規制の少なさを見れば明らかです。逆に言えば旅行で有る以上「交通」としての公共性に対する責任を持って居ない事になります。旅行約款という法律に基づいた契約の要件を満たしさえすれば、「運行するのもしないのも旅行業者次第」という事で、悪い言い方をすれば「公共性に対する責任は無い」交通手段となります。その状況が、上で示したような「違法性のある運行」を引き起こして居るといえます。

 しかしながら現実問題として、路線高速バスもツアーバスも同じ様な「輸送」を行って居ます。しかしながら路線高速バスは「公共性」を担保する事を法律・規制で求められ、そのコストを運賃に転嫁せざる得ない中で運行して居て加えて撤退・運休に際しても規制があり底でもリスクを抱えて居るのに対して、実際全く同じ「都市間バス輸送」を実質的に行いながら、ツアーバスは運行維持への責任を「旅行約款」以上の責任を負わず、しかも運休・撤退については旅行者とのキャンセル規定以上の制約が無くリスクも低い状況で運行されて居ます。
 この様に路線高速バスとツアーバスでは大きな差が存在して居ますが、問題は「同じサービス」に対して異なる法律で違う規制が掛けられており、路線高速バスに「公共性」の名の下で重い規制が掛けられていて、その負担に起因して「不公正な競争」が発生しているのが、最大の問題で有るといえます。


 ☆ (あとがきに変えて)バス業界の「正しい競争」は如何にして行うべきか?

 上記の様にバス業界では「都市間輸送」の分野では、路線バス事業者が運行する路線高速バスと、旅行事業者が貸切バスをチャーターして旅行として運営するツアーバスが、路線高速バスが道路運送法に規制されて運行され、ツアーバスが旅行業法に規制され運行されて居る様に、一つの市場の中で同じ様な運送・旅行サービスが違う法律の下で運営されて居ます。
 正直な所、ここ数年問題になって居る「ツアーバス問題」の諸悪の根源は、この「一つの市場の中で同じ様な運送・旅行サービスが違う法律の下で運営されて居る」という現状に有るといえます。同じサービスが違う法規制で制約の差が有る中で価格競争だけが平等に降りかかる状況が、規制の壁の高い路線高速バスに不利な制約となり掛かって来て、その結果として都市間バス輸送において「不公正な競争」が引き起こされて居るのが現状です。
 しかし現実問題として「ツアーバス」が、何も知らない一般利用者からは「交通機関」として認知され、その低価格性から既に無視する事が出来ないレベルまで浸透して、今や路線高速バスを駆逐する勢いで拡大しているのも現実です。この状況と現実の中で、如何にすべきなのでしょうか?結論に変えてこの事について考えて見たいと思います。

 ● 大前提として「ツアーバス」は悪なのか?

 先ず大前提として、「ツアーバス」その物は悪い物なのでしょうか?
 此れに関しては、法律的には「ツアーバス」その物に関してはその存在は合法で有るといえます。実際私も今や30歳台半ばですが、今から約15年前の大学時代には「ツアーバス」で何回か上越・白馬方面にスキー旅行に行きました。この時には旅行会社に行って宿とバスとリフト券がセットになったパックツアーを買ってそれでスキーに行きました。要は「ツアーバス」はスキーツアーの移動手段で旅行のセットの一部だったのです。この様な「ツアーバス」が旅行の一環で有る事は間違い無いですし、違法性の無い物で有るのは間違い有りません。
 現在の都市間ツアーバスは、私の大学時代の「スキーツアーバス」から、バスだけが抜き出された旅行商品ですから「違法性」という点で旅行商品として違法性は無いと言えます。
 但し、問題なのはその運行における運用上の問題として、上記で示した様な「道路交通法違反・歩道の無断使用・不法侵入」等の問題が有るだけであり、その様な一部の違法行為を除けば、少なくとも合法的に都市間でツアーバスを運行している事業者は多数居ると言う事は認識して居なければならないと言えます。

 この問題に関して、ツアーバスと都市間路線高速バスに関しては、近年出てきた問題では有りません。
 実を言えば(結構有名な話ですが)今から20年以上前に全く同じ状況が問題になっています。それは「ツアーバスの始まり」と言われる時に起きた問題です。1981年に北海道の札幌〜稚内間で「 貸切バス事業者(銀嶺バス)の子会社の旅行代理店(北都観光)が貸切バスをチャーターする形で会員制定期輸送を開始 」して問題になった事が有ります。この時は問題が札幌〜留萌間にも広がり、銀嶺バスが運輸省を訴える事態になりましたが、最終的に銀嶺バスは訴訟を取り下げ、その後大々的に貸切バス事業者が路線高速バス路線に競争を挑む事は目立たなくなり、問題は表面化しなくなります。
 それが偶々2000年の道路運送法改正により、貸切バス業者がの参入規制が緩和され競争が激化した事で、貸切バス業者が「提携先の旅行会社にツアーを売らせる」形で都市間高速バスに参入する銀嶺バスが造り出した「迂回参入」に目を付けて都市間ツアーバスに参入し、そのツアーバスに目を付けたHIS系の オリオンツアー ・独立系の WILLER TRAVEL 等が大規模組織化して現状の様な状況を作り出した物であり、決して昨日今日に始まった問題では有りません。

 しかも問題を複雑にするのは、実を言えば「ツアーバス」と言える物を多くの路線バス事業者も運行して居る点です。
 例えば、下の写真に有る東海自動車・小田急箱根高速バス共同運行の「 伊豆=新宿ライナー 」は堂々と「伊豆=新宿ライナーは東海自動車株式会社が 小田急箱根高速バス株式会社と共同で企画し運行する会員制ツアーバス」と明言しています。実際の所、東海自動車は伊豆の路線バス会社で伊豆に拠点を持って居ますし、小田急箱根高速バスは新宿〜御殿場・箱根に路線高速バスを走らせており、新宿には高速バス乗り場・経堂にはしっかりした新築の車庫を持って居る事業者であり、普通ならこの顔ぶれで新宿〜修善寺間でバスを走らせるのなら普通は路線高速バスを走らせます。しかしながら敢えてツアーバスを走らせて居ます。
 という事は、実を言えば、路線高速バス事業者にしても「路線高速バスの規制」が重い負担になる場合が有るのです。此処から先は憶測ですが、東海自動車は1999年に親会社小田急電鉄支援の下で「分社化」を軸にする会社再建を行っており、小田急グループ内では立川バスと並ぶ「親会社管理下での事業再生中の会社」です。その状況下で「低リスクで新路線を引く」為には、路線バスでは無く「不振時には簡単に撤退出来る」ツアーバス形態での新路線開業が好ましい選択肢という経営判断が有ったと考えられます。
 この様に感が得れば、ツアーバス形態は必ずしも「路線バス事業者」にとっても「有害」な存在とは必ずしも言える存在では有りません。一つの運行形態としては容認出来る形態で有ると言えますし、今でも帰省バスなどで、ツアーバス形態を上手く使って居る事からも「無くては困る」運行形態とも言えます。
 但し問題なのは「一つの市場の中で同じ様な運送・旅行サービスが違う法律の下で運営されて居る」という「不公正な競争」が行われて居るという事なのです。先ずは利用者の利便性を踏まえつつ、この点を上手く解消して適正な競争環境を作り出して行く事が非常に重要で有ると言えます。

 ● どの様にすれば「路線高速バス事業者」も「ツアーバス事業者」も満足出来る規制が出来るのか?

 では具体的にどの様な路線高速バスとツアーバスの運営形態が好ましいのでしょうか?
 先ず絶対条件として、都市間交流手段としての交通機関として、交通機関の安全性と利用者の利便性に関しては、損なう形で今の路線高速バスとツアーバスの「不公正な競争」を是正する事は好ましく有りません。要は最低限の条件として、安全性を担保した上で今の路線高速バスとツアーバスの利便性を損なわない形で、新しい体制を構築しなければなりません。
 しかも、バス輸送が「都市間交流手段としての交通機関」という重要な意味合いを持って居る上に、(法的にはツアーバスは旅行の一形態だが)実際的には路線高速バスもツアーバスも「公共交通機関」としての役割も果たして居ます。其処からも日本全体の「総合交通体系」としての位置付けを有る程度明白にしておく必要が有ると言えます。

 先ず大前提として、都市間輸送機関として「路線高速バス」と「ツアーバス」が並立して居る事は解消しなければなりません。「一つの都市間輸送」に「二つの法律下で二つの輸送形態」というのは好ましい話では有りません。中国ならば「一国両制」で良いという話になるでしょうが此処は日本です。そう言う訳にはいきません。先ずこの点を改善すべきです。
 では如何するか?。どちらに統一するか?という事になりますが、基本的には「輸送機関としては公共性を考えるべき」という点からも、公共交通機関の「路線バス」に基準を纏めるべきでしょう。乗客への営業手段で「旅行業法規制下の旅行」という抜け道が出来て居ますが、此れに関しては「貸切事業者が客を乗せて定期的に二点間を輸送する」「しかも観光では無く輸送が主目的の旅行」の場合には、「バスの路線免許に準じた規制を受ける」事が必要だと思います。
 実際の所、国土交通省は「法律の改正はしない意向」という話ですし、ツアーバス業界は「 高速ツアーバス連絡協議会 」を組織し、第二のバス事業者組織を作りツアーバスを世間に認知した交通機関と使用とする動きをしており、国土交通省も設立総会に来賓として出席するなどその動きを認めようとしています。
 この様な状況の既成事実化は好ましい話では有りません。あくまで路線高速バスもツアーバスもバス輸送なのですから同じ法律(この場合は道路運送法)にて規制すべきでしょう。実際の所ツアーバスの事業者でもWILLER TRAVELの村瀬社長はBUSRAMA No109号 「都市間輸送バスサービスの新時代」内のインタビューで「同じようなことをやっているならば、同じ法律に基づくべきという流れは極めて自然です。この場合高い水準を引き下げるのではなく、低い方が高い水準に合わせて行くことが有るべき姿」と言われてますし、そうすべきです。

 具体的に言えば、路線バスも貸切バスもバス運送は「道路運送法」で規制されて居ます。しかしながら営業側面で路線バスは「道路運送法」ツアーバスは「旅行業法」と規制法律が分かれるのですから、先ずは旅行に関しては本来の「チケットの販売」に限定して、路線高速バス・ツアーバス共に「道路運送法」で規制して、「事業計画の提出」「運賃の届出」「定期運行」という点で網を掛けた上で、路線バス=定期運行バス・ツアーバス=臨時運行バスと言う色分けにして、ツアーバスの場合「臨時高速バス」という位置づけで同じ「道路運送法」という法律下に囲い込み統一規制するべきでしょう。
 しかしながら、既存路線バス事業者が新規路線にツアーバスを適用する事例が有る事から考えても、路線高速バスに関しても「道路運送法」の規制の中で、無意味に重荷になる所を規制緩和するべきでしょう。例えば運賃に関して現行の「上限運賃変更は国交相認可申請・実施運賃は国交省地方局届出」を「上限運賃変更は国交相認可申請」だけにして実施運賃は事業者が上限運賃の範囲内で裁量で変えられる様にするとか、休廃止の届出について「利用者に迷惑を掛けない範囲」で簡易化するとか、事業計画届出の内容を簡素化するなどの、負担の軽減策を提示すべきでしょう。そうすれば今の問題は比較的スムーズに収斂するのでは?と考えます。
 その様に、同じ土俵に乗ってからは、後は本当に「競争」の世界です。「安全・安心」に関しては同じ法律で規制されるのですから、あとは「如何に便利で利用者が喜び満足する輸送」を出来るか?を競い、運賃・サービスなどで利用者が満足な物を供給できれば、規制も上手く出来て平等に競争が出来て良いサービスが提供出来るのでは?と思います。

左:東京〜つくば線から移籍のメガライナーの収容力によるコスト削減効果でツアーバス並みに価格を下げたJRバス関東の青春ドリーム号
中:高速バスのダンピングは地域のバスにも影響を与える!? 会津バスが会津若松市街で観光の足として運行の巡回バス「ハイカラさん号」
右:そう言いつつも・・・。路線バス会社がツアーバス? 東海自動車 の「 新宿=伊豆ライナー 」は路線バス会社が自分で募集しているツアーバス


 それに合わせて、同時に地方バス会社が地方公共交通の維持に対して抱えて居る負担に関しても考慮しなければなりません。路線高速バスを運行している多くの地方バス事業者は、高速バス事業者で有ると地方路線バスを運営する事業者です。
 実際の所は、地方の生活に直接係わるローカルバス路線に関しては、大部分が路線毎に国や自治体の欠損補助で赤字が補填されながら運行されて居る場合が多く、昔のように「路線高速バスの収益で生活路線への内部補助を行う」という状況は減って居るのが実状です。
 只現実問題として、「内部補助が減った」といっても実際は「地方ローカルバス路線を運行する会社の屋台骨を支えて居るのは路線高速バス」である例は多く、実際にTVで「 規制緩和で高速バスの収益が悪化してローカル路線廃止・会社破綻に追いこまれた 」旨の報道がされた事例もあります。其処から考えると「規制基準を揃えて同じ土俵に乗せる」と同時に「地方公共交通としてのローカルバス路線を上手く民間の内部補助で支えるスキームからの脱却」を図る事も大切と言えます。

 しかしながら、この問題は「路線バス事業者の抱える不平等で重いな負担」という点では絡む問題では有りますが、本質的に規制緩和がもたらした「路線高速バスvsツアーバス」における不平等競争という問題からは、外れるもっとマクロ的な問題です。
 その問題解決の方法は「コミュニティバスの様な形での地方ローカルバス路線の準公営化」や「色々な方法での徴税や道路財源転用等での財源確保での補助強化」など色々有ると思います。しかしそれは「路線高速バスvsツアーバスにおける不平等競争」よりかももっと複雑に色々な事を調整しながら解決して行く必要が有るといえます。
 取りあえずは、「地方ローカルバス路線を維持する事で地方公共交通を維持する」という大命題に、「地方路線バス事業者の超過な負担を軽くする」事で「路線バス事業者とツアーバス事業者」の競争における不平等を解消すると言う視点で、赤字ローカルバス路線に対して「個別に路線への欠損補助」を増やすなど当座の対策を考えながら、この様な「路線高速バスvsツアーバスにおける不平等競争」の解消を奇禍として、「日本のバス交通は如何に有るべきか」という事を総合的に考えて行く事が大切であると言えると思います。

 ● では「正しい競争のあり方」とはどんな形か?

 それでは、規制緩和の弊害といえる「路線高速バスvsツアーバス」における不平等競争が制度の変更等々で是正されるとして、その後の「平等な競争下」での高速路線バスとツアーバスの「正しい競争のあり方」とはどんな形なのでしょうか?
 同じ土俵上に昇る様になれば、単純に考えてコスト構造も似たような形になってくると推察されます。そうなれば一番最初に起きてくる可能性が有る競争は「価格競争」です。実際の所ツアーバスが「規制の緩さを値下げ原資」にして挑んだ価格競争ですが、今では路線高速バス側も価格競争を仕掛け返して居ます。その象徴が正しく今回訪問した東京〜会津若松間でJRバス関東・会津乗合自動車の「夢街道会津号」がツアーバス並みの価格に落として、価格競争を挑んだ事です。
 しかしながら、「安心・安全」が重要な交通機関においてコスト構造を変えずに安易な価格競争を挑む事は自殺行為です。その価格競争の弊害は必ずコスト分野に響いてきます。
 それで問題を引き起こしたのが、正しくツアーバスです。ツアーバスは「あずみ野観光バス事故」で下請貸切バス会社にコスト負担を掛けておりそれが事故の要因なった事が表面化し、その後のNHKスペシャル「 高速ツアーバス格安競争の裏で 」でツアーバスの問題が取り上げられ、歪な規制緩和下での激しい競争が安全性を殺いで事故を引き起こしたという、非常にダーティーなイメージを利用者や世間に抱かせてしまい、今に至るまでその「負のイメージ」を払拭できずに居ます。
 この様な負のイメージを引き起こす「価格面での激しい競争」が好ましい筈が有りません。過激な競争が本来は「利用者の利便性向上のため」に競われるべき競争が凶器と変化しうるという事を上述の例は如実に示して居ます。この様な競争が好ましい筈が無くもっと適正な「平等・公平・安全で利用者の為になる競争」を行わなければならないと思います。

 ではどの様な競争が「平等・公平・安全で利用者の為になる競争」なのでしょうか?
 先ずは大前提として、上記の様に「路線高速バスとツアーバス」が同じ規制下で平等かつ公平な競争が行われる用になる時期が来る事が必要になります。
 その「必要条件」が成就された後は、過激な価格競争に走らず「正当なコストの中で行われる競争」でありしかも「利用者の為になる競争」が行われなければなりません。その様な競争は一体どの様な競争なのでしょうか?一つは利用者のニーズに答えた「サービス競争」であり、もう一つは「コストをブレークスルーで壊した上での競争」で有ると言えます。
 その様な「正しい競争」の方向性を示して居るのがJRバスの夜行高速バスで有ると言えます。JRバスの夜行バスで一番の幹線路線で有る東京〜大阪間では、その流動量の多さからツアーバスとも激しい競争をして居る路線ですが、JRバスは普通の夜行バスに加えて二つの「差別化戦略」を打ち出して居ます。それが「プレミアムドリーム」と「青春メガドリーム」です。
 「 プレミアムドリーム 」は、一言で言えば「高級路線に振る事での差別化」を図ったと言えます。2階建てバスで特別シートを持ち居る事で「高サービス・高付加価値」を付ける変わりに、普通の運賃6,300円〜8,610円に対して割り増しの8,380円〜9,910円という運賃設定をしています。このプレミアムドリームは かなり人気も有るよう で、先日横浜でのイベントの後大津へ戻る人が利用するなどしていて、ナカナカ人気が有るようです。
 「 青春メガドリーム 」は「プレミアムドリーム」の逆を行く「安価版高速バス」です。特徴はその運賃設定で、青春メガドリームは3,500円〜4,300円とドリーム号の半額に近いという破格の価格設定をしています。その価格設定も「無謀なダンピング」では無く「東京〜つくば線で余剰になったメガライナーの転用」という「あっと驚く施策」により、「同じ運転手の数で88人の定員のバス」を導入し、一人当りのコストを下げた上でその分を価格に還元して、ツアーバスに十分競争を挑める価格設定を、「コスト削減の無理」をせずに実現しています。

 JRバスの東京〜大阪間の夜行バスで行って居る、上下に枠を広げた「相違と工夫による差別化戦略と価格競争戦略」は必ずしも「路線高速バス事業者が何処でも使える汎用的な戦略」とは言えません。実際「プレミアムドリーム」は東阪間という高需要路線だからこそ出来たと言えますし、「青春メガドリーム」は「メガライナー」という輸送力の有る車両が偶々余剰だったという幸運が有ったからこそ出来た施策です。そう言う意味では「何処でも出来る施策」とは言えません。
 しかし大切なのは「発想」です。競争は安全性を確保しつつ利用者の利便性向上に繋がる施策を行い、利用者と事業者が利益を分かち合う為に努力する経済行動では無いでしょうか?そのやり方としては「サービス向上」や「低価格商品の提供」など色々な施策があります。その実現の為には「努力と工夫」が必要です。
 その為の施策としてJRバスは、正しい競争のやり方として「一つの道」を示したと言えるのでは無いでしょうか?

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 今回、偶々見つけた「東京〜会津若松間でJRバス関東・会津乗合自動車の「夢街道会津号」に依る低価格キャンペーン」を見つけた事から、路線高速バスとツアーバスの低価格競争の状況について取り上げましたが、この問題は前に述べてきたように前から有った問題で、しかもこの問題は今まで色々なマスコミでも取り上げられて居ますし、2007年2月の「あずみ野観光バス事故」で世間の注目を集めた問題です。
 この問題について、此の頃ではツアーバス業界も問題意識を強く持って居るようでWILLER TRAVELの様に自ら安全輸送体制構築の為に努力している事業者も出て居ますし、ツアーバス事業者が「高速ツアーバス連絡協議会」を造るなど、状況の改善に向けて行動はされて居ます。
 この様な行動自体に関しては、一定の評価は出来ると思って居ますが、実際問題としてこれは「現在も有る矛盾の繕い策」に過ぎず、「不平等な競争」が行われていてその負の遺産が今でも存在している現実を何も改善する物では有りません。そう言う意味では、これだけ問題になりながら、未だに「問題の根本解決の道」は付いては居ないと言う事は出来ます。

 確かに路線高速バスは合法で有りますし、ツアーバスも「問題の有る行為」を行って居る例も多数ありますが、そのビジネスシステム的には「合法」といえる物です。同じ事を行う物でありながら此れだけ違う物が「合法」として「並立」しているのは、正しく「法律」に矛盾が有るからと断言出来ます。
 此れだけ社会的に問題になり、問題になってから時間が経過していながら、根本的な所での問題解決策が取られず、実際の所「ツアーバスの既成事実化」が進みそれを国土交通省が「黙認」しつつ有る状況からすると、この問題は「根本的な部分」で解決する道筋は未だに付いて居ないと言えます。
 此処まで来ると、「路線高速バスvsツアーバス」の問題の根本は、規制改革の矛盾を放置し続けて居る国土交通省にあると言えます。しかもこの様な状況に有りながら国土交通省は「法律改正」等の抜本的な施策を行うつもりは無いと聞きます。
 このまま矛盾を放置しておくと、疲弊して行くのは劣勢な競争を強いられて居る路線バス事業者で有る事は明白です。その状況を放置しておくと、此れから不景気が酷くなる状況下では、今以上の路線バス会社の衰退を招く事になり、それが路線高速バスだけで無く地方ローカルバス路線にまで影響が広がる事は容易に想像出来ます。
 その様な状況を避ける為にも、一刻も早く国土交通省には「路線高速バスとツアーバスの間に有る制度的矛盾」を解消して、健全な都市間バス輸送を築く為に努力をしてもらう事が必要で有ると感じます。その為に残された時間は本当に少なくなってきて居ると私は感じます。




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