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絵が上手すぎて(^^;、これが分子?という人は上図をクリックしてみてください(Chimeプラグインが必要です。やり方は
第17話
を見てください)。二つの分子モデルが別のウインドウに表示されますから、並べて表示してそれぞれをドラッグしてみると、お互いに鏡像体になっているのがおわかりと思います。
シクロプロパンをn個
スピロ
形につないでいった分子が[n]triangulaneで、直列につなげていくとnが4以上で全体のねじれによる
キラリティ
が発生します。このようなねじれ分子は、ヘリシティー(らせん性)表示で、左ねじ形をマイナス(
M
)、右ねじ形をプラス(
P
)と表示します。
ラセミ体
の[4]triangulaneは1973年にすでに合成されていますが、このねじりん棒のようなキラルな左ねじ分子(M)-[4]triangulaneが最近初めて合成されました。そのスキームの概略は以下です。
出発物質からしてかなり面妖ですが、これはbicyclopropylideneのカルボキシレーションで容易に得られるカルボン酸を
光学分割
してつくることができます。このエチルエステルを
Simonns-Smith反応
でシクロプロパネーションすると、
エキソ
体と
エンド
体が41%と28%得られます。次にこのエキソ体の[3]triangulaneを還元、ブロモ化、脱臭化水素でエキソオレフィンに導きます。最後にパラジウム塩触媒下ジアゾメタン処理で目的の(M)-[4]triangulaneが生成しました。
さてこの(M)-[4]triangulane、
[α]D
= -192.7°を示します。このような不斉炭素によらない分子全体の大きなねじれによるキラリティは大きな
旋光度
を示すことが多く、前述のヘリセンなどがいい例です。しかしベンゼン環の連なったヘリセンと異なりこのねじりん棒の場合はすべての炭素が
sp3
炭素からなっています。一般に、
官能基
をもたない
飽和炭化水素
の場合、キラルな分子であっても
旋光性
を示さないことが知られています。たとえば、異なる
アルキル基
を4個もつキラルな炭化水素は純液体そのものでも旋光性はゼロです。このように
UV/VIS
領域(800-200nm)でまったく旋光性を示さないキラリティを
クリプトキラル
(cryptochiral)といいます。[4]triangulaneは
クロモフォア
をまったくもたないながら、純粋に
σ結合
のねじれ配置だけで旋光性を示している変わった例といえるでしょう。ちなみに、ベンゼン環のヘリセン(π-helicene)に対して、こちらはσ-ヘリセンというのだそうです。すなわち、これはキラルなσ-[4]heliceneの初めての合成というわけです。
cf. A. de Meijereet al.,Angew. Chem. Int. Ed.,1999,38, 3474.
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